なんでこんなとこにいるの?
「あなたの名前はなんていうの?」
場違い感が否めないほどに豪華な部屋の真ん中
テーブルをはさんで目の前の二人掛けのソファーに座っているきれいな女性にそう質問される
その隣には穏やかな笑みを浮かべるかっこいい男性
この人は私がぶつかってしまった人らしい
その時に私の傷が酷いのを気にして追いかけてきてくれたらしい。でも…
この後ろから抱きしめられてる状況はどういうこと?
時は遡り、30分ほど前のこと
「っ!!」
目が覚めたら目の前に寝ている知らない男の人の寝顔があって危なく叫びだしそうになった
(え?なに?どういうこと?え?)
ここがどこなのかを知るため、起き上がろうとするが何かが邪魔をして起き上がれない
仕方なく、もぞもぞと寝返りを打ち部屋を見渡す
(うん。こんな広い部屋知らない)
孤児院で他の子たち4人と一緒の自室もこんなに広くはない
(ベットもふかふかしてる…高級品?)
「起きたのか…」
知らない声なのになんだかとても落ち着く声がすぐそばからした
「けが人だったんだからまだ寝てろ」
そういい頭をポンポンしてきた
私はまた寝返りを打ち、その人を見る
さらさらな茶髪にさっきまで閉じられていた碧の瞳のかっこいい人がいた
「どうした?」
私はまた起き上がろうとするもののやっぱり何かが邪魔して起き上がれない
お腹の方を見てみると布団の上から腕がまわっていた
その腕をぐいぐいと押して避けようとする
「起きるのか?」
私は頷く
男の人は腕を避けてくれ、起き上がれるようになった
起き上がったあと窓に近づき、外の様子を見る
そこには広い庭が広がっていた
(もしかしてどこかの貴族様の屋敷?)
外を見ているとチリリンっとベルの音が聞こえ、そちらを見ると男の人がベルを机に置いていた
コンコンッ「しつれいします。おはようございます。勇者様。何か御用でしょうか」
するとすぐにメイド服を着た年配の女性が部屋に入ってきた
「あの子の着替えを頼む」
私の方を指さしてそういった
「あら、お目覚めになったんですね。おはようございます」
頭を下げる
「さあ、お嬢様はこちらへ」
(お嬢様!?)
そんな風に呼ばないでほしいと伝えたくてもどう伝えればいいのか迷っているとその人は近づいてきてそっと背中を押され促されるままに私は部屋をでた
それからメイドさんがどこからか持ってきたワンピースに着替えさせられた
最初は拒否しようとしたけれどいつの間にか服をはぎ取られていてあきらめた
仕立てのいいワンピースはとても肌触りがよくて高級品だとわかる
(汚したらどうしよう…でも、それより気になるのは…)
メイドさんは私のことを蔑んだ目で見たりせず優しく話しかけてくれる
「さあ、髪も少し弄りましょうね。綺麗な白髪ですから今日はハーフアップにしましょう」
そう言って髪型も弄ってくれた
髪を縛ったのは両親が生きていたころ以来だ
「それじゃあ、朝食にしましょう。勇者様を呼んできますのでここで待っていてくださいね」
そういって隣の部屋に行ってしまった
(優しい人。でも、私は従魔の魔女なのにどうして?)
街の人たちは目も合わせてくれることはなく、お店に行って買い物するときも「お前に売るものは何もない」とすら言われた
それが普通だと思っていた。いや、思っている
だって500年前もそうだったのだ
両親やシスター、おじいちゃんが特殊だと思っていた。でも
(勇者様って呼ばれてたっけじゃあ、あの人がこの街に来た南の勇者様なんだ。かわいそう)
だって勇者なのだ。呪いと言っていいほどの祝福を受けた者
(あの人に伴侶はいるのだろうか)
そんなことを考えていると部屋の扉が開き勇者様と2人の男女、最後にメイドさんが入ってきた
勇者様は突っ立ている私のもとに来るといきなり抱き上げられた
(え?なんで?)
そのまま二人掛けのソファーに座った勇者様の膝の上に座る形になった私は降りようとするがぎゅっと抱き締められ降りれなくなってしまった
私は降ろしてほしくてその腕を叩くものの降ろしてくれない
2人の男女は苦笑いしながらテーブルをはさんで目の前にあるソファーに座った
メイドさんはテーブルの上にパンや、サラダなどを並べていく
「さて、食べながらいろいろお話ししましょう?」
そう女性が言ったものの私は首を横に振る
「え?私と喋るのはいや?」
「クラリス様、お嬢様は喋れないようです」
私がそれを否定する前にメイドさんがそういってくれた
「そうなのか?」
目の前の穏やかそうな男の人にそう聞かれる
私は苦笑いで首を横に振る
「なにか事情がありそうだな。字は書けるか?」
頷く。両親が生きてるときに教えてくれたから
「じゃあ、紙とペンを用意してちょうだい」
「かしこまりました」
「まずは食べましょうか」
他の人たちの会話を聞きながら朝食を食べ終わり、食器が下げられ代わりにお茶が出された
そして、メイドさんが持ってきてくれたメモ帳とペンを受け取ったところで
「あなたの名前はなんていうの?」
そう聞かれた