第2章 第3話 告白
「みんなとお風呂入れなくて残念だったから三人もいてうれしい! あ、真子ちゃんはもうお風呂入り終わったのか。みんなに後で恋バナしよーって言っといてー」
女子風呂で女子たちとお風呂に入ってきたら警察の娘が入ってきた。どう考えても俺が悪い。だがそれはいつも通り。いつも通りに悪いことをしながら、逃げなくてはならない。この危機的状況から。
「まいったな……優香長風呂なんだよ……」
「どうして詳しいんですか若様」
優香がシャワーを浴びる音に紛れながらつぶやくと、俺を抱きしめて隠している華がヤクザらしい冷たい瞳で見てくる。
「あいつの両親忙しくてあんまり家にいなかったから……夜遅くまで面倒見てたんだよ……その分給料もらえたし……」
「じゃあ私たちがのぼせないかが勝負ね……」
男の俺は当然として、肩に花の刺青がある翔子も湯船に浸かって隠れなければならない。とりあえず俺は華の背中に隠れ、顔だけ出して潜む。普通に裸見るわけにはいかないし……。
「おまたせー」
身体を洗い終えた優香が湯船に入ってくる。真子は追い出され、戦えるのは正面の翔子と少し離れている華のみ。このメンツで逃げてみせる……警視総監の娘から……!
「優香ちゃんは友だちできた……? 性格悪い子も多いでしょ……」
まずジャブを仕掛けたのは翔子。自身の身代わりを見つけるための聞き取りも兼ねている。さすがは組長の娘、抜かりない。
「友だちはうん、今のところいっぱいできたかな。でもそうだね……やな子もいるね。三葉ちゃんとか」
珍しい。聖人の優香がここまで単刀直入に悪口を言うなんて。そして他クラスの……俺の妹の名前を口にするなんて。
「ああごめん、三葉ちゃん知らないか。先生……一樹くんの妹。せっかくのオリエンテーションなのにずっとスマホいじってて先生に注意されてた金髪の子。実はちょっとつながりがあってね……翔子ちゃんたちはあんまり近づかない方がいいと思う」
優香と三葉につながり……? 初耳だぞ。少なくとも俺が家庭教師をしている時に面識はなかったはずだ。だとすると俺がヤクザになってから……どういうつながりだ……?
「ところで二人とも。先生と仲いいよね。もしかして好きだったりする?」
こいつ……本当は俺がいることに気づいてるんじゃないだろうか。そう思わせてくるほどの、タイミングの良さ。これで頭がよかったら優秀な警察官になっていたに違いない。
「一樹が好きって……そんなわけないじゃない。……私のだし」
「は……華は……若様……一樹様のこと好きなわけ……ぉぇぇぇぇ……」
そんな優香の発言を受け流そうとした二人だったが、そうはいかなかった。華に至っては思ってもいなさ過ぎて吐き気を覚えている。
「そっか……よかった」
そして優香は安堵したように、笑う。
「私、先生のこと好きなんだ」
絶対に叶わない願いを口にして。
「先生に家庭教師をしてもらった期間なんて数ヶ月。それに先生は私のことをただの生徒だと思ってる。でも好きになっちゃったんだ。絶対に、付き合いたい」
その発言は間違っている。俺は優香のことを生徒だなんて思っていない。
「先生ってさ、無理しちゃう人だと思うんだよ。誰かの不公平が許せないから、何とかしようとする。自分を犠牲にしてでもね。ぶっきらぼうだけど、本当はすごい優しい人なんだよ。だから誰かが先生の幸せを守ってあげないといけない。その役目が私だったらいいなって、思ってる」
俺は優香を。殺してでも排除しなければいけない敵だと思っている。
「でもね……これはオフレコだけど、この学年にヤクザの子が紛れ込んでるって噂があるの。その悪い子を排除しないと……私は自分の幸せは追い求められない。だから二人がライバルじゃなくて助かったよ。これで安心して狩咲翔子を見つけられる」
そう。優香は敵なんだ。翔子の幸せを邪魔する敵。俺が排除しない限り……俺は自分の幸せは追い求められない。
「二人とも何かわかったら教えてね。悪人は絶対に、許さないから」
だから俺はこのオリエンテーションで優香を潰す。改めて決意を固めることができた。そう……できたんだ。