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第1章 第1話 不公平な人生

 人生は不公平だ。ただ良家に生まれただけで何の努力もせずに幸せになれる人間もいる一方で、貧乏な家に生まれればそれだけで人生が詰んでしまう。親ガチャという言葉を否定できるのは運がいい人間だけだ。裕福な家庭で育ったか、貧乏でも環境から抜け出すチャンスを得たか。運が悪い人間は、どんな努力をしても無駄なのだ。そう、俺のように。



一樹(かずき)、お前を売ることにしたから」



 帰宅した俺に浴びせられたのは、酔っぱらった父親からの絶縁宣言だった。



「売るって……なに言ってんだよ」

「今日パチで大負けしてさ……今月の家賃払えねぇんだよ。だからまぁその、あれだ。不要品は売って金にしちゃおうって話。単純だろ?」



 パチンコで負けた……!? あれだけやるなって言ったのに……!



「それに来年からは高校生が二人も増えるじゃない? うちの収入じゃ三人も高校通わせらんないのよねー。だからま、しょうがないってことで」



 そう言って父さんを献身的にサポートした母さんは、煙草の煙を俺に吐く。……駄目だ、話にならない。



宗二(そうじ)……こいつら何言ってんの……? 三葉(みつば)も教えてくれよ……」

「そのまんまだろ。俺ら来年高校生になるから金がないんだってさ」

「つか兄貴学校でいじめられてんでしょ? そんな奴の妹とか恥ずかしくて同じ高校通えないからさっさと辞めてほしいんだよね」



 一個下の双子の兄弟。宗二と三葉に助けを求めたが、二人ともスマホをいじってこっちを見ようともしない。……駄目だ、やっぱりこいつらとは話ができない。



「父さんの酒代も、母さんの煙草代も、宗二のスマホ代も、三葉の美容院代も! 俺が稼いだ金から出してるだろ!?」



 俺が学校でいじめられている大きな要因は、金がないからだ。毎日毎日バイトバイトバイト。遊ぶ暇もなければ、最低限でしか出席できない。ギャンブルの勝ち金でしか収入がないこのクソみたいな家を支えるために、俺だけが働いているんだ。そんな存在を不要だと? 馬鹿馬鹿しい。



「だいたい人なんか売れるわけないだろ? 酔っぱらうにしても飲みすぎだって……」

「人は、売れるのよ?」



 アパートの扉が急に開かれ、女性が土足で踏み入ってくる。真っ黒のスーツを着て格好はついているが……だいぶ背が低い。ていうかかわいい……たぶん俺と同い年くらいだろうか。まぁ何にせよ……。



「君、誰? 宗二の彼女? 悪いけどそれどころじゃ……」



 とりあえず女の子を追い出そうと近寄ると、それを塞ぐように。



「…………!」



 顔面に傷をつけた、がたいのいい男がその道を塞いだ。経験上……家庭環境上。こういう輩にはよく遭遇する。間違いなく、堅気の人間ではない……!



「その……金はちゃんとお返ししますので今日のところはお引き取りを……」

「五十嵐、例のものだ」



 だがその大男は、普段とは真逆に。父さんへとアタッシュケースを投げ捨てる。床に落ちた衝撃で開いたその中には、十の札束が敷き詰められていた。



「うっひょー! 今夜は焼肉じゃー!」



 父さんは……俺の家族たちは。俺など初めからいなかったかのように、その札束に飛びつく。いや……あの札束が、俺なのか。



「ちょっと待てよ……!」

「なに勝手に動こうとしてんの? あんたはもう私たちの所有物。自由な行動は認めないわよ」

「黙って……」



 女の子を払おうとした俺の手が止まる。女の子の手に握られたそれが、拳銃の形をしていたから。



「本物か試してみる? なんて意地悪な質問だったわね。あんたにはその選択肢すらないんだから」



 こうして俺は。俺の人生を、1000万円で買われてしまった。



「はじめまして、五十嵐一樹。私は狩咲組組長の娘、狩咲翔子(かりさきしょうこ)よ」



 黒塗りの高級車の後部座席に座らされた俺は、隣に座る女の子からそう挨拶される。その手にあるのは名刺ではなく拳銃だが。



「それにしてもかわいそうね。あんなゴミみたいな家に生まれるなんて」



 その通りだ。その通り過ぎて返す言葉もない。



「まぁ安心して。若いから死ぬことはないと思うわ。死ぬまで働かされるかマニアに売られるか。まぁそれはわからないけど、死にはしないと思う。それはそれとして人生は終わったようなものだけど」



 人生が終わった、か……。まぁ、そうなんだろうな……。



「でもしょうがないわよね。人生は不公平だもの。私だってこんな家に生まれなければ普通の人生を送れた。でも運命を嘆いたってしょうがないわ。人は配られたカードで戦うしかない。運が悪かった。そう諦めて次の人生に期待しなさい」



 何も言葉を返さない俺を見て、抵抗の意思はないと判断したのだろう。狩咲さんがゆっくりと拳銃を下ろす。死んだような目つきで。



 本当にその通りだ。人生は不公平。運が悪かった。そういう運命だった。それでも。



「誰が諦めるかよ」



 拳銃を奪えるくらいのチャンスは、俺にもまだ残っていた。



「お嬢!」

「動くな。本物か試してみるか? その選択肢はお前らにはあるぞ」



「あんた……こんなことしてどうなるかわかってるの……!?」

「さぁね。人生なんてどこまでいっても不公平なんだ。何があるかなんて、誰もわからないだろ」



 こんなところで死にたくない。終わりたくない。まだ終われないんだよ。



「狩咲さん……あんたこんな人生嫌なんだろ? だったら俺が変えてやるよ。あんな家で成功するよりかは、よっぽどチャンスがありそうだ」



 拳銃が向けられた先。彼女の瞳がわずかに輝き、その半年後。



「若! おはようございます!」



 俺は、狩咲組の若頭になっていた。

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