壊されたモノ。
続く保証は無い。
続けられる確証も無い。
それでも、思う。
現在を続けていたいと。
だからこそ願う。
どうかこのままで、と。
繰り返すような日常というのは、実はすごく脆いものなのだという。
私がそれを知ったのは、他の例に漏れず、それを失った時だった。
いつも通りのはずの一日。
それは唐突に訪れ、簡単に私の日常を破壊した。
きっと、何の感慨も無く、どんな打算も考えず。
ただ、破壊したのだろう。
アイツはそうして、私から日常を奪い去った。
私の身柄と同じように。
不幸中の幸い、なんて言葉を何度かけられただろう。
その台詞をどれだけ言われたか分からない。
みんなが口を揃えたように言っていた。
それはまるで、口裏を合わせたように。
生きていたことが奇跡だ、と。
確かに、落ち着いた今になって考えてみると、アイツは私を殺そうとはしなかった。
まるで生き証人を作るかのように、乱暴ながらも大事に扱っていたように思う。
少なくとも、他の人達よりは……。
目の前でどれだけの人がいたぶられただろう。
そんなとき、アイツはいつも笑っていた。
楽しそうに。
愉しそうに。
それが自分の趣味だと語るみたいに。
そのくせ、私に手を出していたのは最初の頃だけだった。
その後はただただ見ていることを強要した。
悲鳴をあげることも声をかけることも許さず、目を背けることさえ認めなかった。
目の前で人が壊されていく恐怖。
そう。アイツは最初から殺すことはなかった。
いたぶって弄んで、じっくりと壊すのだ。
まるでそれが楽しいとでも言うように。
人を壊す、その過程が。
希望を与えては叩き潰し。
絶望を感じさせては小さな希望を抱かせて。
それを繰り返せば、心が悲鳴をあげ、擦り切れていく。
そうして人を壊し、何も感じ無くなる頃を見計らったように、殺す。
微塵の躊躇いも無く、小さな躊躇も無く。
そうすると、窓の締め切られた部屋に充満するのだ。
例えようのない、あの独特な鼻を突く臭いが……。
篭った空気の中に撒き散らすように、真っ赤な……。
それから、片付けをした後、また新しい子が連れて来られて、壊されていく。
その繰り返しだった。
何度も何度も繰り返した。
そのうち、それが日常になるんじゃないかと、そう思うほどに……。
どれくらい続いたかは知らないし、たかだか時を数えるためにアレ一つ一つ思い出すなんてことはやらないけど、気がつくと助けられていた。
無事に、救出されたらしかった。
しばらくはテレビ局とかが騒いでたけど、それもすぐに無くなって、周りもそれほど騒がなくなった頃、親の仕事の都合ということで転校することになり、私は――いや、私たち家族は、その過去を闇へと沈めた。
転校した学校で手に入れた日常は、毎日が楽しくて仕方が無いような、そんな場所で。
だから私は毎日のように思いながら――願いながら、過ごしていた。
こんな楽しい日常が、いつまでも続きますように、と。