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自問自答

 


「はーぁ……」

 ため息を吐きながらカズハが午後の休憩に入る。

 昼食が終わって調理場が片付くと、夕食の仕込みを始めるまでの間しばらく休憩できるのだ。

 この時間にはリオはそそくさと食堂を出ていってしまうのでカズハはゆっくり食堂を独占する事になる。


 ……えーと……何を間違えたんだろうな、私。

 疲れ切って食堂の端のテーブルに突っ伏しながらそんなことを考える。


 リオは毎日他の子たちとなんだかんだと楽しそうだ。仕事中にする話といえば、誰かの家に遊びに行って楽しかった、とか、オシャレな店を見つけたから今日はこのあと誰かと行ってくる約束をしている、とか。その誰かというのはこの寮の世話係の誰かで……名前が上がらない人はいないくらい毎日取っ替え引っ替え誰かと何かの予定が入っている、らしい。

 それに引き換え、私は……わー……ビックリするくらい誰とも予定なんかないよ? なんならここで挨拶以上の会話なんか誰ともしないけど!

 もういっそ引きこもりたくなるような現実に、一体どこから何を間違えたのか、自問自答したくなってきている。


 だいたい、そもそもが。

 みんなみたいに遊びに行ってる体力も暇も無いんだし!

 みんななぜか体力が底なしで、いつ休むのっていうくらい遊びまわっているように見える。一番体力がなさそうなアイシアでさえ……ああでもそう言われてみればアイシアの名前がリオから聞かれる頻度は他の人よりは少ないかもしれない。つまり、彼女はちゃんと体力の範囲内で付き合っているということかしらね。

 いや、それにしても聞いてみると結構夜遅くまでみんな誰かの家で遊んでいたりするのだ。うっかり飲み明かしちゃったとか、気付いたら寝落ちしてその家から今朝は出勤! なんていうことも何度かあった。


 ああいう生活は……体力的に私には無理だ。

 みんな若いから、なのかな……いや、それを言ったらナリアなんて私より年上なのに結構彼女たちと互角に遊んでる。……旦那様も気になさらないらしく、リオが「理解のある旦那さんで羨ましい!」と言っていた。


 それに、気がつけばもうここでの仕事もひと月が経とうとしているが……いつの間にかわざわざ私を誘う人は……いなくなった。

 ……うん。つまらない人だと思われているかもしれない。

 最初の一週間くらいはそれでも少しは話が弾んだものだった。

 つい反省を交えつつカズハがちょっと前のことを振り返る。


 どうやら周りはカズハを同年代だと思っていたらしく、実年齢を言った途端全員色めき立った。若さの秘訣なんか聞かれたり、肌の手入れの仕方なんかを聞かれたりして……。

 ああ、あれって……本当はみんなと打ち解ける絶好のチャンスだったのかもしれないな。なんて思えるから無意識で深いため息が溢れる。


『え……なにもしてないけど。みんなみたいにお化粧とかもしないし……』

 って、言っちゃったのよねー!

 ああ、私の馬鹿!

 そこは嘘でも洗顔に気を付けてるのよ、とか、食事に気を付けてます、とか何か言うところだったでしょう! そしてお化粧に触れるんなら『みんなみたく上手にお化粧できるようになりたいな』とか言ってお化粧に対する消極的な意見は出しちゃいけないところだったでしょうが! そうしたら、もしかして、あのあと誰かにメイク教室でもやってもらって女子としてお友達になるチャンスがあったかもしれないのに!

 ……あ、いや、でも……メイク教室……それは……あったらあったでめんどくさいな。興味ないし……。


 はい、確定。

 私、ここの人たちと仲良くなれないこと確定。


 なんなら一番最初に戻ってこの町で、あの家を借りたのが間違いだったかな。

 もっとこの近くに住まいを決めていたら……いやいやいや! 高いんだって! この辺、改めて調べてみたら家賃がやたら高いのよ! しかもここらへんって店も全てがお高い。みんなよく近くのオシャレな店とか美味しい店に食べにいくなんて言ってるけど、そういう店ですら結構なお値段だった。みんなここのお給金以外になんか持ってるよね? ここの収入だけで生活してるわけじゃないよね! って思ってたけど……やっぱりそうだった。実家からの仕送りでほとんど生活費が賄われている、とか、前の騎士の収入が結構な額で退職金も合わせると当分遊べるくらいの額だったりとか。


 そして、気がついてしまったのだけど。

 そういうお金だっていずれは底をつくわけで、それゆえに! 彼女たち、結婚相手という新たな収入源を探しているんだった。


 ……まぁ、そういう世の中だから仕方ないんだけどね。

 女は所詮結婚して夫に養ってもらってなんぼ。どんな相手を見つけられるかが女の価値を左右する。

 ……そういう女の子をよく知っているので、それはそれで理解できる。


 けれども。

 私はそういう生き方は……できないなー……。


 だって。

 本当に、つい最近まで、騎士だったんだもん。

 通達事項がなかなか来ない田舎の町だったゆえに、何も知らされずに騎士としてずっと働いていた。

 そりゃ、ここ最近、敵の出没がないな、とは思っていたわよ。

 でもまさか本当に平和になってるなんて思わなかったし。

 だから、当たり前のように命をかける覚悟はかけらも緩めずに毎日割り当てられた仕事をして、鍛錬も怠らずに……もう少しで一級試験、受かるところだったのにな。

 なんて思う。


「はあああああああー」

 知らず知らずのうちに出るため息も深い。

 ……ああ駄目だ。心を病んでしまいそう。

 急にやることがなくなって、目指すものがなくなって、力尽きたような……そんな感じ。


 いや。

 やることがない、わけじゃないのよね。


 だってここの仕事。

 結構やりがいのある類のものである筈なのだ。

 例えば、食堂だって。

 こんな風に空き時間があってゆっくりしたりなんかしてるけど、本来はもっと忙しいはずの場所だ。

 騎士の仕事なんてみんなが交代でやってるんだから一日三回決まった時間だけしか食事が提供されないなんておかしい。その時間に働いていて時間をずらして食事に入る者だっている筈だし、働き盛りの言ってみれば食べ盛りの若者が大半を占める騎士隊だ。空き時間に小腹が減って食堂に立ち寄ることだってある筈なのだ。

 ……でも、それを言ったら多分きりがないのも分かる。

 食堂を任されてるのが私とリオの二人であることを考えると、これ以上仕事量を増やすのは多分無謀。

 ここの仕事も週に一度は休めるようになっているから二人ともようやく体がもっているようなものなのだ。つまり、ただでさえ、週に一日は食堂を閉めてみんなには外で食べてもらっているというわけで。

 もはや、ここでの食事は組織上、形式ばかりのおままごとなんじゃないかとさえ思えてしまう。



 そんなことをつらつら考えていると、外の廊下に軽やかな足音がして……本日最後の仕事を始めるべくリオが戻ってきた。





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