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第20話 「小ぶりのアイツ」


 俺は二匹を置いて先へと進んだ。


 もう日が暮れようとしている。

 本当であれば日暮れまでもう少し時間はあるはずなのだが、森の中は光が遮られて、暗くなるのが早いのだ。


 これ以上、動き回るのは危険かもしれないな……。

 金級〈プロ〉のサバイバルの知恵を持つ俺はそう思った。


 

 これ以上の移動はやめて野宿の覚悟を決めた時だった。

 周りに比べて、やけに草木が少ない場所が目に入った。

 ほんの少しの変化だったが、森にずっと入っていたせいか、それに気づいたのだ。

 

 近づいてよく見てみると、地面が他に比べて固い。


「間違いない! これは獣道だ!」


 微かな希望を見つけ思わず声を漏らした。


 ◇


 早速、一体どんな獣がこの道を使っているのか。

 地面に残された痕跡を調べる。


 それはすぐに見つかった。

 恐らく雨上がりで、ぬかるみが出来ていた部分を獣が踏んだのだろう。

 そこにはくっきりと足跡が残されていた。


 残されていた足跡は鹿や馬などの(ひづめ)を持つ生き物ではない。

 (おおかみ)系や猫系の猛獣でもなければ、爬虫類(はちゅうるい)のでもなかった。


「大きな足跡だぞ! これは人型のモンスターだ!」


 それは間違いなく人型モンスターの巨大な足跡だった。

 

 俺の何倍も大きな足跡。巨人族のものだ。

 オーク、オーガ、あと他に何がいるだろう。

 とにかく大きな足跡だ。


 この道のどちらかを辿(たど)れば、村に通じている可能性が限りなく高い。

 その村が俺たちの村なのか、そうでないのか、それとも運悪く村とは逆方向なのかは行ってみないとわからない。


 でも、もしこれがオーガの村へと続く獣道なら……。

 しかし考えている時間は残されていなかった。


 もうすぐ、この深い森は闇に包まれる。

 先ほどの超巨大なウ〇チ臭いスライムも動き回っているこの森にいるより、これに賭ける価値はあると俺は判断した。


 懸けだった――。


 早く向こうで待っている二匹に獣道を見つけたことを教えてやろう。

 きっと希望が、再び走る気力を奮い立たせてくれるはずだ!


 ◇


 俺は急いで二匹の元へと戻る。


「足跡を見つけたぞ! もう日暮れまで時間がない。走るぞ!」


「*********」「*********」


 俺たちは駆け足で獣道についた足跡に沿って移動を開始した。


 今気づいたのだが、ガードはオーガのものと思われる大きな重い(おの)を担いでいた。

 途中で捨てて逃げれば良かったのに、と思った。

 たぶん本人も逃げるのに必死で、担いでいることなど忘れているのだろう。

 疲れているのに重い(おの)を持たせるのも可哀想(かわいそう)だと思ったが、せっかくここまで持ってきたのだから何も言わずにいた。本人が気づくまで持たせておこう。



 俺たちは獣道をひたすら駆けた。

 この先がオーガの村に(つな)がっていたらどうしよう? という心配もあった。

 でもそれよりオークの村である可能性が高いと俺は踏んでいた。


 というのも、オーガという存在をさっき初めて知ったからだ。

 もし村の近くにオーガがいて危険だとしたら、そんな話を大人のオークたちが口酸っぱく子供たちに言い聞かせているはず。

 オーガの話を聞いたことがないということは、村の近くにはいないか、オークにとって友好的な種族で危険性がないと判断できるだろう。


 だからそこまで心配はしていなかった。

 心配があるとすれば、今向かっている方向が村と逆方向だったら……ということだけだ。


 ◇


 獣道を道なりにどんどん進む。

 やがて森が薄くなっていき、こんもりとした(やぶ)を抜けると――


 見慣れた広場が目の前に広がった!


「おい! 村だ! 村だぞ!」「*********!」「*********!」


 村に無事に帰れた一人と二匹のオークは、大きな声をあげ抱き合って喜んだ。


 しかし喜びから一転、奈落の底へと突き落とされた。


 見慣れた広場にはオークの群れとアイツ(・・・)がいた。


 広場にいるアイツは、さっき俺たちを追いかけてきた超巨大なスライムより、少し小ぶりの、小ぶりといっても十分に巨大なスライムだった。

 高さ三メートル、横三メートルといったところか。

 それでも先ほどのスライムと比べると可愛(かわい)らしいサイズのスライムだった。


 その巨体の下には、スライムの犠牲となったオークが半分見えている。

 スライムは「ジュージュー」と美味しそうな音をたてながら、オークをしゃぶって(・・・・・)いたのだ。


 そこから少し離れて、多くのオークたちが何もできずに、ただ茫然(ぼうぜん)と立ち尽くしていた。

 しかし、たった一匹で立ち向かうオークがいた。


 ママだった。


 スライムの巨体の下に半分飲み込まれているオークを助けようと、ママは長い丸太で必死にツンツン押して、スライムを引き離そうとしていた。


 俺はママのその姿を見た瞬間、無意識に腰にぶら下げた剣を抜くとスライムに向かって駆けていた。


 ◇


「*********!」


 俺に気づいたママが叫ぶ。

 まるで「こっちに来てはダメよ!」と言っているかのように――。


 だが俺はスライムに向かっていくのをやめなかった。


 ママを助けないと!


 そして剣を無心で振った。

 スライムは斬られるたびに「ブシュッ! ブシュッ!」と傷口からウ〇チ汚い(くさ)い汁を噴き出すが、一向に死ぬ気配はなかった。


 それでも剣をひたすら振り続けた。

 少しでも多くダメージを与えれば、なんとかなるかもしれないと考えていたからだ。

 例え一振り十ポイントのダメージでも、千回振るえば……え~っとゼロが四つで……一万。

 いっ、一万ポイントのダメージだ! 塵も積もればなんとかだっ!


 そんな俺の決死の覚悟の攻撃も虚しく、スライムの下にあったオークの死体はその巨体の下に全部飲み込まれてしまった。

 どうやらこのスライム、斬られているのに食事をする手は止めるつもりはないようだ。


 俺も剣を振る手を止めなかった。

 ダメージポイントの蓄積を期待して、ひたすら斬り続ける。


 それからしばらく()って、俺の攻撃などなかったかのようにスライムは完全にオークを平らげたようで、今度は、俺を食べようと徐々にこちらへと向かってきた。



「*********!」


 オークママの悲鳴にも似た叫びが響く。

 大事な息子が死んでしまう! とでも言ったのかな? たぶんそんな雰囲気だ。

 でも俺は、それほど恐怖を感じていなかった。


(さっき追いかけてきたスライムより動きノロくね? なんか怖くないしw)


 などと、ママの心配をよそに、俺は呑気(のんき)にそんな考え事をしながら剣を振り続けていた。


 さっきまで死ぬほど強そうなスライムと追い駆けっこをしていたから、コイツは随分と弱っちく感じる。

 普通のスライムからすればバケモノサイズなのだが、森の中で遭遇した超巨大なスライムなんかより小さいし、動きもノロい。


 しかも剣で刻む度に体を修復するためなのだろうか、いちいち行動を停止する。

 行動を停止するから、俺はその隙にさらに深く斬り込むことができる。

 深く斬り込むから、スライムはその傷を修復するために動きを止める。というループをしているような気がする。


 つまり、ひたすら剣を振り続ける限り俺は死なないのではないだろうか?


 そんな仮説をこの戦闘の真っ最中にも関らず立てた。

 立てたというか、もう実証している。

 実際に相手から攻撃を一度も受けることなく一方的な攻撃を続けている。


 所詮(しょせん)はスライム、雑魚モンスターなのか!



 ……。


 …………。


 でも欠陥ともいえる点がひとつだけ。たったひとつだけあった。



 コレ、どうやって倒せばいいんだ?!


 こいつ斬っても斬っても全然死なないんですけど!?



 メスばかりとはいえ、大人のオークが広場に勢ぞろいしている。

 それにも関わらず、誰も戦いに参戦してこようとしない……。


 嫌な予感がする……。


 とても嫌な予感……。



 ひょっとして誰も倒し方知らないんじゃねーの?!



 ――――――――――――

 進 LV?

 職業:名探偵

 武器:虫眼鏡、戦士の剣

 あたま:なし

 からだ:なし

 うで:戦士の盾(ウ〇チ臭い)

 て:皮手袋

 あし:なし

 ステータス:寝不足、手荒れ、疲労


 ガリベン LV?

 職業:オークの子供

 武器:なし

 ステータス:疲労、脱水


 ガード LV?

 職業:ボディーガード

 武器:オーガの巨大な(おの)

 ステータス:疲労、パニック


 ――――――――――――


ママ(オーク)をイジメるヤツは俺が許さない! by進。


いつもありがとうございます。

ようやく戦闘シーンです。

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