逃避―2
逃避2
やっぱり走っている。今日も必死に走っている。今日は廃屋の中を。病院だったのか、学校だったのか。コンクリートでできた無機質な建物。長い廊下が一本あって、視界の端に大きな部屋が何度も通り過ぎていく。何度もこけながら、それでも必死に走っている。どんなに走ってもどこにもたどり着けないのに。どんなに逃げても追ってくるのに。逃げられないけど追いつかれることもない。こういうのはなんていうんだったか……ああ、いたちごっこだ。多分あってる。怖い。この恐怖から逃げられず、ずっと走っている。いや、もう速度的には歩いている。フラフラだった。自然と体は丸まり、それでも足を速めている。いや、歩くのよりも遅いかもしれない。脇の扉から後ろにいたはずの奴が出てきてもおかしくない。奴らは瞬間移動を使う。あり得ない所からあり得ない方法ででてくるんだ。そうして、俺を怖がらせる。その反応を共に楽しんでいるんだ。
今日は、こんなに頑張れた。もういいだろう。そろそろ起こしてくれ。起きてバケツ一杯の冷や汗を感じながら、心臓のバクバクを聞きながら、アトラクションを楽しんだ子供のような興奮と安心を俺にくれ。
現実に戻りたくはない。でも、この興奮は、安心する恐怖は、ゴミみたいな現実があるから感じられるんだ。俺の不安を脳みそが必死にごまかそうとするように。今この夢の中を走っている。追いかけてくる奴はチェーンソーやナタを持った殺人鬼だ。ピエロだ。液体サイボーグだ。クリーチャーだ。どうしても勝てないけど、出し抜くことはできるんだ。物陰に隠れて、階段を数段飛ばしで降りてくる衝撃を感じながら、それを活かして駆け出す。それがここではできるんだ。自分の心と知恵比べしてるんだ。現実ではできないから。ここで逃げながら、恐怖と向き合っているふりをしているんだ。それが心地いい。起きた時のあの感じを。
“ソレデいいの”