第2章 第8話 組
「華さん、そういえば私ヤクザの構成図的なの知らないのですが」
「真子さんは最近入ったばかりですもんね。では私が説明しましょう」
「ありがとうございます」
「ではまずトップが組長。これはわかりますよね」
「はい、それはもちろん」
「そしてナンバー2が若頭。次期組長候補ですね。実質的な組の舵取りをしていく立場にあります。一般の会社でたとえると、組長が会長で、若頭が社長といった感じですね。狩咲組で言うと我らが若様がここに当たります」
「へぇ。思っていたよりすごいんですね」
「そうなんです! そしてその下に実務を取りまとめる本部長。部下をまとめる舎弟頭。他にも若頭補佐や事務局長なんかがいわゆる幹部扱いになります」
「じゃあ若の身の回りのお世話をしている華さんも幹部なのですか?」
「いえ、若頭補佐はもっと実務的な役職です。一応私たちは平の構成員ですね。ただ私は若様直属、真子さんはお嬢直属なので一般的な子分とは扱いが違いますね」
「なるほど……でももうここに来て数ヶ月が経ちますが、幹部らしき人は見かけませんね」
「それは若様が起こしたクーデターの影響ですね。元幹部も何人か粛清しましたし、そもそもがしっかり決まっていないんですよ。こればかりは組の経験が浅い若様では決められませんしね」
「なるほど……では今幹部候補の人たちは自分たちがその職に就こうとギラギラしてるんですね」
「そうですね。実際のところ、まだ若様を若頭とは認めずその役職を奪おうとしている人も多いです。そして目の前にいる方々が、その代表です」
正座する俺の後ろで華と真子の呑気な会話が聞こえてくる。俺は目の前にいる長年ヤクザをやってきた連中に睨まれて面倒な思いをしてるってのに。
「改めて若、オリエンテーションおつかれさまでした。組を離れて遊ぶ学校行事はさぞかし楽しかったことでしょう」
わっかりやすい嫌味だなぁ……。そう思われても仕方ないが。
「で、さっそく本題なんですけど。警視総監の娘なんざ連れ込んでどういうつもりですか?」
そして話題は、俺の隣で上品に座っている優香へと移った。
「別に連れ込んでない。ただこのまま帰すわけにはいかないってだけだよ」
「俺たちが聞いてるのは。その帰すわけにはいかないって内容ですよ。まさか若の知り合いだからってだけで見逃すわけじゃありませんよね?」
こう詰め寄られることはわかっていた。殺さないまでも、口封じは必須。こいつらを納得させるために。そして俺を若頭だと認めさせるためにも、一定のケジメはつけなければならない。そして俺はそれを実行してきた。今までは、何の躊躇もなく。そうすることでしか外様で子どもの俺が、若頭だと誇示することができなかったから。だから今回が初めてだ。俺が躊躇してしまったのは。
「私が頼んだのよ。警視総監の娘には使い道があるって。実際一樹は優香ちゃんを殺そうとしてたわ」
「殺そうとした、じゃ意味ないんですよお嬢。結局自分の知り合いは見逃すってことでしょ? 俺たちには散々偉そうにしていたくせに」
翔子がフォローしてくれたが、それで引くタマならここまで上り詰めていない。
俺は優香を殺せなかった。それが事実だ。それにみんなが納得できないのなら、俺がトップでいる資格なんてない。
だから俺が伝えるしかない。俺がどうしてこの道を選んだのか。その理由を。