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第1章 最終話 宣戦布告

若林優香(わかばやしゆうか)ちゃん! 私と友だちになってくれるんだって! 私の初めての友だちと一樹が知り合いだなんてすごい偶然! 今度おうち招待してくれるんだって! 一樹もどう……って、え!?」



 俺の前に来てはしゃぎまわる翔子の手を引いて教室を飛び出す。やばい。やばいなんてもんじゃない。この感覚に陥るのは人生で二度目だ。人生が詰んだと絶望するこの感覚は。



「ちょっ、ちょっと一樹! どうしたの急に! それに手もすごい震えてるし……」

「いいか……落ち着いて聞け」



 新入生が知らない隠れスポット。階段裏に翔子を連れ込み、伝える。



「優香……あいつ警視総監の娘だ」

「あわ……あわわわわわ……!」



 全てを察した翔子はさっきの俺と同じように口を大きく開けてビクビクと震えだす。こんな……こんなことが起こるなんて……!



「ど、どうしてそんな大物がこの学校に……ここ別に頭よくないし富裕層が住む地域でも……」

「優香はな……すごい馬鹿なんだ。家はここから離れてるけど、進学校ばかりであいつが入れるわけもない。ここが一番近いんだよ……死ぬほど勉強すれば入れそうな低レベルの学校……それがここだ」


「ど……どうしよう……! さすがに私の顔は知られてるし一樹が若頭になったことだって……!」

「大丈夫……優香は馬鹿だ……本当に馬鹿なんだ……。ごまかせる! いいか……絶対にボロを出すなよ……!」


「せーんせ! どうしたの?」

「「ひぃっ!」」



 振り返ると、奴はいた。俺の元生徒……そして俺の最大の敵が……!



「急にいなくなっちゃったからさみしかったんだよ? パパも心配してたし……そうだ、この後私の家来る? 翔子ちゃんも一緒にどうかな」



 警視総監の娘とは思えないくらいぽわぽわした感じで提案してくる優香。そしてその実、本当にぽわぽわしている。顔も頭もお花畑だ。だからこの発言も間違いなく善意。



「いや……今日はバイトが……園咲さんもそうだよな?」

「う、うん! バイト忙しくて……!」

「園咲さん……ねぇ」



 ニコニコしていた優香が突然真顔になり、俺に迫ってくる。まさか偽名がバレた……!? 考えてみれば名前は一緒……顔写真だって一度は見たことあるはず。もしそうだとしたら……。



「よかったー! 先生友だちいないって言ってたから心配してたんだ! ちゃんと仲いい人いるんだね! 安心安心!」



 よかった、やっぱり馬鹿だった。このまま上手く……!



「でも残念」



 笑顔に戻った優香の顔が、再び感情のないものへと変わる。そしてその細い腕が俺の身体を弄ぶように絡みついてくる。



「私先生と同じ学校には入れればまた会えるかもって思ってがんばったのに……もう私のことはどうでもいいんだ。家庭教師辞めちゃった後何があったのかなぁ?」

「ゃ……なにも……」


「でも先生、覚えてる? 私が高校受験成功したら何でも言うこと聞いてくれるって。先生にしかできない頼み事あるんだ。聞いてくれるよね?」

「そ……それは……!」



 ほ、本当は気づいてるのか……!? 気づいて遊んでるのか……!?



「もう一度家庭教師やって! 受験は何とかなったけどもう絶対無理! 先生に教えてもらわないとがんばれない!」



 いや大丈夫ただの馬鹿だ! 何も気づいてない!



「わ、わかった……また今度な」

「うん! 約束だからね!」



 よし、これで今日のところは何とかなっただろう。また改めて対策を考えて……。



「ねぇ先生知ってる? 私たち新入生に、ヤクザの関係者がいるんだって」



 虚を突かれた。おそらく優香は本当に何も知らない。それでも核心を突かれ、俺も翔子も言葉を失った。



「狩咲組組長の娘さん……狩咲翔子さん。名簿見た感じ見当たらなかったけど、確かな筋の話。怖いよね、犯罪組織の親族が何食わぬ顔して一般人面してるなんて」



 何も知らないはずなんだ。恐ろしく冷たく、感情を見せない表情をしているけれど。何も、関係ない。



「でも……ただの子どもだろ? たまたまヤクザの娘に生まれただけで……そいつには何の罪もない。だから別に……」

「人の性格って幼少期で決まるんだって。確かに生まれたことに罪はない。でも犯罪者に育てられた以上罪は犯してるはずだよ。絶対に、何らかの」



 だから落ち着け。ここで感情に身を任せたら、駄目なのに……!



「しょうがないだろ……そうすることでしか生きられないんだから……人生は不公平なんだから……!」

「生い立ちが特殊だから犯罪をしても許されるって? ありえないでしょ。犯罪者は犯罪者だよ」



 優香の言っていることは正しい。実際翔子はたくさんの犯罪に関わっている。学校に通わず、犯罪を繰り返していた。そうするしかなかったから。



 優香が正しい。それでも否定したかった。それは翔子のためか、はたまた俺のためか。それはわからないけれど、否定したかった。



「ごめんね、先生。ほんとは先生とずっと一緒にいたいけど、これでも警察の娘だから。私は犯罪者を許さない。狩咲翔子を見つけて退学させない限り、先生とは遊べないや」



 俺に絡まっていた優香が、背伸びをして囁く。



「噂だと若頭も普通の人のまねごとをしてるみたいだしね」



 俺も翔子と同じだ。多くの犯罪に関わってきた。人を殺したことだってある。でもそうしないと俺の人生は終わっていた。ヤクザにならないと、生きていけなかった。そしてそれは、これからも同じだ。



「てめぇふざけんなよ! てめぇのくだらない嘘のせいで俺まで殺されるところだっただろうが! 若を舐めてんじゃねぇぞ! やると言ったら誰だろうとやれる御人なんだよ! 死ぬならお前一人で死んでろ!」

「ごめんなさい……許してください……許してください……!」



 その日の夜。拷問室で狩咲組の名前を使ったケジメをつけさせられた吉田がそう懇願していた。目隠しをつけられ、言葉を発するたびに拳を入れられる吉田の前に立ち、俺は何も感じなかった。それが当たり前だったから。当たり前になってしまっていたから。



「お前は悪くないよ。悪いのはヤクザ(俺たち)だ」



 無表情に、無感情に。俺も吉田に拳を入れる。こんなこと、別にしたくない。でもやらざるを得ない。それが俺の人生だから。そしてその人生を、優香は、社会は、認めない。



「本当に、人生は不公平だな」



 だが不公平だからって諦めてたまるか。人生を捨ててたまるか。俺は生きる。たとえそれが罪だとしても。俺は生きていたいから。



「邪魔するつもりなら来いよ……ぶっ潰してやる」



 俺は俺たちの邪魔をする奴全てに、宣戦布告した。

とりあえず第1章……というかプロローグ終了です。主要キャラは全員出し切れたので、後は進めていくだけです。私が書いたことのないタイプの主人公なのでみなさまから受け入れてもらえるか非常におっかなびっくりですが、やるなら徹底的にということで。悪いことたくさんやらせてあげようかと思います。


次回からはいよいよ復讐編開始。この主人公が復讐を躊躇うわけがないので徹底的にやっていきます!


それではここまでお読みいただきありがとうございました! おもしろかった、続きが気になると思っていただけましたら☆☆☆☆☆を押して評価とブックマークのご協力お願いいたします! みなさまの応援が続ける力になりますので、何卒何卒お願いいたします! なるべく続けていきたいな!

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