第26話 「初めての狩りは…」
川辺で見つけたネズミ。
サバイバルでセオリー通りに風下から接近して攻撃。
実力か偶然か、獲物をゲットしてハッピーエンド。
という訳にはいかなかった。
俺の考えた作戦は大失敗だった。
敵から攻撃を受けた見張りのネズミは、巣穴から援軍を呼び寄せると反撃にでた。
何匹かは投げた竹やりで戦闘不能にさせることに成功したのだが、そんなものは焼け石に水だった。
あっという間に俺たちはネズミの集団に囲まれてしまう。
ネズミといっても大きさは、ゴールデンレトリバーぐらいもあるかなり大きなネズミだ。
(ん~、巣穴に近づきすぎてしまったなぁ。仲間を呼ばれたのは失敗だ……)
しかし、こうなってしまったものはしょうがない。と割り切るしかない。
俺はこの世界に来て変わったな、と感じる。
心がどっしりとしたというか、些細な事では動じなくなった。
飯が遅いと母親を怒鳴ったり、近所から聞こえる騒ぐガキの声に苛立ったり、そんな生活を送っていた俺からすると、これは考えられない変化だ。
長年プレイしてきたNeDAオンラインと同じ、ファンタジーRPGのような世界を実際に体験出来ている。
それが楽しくて仕方がなかった。
こんな状況を楽しんでいる俺がいる一方で、後ろにいる俺の頼れる仲間たちはどんな状況かというと……
ガリベンは失禁してガクガクと震えていた。
見習いも緊張で体がカチコチになっている。
こいつらは、はっきり言って役に立たないだろう。
自ら狩り部隊に志願したお転婆オークはというと、薬でもやっているのかと思うほど目がバキバキに決まっていた……。
両手に持った竹槍の先をゆっくり八の字に動かしながら、どいつから殺ろうかと舌なめずりしているという有様で、完全なトランス状態だった。
「見習い、糞ガキを頼むぞ」
伝わったかどうかわからないが、俺は剣を強く握り締めるとネズミに向かって飛び出した。
俺が前へと飛び出すと、目の前にいたネズミはびっくりしたのか後ろへと下がる。
代わりに左のネズミが、俺の喉元目がけて飛び掛かかってきた。
「そっちが来るんかい!」
俺は完全に意表を突かれた。
ネズミは肩の高さの辺りまで飛び上がり襲い掛かってくる。
咄嗟に左手に持っていた盾で押し返した。
間髪入れずに今度は右からネズミが飛び掛かってくる。
右手の剣を水平に振ると、見事命中し大ダメージを負わせた。
飛び掛かってくるネズミを剣を必死に振って次々と斬るが、どれも即死には至らない。
ただ剣を当てているだけで、切り傷をつけている。そんな感じだった。
力が乗っていないのだ。
ただ振り回しているだけの剣では、モンスターは都合よく死んではくれないのだ。
俺は異世界ボーナスを実感し、ほんの少し前まで小説の主人公を気取っていた。
しかしそれは間違いであったと思い知った。
俺は小説の主人公でもなければヒーローでもない。
親に捨てられてこの異世界に来た、ただの元引き籠りゲーマーでウ〇チ拾いなのだ。
(この戦いから生きて帰れたら剣の練習をしよう……)
ポン♪ とフラグが立ちそうなことを思いながら、生きる残るために必死に剣を振りまわした。
お転婆オークの方はといえば、俺の突撃に呼応するかのように同時に飛び出すと、両手に持った竹やりをビュンビュンと振り回した。
勢いよく振り回した竹にネズミが当たると「パシーン!」と気持ちの良い快音がして遠くに飛ばされた。
そして竹も縦に裂けるようにして割れた。
竹やりはシバき倒すものではなくて、刺して使うのだと教えておけばよかった。
両手の竹やりが使い物にならなくなると、今度は拳で飛び掛かって来るネズミを粉砕していった。
オークとネズミでは戦闘能力に圧倒的な差があるようだ。
お転婆オークに飛び掛かっていったネズミは次々と動かなくなり、戦闘はものの十分もかからずに終了した。
俺は五匹のネズミと対峙したが、すべて一撃で倒せていなかった。
二度、三度と俺の剣で斬られて出血多量になり、地面の上でピクピクと痙攣している。
アリィーによって勝負が決まったあと、それを剣でとどめを刺して回った。
一方、お転婆オークの仕留めたネズミは十五匹。
その拳にぶつかったネズミは、ことごとく骨が粉砕され、中には内臓が外に飛び出しているものもいた。
序盤に投げた竹槍が、運悪く刺さったネズミも何匹かはいたが、竹自体が軽いためかそれほど威力は大きくないようだった。
オークには軽い武器より、ある程度は重量がある武器の方が向いているのかもしれない。
あまり長居してまた援軍が来たら困る。
オークたちに獲物を回収させると急いでネズミの巣穴から離れた。
周囲の安全を確保してから休憩をとる。
獲物を山積みにしているのだが、オークたちがよだれを垂らして見つめていた。
(腹が減っているようだな……)
一匹ずつ報酬として与えた。
オークたちはご馳走に喜んでガツガツと生でネズミを食べる。
お転婆オークは、ガリベンのためにネズミを小さく千切ってあげていた。なかなか優しいヤツだ。
俺は当然、生のネズミなんて食べることはできない。
彼らが食事をしている間、木に絡みついている何かの蔓を集める。
獲物を縛るためだ。
さすがに俺は、こんな大きな獲物を何匹も担いで歩けない。
十匹ほどのネズミを背嚢のような形に縛りあげて、それを見習いに背負わせた。
他のネズミもお転婆オークに担がせて帰途についた。




