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《短編》死なない記者と美少女漫画家

作者: 花里探偵

 ーー幼い頃から、文章を書くのが大好きだった。


***


 赤竜が現れた。

 突如として平和な国に災厄をもたらしたそれは、真っ赤な甲羅に身を包み、口から炎を吹いた。平穏な街が一瞬にして地獄と化す。

 人々は我先にと城壁の門へ殺到した。

 そんな中、逃げ惑う人々の荒波を逆走し、災厄の根源へと向かう一人の勇敢な少女がいた。


 ーーだれであろう、私である。


 激しい熱風が全身を覆うが、気にしない。

 大きな重いリュックサックを背負い、手帳と万年筆を手に竜の方へと突っ走った。

 しばらく走って、赤竜と対面する。

 なんという巨体。 

 物凄い迫力。

 その背丈は、国で最も高い時計塔をも凌ぐかもしれない。

竜の周りには私以外に人の姿はない。全員避難したのだろう。

 周辺の建物は全て崩壊し、所々炎が燃えていた。

 まさに煉獄。

 この竜は一晩を経ずとも国を滅ぼすだろう。国民だってほとんどが死ぬ。

 強運の持ち主の私とて、例外ではない。

 多分。


 「さてと」


 どうせ死ぬのだったら最期に好きなことを思いっきりやり遂げてやろうじゃないか。

 私は記者。

 文章を書く人。

 実際に起こった不思議なことや珍しいものを、とにかく文字に残す。

 嘘や誇張は駄目。

 今目の前で起こっている陰惨たる状況を、手帳に残してこの世とおさらばしよう。

 生への拘りを捨てた私は、目の前の竜の特徴を詳細に手帳に書き記した。


 「よし」


 竜が口から炎を吹いた。

 私に向けられたものではない。

 相手は私に気付いていないから。

 だが、その激しい熱風に巻き込まれて、私の体はふわりと浮いた後、民家の瓦礫に叩きつけられた。

 幸い、リュックサックがクッションの役割を果たしてくれたので、一命を取り留めたが、何か鋭いものが二の腕をかすめ、大量の血が噴き出た。

 ーー痛い。

 痛いけど、もうすぐ昇天する身なのだからどうでも良かった。

 ああでも、これじゃあペンも手帳も握れそうにないな。と

 いうか今の熱風でどこかへ飛ばされてしまった。

 これで終わりかーー。

 今更走って逃げたってどうしようもない。

 もとより手遅れだったが。

 竜と目があった。

 ドスン、ドスン、と大きな足音を立ててこちらへ近づいて来た。

 もう、何も書けないけれど、最期に竜の姿を見納としよう。

 記者としてこの世に何も残せなかったことだけが未練だ。


 ーーその時だった。

 信じられないことが起こった。

 竜の腹が、縦に割れたのだ。

 いや、割れたと言うよりも、斬れたという方が正確かもしれない。

 一直線に真っ赤な深い線が引かれた。血が噴き出る。

 ぎゃおおおおおん

 という竜の鳴き声が鳴り響いた。

 なんだ? 何が起こった?

 困惑していると、頭上から女の子の声が聞こえた。


 「…お、お姉さん、大丈夫ですか?」


 見ると、可愛らしい少女が心配そうな表情で、私を覗いていた。

 綺麗な黒髪に、チャーミングな丸い瞳。

 胸元の大きな赤いリボンが彼女の華やかさをより一層際立たせていた。

 右手には万年筆のようなペンを握り、肩にはなぜか小さな猿を乗せている。

 不思議な少女。


 「あっ…腕、怪我してる…。えーと、えーと…」


 少女は私の腕の傷に気付くと、狼狽えた。

 私を心配してくれているのだろうか。

 だが背後には竜がいる。

 私になど構わず早く逃げてほしい。


 ギャオオオオオン


 竜が鳴いた。

 と同時に、こちらに向けて大きく口を開いた。

 炎を吹こうとしている。少女は「わっ」と驚いたような声を挙げると、竜の方へ目をやった。


 「わー、どうしよう…。このドラゴンさん、私達目掛けて攻撃仕掛けようとしてきてるよね、ラミさん…」


 ラミさんとは誰だ。

 ここには少女と私と竜しかいないぞ。

 と思ったが、少女の肩に猿が乗っていたことを思い出す。

 少女の方から若い男の声が聞こえた。


 「おい、落ち着けマヤ。練習通りやれば大丈夫だ。魔力も胆力もお前の方が上だ。あとは気持ち次第」

 「うん、分かった。強い気持ちを持ってがんばるねっ」

 「ああ」


 少女は片手に持つペンを竜の方へ向けた。

 ーー何をやってるの、早く逃げて可愛いお嬢さん。

 そう言おうと口をパクパクさせたが、声が出なかった。

 人は強い恐怖を感じると、声すらも出なくなるのか。

 竜が口から火炎を吹いた。

 ボオオオオ

 と音を立て、私達の方へ炎の渦が向かってきた。

 今度こそ、死ぬーーそう覚悟したが、はたまた不思議なことが起こった。

 少女の前に大きな桃色の魔法陣が現れたのだ。

 それが、竜の炎を受け止めた。


 「やった!防御魔法成功!」

 「おう、マヤはやればできる子だな」

 「えへへ」


 少女は嬉しそうに、はにかんだ。

 それにしても誰と喋っているのか。

 まさか猿?


 竜の火炎が止むと、少女はペンを竜の方へ向け「私の番です!」と言った。

 少女がその場でペンを横に振った。

 と同時に竜の腹が横に斬れた。

 今度は斜めに振る。竜の腹が袈裟斬りなる。


 …何が起こっている?


 竜の深い呻き声が児玉した。

 少女はピョンピョンと助走をつけるかのようにその場で数回小さくジャンプした後、思いっきり地面を蹴り上げた。

 少女の小さな体が、ふわりと空高く舞う。

 なんという飛躍力ーー。

 助走をつけていたから、飛行魔法ではなく、強化魔法で脚力を増強したのだろう。

 少女の体が、竜の頭上よりも高いところまで到達すると、少女は体ごと大きく回転して、手に持つペンを、竜の頭を薙ぐように思いっきり振りきった。

 刹那、竜の体が、縦に真っ二つに斬れた。


 「…へう?」


 流石に変な声が出た。

 何が起こった?

 なんで? どうしてそうなった?

 真っ二つになった竜の体はドカアアアアアアンと大きな音を立てて、地面に倒れた。

 近くにあった民家が下敷きになる。

 逃げ遅れた人は恐らくいないから大丈夫だろう。


 「やったあ!」


 少女の嬉しそうな声が空から聞こえた。

 あの子が倒した? 一体何者?

 沢山の疑問符が頭の中に浮かんだ。

 少女が体が、空から地面目掛けて物凄い勢いで落下し始めた。

 しかし様子がおかしかった。

 着地をするならば足から落ちるはずだが、少女は空中で回転した影響で、頭から地面に一直線に落ちてきている。

 このままだと頭を強打して死にそうだが。

 いやしかし、一瞬の間に火竜を真っ二つにした少女だ。

 おそらく成算があってーーー。


 「きゃあああああんっ!落ちるううう!助けてええええええ!死ぬううううううう!」


 と、少女の金切声。

 成算なかった!!

 死ぬ言うてるやん!

 え?え? どうすんの? 

 私が受け止める?

 いやいや無理でしょ。


 と思いつつも、私は傷だらけの体に鞭打って立ち上がった。

 少女が落下するであろう地点に向かって、両手を広げた。

 …いや無理!受け止められないって!

 どうしようどうしよう!

 この国の救世主の女の子が死んじゃう!


 少女の体が地面に叩きつけられるかと思った瞬間、これまた、不思議なことが起こった。

 少女の落下地点から、眩い光が輝き出した。

 と同時に、どこからともなく美しい青年が現れた。 

 その背中には純白の大きな羽が生えている。

 …え? 天使?

 青年は両腕で、少女を横向きに抱きかかえ、受け止めた。

 いわゆるお姫様抱っこ状態。

 なお、天使のような青年の足は地面から離れ、浮いている。


 涙で顔を濡らした少女は「ひぃぃぃん」と情けない声を漏らした後、青年の顔を見て言った。


 「…ぐすっ…。…ありがとう、ラミさん」

 「マヤのバカっ。この失敗は何度目だ」

 「まだ3回目…」

 「そうか、まだ3回目なら仕方ないか……とはならんぞっ!このグズ!」

 「ひぃん」


 少女を抱えながら、叱咤する美青年。

 青年は私に一瞥をくわえたあと、「ちっ」と舌打ちを打った。

 なぜか私に対して不満を抱いてる様子。


 天使の青年は少女を優しく地面に下ろすと、体から眩い光を放った。

 青年の体の影は徐々に小さくなっていき、やがて子猿の姿になった。


 「うわあ!天使が猿になったあ!」


 私は見たままの状況を丁寧に口走ってから、尻餅をついた。


***




 「あのぅ…、大丈夫ですか…?」


 少女は、尻餅をついた私の方へ駆け寄ってきた。


 「うわ、腕大分血が出ていますね…止血しなきゃ」

 「…あ、お気になさらず…」

 「気にします!」


 強い口調で言われてしまった。

 私は少女の顔を見た。

 可愛らしい顔立ちをしている。

 国のピンチに彗星の如く現れた少女。

 この幼い少女が、火竜をほぼ一撃で倒したという事実が衝撃的すぎて、自分の腕の痛みなど気になるはずがない。

 少女は火竜を仕留めた不思議なペンを宙に向けた。

 何をするつもりなのか。

 少女が宙で線を引くと、その後に真っ黒な線が浮かんだ。

 すごい…。魔法か。

 少女はなにやら丸いロールケーキのようなものを描き上げると、ペンを軽く縦に振った。

 すると、ポンっと音を立てて、白い物体が現れた。

 包帯だ。

 少女は地面に落下したそれを拾うと、包帯を怪我をしている私の腕に巻きつけた。

 私は手当てをしてもらいながら、少女に言った。


 「…描いたものが実体化する魔法ですか? すごい魔法ですね…」


 少女はニコッとチャーミングな笑みを浮かべた。


 「はい、すごく便利です。さっきも、竜に傷口を付ける…って思いながらペンを振ったんですよ」

 「なるほど」


 ペンはもちろんすごいが、少女の魔力も並大抵のものではないだろう。

は少女は包帯を巻き終わると、右手でグッドサインをつくった。


 「できました…」

 「ありがとうございます」

 「いえいえ…あの、他に痛むところやお怪我はないですか?」

 「大丈夫です」


 背中が少し痛むが、それは言わなかった。


 「良かった、では私は去りますね」


 少女は立ち上がると、私に背を向けた。

 え…? もう帰るの?

 この国を救ったのに?

 私は慌てて立ち上がり、少女の手を掴んだ。


 「あの!もう、帰っちゃうんですか…?」

 「はい、竜の気配を感じて咄嗟に城壁を超えてきたので、私は現状、不法入国者なんです…」

 「でも、それは仕方ないじゃないですか…。どうです? 国王の御前に行けば、貴女は国を救った英雄として崇められますよ!」


 少女は頬をポッと紅く染めた。


 「英雄…」


 まんざらでもない様子。なにこの子可愛い。

少女はフルフルと首を横に振った。


 「でも私、旅をしていて、先を急いでるので…」

 「…旅? どんな旅をしているのですか? いや、その前にお名前をお聞きしたいです!」


 不思議な少女を目の前にして、記者の血が騒いできた。

 少女は恥ずかしそうに答えた。


 「名前は…マヤです」

 「マヤ氏!旅の目的はなんですか?!」

 「………氏?」


 私はリュックサックから手帳とペンを取り出した。

 『名前はマヤ』と書き込む。


 「…旅の目的、ですか…目的…」


 マヤは目を上に向け、考える素振りをした。



 「えっと…、とある男の子を探してるんです」

 「男の子? 男の子とはどんな子ですか? もしかして恋人とか…」


 マヤの顔がみるみるうちに赤く染まった。


 「…ち、ちちち違いますぅ…!恋人じゃないです…潔白です…」

 「そうですか」


 何が潔白なのかは分からないが、この反応から察するに恐らく恋をしているのだろうーー本人が自覚しているかはともかく。

 マヤの言動や顔色の変化などを出来る限り仔細にわたって手帳に書き込む。


 「ではその男の子と貴女はどんな関係ですか?」


 根掘り葉掘り質問していく。

 記者の辞書に遠慮という文字はない。

 マヤも答えてくれるし。


 「うーん…恩人?」

 「どのような恩があるのですか?」

 「…えーと、えーと…」


 返答に困っている様子のマヤの肩から、猿が顔を出した。


 「おいガキ!さっきからなんだお前!」

 「ひい!猿が喋った!」

 「俺は猿じゃない!…今は猿だが!」


 子猿が人間の言葉を口にした。

 摩訶不思議な光景。

 もしかして、初めて見るが使い魔というやつか。

 人の言葉を話す猿のことも、手帳に書き込みつつ、自己紹介をした。


 「わたくし、ロベールと申します。記者をしています」

 「ちっ!新聞に書かれてたまるかよ!マヤ、こんな奴放って行くぞ!」

 「…うん」


 マヤは申し訳なさそうに私に一礼をすると、クルリと背を向け、小走りをした。

 …え? 帰っちゃうの?

 私は悩んだが、すぐに決心すると全速力でマヤを追いかけた。

 特上のネタ!逃すもんか!

 すぐに追いつき少女の背中に抱きついた。


 「ひゃっ」


 バランスを崩し、二人して地面に倒れ込む。

 私がマヤに覆い被さる形になった。

 驚いた顔をするマヤに、私はペンと手帳を持って言った。


 「あの!教えられることだけで良いので!どうか!貴女のことを教えてください!」


 すると子猿が顔を真っ青にして言った。


 「お前ちょっと怖いぞっ!常軌を逸してるぞ!遠慮とか常識が欠けてるのか」

 「記者が特上のネタを前にして、遠慮も常識もへったくれもあってたまるものですか!」



 くすくすくす、という可愛らしい笑い声が下から聞こえた。

 見ると、マヤが楽しそうに笑っていた。


 「マヤ氏…?」

 「お姉さん、怖いけど面白い…」

 「お、面白い?」


 初めて言われた。

 「怖い」とか、「人でなし」とか、「ポンコツ」とは何度も言われたことあるが。

 マヤはニッコリと笑顔を見せた。


 「分かりました、答えられることなら、少し答えますよ」

 「本当ですか?!ありがとうございます!」


 私は大きくお辞儀をした。

 私とマヤは立ち上がると、改めて自己紹介をした。子猿は不服そうな顔をしていた。


 「では、改めてお聞きしますが、その男の子はどんな方なのですか?」

 「どんな方…えぇと…」


 マヤはピトリと人差し指を顎に当てて考えたあと、どこか遠い目をして言った。


 「あの人は、前代未聞の大悪党です」

 「大…悪党…」


 マヤが探している恩人は、大悪党なのか。

 なんだそれ…めちゃくちゃ面白いじゃないか!


 「男の子は、どのような悪いことをしたのですか?」

 「言えません」

 「男の子の名前は? 特徴は?」

 「言えません」

 「マヤさんはどこから来たのですか?」

 「…言えません」


 マヤは首を横に振ると、申し訳なさそうに私を見た。


 「すみません、さっき答えられることなら答えると言いましたが、やっぱり答えられることなんて、ほぼないです」

 「…そう、ですか」


 子猿がマヤの頭の上に立った。


 「ようし、終わりだな。今度こそ帰るぞ!」

 「うん。新聞記者さん、さようなら」

 「あ…!あの、ちょっと待って!」

 「何ですか?」

 「私を仲間にしてくれませんか?!」

 「え?」


 マヤは、意表を突かれたというように目を見開いた。

 つっけんどんな子猿は、案の定怒気を孕んだ声で叫んだ。


 「するわけないだろ、何を抜かしているんだ」

 「お願いします!私、マヤ氏の旅についていきたいんです!何でもします!」

 「清々しいほどに図々しいな」

 「それが記者です!」

 「やかましい」


 マヤは、私と猿のやり取りを聞いた後に、首を傾げながら尋ねた。


 「…どうして仲間になりたいんですか?」

 「貴女が魅力的な女性だからです!」

は「え?!」


マヤは顔を真っ赤に染め、恥ずかしそうに両手で頬を覆った。

 マヤはよく赤面する女の子のようだ。


 「マヤ氏ほど不思議な魅力を持った女性を見たことないです。貴女の行動を逐一文字に残したいのです!」

 「…で、でも、新聞に書かれたら困るというか…」

 「それなら心配入りません!先月新聞社をクビになったばかりですから!」

 「あ、そうなんですね。心中お察しします…」

 「ありがとうございます!ただ文字に残すだけ!ね? お願いします!」


 子猿がふん!と鼻を鳴らした。


 「駄目に決まっているだろう。厳しい旅なんだ。お前が来たって足手まといだ。」

 「…そうですけど…、でも、全力で何でもします!」

 「お前に出来ることなんてないだろ」

 「…あります、文章を書くのが得意です」

 「そんなの役に立たない」


 子猿の痛烈な言葉に食い下がろうとすると、マヤが目を輝かせて言った。


 「いいなあ」

 「え?」

 「羨ましいです…。私、絵は得意なんですけど、それ以外がてんで駄目なので。だから文章を書ける人、尊敬します」

 「ありがとうございます!」


 よし、良い流れだ。

 この好機を逸してたまるか。

 リュックサックから2冊の手帳を取り出し、マヤに手渡した。


 「日々生活している中で、少しでも不思議なことや面白いことがあると、文字に残すようにしているのです。このノートはほんの一部ですが、見て頂けませんか?」

 「そうなんですね、拝見しますね」


 マヤはパラパラの手帳をめくり、中身を読み始めた。なんだか緊張するなあ。


 マヤが読んでいる間、子猿が私に尋ねた。


 「文章が書けたって仕方ないだろ。他に何か出来ることはないのか」

 「私、絶対に死なないんです」

 「死なない?」


 子猿が初めて、興味を示したように眉を顰めた。

 私は言葉を続けた。


 「私は長らく従軍記者をやっていました。そこでの事なのですが、飛び交う矢だまに巻き込まれて多くの仲間が命を落として行く中、私はいつも持ち前の幸運で生き残るのです。軍も従軍記者も、全滅した時に私一人だけが生き残ったことだって、2度ありました」

 「死神かよ。怖いな」

 「はい、気味悪がられて、先月会社をクビになったのです…」


 自嘲気味に笑う。

 パタンっと手帳を閉じる音がした。どうやらマヤが一通り目を通したようだった。

 マヤは私の方を見ると、大きな声で言った。


 「面白い!」

 「…え?」

 「すっごく面白いです!日常の些細な出来事が書かれているだけなのに、ワクワクするんです!描写も丁寧なのに無駄がなくて、読みやすいです。わあ、憧れるなあ」

 「憧れる…? マヤ氏も文章を書くのですか? 小説家志望だったりして…」

 「いえ、漫画家です」

 「マンガカ…?」


 知らない単語だ。画家の一種だろうか。


 「新聞記者さん…!えーと、お名前…」

 「ロベールです。ロベちゃんとお呼びください!」

 「ロベちゃん、私、さっき男の子を探して旅をしてると言いましたが、実は他にも目的があるんです」

 「他の目的…」

 「はい、ネタ探しの旅です。極上の物語を描くための」

 「え?!」


 マヤは人懐こい笑顔を浮かべ、私へ手を伸ばした。私は半ば反射的にその手を取った。

 マヤは言う。


 「そのために、貴女の健筆をお借りしたいです!ぜひ、仲間になってもらえませんか?」


 横で、子猿の大きな溜息が聞こえた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 素晴らしい作品ですね! ☆5個つけさせて頂きました。 これからも頑張って下さい! 応援してます。
2021/11/13 08:00 退会済み
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