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第13話 「胸騒ぎ」


 翌日、すぐに森に調査に出かけるつもりだったのだが、朝起きると、どうもなんだか熱っぽい。


 頬や体がポッポッと熱くて、頭がぼーっとして力が入らない感じだ。

 滅多に風邪などひかない俺だったが、この熱の原因にひとつ心当たりがあった。

 この熱は間違いなく、昨日ウ〇チを全身に浴びたことに原因があるに違いなかった。


(あの(くそ)ガキオークのせいだっ! 思い出しただけでもムカつくぞ!)


 目か口か、それとも気づかないところにあった傷口とか、どこからかわからないがウ〇チに含まれる菌が体に侵入したからだろう。

 そうとしか考えられなかった。

 洞窟の前に置いてある倒木に腰かけて、ただ熱が下がるのを大人しく待つ他なかった。


 その熱が下がるまで数日を要した。

 その間は何もせず、じっくり休みをとっていた。

 といっても毎日休みたいな生活なのだけど。

 安静にしていたら熱もどこかへいってしまって、いつも通りの体調に戻った。


 ここには病院もなければ医者もいない。

 注意しないと死ぬかもしれないのだと、身を持って実感した。

 そのことに気づけただけでも収穫があったかもしれない。


 ◇


 体調が戻ったその日の夜の出来事だった。


 病み上がりということもあって、昼間に広場の散歩なども少し控えめにしていたせいか体はまったく疲れていなくて、なかなか寝付くことができなかった。ウトウトしては目が覚めて、またウトウトするといった具合だった。


 ようやく深い眠りに入ろうとしていた時。

 やっとのことで手に入れた安眠のチャンスは、耳障りな音で邪魔された。


「*******」と低い不気味なうめき声のような音が聞こえたのだ。


 俺は音にはかなり敏感な方なので、この異音に気づけたのだ。

 どれくらい音に敏感かというと、隣の地区の小学校のプールの授業で騒ぐ(くそ)ガキの声が、風に乗って少しでも聞こえてこようものなら、すぐさま小学校にクレームの電話をして静かにさせるくらい音に敏感な方なのだ。


 俺が寒くないようにとピッタリ体を寄せて添い寝してくれているママを起こさないよう、静かに洞窟の入り口へと向かう。

 洞窟の中は真っ暗なので、石でつまずかない様に慎重に足を進めていく。


 洞窟の入り口から少し出たところで耳を澄ませる。

 すると、少し遠くで何かが動く物音が聞こえた。

 それが一体何なのか、すぐにでも確かめに行きたいのだが、こういうときに限って月が出ていない。


 暗闇をむやみに歩き回ってはいけない――。

 サバイバルの基本だ。

 俺は動画配信サイトでキャンプ動画などを見まくっていたので、金級〈プロ〉のサバイバルの達人くらいの知識があったから、当然それを知っていた。



 するとまた「*******」とうめき声が聞こえて来た。

 不気味で恐ろしい嫌な声だった。


 どれくらいその声が続いただろうか。

 五分、十分くらいその声が続いたが、やがて静かになった。


 ◇


 朝の陽ざしが眩しくて俺は目を覚ました。


 どうやら洞窟の入り口で眠ってしまったようだった。

 ちょうどママも目を覚ましたようで、奥から慌てた様子で飛び出してきた。

 隣に寝ているはずの息子がいなくなっているのだ。

 それで慌てたのだろう。

 心配させてしまって申し訳ない気持ちになったので、「ごめんね」と長めのハグをした。


 ハグを終えて朝食のママのミルクを美味しく頂いていると、広場の方からもの凄い形相でやってくるメスのオークの姿が見えた。

 ママは胸に抱いていた俺を優しく地面へ下すと、何事かとメスのオークに問う。


「*******! *******!」


 とメスのオークは矢継ぎ早に話した。


 なんだと!


 ただ事ではない事態が起こっているのだとわかった。


 当然、オーク語なので彼女が何を言っているのかはわからない。


 だが彼女の情熱〈パッション〉が、そう俺の心にそう訴えかけてきたのだ。


 「******」とママは返事をすると広場へと急いで駆けていく。

 俺も遅れてその後を追った。



 俺が村の広場に到着した時には、既に村中のオークたちが集まり大騒ぎになっていた。


 オークの野次(やじ)馬を掻き分けて、騒ぎの中心部へと辿り着く。

 そこには二体のオークの亡骸が横たわっていた。


 一体はその体のほぼ全てが骨と化していた。

 もう一体は頭だけが骨になっている状態。

 どちらの遺骸も明らかに何かに食われたのだと思った。


 その頭だけ骨になっているオークの亡骸の横で


「*******! *******!」


 遺体にすがって号泣する子供のオークの姿があった。


 先日、俺をウ〇チの山に投げてくれた番長格の(くそ)ガキオークだった。


 その亡骸をよく見てみると、番長が泣いている理由がわかった。

 どうやらそれは番長の母親オークであったようだ。


 俺は番長の隣へ行くと、慰めるように背中を(さす)ってやる。

 番長はこちらの顔を見ると「*******」とボソボソ何か言って泣き続けた。

 隣で涙を流す番長を慰めながら俺は思った。





 ざまぁぁぁぁぁぁwwwwww 


 ねぇねぇ、おまえのママ死んじゃってるけど? 

 今どんな気持ち? wwww 


 ねぇどんな気持ち?www 


 今日は飯が旨いwwwwwww 


 と。

 先日のウ〇チ山に放り投げられた件があったので、実に飯ウマだった。

 心の中で大爆笑しつつ番長の背中を(さす)って、あたかも慰めている(てい)を装った。


 顔を下に向けて一緒に悲しんでいる振りをしていたのだが、知らず知らずのうちに俺のダークサイドな一面が、心のダムから(あふ)れてしまったのだろう。ほんの一瞬だけ、ニヤリと笑みが漏れた。


 こんなニヤケ顔を誰かに見られる訳にはいかない。

 顔を下に傾けてはいたが、さらに地面と平行になる程に深く(うつむ)いた。


 いかん、いかん。

 彼を慰めてやっている(てい)を保たなければ。

 私は村長の息子なのだから。



 誰にも気づかれてないはずだった。

 ふと顔をあげると一匹の(くそ)ガキオークが、野次(やじ)馬の大人たちの影からこちらをじっと見つめていることに気づく。

 ヤツは軽蔑(けいべつ)の目で俺を見つめていた……。


(ひょっとして、さっきニヤついたのを見られてしまったのか……。厄介なやつに見られたなぁ……)


 ヤツなら俺の一瞬の気の緩みを見抜いてもおかしくなかった。

 というのも、ヤツは村のオークで最初にトイレでウ〇チをすることを覚えたヤツなのだ。他の(くそ)ガキなんかと比べものにならないくらい知恵が働くのだ。


 俺はヤツに ”ガリベン” とあだ名をつけていた。

 トイレでウ〇チをするという行為を他のガキだけでなく、一部の大人オークに広めたのも、このガリベンだった。



(ニヤついたのを後で番長にバラされるとヤバいな……)


 そう思った俺は、ここで一芝居打つことにする。


「*******!」


 と俺は、ウホウホフガフガと声をあげて泣いたのだ。

 番長とともに泣いたのだ。


 俺も実の両親を失くして、今のパパとママに拾われたのだよ。

 だから気持ちはわかるよ、的な雰囲気を(かも)し出して泣いたのだ。

 もちろん情熱〈パッション〉を込めてだ。



 俺の名演技にまんまと(だま)されて、周りにいた大人のオークたちの涙を誘った。

 番長などは俺に抱きつくと、さらに声を大きくして泣く。


(堕ちたな……。番長は完全に俺サイド(・・・・)に堕ちた。オークなんてちょろいもんよw)


 さすがのガリベンも、これには(だま)されて(もら)い泣きしているだろうと、ガリベンの方をチラリと見た。


 ヤツは(もら)い泣きするどころか、まだ軽蔑の目を向けているではないか!


 いやあれは軽蔑の目などではない! まるで汚物を見るような目だ!!


 間違いなくヤツは俺の暗黒面〈ダークサイド〉を見抜いているに違いなかった。


(だが……。例えおまえがそれをバラしたとしても、こちら側に堕ちた番長はおまえの言うことなど信じないだろうww 番長以外のオークにもバラしたとしても、それを信じるオークはこの村にはいないぞ? なんてったって俺は村長の息子だ。俺を疑うオークなんてものは、この村におまえ一人だけなのだからな! )


 自身の名演技の余韻に酔いしれていると、ママとメスオークたちが亡骸を取り囲んでいた。

 パパを含めオスのオークたちは狩りに出かけていて不在だったので、村長代理であるママが率先して作業の指示をしているようだ。


「*******」


 ママが静かな、でも力強いはっきりとした口調で言った。

 すると番長は亡骸に覆い被さるようにすると、さらに大きな声をあげて泣きじゃくった。

 この姿を見て、これから何が起こるのか理解した。

 どうやら亡骸をどこかへと運ぶようだった。


 遺体を運ぼうとするのを邪魔する番長の肩を引っ張り、それを止めさせる。

 そして黙って抱きしめてやると、番長はまた俺の肩でワンワン泣いた。


 ママはその様子を見て、ウンウンと(うなづ)くと他のオークとともに亡骸を森へと運んで行った。

 番長はその様子を涙を流しながら見つめる。

 俺も黙って運ばれていく様子を見守った。

 ガリベンは……何もできずに離れた位置からこちらを見ていたが、しばらくしてどこかへと消えた。

 番長はしばらくその場で泣いていたが、少し落ち着いたところで一人にしてやることにした。


 ◇


「さて……やりますか……」


 俺は二匹のオークに何が起きたのか調べることにした。

 昨夜に俺が聞いたうめき声は、恐らく今回の事件の被害者の声だったのだろう。

 寝込みを襲われたのだと推測する。


 今朝、駆けつけた時には亡骸は広場に置いてあった。

 しかし事件現場は別の場所だったはず。


 なぜなら広場で寝るのは、見張り役のオークぐらいで、役目のない者たちは草木の茂みで寝ているからだ。


 オークたちは少々の下草が生え茂っているようなところを好んで寝床にしている。

 基本的に村のオークたちは俺の住む洞窟の近くの茂みで寝ている者が多い。


 しかし番長一家は、オーク村でも底辺オブ底辺の部類に入るオークなので、村のトップや幹部クラスなど上級民(・・・)の寝床がある洞窟の近くの茂みではなく、たぶん洞窟よりも少し離れた場所にあるに違いなかった。


 俺はオークたちの寝床をひとつひとつ、しらみつぶしに調べていった。


 そして殺害されたと思われる痕跡がある寝床を発見した。

オークA「村長さんの息子さんは心の優しい方だなぁ。」

オークB「あの子供に寄り添って泣いているんだもの。」


ガリベン「……。」

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