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第25話 「この世界特有のアレ」


 食料を求め、オークたちは村を出ると小川に沿って歩いていた。


 仲間たちがわいわい騒ぐのを横目に(実際騒いでいるのは小娘オークだけだが)、耳を澄ませて動物の気配を探した。

 だが今のところ、何の獲物も見つけることもできなかった。


 村から一時間ほど歩いたところで最初の休憩をとることにする。

 川沿いに歩いているので、飲み水には困らないのは良かった。


 土手に座り休憩をとっているオークたちを置いて、俺は川に入るとザブザブと対岸へと渡る。

 俺が対岸に渡り始めたとき、見習いオークとお転婆オークも慌ててその後を追おうとしたが、ガリベンがそれを止めていた。

 当然俺はそれに気づかなかった。


 ◇


 俺が川の対岸に渡った理由。

 それは竹のような植物を見つけたからだ。


「竹のような」とまるで竹でないような言い方だが、恐らくこれは竹だろう。


 シティーボーイで三十年間インドア派だった俺は、テレビでしか竹を見たことがなかった。

 本物の自生する竹というものを見るのは、これが初めてだった。

 だからこれがテレビに映っていた竹と同一なのかどうか、一見しただけではわからなかったのだ。


「これが竹だろうな、きっと……」


 触って感触を確かめる。

 そして腰の剣を抜くと、居合切りのように斜めに竹を斬った。


「ふんっ」


 竹を見事に斬れた。

 斬った竹は、まるで居合切りの達人が斬ったかのような綺麗(きれい)な切り口をしていた。



 知らない間に恐ろしいほど、自分が強くなっていることに気づく。

 スライムに追いかけられていた時に薄々は感じてはいたのだが――。


 だって三十年引きこもっていたのにも関わらず、こんなに走ったり、動いたり、それに腕力だってこの通り。

 重い剣を振り回して竹をこの通り真っ二つだ。


 これは(すご)いことだぞ。普通ではあり得ない、こんなこと。


 アレ(・・)しか考えられない。この世界特有のアレ(・・)


 俺のこの強さは、今までの村での努力(ウ〇チ拾い等)の結果、手に入れられたものではないとわかっていた。

 この肉体の急成長は、何らかの外部的影響を受けているのは間違いなかった。

 俺にはソレ(・・)に心当たりがあった。


 脳がソレ(・・)を理解するのに少し時間がかかった。

 興奮がジワジワと徐々にやってきて、やがて爆発した。


「俺強ぇぇぇぇ!!! まるで小説の主人公(・・・・・)じゃん!! ひょっとしてアレか? 異世界転移ボーナスみたいなのでパワーアップしているのか?!」


 俺の強さ、これは間違いなく異世界ボーナスの影響としか考えられなかった。


 異世界ボーナスとは、異世界に転生とか転移した者だけが受けられる特殊な能力である。その能力は転移先の異世界にもよるが、ファンタジーRPG風のスキルであったり、運動神経能力や強さだったり色々(いろいろ)だ。

 可愛い美少女が向こうから寄って来るモテモテやラッキースケベなんてものもあるように思う。

 多くの場合、前世〈リアル〉とは似ても似つかないスキルを手に入れることが多いと聞く。

 前の世界で運動神経のセンスゼロのこの俺が、運動会でも体育の授業でもダントツ一番ビリのこの俺が、プールに浮くことなく沈んでしまうこの俺が、こんなに恐ろしく身体能力が向上したこの俺が、その証拠だ!



 話は逸れたが、俺が手にした能力の正体はわからない。

 間違いなく運動神経系の能力だろう。

 その異世界ボーナス的なものによって、俺のどこかに埋もれていた才能が今、開花したのだ。



 そう思っていた――。この時は――。


 だって、異世界転移センターの担当の人が、パンフレットを見せて神の加護とかスキルがどうとか言っていたから。

 たぶんそれが、知らない間に与えられていたのだと思った。



 ところが、実際はちょっと違っていた。


 俺の肉体がパワーアップした理由。

 その秘密は、毎日ママから(もら)っていたオークのミルクにあった。

 オークのミルクは、高エネルギー、高たんぱく質で全身の筋肉を強化するスーパーミルクだったのだ。


 それに気づくのは、まだ少し先の話である――。



 

 転生してスーパー能力を得た(と思っている)俺は、とち狂ったように何本も竹を斬っていた。


 そして適当な長さにカットすると竹のやりを作った。

 実はコレ、刺す(やり)ではなく、投げる(やり)として使おうと思っている。


 刺す(やり)だと竹はオークの力に耐えられず、割れてしまうと思ったからだ。

 早速、向こう岸にいるオークたちを呼び寄せて、実際に竹やりを投げさせることにした。


 最初に投げるのはオス代表として見習いが挑戦した。


「ビュン」


 竹やりは轟音(ごうおん)を立てて飛んでいくと、俺が思った方向とはかなりずれて対岸の土手に突き刺さった。


(コントロールはともかく、やべぇなこいつら……)


 普段一緒に生活しているから忘れていた。

 コイツらモンスターだということを!

 人間とは比べ物にならないパワーを持っていることをすっかり忘れていたのだ。


 こんなやべぇやつらと一緒に寝起きしているのだと改めて思うと冷や汗が出た。


 子供を代表して、ガリベンにも一回り小さなサイズの竹やりを投げさせたのだが、なんというかセンスがなかった。

 俺なんかより(ひど)かった。


 オークたちが竹の投擲(とうてき)の練習している間に、竹の表皮を剣で薄く切って(ひも)を作る。

 この(ひも)で竹やりを結んでまとめれば、移動が楽なはずだ。


 

 オークたちが、俺が作った竹やりをすべて投げ終わると元居た対岸へと戻った。


 竹やりを回収してみると、かなりの本数の竹は先端からつぶれて割れていた。

 まだ使えそうな竹は先端を少し切って鋭くして再利用する。

 一人十本程度のやりを小脇に抱えさせると、再び獲物探しに出発した。


 ◇


 二度目の休憩をしているときだった。

 対岸に大きなネズミがいるのを見つけた。

 ガリベンを手招きして呼ぶ。


「あれは食えるのか?」


「*********」


 ガリベンは知らないと言う。そりゃそうか。

 普段は獲物をママに食べやすいように千切って(もら)っているくらいなのだから。


 見習いを呼んで聞いてみる。

 見習い(いわ)く、食べられるというので、その大きなネズミを狩ることにした。


(ネズミの狩り方なんて知らないな。どうやって狩ればいいのかなぁ……)


 とりあえず失敗してもいいからと、サバイバルのセオリー通りに風下から静かに接近することにした。


 竹やりを縛っていた(ひも)を切り、投擲(とうてき)の準備をしてネズミへと近づく。

 どうやら顔を出しているネズミは、巣の門番のようだった。

 一匹で巣穴と思われる洞窟の前で、暇そうに鼻をヒクヒクさせていた。



 俺はオークたちに投げる準備をするように身ぶり手ぶりで伝える。

 そして合図を出した。


「ビュン!!!」


 (すご)い音を立てて飛んでいく竹やり。

 しかしそう簡単には当たらない。

 オーク三匹が投げた竹製の(やり)は、ことごとく外れた。

 一匹はまともに飛んでいるが、二匹の投げた竹やりはあらぬ方向やネズミに届かず地面に落ちた


 敵の襲撃に気づいたネズミが「キィキィ!」と鳴き声をあげた。

 すると巣穴から次々にネズミが飛び出してきた。


 一匹、二匹、三匹、四匹……おいおい、まだ出てくるのかよ!


 外敵から巣を守ろうと、ネズミたちは一斉に俺たちに向かって突進してきた。


 これは……ヤバい!


 こちらへ向かってくるネズミの集団に向け、必死に竹やりを投げる三匹と俺。

 さすがに的が近づいてくると、何本か命中して仕留めることができたようだが、そんなことを喜んでいる余裕はなかった。


 そして……。



 俺たちはネズミたちに囲まれていた――。



 ――――――――――――

 名前:進

 職業:若葉マークの狩人

 武器:戦士の剣

 あたま:なし

 からだ:なし

 うで:戦士の盾(ウ〇チ臭い)

 て:皮手袋

 あし:なし

 ステータス:元気


 名前:ガリベン

 職業:通訳兼お荷物

 武器:小ぶりの竹のやり

 ステータス:失禁、硬直


 名前:見習いオーク

 職業:狩人見習い

 武器:竹のやり

 ステータス:不安


 名前:お転婆オーク

 職業:小娘

 武器:両手に竹やり

 ステータス:ヘブン

 ――――――――――――


『その男、オーク似。』へお越しいただき、ありがとうございます。


当店でも異世界ボーナス要素を導入いたしました。

オークのミルクで筋肉ムキムキです。(当社比)

これで他のファンタジー小説と遜色ないはず!


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