第2章 第2話 入浴
オリエンテーション。それは新入生のための行事である。つまり新入生二回目の俺にとってはほとんど無意味な行事。覚えている校歌を歌い、身体になじんだ校則を覚え、一度やったレクリエーションを行い、あっという間に夜。友だちが一人もできることなく、二泊三日のオリエンテーションの三分の一が終わろうとしていた。だがここに罠があった。
「五十嵐、風呂入んねぇの?」
風呂。つまり服を脱がなければならない。そして俺の背中には、和彫りの竜が刻まれている。
「いや……風呂苦手で……先入ってていいよ……」
脱衣所でわざわざ話しかけてくれたクラスメイトに謝罪する。
「ほっとけよ。どうせちっちゃいんだろ」
そんな俺の様子にあらぬ想像をするクラスメイト。くだらない見栄の張り合いをしている男たちを尻目に脱衣所を出る。しかしまいったな……さすがに二泊三日風呂なしはきついぞ……。
「若様! ちょうどいいところに!」
出たところに立っていたのは華。しかしどういうわけか風呂上がりではない。女子は男子と時間が分かれての入浴でとっくに終わってるはずだけど……。
「お嬢刺青あるからお風呂入れないことにさっき気づいたんですけど、若様もそうですよね?」
「肩のところにちょっとある翔子と違って俺は背中全域だからな……」
まったく……こういう不便があるのはわかっていたのに。若頭に就任するのに当たってこれくらいした方がいいんじゃないかと思ったのが間違いだった。考えてみたら文句言う奴は黙らせればいいだけだったのに。
「それでですね、さっき女性の教師の入浴が終わったのでちょうど女子風呂空きなんです! 真子さんが見張りやってくれるらしいので、こっちで入浴しませんか?」
「おお、それは助かる……」
バレたら反省文じゃ済まないだろうが、バレなければ犯罪ではない。だが……。
「若様ー、お身体流しますねー」
華が身体を洗い流すとか言ってくるのは想定外だった……ていうかこれが目的で入ってなかったな……!
「別に一人でできるって……」
「いえいえ……はぁ……っ、華が全身くまなく洗ってあげますからねー……はぁ……っ」
背中から華の荒い息遣いが聞こえてくる……ちょうど怒るに怒れないライン攻めてきたな……こういうところが実は頭がいいのだと実感させてくる。
「翔子、友だちできた?」
「真子や華についていってるから友だちっぽくはなってると思うわ」
「ヤクザのお嬢がなんて情けないことを……」
あえて胸を押し付けてくる華を無視し、湯船に入っている翔子と会話していると。
「お嬢! 若! 申し訳ありません!」
服を着たままの真子が浴場に入ってきた。
「若様、湯船へ……」
「ああ……」
その瞬間素早く俺を抱きしめて湯船へと移動させる華。欲望と理性。それがここまで合わせられる人間を見たことがない。そしてちょうど湯船に入った瞬間、別の声がした。
「先生と話してたら遅くなっちゃったー」
その声は、この場に最もいてはいけない存在。警察の娘、優香が風呂に入ってきた。
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