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第6話 「鯉の餌」


 俺はメスのオークの胸に抱かれ、背中をなでられている。

 

 どれだけ泣いただろう。


 こんなに泣いたのは、中学時代にイジメられた時以来かもしれない。

 いや高校生の時か。アローンホーム2を観たときか、星☆トゥインクルプイキュアの映画のクライマックスシーンか、それとも親に捨てられた時か。

 こんなに泣いたのは、とにかく久しぶりだ。


 気分が落ち着いて、涙が()れると周囲を観察する余裕も出てきた。


 俺を抱きしめているこのオークは先ほどのボスオークと違い、それほど大きくなかった。といっても、身長は三百センチくらいありそうだった。体重は三百五十キロ、いや四百キロはあるかもしれない。


 特徴的なのは、その胸にオッパイがあるのだ。それも巨大なオッパイが。


 その巨大なオッパイの先端には、(こい)の餌の何倍もありそうな巨大な乳首があった。


 メスオークはそれ(・・)を俺の顔に押し付けると


「ほらどうしたの?」


 といわんばかりの目をして俺を見つめた。

 乳を飲めということなのだろうか? 



 しかし、このバケモノたちの奇妙な行動は、一体なんなのだろうか?

 俺を食わずに、まるでペットのように()でているような気がする。

 そして、あの冒険者たちの言動。


 ヒントになりそうな(かす)かな情報をパズルのピースのように組み立てていく。


 そして俺は、ある仮定を導き出した。


 ひょっとして、俺はオークの子供と間違われているのではないか?

 思い返してみると、あの冒険者パーティーは、俺のことをオークの子供だと信じて疑わなかった。


 人間から見ても俺はオークに見える。

 オークから見ても俺はオークに見える、のだと推察される。



 確かに中学校の時のあだ名はボストロールだった。

 高校に入った時はシュレックだった。


 でもそれは、クラスに必ず一人はいるようなお調子者の(くそ)野郎がつけたあだ名だ。俺をからかうための口実というか、馬鹿にするためのあだ名であって、実際にクラスメイトたちも心底からそうは思っていた訳ではないはず――。


 中学の時はそんな名前の敵が出てくるRPGが流行っていたし、高校の時はそんな名前のモンスターが主人公の映画が封切されたから、そのようなあだ名をつけられたのだろう。


 特に深い理由はなくて、ただ流行っていたという理由だけで(ひど)いあだ名をつけたのだろう。きっと俺がクールで大人しいから、そんなことをされたのだ。


 俺が何を言いたいかというと、俺の顔はそこまで(ひど)くはないって事だ。

 同じクラスにはきっと五~六人、あ、盛りすぎたか? 少なくとも二~三人は俺の事を好きな女子はいたはずだ。

なぜわかるかって? そりゃ雰囲気でわかるものだ。女の子からの視線を感じていたらさ。


 その感覚がわからないという人は、きっとモテない学生生活を送ってきたのだろう。これは経験談であって悪口ではない。そこのところは履き違えないように頼む。


 話が脱線したが、確かに俺は男性アイドルのように格好良くはない。

 これは認めよう。


 だけど……これに似ているのか? 俺は? 


 目の前のオークを見上げる。

 これ〈オーク〉はどう見てもバケモノだぜ? 

 さすがに俺〈人間〉と似ても似つかないと思う。

 もしこんな〈オーク〉顔のヤツが外を歩いていたら、間違いなく迫害されるレベルだ。日本になんて住んでいられない。だから俺は断じて似ていないと言えるのだ。


 でもここで「俺は人間だ!」だなんてそんな事は、口が裂けても言える状況ではない。

 たぶんそれを言ったら死ぬ。間違いなく。



 生き延びるためなら手段を選んではいけない。


 こうなったらオークになりきって、とことん生き延びてやる!


 そう俺はオークに抱かれながら決心した。


 ちなみにオークのミルクは、とても甘かったということをお伝えしておく。

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