第22話 「万策尽きた――」
俺は巨大なスライム相手に一人、剣を振り続けていた。
もう何百回と剣で切り傷を与えているのだが、傷は徐々に修復されていくので一向に倒せる気配はなかった。
コイツを足止めしているうちに、倒す方法を考えるように、俺は二匹の相棒たちに指示を出していた。
どれくらい剣を振っただろうか。
もうそろそろ、何かアイディアも形になって、策の一個や二個はできているはずだ。
振り返って例の二匹の方を見ると、まだアレコレ必死に倒すためのアイディアを議論しているようだった。
(糞っ。あいつらは期待できそうにねぇな。どうするかな……これ)
あのトイレにいた小さなスライムはガリベンが石でつぶしたけど、こいつは石投げてつぶせるようなサイズではない。
(はは……。小石を投げてつぶせりゃそんな楽なことはないよな。ん、石?)
ふと、ガードに拾わせた巨大な斧の存在を思い出した。
オーガが使っていたと思われる巨大な斧。
丸太の先に石斧がついていた。
(あれ使えないかな?)
俺はスライムに渾身の一撃を喰らわせるために深く斬り込んだ。
これで少し時間が稼げたはず――。
二匹の元へダッシュして駆けていく。
まだ倒すための策を思いついていない二匹は、向かってくる俺の姿を見ると、「どうしよう? どうしよう?」と急にワタワタと狼狽えだした。
「*********!」「*********!」
と何を言っているのかわからないパニック状態の二匹。
それを無視してガードに俺の作戦を伝えた。
「聞け! ガード! 俺があいつの注意を引いているから、その隙に斧でバシっとやってくれ」
チラリと後ろを振り返ると、自己修復を終えたスライムがもうこちらに向かって行動を開始した。
「もうすぐ日が落ちる。一発で決めろよ!」
効くか効かないかわからない斧攻撃をガードに命じた。
こういうのは、やってみないことにはわからないからね。
たぶんこの作戦が失敗しても俺は死なないでしょ。
斧攻撃に怒ったスライムが攻撃する相手は俺ではなくガードの方だと思うし。
俺はスライムに向かって盾を突き出し突っ込んでいく。
盾は構えておかないと、な。
――俺の予想通りスライムは体液を吐いた。
盾を使っているとはいえ、全身をカバーしてくれる訳ではない。
飛んできた体液は盾にぶつかると、その飛沫を体のあちこちに飛ばしてくれた。
激痛が体を走る。だが俺は怯まなかった。
「うぉぉぉぉ!!!」
力を振り絞り、剣を今までで一番深く斬り込む。
そして連撃を喰らわせ続けて、スライムの足止めを図った。
「さぁ! ガードよ! 俺が足止めしているうちにやれ!」
まさにその姿は、NeDAオンラインでの【ススム】そのものだった。
タンク戦士として、十年近く戦闘の最前線で常に戦ってきたゲームでの経験と現実〈リアル〉が、今まさにリンクしていた。
タンク戦士というのは最前線で敵の攻撃を一人で引き受け、パーティーを勝利に導く役職のことだ。
自己犠牲によって成り立つ職種である。
防御に特化しているため、攻撃力はアタッカー職には劣るので、基本的に仲間の協力なしでは強敵には勝つことはできない。
だが、俺のパーティーのアタッカー職にはガードがいる!
さぁその巨大な石斧で!
さぁ!
……。
さぁ! 遠慮はいらんぞガード!
……。
一気に斧を……。
…………。
おーい。
おーい……。
何回スライムを剣で刻んだかわからないが、一向にガードは来なかった……。
後ろを振り返り叫ぶ。
「ガード! 何をしている! 早くやるんだ!」
しかし返事は返ってこなかった……。
「あの、ガード……さん? おーい……」
肝心のガードは斧を両手で持ったまま、動こうとしない。
「おい! このままだと俺死んじゃうよ! はやく来て! 頼むから!!」
もう、半泣き状態でガードに攻撃してくれるようお願いをした。
それでもガードは恐怖で固まり動こうとしなかった……。
◇
スライム攻略の策を俺は閃いた。
オーガの持っていたと思われる巨大な石斧を一発かましてやるのだ。
しかし、その策は一向に実行されなかった――。
というのも作戦の要であるガードが、恐怖で固まり使い物にならなかったのだ。
策を実行しないガードに俺はキレた!
攻撃をやめて再び二匹の元へ行くと、恐怖で固まり立ち尽くしているガードの膝の裏に蹴りを入れた。
膝がカクンと曲がり両膝を地面につくガード。
膝カックンはこの世界でも効く。
そんな大発見は今はどうだっていい!
両膝を地面について、ちょうど良い高さになったガードの顔を両手でボカボカと殴って言った。
「てめぇこの野郎! なんで来ねぇんだよ! パパが狩りから帰ってきたら、てめぇをぶっ殺して貰うからな! てめぇだけじゃねーぞ! おまえの家族、友達もまとめてぶっ殺すからな! 覚えとけよ!」
とガードにそう怒鳴り散らした。
まだ俺の怒りは収まらないのだが、またスライムが動き出したので急いで向かっていく。
スライムは相変わらずワンパターンだった。
盾でガードして、体液が体にかかって、俺は熱いとか痛いと言う。
攻略パターンというかハメパターンというか、ここまではルーチンワークだ。
だけど、それさえ我慢すれば体力の続く限りこっちのターンだ。
刻む。刻む。ひたすら刻む。
さっきの俺の脅しがやっと効いたようで、ガードが巨大な斧を担いですぐそばまでやって来ていた。
「一撃でやれよ、ど真ん中にな!」
俺は剣を振りながら、怒った口調でガードに言った。
だが、しばらく経っても攻撃する気配はない。
「頼むよおい! 早くやってくれよ!! 両手がもう千切れるから、遠心力で両腕が飛んでいっちゃうから! はやく! お願い!」
怒りじゃガードは動いてくれないから、もう懇願するほかなかった。
ようやくガードが意を決したのか、スライムに向かって近づいていく。
走り高跳びの助走のように、最初はゆっくりと。そして徐々に助走スピードをあげていく。
「ドシドシドシ!」とオークの迫力ある重低音の足音が聞こえてくる。
そしてガードの持つ巨大な斧が、綺麗な半円を描くようにしてスライムめがけて落とされた――。
「パシャン!」
水風船が弾けたような音が広場に響いた。
見ると、ど真ん中に振り下ろされた斧はスライムに穴をあけていた。
だがスライムは、開いたばかりの大穴を修復しようとモゾモゾと動き続けていた……。
(くっ……駄目か)
屈強なクランメンバーを率い、数々の迷宮を制覇してきた俺も、さすがにこれには心が折れそうになる。
もう万策尽きた――。
そう諦めかけた時、スライムにあいた大穴の近くにガラスの球体のようなものが夕日に照らされ光っていた。
(あれ? もしかして、核〈コア〉なんじゃね?)
ファンタジー小説の序盤でスライムを倒すシーンにありがちなヤツだ。
どの小説にも似たようなシーンが書かれていたから記憶に残っていた。
(核〈コア〉をつぶすと死ぬんだ、確か)
俺は体の修復に忙しいスライムによじ登ると、ガードが斧を落としてできた穴に入った。
茶色のウ〇チ臭いゼリーの肉壁から五十センチほど奥に、太陽の光でどす黒く光る核〈コア〉があった。
剣をゆっくりと差し込んでいく。
ゼリーの壁が剣を必死に阻んでくる。しかしブヨブヨの壁の抵抗などないに等しい。スライムの抵抗は虚しく剣は核〈コア〉に触れた。
刃先がほんの少し触れた核は、まるでシャボン玉のように弾け散ると、スライムはようやくその活動を止めた。
ファンタジー小説に出てくる核〈コア〉をつぶす描写って想像や空想を書いてあるのだと思ったら、本当だったから驚いた。
ひょっとしたら小説の作者たちも、【新日本】に来たことがあるのかもしれないなぁ……。
さぁ、その指でブックマークを!
さぁ……。
一気に拡散を……。
さぁ! 遠慮はいらんぞ!
……。
オーク似の主人公、ヒロイン不在、そしてウ〇チ。
マニアックなこの小説を読んでいただけるだけで幸せです。
ありがとうございます!




