第21話 「それらしくなってきたんじゃねぇの?」
俺は巨大なウ〇チ臭いスライムと戦っている。
メスばかりとはいえ、大人のオークが広場に勢ぞろいしているにも関らず、誰一匹として俺に加勢するものはいない状況に嫌な予感がしていた。
ひょっとして誰も倒し方知らないのではないか?
もしやと思い、ガリベンを呼んだ。
「ガリベン! おい、ガリベン聞いているか!」
恐らく俺の後ろで失禁しているであろうガリベンを、なんとか目覚めさせようと大きな声を掛ける。
何度か呼び掛けると後ろの、それもかなり遠くの方から、今にも消えそうなガリベンの返事が聞こえた。
「こいつの倒し方を誰か知っているヤツがいないか聞いてきてくれ!」
そう大声で伝えた。
ガリベンは慌てて対面にいる大人のオークたちがいる方へと駆けて行った。
スライムを避けるためだろうか。随分と大回りをして。
ようやくガリベンが俺の視界に入る。
ガリベンが大人のオークたちにスライム攻略法を聞いて回る様子を眺めながら、俺は剣を振り続ける。
そしてガリベンが、こちらを向いて両手で×をする。
全身の力がガクッと抜けそうになるのを必死に我慢した。
「ママたちにも倒し方わからないのに俺なんかがわかる訳ねーよ!」
そう愚痴が飛び出したが、剣を振るのは止めない。
止めないといっても永遠に剣を振り続けることは不可能だ。
俺の腕の限界も近い。
しかも戦士の剣は重いから、腕への負担も大きい。
数秒でもいいから少し休憩を入れたい。
そう思った俺は、バックステップでスライムとの距離をとる。
幸いなことに、スライムはすぐにはこちらへ向かってこなかった。
剣を振り続けたおかげなのか、まだ体の修復に時間がかかるようだ。
後ろを見ると、いつの間にかこちら側へ戻っていたガリベンとガードが、両手をバタバタさせて何か言っている。
よくわからないが、たぶん「剣を振れ」だとか「剣を振るのをやめるな」だとか言っているのだと思う。
そんなニュアンスが情熱〈パッション〉で伝わってきた。
曖昧にしか言葉の意味がわからないので、確かなことはわからないが、もし本当にそんなことを言っているなら、なんとも人任せで勝手なヤツらだ。
俺は走って二匹のいる場所へと向かう。
戦いから逃げてくる俺を見て、二匹は口をポカンと開けた。
やがて正気に戻ったのか、
「*********!」「*********!」
と二匹は大声で繰り返した。
「こっちに来るな!」とか「来るな!」と言っているのかどうかわからないが、二匹は完全にテンパっていた。
「おい、何か倒すアイディアないのかよ」
「 」「 」
二匹は一瞬絶句すると、すぐに顔を突き合わせてあれこれ相談をし始める。
早口で会話しているので、俺にはどんな事を相談しているのかさっぱりわからなかった。
(こいつら相変わらず情熱〈パッション〉が足りてねぇな。俺にちっとも通じねぇじゃねぇか……)
オーク二匹の会議がまとまらぬうちに、体の修復を終えたスライムがこちらに向かって動き始める。
「次に俺が戻って来るまでに何か倒す方法を考えておけよ!」
そう人任せで勝手なオークたちに言い放つと、再びスライムへと向かった。
(おらおらスライムちゃん。さっきみたいに剣で斬り刻んであげるからねっ!)
スライムに向かって走っていると、突然、俺に向けて体液を噴射した。
「うわっ!!!」
咄嗟に左手にいたまま出番がなかった盾を突き出す。
無意識の行動だった。
体液が盾にぶつかり、しぶきが飛び散る。
飛び散った体液が俺の体に付着すると、いつかと同じような、刺すような痛みが襲ってきた。
「あちっいい!」
汁が触れた個所は、体に針を突き刺したような強烈な痛みを与えた。
それでもスライムの攻撃に怯むことなく剣を振り下ろす。
やはり一度剣を振り下ろしてしまえば、スライムは体の修復に忙しいらしく攻撃してこない。
俺の仮説が正しいことを証明していた。
剣を振りながら、さっきのスライムの攻撃のことを振り返る。
あの時、盾がなければどうなっていたか。
あれを全身に浴びたら大変なことになっていただろう。
盾があって本当に良かった。
しかし、無意識に盾を突き出せたのはゲームでも愛用していたからなのか、それともただの偶然なのか。
スライムに剣を振り下ろしながらNeDAオンラインに熱中していた日々を思い出す。
ただゲームと違うのは、これが現実だということ――。
(なぁみんな! 信じられるか? これはゲームじゃねぇんだぞ! 俺は現実〈リアル〉で盾戦士やってんぞ!)
ここにはいない、ゲームの中のかつての仲間たちに向かって語りかける。
ゲームの中にしかないと思っていた世界が、目の前にあることを改めて実感している。
考えごとをしていても剣を振るのは忘れない。
斬られるたびに臭い汁をジュルジュルと出すスライム。
『ファンタジーRPGのような世界が広がる夢のような場所で新しい人生を!』
移住説明会で渡されたパンフレットに書いてあったキャッチコピーを思い出した。
そういえば、こっちに来てから全然ファンタジーじゃなかったもんな。
人間にボコボコにされて、オークに拾われて、ウ〇チ拾ってのそんな毎日。
「それらしくなってきたんじゃねぇの? やっと俺のファンタジーRPG始まったわw」
思わず心の声を漏らした。
俺は剣を振りながら無意識のうちに笑っていた……。
ガリベンはかわいいヤツです。
この小説には美少女ヒロインが登場していないのですが、彼にその役目を。
ヒロイン不在のウ〇チ小説。
その男、オーク似。楽しんで頂けたら嬉しいです。




