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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悲劇と喜劇は裏表

作者: 柊 風水

『マリリ=シャルソン』の名前を思い付いてその名前を使いたいと思って執筆したのが動機です。

 マリリ=シャルソンとリチャード三世の悲恋の話は我々の間でも有名な物語である。


 マリリ=シャルソンは家は伯爵家で、燃える様な赤毛に大地の様に力強い茶色の瞳を持った美しい令嬢だった。祖父が三つ離れた国出身で、傭兵としてこの国に雇われ名を揚げた結果伯爵の位を頂戴した。

 彼女の容姿はその国では一般的な容姿であったが、我が国ではかなり目立つ容姿だった。

 マリリ=シャルソンと仲の良い人物達は『活発で優しく誰に対しても尊敬の念の態度を取っていた人だった』と同じ様な事を答えた。


 リチャード三世は知っての通り我が国の国王であり、当時は王太子殿下である。我が国で多く見られる小麦の様な金の髪に大海原の様に全てを受け入れる様な蒼色の瞳の精悍な顔立ちの王子だった。

 この国の第一王子として産まれ、国王夫婦を含めた沢山の大人達から優しく、時に厳しく育てられた。周囲の大人達の期待に応える様に誰もが尊敬する様な立派な王子になっていた。


 二人の出会いは貴族の子弟が必ず通う学園で出会った。

 何処で初めて出会ったのかは本人達しか知らないが、二人は人の目を避ける様に逢瀬を重ねた。

 手紙のやり取りも巧妙な暗号を使い本人達にしか分からない様に施していた。(完璧に解読出来たのは二百年後だから二人の知識には恐れ入る)

 人前がある時は模範的な臣下と王太子の礼を執っていたので大半の者達は二人の仲を知る事はなかった。


 ただ、一部の王族と高位の貴族だけは二人の隠れた愛を知る事となる。

 結果的に二人を破局に追いやったのはリチャード三世の当時の婚約者()()、後の王妃となるマルーコである。

 候補と表記しているが、マルーコは実質の婚約者であった。何故ならマルーコとリチャード三世の結婚は本人達が望もうか望まないか関係なく、絶対に結ばなければならなかったのだ。


 実はリチャード三世の父と祖父は其々別の外国から嫁いで来た母親の血を強く受け継いでいた。

 当時は高貴な者程血統を重視する傾向があり、二代続けて外の国の特徴を持つ国王に対して不信感を持つ者が多かった。

 ならば何故他所の国の姫を嫁に貰ったかと言うと、その当時の外交事情やら王族の私的な理由やら色々あるのだが、一番の理由は近親婚による弊害を無くす為だった。


 何せ他所の国だが、名の知れた名門貴族一族や一時は栄華を誇っていた大国の王族が近親婚が原因で滅亡してしまったからだ。

 まぁ滅んだ一族は叔父と姪との結婚処か、父親と娘との結婚と言う極端な近親婚を繰り返したのが滅んだ理由の一つでもあったが、他の国はこの事を酷く恐れ血をなるべく濃すぎない様に他国からの姫や王子を嫁や婿として迎える様になった。

 しかし、当時のこの国の貴族達はそんな王族の苦労を知る者が少なかった。自分達の理想を王族に押し付ける者が多かった時代とも言える。


 幸いにもリチャード三世はこの国に多くいた金髪碧眼であったが、その子供が母親や祖母の血を強く受け継いでしまったら元も子もない。少しでも離れつつある貴族の忠誠心を取り戻す為にも自国の人間との結婚、それも外国との血を混じっていない純粋な血統の令嬢との結婚は必要不可欠だった。



 リチャード三世とマリリ=シャルソンはその事を十分に分かっていたのだろう。だから二人は誰にもバレない様に、身体的接触も手を繋ぐ程度の密かな恋を育んでいた。

 恋を愛に発展させない為にもマルーコが己が悪役になる事を決意した。



「殿下。殿下の『秘密の花』を陛下達は見たいと零しておりましたわよ」


 使用人や騎士を全員下がらせて、二人っきりの状態を作った後早速切り出した。無論『秘密の花』はマリリ=シャルソンの事だ。

 リチャード三世もマルーコの意図を察したのか目を大きく開いたかと思うと、神妙な顔立ちで顔を伏せてしまった。


「……父上と母上達だけか?」

「私の父や宰相等の大臣達にも。陛下は『アレにはすまぬ事をしてしまった。アレの肩には強い重荷を背負わせてしまう』とも」

「いいや。謝るなら俺は貴女に謝らなければならない。我等王族の為に幼い頃から厳しい教育を受けて不自由な思いをさせてしまって……」

「いいえ。貴族の人間として産まれたのなら当然の事でしょう。責務なら殿下の方がよっぽど……彼女の事はどうしますか?」

「肩身の狭い思いを彼女にして欲しくない。元々期限のある関係だと言う事は彼女も俺も良く分かっている」

「そうですか。下級貴族達にもバレない内に」

 リチャード三世は小さく頷いた。




 その後、リチャード三世とマリリ=シャルソンは別れる事となった。

 リチャード三世はマリリ=シャルソンに手切れ金を渡そうとしたが、彼女は『お金を渡される様な事をされていません』と言って受け取らなかった。

 ただ、親同士で色々取引はしていただろう。ある時を境に伯爵家の領地内の公道や農具等の設備が整えられた記録があったので、つまりそう言う事だろう。



 そして二人は学園を卒業した後、二度と会う事はなかった。

 リチャード三世は予定通りにマルーコと結婚。三人の姫と一人の王子を得る。全員期待通りの金髪碧眼の子供達であった。


 マリリ=シャルソンは学園を卒業後、両親が用意されていたお見合い相手と結婚する予定が、相手やマリリ=シャルソンの家の都合で破談。色々あって貴族の結婚適齢期を過ぎた辺りまで独身だった。

 その後二十九歳の頃にサンレゴン侯爵と結婚をする。


 サンレゴン侯爵は若い頃から勇猛果敢な騎士として国に名を知られており、年を取ってからも度々若者達に剣の指導をする程元気な老体だった。

 彼は偶々出席した社交界でマリリ=シャルソンを見て一目惚れしたのだ。老いらくの恋を叶える為に、侯爵はその日の内にマリリ=シャルソンの家に婚姻の申し出を出した。

 伯爵家は突然の申し出に大層驚いたが、直ぐにYESとは言い切れなかった。


 何せマリリ=シャルソンとサンレゴン侯爵は親と子程の年の差があり、侯爵の長男がマリリ=シャルソンと同い年なのだ。そりゃあ貴族では珍しくもない事だし、マリリ=シャルソンの年齢を考えれば後妻になるしかないだろう。

 ただ、親心としてはせめてもう少しだけ年が近い者と結婚して欲しいし、肩身の狭い思いはして欲しくない。悩んだがマリリ=シャルソンはその申し出を受け入れた。


 理由は色々あるのだが、一説にはリチャード三世の時に色々家族には迷惑をかけたから、又はサンレゴン侯爵が当時の事を知っている数少ない貴族でありながら、それを承知の上で求婚してきたからだとか色々言われているが此れと言った確証はない。

 結局子爵家の屋敷が離れを含めて建てられる程の持参金と、侯爵と言う地位を使って集めたあらゆる国の珍しい特産品を渡されたら断る訳にはいかなかった。


 幸いにもサンレゴン侯爵の前妻の子供達はマリリ=シャルソンの結婚を受け入れ、逆に金に物を言わせて年寄りの元へ嫁に来させたマリリ=シャルソンに申し訳ないと思っていた。


 結婚後はサンレゴン侯爵はそれはもう、目に入れても痛くない程妻を溺愛した。彼女の為に豪華なドレスや宝石、彼女の好きなお菓子等をプレゼントした。

 しかしマリリ=シャルソンはそんな夫の無駄使いを何度も諫めた。侯爵家の実権は長男に譲られているので没落する様な事はないのだが、それでも額が額だ。若い妻にあるだけの金を使おうとする夫をマリリ=シャルソンは止めさせた。

 サンレゴン侯爵は身内や愛しの妻に叱られたお陰で直ぐに正気に戻った。


『旦那様。これ以上お金の無駄遣いをするならば、私はこれ以上旦那様のお家にご迷惑をかける訳にはいきませんので、旦那様と離婚して修道院に入ります』


 この一言が余程効いた様で、サンレゴン侯爵は一切の贅沢を止めた。


 この様にサンレゴン侯爵は若い妻をとても大切にし、妻も妻で嫌がっている様子はなく。夫と一緒に楽しそうに乗馬をしている所を良く見かけられていたので二人の夫婦仲は良好なのは誰の目から見ても間違いなかった。


 此処で終わるなら報われる事がなかった恋ではあったけど、登場人物達が幸せになるほろ苦い恋物語で終わる筈だった。



 喜劇の様な悲劇は此処からが本番である。










 リチャード三世とマルーコには三人の姫と一人の王子に恵まれた。

 三人の姫は年が近い為か周りが微笑ましく見ている程仲が良かった。三人で一緒にいる所が多く、幼少の頃は『妖精姫』とあだ名がある程可愛らしい姉妹達だった。

 そんな三人が成長すると、何処からか父親とマリリ=シャルソンの話が彼女達の耳に入ってしまった。


 当時は候補とは言え婚約者、母親がいながら他の女と恋に落ちていたと聞いて、父親を軽蔑し恋人だったマリリ=シャルソンを嫌った。

 年頃の娘なら仕方がない。親のそう言った恋愛事に潔癖症になる娘が多いだろう。

 ただ……彼女達は()()()()()。そして()()と言う立場が後の悲劇に繋がってしまった。


 王女たちはマリリ=シャルソンに嫌がらせをする様になった。

 無視・陰口・足を引っ掛ける等の陰険な嫌がらせだった。


 ある時は舞踏会の時に大勢の前でそれも大勢の人達に聞こえる様な大きな声でマリリ=シャルソンを貶めた。それも厭らしい事に臣下の礼として頭を下げているマリリ=シャルソンの目の前で。王女達が面を上げる許可を言わない限り彼女は頭を下げたまま何の言い訳を言う事を出来ないのだ。この時は事態を知った国王とマリリ=シャルソンの夫が駆け付け、国王は娘達を大勢の前で叱り飛ばし、マリリ=シャルソンに詫びた。サンレゴン侯爵は王女達の非道さを抗議し、妻の名誉を守る為に尽力した。


 この様な事をする王女達に取り入れ様とコバンザメ達が湧くのだが、そう言った者達は国王夫婦やサンレゴン侯爵家によって排除された。


 娘達がマリリ=シャルソンに嫌がらせする度に母であるマルーコは娘達を強く叱った。特に舞踏会の件はそれはもう恐ろしい形相で娘達を平手打ちをした。この時初めてマルーコは子供に体罰を振るった。


『貴女達はこの国の王女なのよ!? それなのに臣下を虐めるとは何事ですか! 自分達の行動がどれだけの人達に迷惑を掛けるか考えなさい!!!!』


 又、『嫌いな人間が居ても構わない。ただ王女としての自覚を持て』とマルーコは娘達を諭した。

 しかし娘達は親愛なる母の為にやった事なのにその母に叱られた事に納得がいかなかった。王女達は増々マリリ=シャルソンへの憎悪を募らせていき、嫌がらせをエスカレートする様になった。


 姫達のマリリ=シャルソンへの嫌がらせの話の中で、有名なエピソードを一つ語ろう。


 王女達の弟、ルーイ王太子殿下には幼い頃から婚約者がいた。相手は当時の覇者国であった帝国の末の娘である金髪碧眼のアンネ姫で、母である女帝は少しでも娘が嫁ぎ先で苦労しない様に、幼い内から嫁ぎ先の国に訪問させた。因みにアンネ姫の容姿が金髪碧眼で彼女の祖母が先王の姉だった為、この結婚を貴族達は受け入れる事は出来た。


 アンネ姫は幼い頃から大層可愛らしく、明るい性格故に直ぐに王宮の皆に愛されていった。何度目かの訪問の時にアンネ姫とルーイ王太子殿下は王宮にある庭に散歩しようと歩いていた時に、偶然マリリ=シャルソンとその友人達である夫人達とバッタリと出くわした。

 マリリ=シャルソン達は直ぐに廊下の脇に一列に並び臣下の礼を執った。


 この国の貴族の常識としてもし他の国の王族・貴族と会った時は、下座・廊下にいる時は左端に()()()()()から順に並び、そして臣下の礼を執る。この国の王族は他国の者に臣下を紹介する時は一人ずつ、()()()()()から紹介するのだ。


 この場で夫人達の中で一番家柄が高位なのは侯爵家であるマリリ=シャルソン。アンネ姫もこの国の礼儀作法を知っている為ルイ王太子殿下から彼女達の紹介をするものだと思っていた。ルーイ王太子殿下もそのつもりで先ずは先頭にいるマリリ=シャルソンから紹介しようとした時に。


「さぁ、庭に陛下が待っておりますわよ! 王女様急いで庭に向かいましょう!」


 と突然そんな声がしたと思うと、エスコートするルーイ王太子殿下からアンネ姫をひったくる様に奪い取り、嵐の様に連れ去った者がいた。

 連れ去ったのはルーイ王太子殿下の一番上の姉で、その後ろには二番目と三番目の姉達もそれに付いて行く。


 その場にいた者達は突然の事にポカーンとしていたが、正気に戻ったルーイ王太子殿下がマリリ=シャルソン含む夫人達に姉達の無礼を詫びて、姉達を追いかけた。


 先に庭に着いたアンネ姫は王女達にマリリ=シャルソンと父であるリチャード三世の若い頃の話と、マリリ=シャルソンの悪し様を言い聞かせていた。

 だからマリリ=シャルソンの事は無視する様にと言っている所に王太子殿下が追いついたのだ。

 王太子殿下はその発言に怒り、『彼女に何て事を言うのですか!?』と姉達と大喧嘩を始めた。その結果アンネ姫は泣いてしまい、この事を故郷の母親に手紙に書いて送った。


 女帝は『幾ら国王と若い頃恋愛関係だったとは言え、それを今になって咎めるのは余りにもお門違いでしょう。それに将来王妃として民達の母となる貴女が子供を差別するなんていけませんよ』とアンネ姫が帝国に帰国した時にそう窘めた。


『貴方方の問題に我が娘を巻き込むのは止めて頂きたい』

 と女帝はリチャード三世に苦情の手紙を送った。その手紙は現在アンネ姫の故郷の博物館に保管されており、此処では簡潔に書いてあるが手紙には長々とかなり厳しい言葉で綴られてあった。


 リチャード三世は頭を下げるしか出来ず、マルーコは娘達に雷を落とし国王の許しが出るまで謹慎する事を命じた。

 ルーイ王太子殿下も父からお叱りを受け、自主的に謹慎した。その後アンネ姫やマリリ=シャルソン宛に謝罪の手紙を送っている。因みに姉達は王女にだけは謝罪の手紙を送ったがマリリ=シャルソンには一度も送っていない。



 国王夫婦は娘達の将来に頭を悩ませた。

 マリリ=シャルソンに対しての問題ばかり起こすが、それ以外に対しては比較的大人しかった。それならばマリリ=シャルソンと会わない様にすれば良いかもしれない。未だ婚約者がいない娘達に良い縁談を見つけてあげようと結婚相手を探していた時と同時期だった。








 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()









 サンレゴン侯爵家が持つ別荘に夫婦二人で向かっていた時に、複数の覆面の男達に襲撃された。

 年老いて尚現役時代と変わらない実力の侯爵も、複数の襲撃者を相手に苦戦した。しかも妻を守りながらだから余計に疲労と傷を増やしていった。

 襲撃者達は何故か妻であるマリリ=シャルソンばかり狙い、サンレゴン侯爵の隙をついて一人がマリリ=シャルソンに毒矢を胸に放った。

 それに気を取られたサンレゴン侯爵も五つの鋭い刃が彼の身体中に突き刺されてしまった。


 襲撃者の黒幕を察した彼は、これ以上愛しの妻を傷つけたくないと思い虫の息の妻を抱き抱え、老体に鞭を打って襲撃者達を躱して走り去った。

 そして荒い波が立つ海へとマリリ=シャルソンを抱き抱えて崖から身を投げた。







 後に侯爵夫婦は実は生きていると言う噂が下々の間で広まる。その影響は強く、後の文学で題材にする事が多かった。

 しかし三百九十年後にあるダイバーが侯爵達が飛び降りた崖とそう離れていない場所で、二人の白骨死体を見つけた。その遺骨は王族関係者が厳重に保管し、科学技術が発展したその先の未来で調査をした。


 ()()()()()のDNAと当時の骨の傷から亡くなったサンレゴン侯爵とマリリ=シャルソンの白骨死体と判明する。 

 未だに守る様にして身体を丸めて抱きしめている姿で発見されたので、サンレゴン侯爵の細君への深い愛が世の中の人々に深く感銘され、サンレゴン侯爵家の旧家紋となっている『狼』は恋愛成就・家内安全の代表的な証となったとか。



 話は逸れたが、元騎士団長であり彼を慕う騎士団員達が多くいる侯爵と爵位関係なく人に気を遣いお淑やかで美しい侯爵夫人の死は貴族界で大きな衝撃を与えた。

 しかも『賊に襲われた』と重傷を負いながらも奇跡的に生存した従者が証言すると、サンレゴン侯爵を慕う団員達は寝る間を惜しんで襲撃者達の捕縛に力を入れた。


 王宮の方も名門の侯爵家の前当主とその妻の死を重く受け、衛兵を放った。

 そしてそのお陰で襲撃者達を捕まえる事が出来、拷問を交えた尋問を行った結果主犯が王女達だと言う事が発覚したのだ。


 家臣達はその事を国王夫婦に報告した。


 ……公の前では冷静さを取り持っていた国王夫婦だが、人目がなくなるとかなり狼狽えた。特にマルーコは夫のリチャード三世に取り押さえて窘めるまで半狂乱の状態だった。


 王妃は無理矢理別れさせた事をとても気にしていた。

 そもそも王妃がまだ只の『公爵令嬢のマルーコ』だった時、マリリ=シャルソンとリチャード三世の二人の密かな愛を本当は応援したかった。しかし情勢がそれを許さずマルーコが嫌われ役を買って出たのだ。それが正解だったと言い難いが、少なからずお互いの夫婦生活は穏やかな生活を送っていた。それを壊したのはよりにもよって自分の娘達と知った時の衝撃と言ったら。



 マルーコはショックのあまり髪が老婆の様な白髪となり、固形の食べ物が食べられず痩せ細り、酒を飲まなければ夜も眠れない程に病んでしまった。


 リチャード三世はそんな妻を支える為と王女達の責任を取って、息子であるルーイ王太子殿下に王座を譲り、隠居する事を決めた。勿論まだ若いルーイ王太子殿下を陰ながらサポートするつもりだ。

 幸いと言うべきか、襲撃事件の半年前にルーイ王太子殿下とアンネ姫は結婚式をして正式な夫婦となり、国王・王妃となる準備は整えていたからスムーズに王権を交代する事が出来た。


 王冠をルーイ王太子殿下に譲る前にリチャード三世は襲撃事件の関係者を全て()()()()()()()()()


 襲撃者達(殆どは金に目を眩んだ破落戸共)は石投げの刑に処された。サンレゴン侯爵夫婦は市民たちからも人気が高かった為その怒りは大きく、襲撃者達はかなり苦しんで死んだ。そして大なり小なり関わった者達は重くてギロチン、軽い者は国外に追放された。

 そして三人の王女達も其々別々の修道院の個室で一人、今回の事件の被害者である二人と王女達のせいで

 罪人になってしまった者達への懺悔に生涯費やす事を命令した。

 彼女達の日常の世話も自分達でしなければならず、産まれてからずっと使用人達に世話をされていた王女達には何よりも辛い事だろう。


 王女達は国王の決めた処罰には泣いて抗議したが、王妃の弱り切った姿や怒り狂って連日王宮に集まる平民達、サンレゴン侯爵夫婦を慕っていた貴族や騎士達の怒号を見聞きさせた。



『お前達が仕出かした事でどれだけの被害を出したと思う。お前達のせいでルーイが後を継ぐ前に最悪私と王妃が首をギロチンに掛けなければいけなくなる可能性が一番高くなった。……何故臣下であった彼女ではなく、父である私を責めなかった? 自分達が王女で彼女達は臣下と言う立場がどう言う事か何故理解出来なかった?

 そのせいでお前達の母はあそこ迄弱ったのだ。…………いや。此れは半分は私のせいでもあるがな』



 それだけ言うと三人はそのまま修道院に連れて行かれた。

 王女達は最初の頃は喚いていたが、誰も応対せず段々と薄汚れる自分の身体に耐え切れず渋々と今の生活を始めたが、それでも事の重大さを理解出来なかった。



 王女達がやっと自分達の仕出かした事の重大さを理解出来たのは弱っていた母親がルーイ国王が即位して半年後に死去、そして母親の死去から五年後に()()()()が起きて王権制度から市民が主権を持つ様になった事、

 何より()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事だった。



 勿論、王女達が全て悪い訳ではなく、革命が起きるまでに色々と積み重なった市民達の不満や怒りがあった。しかし、革命の火を付けたのは間違いなくサンレゴン侯爵夫婦の暗殺事件が切っ掛けなのは間違いなかった。


 ルーイ国王はアンネ王妃と子供達を連れてアンヌ王妃の故郷へと命辛々逃亡した。ルーイ国王家族が国外へと逃亡出来たのは前国王リチャード三世が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




『全ての原因は私だ。私の身勝手さのせいで愛した女性を二人も不幸にし、忠臣を失い、国を乱してしまった。せめて我が子達の命だけは助けて欲しい。王女達もある意味私の被害者なのだ』




 かなり議論があった様だが現国王家族は国外へと逃亡済み、王女達がいる修道院もかなり歴史があり下手に襲ってしまえば枢機卿の怒りを買って国民全員破門と言う大罪を買う恐れがある。

 ならばこの騒動の原因でもある前国王を処刑にすれば事が収まると革命のリーダー格達は彼の処刑を決めた。










 流石の図太い三人の王女達も、両親の死と弟家族の国外逃亡にはかなりのショックを受けた。

 そして其処でやっと罪悪感を持つ様になった。王女達の一人が罪悪感に耐え切れず自ら命を絶とうとしたが、監視していた修道女に止められて命に別状はなかった。


『何の為に貴女の父親が自分の命を捧げて貴女達の命を願ったと思っているのです!? それにサンレゴン侯爵夫婦は死にたくない筈なのに貴女達のせいで亡くなったのですよ! それなのに貴女だけ楽になろうとするんじゃありません! 神も貴女の様な弱くて卑怯な者を受け入れる事はありませんよ!!』


 と厳しく叱責されたお陰かその後は命を絶とうとはせず、粛々と神に祈りを捧げていた。

 三人は当時から見ても八十代とかなり長生きをし、当時の首相や枢機卿が免罪符を出して自由の身になっても修道院から外に出る事はなく、ひっそりと亡くなった。

































 此処までがリチャード三世とマリリ=シャルソンの悲恋で始まった悲劇の物語である。


 そして此処からがリチャード三世とマリリ=シャルソンの()()が主役の喜劇の始まりである。









 若者に大人気の新進気鋭のデザイナーの日系三世のマリコ・サルソと王家の血筋が入っている名門財閥の嫡男でもあるリッキーの熱愛がパパラッチされた。

 あまりにも身分が違い過ぎる二人の愛は周りから大反対され、マスコミからも連日批判的な報道ばかりだった。

 リッキー氏の家の圧力もあったが、マリコ氏が移民家系で恋多き女性だった事も反対される理由の一つだった。

 しかし、勝気で物事をはっきりと言うマリコ氏はどんなに批判され様が正々堂々としていた。


「もし私やリッキーが恋人なり許嫁なり婚約者がいたら確かに批判されても仕方がないわ。だけど私も彼もフリー。一体何処に批判されなきゃいけないのかしら!? まさか私が移民の血筋だから反対している訳じゃないわよね? そんな人種差別主義者(レイシスト)思考が蔓延している国に御先祖様は移住した訳じゃないわよ」


 とパパラッチの前で堂々と答えたのを切っ掛けに若者からの人気が一層高まった。


 リッキー氏も身内から大反対され様がマリコ氏を諦めず、何と二人で勝手に婚姻届を出して結婚した事で火に油を注ぐ事となった。

 此れに大激怒したリッキー氏の父親である当主がリッキー氏を勘当しようとしたが、リッキー氏の姉が説得して渋々二人の結婚を認めた。



 しかし何とか二人を別れさせたいリッキー氏の親族達はマリコ氏の家系を調査した。

 本人達は身内に犯罪者がいればそれを理由に別れさせる事が出来ると考えていたが、思わぬ発見をする事となる。





 何とマリコ氏があのマリリ=シャルソンとサンレゴン侯爵との間に出来た()()の子孫だった事が発覚した。

 あの暗殺事件の半年前に侯爵との間に男児を一人産んでいたのだ。

 サンレゴン侯爵と前妻との間に出来ていた長男は暗殺事件の際、マリリ=シャルソン(後妻)との間に出来た年の離れた弟の存在を知った王女達が知ったら……と恐れて弟を自分の子供として国外へと逃げたのだ。

 その子供が着々と子孫を残した。その子孫の一人がマリコ氏だったのだ。

 この事は後にマリリ=シャルソンの白骨遺体から僅かばかりに残された毛髪とマリコ氏のDNA鑑定をした所、見事一致した。


 そしてリッキー氏の一族は国外逃亡したルーイ元国王とアンネ元王妃の次男の血筋。つまりリチャード三世の子孫がリッキー氏だったのだ。






 この事が発覚してからマスコミやリッキー氏の一族は掌を返して二人の仲を祝福をした。

 何せ一度は悲恋で終わり、しかも悲劇的な死を迎えた恋人同士の子孫が来世で結ばれるなんてまるで映画の様な話はより一層熱中した。


































「……本当にお父様達やマスコミは愚かね。あんなにもマリコさんを悪く言っていたのに。彼女がマリリ=シャルソンの子孫ってだけで認めて」

「まぁ良いじゃないか。二人が広告塔になれば君の家の発展に繋がるだろう?」

「でもね。マリコさんの人柄を無視した感じで何だか不愉快だわ」

「その内、人柄を含めてマリコさんの事を周りは認めてくれるさ。それよりもマリー、リッキー君達の結婚指輪のデザインの打ち合わせに行くんだろ? 私が送っていくよ」

「ありがとねアナタ」






 リッキーの姉であるマリーは年上の夫のエスコートで弟夫婦がいる住宅へと向かうのであった。



登場人物のモデルになったのはフランス革命時の王族の方々です。現実では悲劇的な最期を迎えましたが、この話では何とか生き残る事が出来ました。

亡命した後はもう二度と故郷に足を踏み入れる事はせず、王族としての権利を破棄して一貴族としてひっそりと穏やかに暮らし、現代までに子孫が残りました。


今回は短編として投稿しましたが、『長すぎたかも』と思いましたが、その事を含めて感想を書いくださったら嬉しいです。





現代の子孫達が彼等の生まれ変わりかそうじゃないかは読者の皆様の想像にお任せします。



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[一言] 面白かったです!\(^o^)/ 王女達、考えが無さ過ぎ〜、^^; 原因菌達、一番穏やかな生を送りやがられて〜〜 (老衰、、、(^o^;))
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