第15話 「オーク村の名探偵 2」
俺はまだ信じられなかった。
消えているのだ。そこにあったはずのウ〇チ山が消えているのだ!
確か先日調べた時は、まだ山の高さは二メートル近くあったはず。
なのに、その山がキレイさっぱりと跡形もなく消えているのだ!
これはとんでもないことが起きているのは間違いなかった。
あのウ〇チの山を跡形もなく消し去る能力を持ち、オークを骨だけにする力の持ち主が、闇夜に紛れてオーク村を闊歩しているのだ。
これは一大事と呼ばずしてなんというのか!
排便を終え、慌ててウ〇チ山のあった場所を調べる。
あれだけあったウ〇チが綺麗さっぱり消えている。
山があった場所の土はジメっと湿っていた。
地面の湿り具合からいって、ウ〇チ消えてからそれほど時間は経っていないはずだ。
「ウ〇チ山は一体どこへ……あっ!」
ここである矛盾に気づく。
「悪臭を放っていたウ〇チの山は消えているのに、殺害現場の寝床にはどうしてあんなに匂いが漂っているんだ?」
これがウ〇チ山の悪臭でないなら、トイレの溝に残されたウ〇チが臭っているということになる。
確認してみると、トイレの溝穴に残されているウ〇チの量は少なかった。
トイレの溝に溜まったウ〇チは、数日ごとに俺の手によってウ〇チ山に積み上げている。だからトイレの溝からウ〇チは溢れないのだ。
しかし数日前に汲みだしたとはいえ、トイレにはもう少しウ〇チが残ってないとおかしい。
溝に残されたウ〇チの匂いを嗅ぐと、どれも出来立てホヤホヤのフレッシュなウ〇チばかりだ。
昨日含め、数日前のウ〇チが一片たりとも残されていないというのは……。
「何かがおかしい……」
俺はもう一度事件現場へと戻ることにした。
◇
単身オークの寝床を調べる。
寝床へ行ってみると、この辺りは確かに臭い。強いて言うと臭すぎるくらいだ。
いくらトイレが近いからといっても、この匂いは強すぎる。
まるでウ〇チ山がそこにあるかのような強い匂いが辺りに漂っていた。
もしやと思い、寝床だった場所に顔を近づける。
「臭ぅっせぇぇ!」
脳天を貫くようなツンとする香り。間違いなくウ〇チの香りだ。
だがこれは、最近ひねり出されたようなフレッシュな糞の香りではない。
発酵が進んで熟成された糞の香りなのだ。
俺は知っていた。熟成された糞の香りというものを。
なぜなら……
糞ガキの番長にウ〇チの山に放り投げられて、頭からウ〇チに突っ込んだから知っていたのだ……。
地面に四つん這いになって、地面に残された熟成された糞の香りを手掛かりに辿る。その熟成された糞の香りはウ〇チの山があった場所へと続いていた。
「そういうことなのか……」
頭の中で推理をまとめてみた。
犯人は最初にトイレの溝のウ〇チを食い、そしてウ〇チ山を平らげた。
それだけでは物足りなかったのか、新たな餌を求めて移動する。
そこで最初の被害者である単身オーク(年老いたオーク?)を殺害して食べた。
それでも食い足らずに番長の母オークを襲った。
なるほど、この推理で間違いない……。
「異議あり!!」
名探偵の俺はその推理に異議を申し立てた。
単身オークを襲い丸ごと食べ、それでも物足りなくて番長の母親を食べた。
だが食べたのは頭だけ。
これはおかしい。
お腹が物足りなくて襲ったのに頭しか食べないのは変だ。
頭しか食べられなかった理由があるはずだ。
例えば、食べるのをやめるほど不味かった。
あり得ない話ではないが、既に同じオークを一匹食べているのだから味は知っていたはずだ。これはないだろう。
ならば母親オークの隣で寝ていた番長に見つかって、驚いて逃げたとか?
そんな馬鹿な!
大人のオークを簡単に殺せるヤツが子供オークごときに見つかったからって、食べるのを止めるか?
しかも頭部を食い切った時点で母オークはもう死んでいるのだから、隣で騒ぐ子供オークぐらい余裕で殺せなければおかしい。
つまり別の理由で食べるのを止めざるを得なかった訳があるはずなのだが……。
いくら考えても、頭だけを食べる理由は見つからなかった。
「次は番長一家の寝床をもう一度洗ってみるか」
番長一家の寝床へと寝床に向かう。
そして寝床に残されたウ〇チの香りを嗅いだ。
!?
違う! 匂いが違う!
そこに残されていた匂いは、発酵したツンと脳天を貫くような刺激臭ではなく、まだ熟成が進んでおらず、臭さの中に甘さが少し混ざったまろやかな香り。
まだまだ若い、フレッシュなウ〇チの香りだった。
まさかと思い、その匂いを頼りにルートを辿る。
辿り着いた先は……トイレの溝だった!
これらの証拠が示す真実。
それは……
犯人は二匹いる!
番長の母親オークの寝床にはフレッシュな糞の香りが。
そして単身オークの寝床には熟成された糞の香りが。
これが犯人が二匹であるという証拠だ。
もし犯人が一匹ならば、寝床に残された臭いからいくと、
トイレの溝(フレッシュな糞)→番長の母親→ウ〇チ山(熟成された糞)→単身オーク
という謎すぎるルートを辿ったことになる。
でもそんな馬鹿がいるとは思えないから、トイレの溝→番長の母親ルートと、ウ〇チ山→単身オークのルートそれぞれに犯人がいると思ったのだ。
襲撃ルートは判明した。今度は逃走ルートの特定だ。
さらに地面をクンクンと臭を嗅いで逃走ルートを調べる。
逃走ルートは脳天を貫くような熟成した糞の香りが残された一本しかなかった。
いや、厳密に言うと熟成した糞の香りの中に、微かながらフレッシュな糞の香りも混ざっている。
恐らく、二匹仲良く一緒のルートを帰って行ったのだ。
その臭いの筋は森へと続いていた……。
「糞、森の中か。これは一人じゃ捜査できねぇな……」
これは困った、これからどうやって捜査を続けるか考えた。
しかしどれだけ考えても、森の奥へは行けないことは事実だった。
なぜ森の奥へは行けないのか?
俺の監視役が森の奥への移動を阻むからだ。
森に入れても五分程度の距離しか入れない。
「ならば、監視役なしで行くしかないか……」
強硬手段も視野にいれなければと考えていたところ、森と村の境界線の辺りで糞ガキオークの姿が目に入った。
◇
「あのチビ、あんなところで何やってんだ?」
何をやっているのか気になったので、ガリベンがいる方へ行ってみることにした。
近づいてみると、何かを棒で突ついて遊んでいるようだった。
さらに傍まで行ってみて、それが何かわかった。
棒で突いているのは茶色のゼリー状の物体だった。
実に不思議な物体だった。見た感じは、わらび餅のようにブヨブヨしている。
棒で突くたびにウニョウニョと動く。
もう少し間近でじっくり観察をしてみたい。そう思った時だった。
ガリベンがこちらの気配を察知したのか、振り向くと俺に向かって「*********!」と吠えた。
何を言ったのかわからない。
わからないけど、その声がなぜか無性に俺をイラッとさせた。
俺はその苛立ちを抑えようとしたが、その憎たらしい糞ガキの顔を見ていたら、あっさりとその限界を超えた。
俺は周囲を見渡して誰もこちらを見ていないことを確認する……。
そして……
「バコッ」
グーでガリベンの頭を叩いた。
コイツ本当にむかつくんだよな。
さっきも俺のダークサイドな一面に気がついたし、トイレも簡単に覚えて他のガキオークに教えたりしているし。
(今後のこもあるし、締めておかないと駄目だな……)
前の世界で元父親や元母親に対しては強かったように、弱いものにはとことん強いのだ。
俺より小さなこのガキオーク。間違いなく俺の方が強い。
ガリベンの顔を見ていたら、今朝、広場での俺を軽蔑するような目をしていたのを思い出す。
(番長の金魚の糞みたいについてまわって、弱い癖に俺にウ〇チ投げやがって!)
また無性に腹がたってきたので、
「バコッバコッバコッ」
と三発のグーパンを頭にお見舞いしてやった。
背中にどこからか視線を感じて振り返ると、広場にいた大人のメスオークがこちらを見ていた。
ガリベンもその視線に気づいたらしく、俺の影からニュッと顔を出して大人のオークに助けを求めようとした。
俺はガリベンの顔を両手で掴みグイッと引き戻すと、睨みつけて言った。
「*********」
と。
これはオーク語でも何語でもない。
適当にウホウホフガフガと唸っただけだ。
「助けなんか誰も来ねぇぞ。俺は村長の息子だからな!」
そんな意味と感情を込めて情熱〈パッション〉で伝えたのだ。
正しく伝わったかどうかは知らない。
だがこいつはやたらと勘のいいオークだ。それを理解していてもおかしくない。
そんな俺の情熱〈パッション〉が通じたのだろうか。
ガリベンは悲しい目をすると、諦めたようにシュンと大人しくなった。
(よしよし、良い子だ。それでいいんだ。これで、あまり俺を怒らせない方がいいとわかっただろうww)
そして、じっくりと謎の茶色のゼリーをじっくりと観察しようとした。
だが、そこにあったはずの茶色のゼリーはどこにもなかった!
急に頭に血がのぼったのを感じた。
頬も耳も自分でわかるくらいに熱くなっている。
俺の両手は無意識のうちにガリベンの首をギュッと絞めていた。
そしてドスの効いた声で言う。
「おいテメェ、アレをどこに隠した! 茶色のアレだよ!」
俺はガリベンの見つけた謎の茶色のゼリーをじっくりと観察しようとしていた。
だが、そこにあったはずの茶色のゼリーはどこにもなかった。
きっと俺が頭を殴ったことに腹を立てて、ガリベンは茶色のゼリーを隠したに違いなかった。
俺にはそれが許せなかった。
俺はこの村の村長さんの息子なのだ。
それなのに、こんな糞ガキに舐められたことが許せなかったのだ。
首をきつく絞められて、どんどん赤くなっていくガリベン。
「****! *****!」
ガリベンは必死にどこかを指さした。
その指の先を見てみると、少し先の茂みの中をゆっくりと移動する子猫ほどの大きさの茶色のゼリーがあった。
(このゼリー……動くのか?!)
動くゼリーに俺が見とれていると
「*********!」
と苦しそうな声が耳に届く。
慌てて声の主の方へ視線を戻すと、今にも死にそうな顔のガリベンが、首を絞める俺の両手を必死にタップしていた。
それに気づいて慌ててその手を放す。危うく殺めてしまうところだったw
「すまん、すまん。やりすぎたw」
やりすぎてしまったことをガリベンに丁寧に謝る。
俺の謝罪を受けても尚、ガリベンは不満げな顔をしながら、赤く締め跡の残る首を擦っていた。
「いやぁ、悪かったってww ゼリーが動くって知らなかったんだもん、許せよww」
そう言ってガリベンの背中をポンポンと叩いた。
ガリベンは俺の謝罪を受けても納得していないようだったが、俺はそんなことに気にもとめず茶色のゼリーへと視線を注いでいた。
性格がウ〇チ、それが進。
そんな彼が仲間たちと過ごしていくうちに成長していく物語です。




