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第3章 第1話 華と実

「ざまぁないな、三葉」



 オリエンテーション合宿が終わった翌日の昼。俺は拷問室で鎖に腕を拘束されている三葉にそう吐き捨てていた。



「ヤクザと繋がりを持った宗二が警察を頼ることはない。あの両親が子どもが行方不明になったからって心配するわけがない。学校にはオリエンテーションの時から身内の不幸でしばらく行けないって伝えてある。わかるか? お前の人生は終わりなんだよ!」

「……今のあんたに言われてもね」



 三葉が目の前の俺を。同じように腕を鎖で縛られて動けないでいる俺を冷ややかな目で見る。



「ほんと。あんたの人生は私のものだってのに。何を勘違いしてるんだか」



 そして俺の寝こみを襲い捕らえた犯人。翔子が拷問用の鞭を手でペチペチ打ちながら、座るしかない俺を見下ろしてきた。



「なぁなぁで終わらせると思った? あんたが勝手に優香ちゃんと付き合ったこと納得してないんだけど?」



 いやまぁうん……そうなんだろうけどさ……。だからってこういうことするかなぁ……一応俺若頭なんだけど。



「お嬢、例のもの持ってきました!」

「おいお前だって俺が買ったんだろうが! なんでナチュラルにそっち側ついてんだよ! 無視すんな華!」



 一番裏切らないであろうと信じていた華の華麗な裏切りに動揺を隠しきれない俺。そして翔子は華から受け取ったチョーカー……いや首輪を、俺の首に嵌めこむ。



「わかってる? 一樹。あんたの人生は私のものなの。まず何を置いても私のことを幸せにしなさい。私が嫌がることはしないで」

「いや別に俺が誰と付きあったとしても翔子にとっては痛い痛い痛い!」



 翔子が無言でスマホを操作すると、突然首に鋭い痛みが走る。針でも飛び出してきたかと思ったが、違う。これは電撃だ……低周波マッサージ的なやつだ……実質拷問道具だ……!



「これは罰よ。私を怒らせた罰! しばらくは私のことはご主人様と呼びなさい! いいわね?」

「ご安心ください、若様。華も若様と同じ首輪を嵌めました。いつでも華をお仕置きしてください。そ……それにこれ……ペアルックですね……?」

「何を安心しろと……?」



 確かに俺の独断が過ぎたところはあるけどここまでするか普通……。彼氏が浮気したわけじゃあるまいし……。俺と翔子はあくまで友人なはずなんだけどな……。



「ちょっと待った! 私の彼氏に手を出さないで!」



 電撃が止んで一休みしているところに飛び込んできたのは、ヤクザの天敵にして俺の彼女、優香。



「なんで私の家に勝手に入ってきてんの!?」

「警察に通報するって言ったら門番の人通してくれたよ」

「これだから国家権力は……!」



 今まで相対してこなかったどうしても勝てない存在に頭を抱える翔子。だが俺には友人とじゃれあっている普通の女の子のようにも見えていて。ヤクザの組長の娘と、警視総監の娘。決して交われない二人がこうしていられていることにどこか安堵感を覚えた。のも束の間。優香の後を追ったかのように、また別の女子が拷問室に入ってきた。



「おもしろい姿になってるね、若」

「なんでお前が……ここにいるんだよ……!?」



 翔子と同じような台詞を吐いたが、そいつと俺の関係性は翔子と優香とは全く違う。この二人が水と油なら、俺と彼女は油と重油。交わってしまうからこそ、俺が切り離した存在。



「手取組のチンピラがやらかしたって話聞いてさ。ケツ拭いてやろうって思ったわけよ。若のこと売った妹さん。あたしに任せてくれないかな」



 翔子が俺を買ったように、俺は華を買った。親によってヤクザに売られた無関係な彼女を俺の付き人にすることにした。そしてそれをしたのは華だけではない。もう一人、買っていたんだ。



「若ってなんだかんだ甘いからさ、妹さんにひどいことできないでしょ? あたしが代わりにやってあげるよ」



 だが俺は彼女を手放した。あまりにも危険すぎたから。あまりにもヤクザに向きすぎていたから。



「その代わり華をクビにしてあたしを付き人にして?」



 そしてあまりにも冬木黒実(ふゆきくろみ)は。俺のことを好きすぎていたから。

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