禁忌〈タブー〉
まだ日が高いうちに村に到着することができた。
後ろを歩くオークたちが、背中に背負っている獲物の山を見たオークたちから、歓声があがったのは言うまでもない。
みんな空腹だったのだ。
婦人部の幹部オークが近寄ってきたので、ガリベンに獲物を渡すように指示を出すと、俺はその場を離れ次の仕事に取り掛かった。
竹槍の改良である。
近接武器としての威力は心もとないが、飛び道具としては十分使えると判断した。
ただもう少し威力が上がってくれないかと考えたのだ。
軽すぎて飛距離も威力もいまいちで、狙いも定まりにくいなどの欠点がある。
中に詰め物をすれば威力が増すかもしれないと思って、竹の中に土を詰めてみることにした。
今回の狩り部隊には加えず、村の警備員役として居残りさせていたガードが、作業している俺に気づくとウホウホ言いながら近寄ってくる。
そこで早速、できたばかりの試作品を投げさせてみることにした。
さすがガード。投げた竹槍は見習いよりも力強く飛んでいく。
土を詰めないよりは良くはなったが、まだオークには重さが足りないようだ。
そこでより多くの土が詰められるように、剣で竹の節を抜く。
節を抜いて土を詰めた竹槍は先ほどより飛んだから及第点だろう。
しかし欲を言うなら、もっと土を詰めたいところだ。
全ての節を抜きたいのだが、いかんせん剣の長さが足りなかった。
ガードに礼を言うと、節をもっと深く抜ける長い棒を探すのだが、ガラクタの山には使えそうな物はない。
長い鉄の槍でもあれば言う事ないのだが。
あの餌になった冒険者たちに槍を持っていた者がいたような気がするが、パパたちはそれを拾ってこなかったようだ。
広場に戻ると仮眠をしていたママも起きていてネズミを食べていた。
十分な量とは言えないが腹の足しにはなっただろう。
ふと俺の目にネズミの骨が目に入った。
子供オークは骨の硬い部分までは食べることはできないから、食べ残されているのだ。
(骨か……。閃いたぞ!)
村に戻るとすぐにガードを連れて森に入っていく。
広場から森に入る事十五分。
森に入るとすぐに煩く言うガードだが、今回は何も言わない。
なぜならここはオーク村の住人ならば、誰もが知っているルートだったからだ。
そこに辿り着くと、ガードは辺りを見回しながらソワソワしている。
どうやら怖いらしい。
俺は剣で枯れ葉や土を掘り返し始める。
「*********!*********!」
ガードは唾を飛ばしながら必死に何かを訴えかけてきた。
恐らく「ちょっとそれは不味いですよ!」的なことを言っているのだろう。
「俺はな、神も仏も信じない。呪われる? その呪い全部俺が引き受けてやるから心配するな」
ガードにそれが通じたかどうかはわからないが、騒ぐオークを無視して土を掘り続けると、ついにお宝を掘り当てた。
どれくらい昔に埋められたオークかはわからないが、薄茶色に汚れた太い骨は長く竹の節を抜けそうなくらい堅そうだった。
恐らく腕の骨だろう。俺の腰上くらいまでの長さはあった。
俺は立派な骨を抱えニンマリと笑った。
ガードはまるでお化けでも見ているかのような顔で俺を見つめていた。
オークの世界でも墓荒らしは禁忌〈タブー〉らしい。
俺は骨を肩に載せて村へと向かっている。
本当はガードに運ばせたかったのだが、骨を持つのを嫌がったので仕方なく俺が担いでいるのだ。
村では若手のホープ扱いのガードだが、臆病だし今のところそこまで大活躍という訳でもないから俺の評価は低い。だがガリベンのようにムカつく奴ではないし、番長のように気性は荒くない。
なんというかガードは憎めないヤツなのだ。
俺はふと思った。
(このまま骨を担いで村に入るのは不味いんだろうな……)
いくら俺が村長の息子でスライムを倒した英雄だとしても、さすがにご先祖の骨を掘り起こしたと知ればいい顔はしないかもしれない。
俺は広場に入らず、森との境界線をぐるりと回ってトイレの裏の茂みへ向かうことにした。
「*********」
ガードは道が違うとでも言っているのだと思う。
「ぐるっと回って向こうへ行くよ。おまえは切り出した竹をトイレまで持って来てくれるか?」
「*********」
骨を持つより百倍マシだと判断したのかどうかはわからないが、ガードはそれを快諾すると小走りで村へと戻っていった。
俺が広場をぐるりと迂回するために、木々を掻き分け道なき道を必死で進む。
やっとの思いでトイレの裏手の茂みに到着すると、既にガードが切り出した竹を運び終えていた。
「*********」
どうですか、全部持ってきましたよ。と自慢げに言っているように見えた。
「おまえの仕事はこれからが本番なんだぜ?」
そう言ったのだが、俺の言葉を理解できなかったのか首を捻るガード。
ガードに竹を抱えさせて裏手の茂みへ入る。
そして苦労して運んできた骨をガードに渡そうとするが、それを持つのを拒む。
「てめぇこの野郎、俺は村長の息子だぞ!」
そう喉元まで出かけたがグッと堪えた。
仕方なく竹を一本ガードに抱えさせると、俺はオークの骨を竹の中に突っ込み節を抜き始める。
骨の先端は太く丸い。俺の力も足りないようで、節はそう簡単には抜けなかった。
ネズミと戦い、竹を斬ってパンパンになっている腕にはかなりの重労働だった。
それでもなんとか日暮れまでに二十本ほどの竹の節を抜くことができた。
勿論、土を詰めるので一番底の節までは抜いていない。
土はスライムの残骸を入れる穴を作ったときに出た土砂があるので、それを詰めると投げ槍は完成した。
少し粘土質なので傾けてもこぼれないのが良かった。




