第2章 第4話 覚悟
オリエンテーション二日目。班を作り山を散策する、仲を深めるイベントである。が、去年も同様だがほとんどみんな川に集まり、班関係なく中学からの知り合いと遊ぶので友だち作りにはあまり使えない。そして班から離れられない以上ボッチには非常にしんどいイベントである。
「はぁ……」
事前に教師から川で遊べると聞いていた奴らが水着で川で遊んでいるのを遠くで見ながらため息をつく。華も真子は翔子の代わりになる悪女探しで忙しい。優香も翔子探しをしているし、マジで暇だ。森の中で待機させている組の奴らに会いに行くか……?
「暇そうね」
岩に座ってボーっとしていると、俺と同じく友だちのいない翔子が隣に腰掛けてきた。
「俺と話してないで友だち作ってこいよ」
「友だちなんかよりあんたの方が大切だから」
適当にそう言うと、思っていたより真面目な返事が返ってきた。
「あんた若林優香を殺せる?」
「殺せる」
「……まぁあんたなら殺せるんだろうね。どれだけ親しい相手でも」
「しょうがないだろ。殺すしかないなら殺すよ」
そう。俺はおそらく優香を殺せる。殺せてしまうんだ。覚悟はとっくにできている。後はタイミングだけ。上手く唆して森の中に引き込めれば。事故を装って邪魔者を排除できる。
「……あんたさ、目的覚えてる?」
「優香を消すことだろ。まぁ翔子の代わりを見つけてもいいんだけど……」
「そう。後者でいいのよ。わざわざ殺さなくたっていい。嫌なことはしなくていいのよ」
「別に……嫌ってわけじゃ……」
「好き好んで殺人をするならそれはもうただの殺人鬼よ。あんたはヤクザの若頭。波風立たせずに事を収めるのだって重要な仕事よ。そこら辺勘違いしないように」
「でも……もしもの時のために覚悟は決めといた方がいいだろ」
「そんだけ意識してるってことはそんだけ嫌ってことでしょ。言っとくけど私だってさ、あんたの幸せを守ってあげたいって思ってるんだから」
「…………」
俺の肩をポンと叩き、翔子が川に戻っていく。優香を傷つけたくないのは事実。あれだけ俺を慕っていて……俺を好きだと言ってくれる人を殺すなんて、したくない。それを悟って翔子は話しに来てくれたのだろう。本当にありがたい。
でもそれは不公平だ。俺と仲がいいからといって、組には関係ない。若頭として、組の敵は排除しなくてはならない。だから俺は誰が何と言おうと……。
「ヤクザも案外チョロいんだな。学生なら見逃してくれるのか?」
「マジで何で生きてんの? 死んでればよかったのに」
そこに現れたのは宗二と三葉。二人とも水着にパーカーを羽織って、ゴミを見るような瞳で俺を見下している。
「……そう言うなよ。俺が生きてても死んでても、1000万も手に入ったんだからいいだろ?」
「あーあれ親父が競馬でスってなくなった」
クズなのはわかっていた。いずれその代償は支払ってもらうつもりだった。だが俺を売って手に入れた金。俺そのものである1000万を。こうも簡単に捨てたという事実に言葉が出ない。どこまでこいつらは……。
「だからさ」
三葉が口を開く。スマホを確認しながら、さも当たり前のように。
「あんたもう一度売られてくんない? 実はさ、もうヤクザに話つけてあんだよね」