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第23話 「オーク材」

 俺たちは小ぶりなスライムを倒した。


 西日が活動を止めたウ〇チ臭いスライムのベトベトに溶けた残骸を照らす。

 その中にキラリと光る玉があった。


 それは茶色をしたガラス玉で、ソフトボールほどの大きさがあった。


 これはなんだろうか? スライムの核〈コア〉でないことは確かだ。


 核〈コア〉はさっき剣で突いたら弾け散ったし、マシュマロみたいに柔らかかった。


 色は悪いが綺麗(きれい)な玉なので、これは勝利の記念に俺のガラクタ山で保管することにした。



「おい、急がないと完全に日が落ちるぞ」


「*********」


 俺の言葉に勝利の余韻に酔いしれていたガードは我に返ると、小川へ駆け足で急いだ。


 ウ〇チ臭いスライムの体液を全身に浴びた俺たちは、小川で体を洗っていた。

 体を綺麗(きれい)に洗い終わった頃には、もうすっかり日は落ちていた。

 月もまだ東の空の下の方にあるらしく、辺りは闇に包まれている。

 鳥目の俺ではこの暗闇をまともに歩くことはできないので、ガードに手を引かれて広場へと戻った。


 モンスターのガードですら、夜は視界があまり効かないらしい。

 というか、他の場所に住むオークはどうだか知らないが、オーク村のオークは総じて夜目が良くないと思う。

 だから夜間は何もせず、じっと寝床で大人しくしているだろう。


 ◇


 ガードの手を借りて、なんとか洞窟の前に戻る。

 真っ暗なのに気配でわかった。洞窟の前には多くのオークが集まっていることが。

 俺が戻ってきたことがわかると、オークたちから歓声が沸いた。


「*********!」「*********!」


 そのほとんどが黄色い歓声だった。


 それもそのはず。

 大人のオスのオークたちは、狩り出払っていて不在中の出来事だったからだ。

 村に残っていたのはメスのオーク、子供のオーク、そしてガードのような大人と子供の境目のオークたちだった。


 俺はもう全身クタクタの疲労困ぱいで、何一つ話す気力なんて残っていなかった。

 剣を振り続けた腕もパンパンで、もう箸すら握れない。


 歓声をあげるオークたちを他所(よそ)に、俺はまっすぐママの胸の中にINすると(むさぼ)るようにミルクを飲んだ。


 そしていつの間にか眠りに落ちた。


 ◇


 翌朝、俺が目を覚ますと日は高くなりつつあった。

 ママは夜間ずっと起きて見張りをしていたようで、目の下にはクマができている。

 スライムを倒した直後、俺はガリベンに指示を出していたのだ。


 ・夜は固まって寝ること。

 ・交代で見張りをたてること。


 なぜなら昨日倒したウ〇チ臭いスライムは、大きさからいって番長の母親の頭を食ったやつだろう。

 森の中で追いかけてきたやつに比べて、随分と小ぶりだったからだ。


 つまりウ〇チ山を全部まるごと食って、オーク一匹平らげ、俺たちも食おうとした超でかいウ〇チ臭いスライムは、まだ森の中を彷徨(さまよ)っている。

 もし餌〈オーク〉の味を覚えているとしたら、再び村を襲うと思ったからだ。



 眠そうなママの胸から飛び出すと、ガリベンを探しに広場へと向かう。

 日向ぼっこをするママさんオークたちの集団の中にガリベンの姿があった。

 ガリベンも母親に抱かれ、まだぐっすりと寝ていた。


 その姿は、まだまだ幼い子供のオークだった。

 だが今の俺は、ガリベンの力を必要としている。

 ガリベンの母親のところへ行くと、ガリベンのママは俺の考えを察したのか、胸の中で眠るガリベンを起こした。


 母親に起こされたガリベンは、ムニャムニャと口を動かしながら俺を見た。

 まだ寝ぼけているようだった。


「とっとと目を覚ませ。仕事だ」


 眠い目をこすりながら立ち上がったガリベンの背中をパシッと(たた)いた。


 ◇


 ガリベンに指示を伝える。


「昨夜に見張りをしていた者は仮眠をとれ。手の空いている者は広場に集まれと伝えろ」


 そうガリベンに指示をだして広場を眺めた。

 広場の一角にはプンプンと悪臭を放つウ〇チ臭いスライムの残骸が広がっていて、その周りを大量のハエがブンブンと音をさせて飛び回っていた。

 いつか見た景色だ。この村に来た直後の広場の様子を思い出した。


 ハエを手で払いのけながら、食われたオークの亡骸を調べる。

 勇敢にもウ〇チ臭いスライムに立ち向かったオークは二匹いたようだった。

 いずれも完全な骨と化していた。



 既に広場にいたオークに骨を指さし「*********!」と指示出してみる。


「くっ……駄目だ通じない」


 言葉で指示するより自分でやって見せた方が伝わるのかもしれない、と骨を抱えて森の方へと引きずっていく。

 すると他のオークたちも、骨だけになった仲間を大事そうに抱えて一緒に森へと入った。



 骨を担いで森に入ったはいいものの、どこに亡骸を持っていけばいいのか見当がつかなかったが、途中から他のオークが先導してくれた。


 村から十五分ほど離れた小さな山の麓。

 そこにはつい最近作ったと思われる土の山があった。

 山は動物が掘り返したのだろう。土の一部が崩れていて、腐った肉片が見えた。


(たぶん番長の母親の亡骸を埋めてあるんだな……)


 オークたちが木の根元に骨を置いていく。

 俺も引きずって持ってきた大腿骨(だいたいこつ)であろう一本を置いた。

 辺りに落ちていた草木の葉っぱを被せるだけの簡単な埋葬だった。

 骨だけだと土も被せず、簡易的な埋葬になるらしい。


 埋葬を終え広場へと戻る。

 広場へと戻る道中で、骨を運ぶオークの一団とすれ違う。

 皆やるべき事はわかっているようだった。

 オークの知能は猿やチンパンジーなんかよりもずっと高いのかもしれない。



 広場に戻ると、手の空いているオークたちがガリベンの指示によって集められていた。番長や他の(くそ)ガキたちも、その一団の端に加わっている。


 なぜか仮眠を取るはずのママもいた。

 村長の妻として、今は村長代理として先頭に立たなくてはならないという使命感を感じているからだろう。

 だが、後のことは俺に任せて仮眠をとってくれとママにお願いする。


「*********」


 俺のお願いでも従ってくれなかった。

 いやそれじゃ駄目だ。

 睡眠不足ではいざというときに戦えない。


 俺は強く言った。

「*********!」と。

 ママは怒った俺の姿を見て渋々納得すると、洞窟の方へと歩いて行った。


 

 プンプンと悪臭を放つウ〇チ臭いスライムの残骸を処理する。


 俺はオークたちを二手に分けた。

 穴を掘るチームとスライムの残骸を運ぶチームだ。


 新しく掘る穴はウ〇チ山があった場所に掘らせることにした。

 あそこは長らくウ〇チが置いてあったから、地面が湿っているはずだ。

 多少は掘りやすいだろう。


 穴掘りはガードを中心に掘らせることにした。

 他のオークよりも多少ながら、俺とコミュニケーションがとれるからだ。

 それにママから俺のボディーガード役を任されるくらいだ。

 将来有望な人材、もといオーク材なのだろう。他のオークからも一目置かれているはず。


 俺は残った他のオークとともに、悪臭を放つウ〇チ臭いスライムの残骸をトイレへと運ぶ。

 核〈コア〉を失ったスライムは硬めのヨーグルトのようだった。

 (おけ)(たる)などがあれば、その中に残骸を詰めて運べるのだが、ここはオークの村だ。

 そんな便利なものはない。


 大きなオークの手だけが頼りの人海戦術作戦なのだ。

 俺はガラクタの山から戦士の(かぶと)を引っ張り出すと、それにウ〇チ臭い残骸入れて運んだ。


 ――――――――――――

 進 LV?

 職業:オーク村の英雄

 武器:戦士の(かぶと)(ウ〇チ臭い)

 あたま:なし

 からだ:なし

 うで:なし

 て:なし

 あし:なし

 ステータス:疲労、筋肉痛

 ――――――――――――


 ウ〇チ臭いスライム残骸は、ガードたちが掘っている穴が完成するまでトイレの溝に仮置きする。

 広場からトイレへ向かう道中、ポタポタとウ〇チ臭い汁が落ちているのが気になるが、それには目を瞑る。


 そんな些細(ささい)なことが気になるなら、とてもオーク村では暮らせない。

 人海戦術のおかげであっという間にウ〇チ臭いスライムの残骸はすべてトイレの穴へと収まった。


 ガードに任せていた穴掘りの様子を眺める。あと少しで穴は完成しそうだった。

 前に作った自作の(くわ)をガードに渡しておいたのだが、柄に使っていた枝がポッキリと折れてしまっていた。


 太い枝を使っていたのだが、さすがにオークの力には耐えきれなかったようだ。

 ガードの手には、ぐにゃりと曲がった短剣が握られている。こちらも穴掘りに使うには耐久性が足りなかったらしい。それでもガードは曲がった短剣で器用に土をほぐしている。もう短剣としては使えないが、形が変わっても土掘りの役に立っているようで良かった。


 作業に加わっているオークをみると、森の中で適当な枝を拾ってきたのか、それで土をほぐしているし、土の運搬用に渡しておいた盾を使って作業を進めているオークもいる。

 やり方さえ教えれば、オークでもある程度の作業はやれるようだ。


 などと感心している場合ではなかった。

 間もなく穴が完成する。俺はガリベンに石を持ってくるように伝えた。

 そう言っているうちに穴は完成し、これから仕上げの作業へと入る。

 井戸のように壁面に石を積み上げて、穴が崩れないように補強するのだ。


 俺の陣頭指揮(じんとうしき)()り、ガリベンがそれを通訳し、ガードが作業の先頭に立ってオークたちを指揮する。

 この村のオークの次世代を担う人材、もといオーク材が輝き始めた最初の瞬間だった。

 


 スライムの残骸を収容する新しい穴は日が落ちる前には完成した。

 多くのオークたちが見守る中、トイレの溝と新しく掘った穴を(つな)ぐ用水路ならぬ、用便路を分断していた関を切った。

 トイレからゴボゴボと音を立てて、新しく作った肥溜(こえだ)め穴に向かって流れるウ〇チ臭いスライムの残骸。

 オークたちは歓声をあげた。


 歓声をあげるオークたちを尻目に俺は別の心配をしていた。


 パパたち狩り部隊の帰りが遅いのが気になっていたのだ。


 俺がこの村に来てから、こんなに戻ってこないというのは初めてだった。

 いつもなら狩り部隊が戻っていて、次の狩りに出かける準備をしている頃合いなのだ。


 腹が減っているオークたちも多いだろう。

 食料(しょくりょう)の確保に動かなくてはならないと思った。


 ママと相談しなくてはならないな……。



いつの間にかリーダー。


村長さんの息子は偉いのだ。

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