逃避―1
逃避1
息を切らせて走る。周りは雑木林でどんなに走っても先が見えない。今は夜中だろうか。目が慣れても、躓きながら走り続ける。怖い。怖いのだ。ただただ、怖い。もう何から逃げているのかもわからない。ただただ、走っている。もう息も切れ切れで過呼吸気味で、手も振れない、足も上がらない。でもひたすら走る。追われているから。―どうしてこんなことになったのか。
気づいたらここにいた。真っ暗で外だというのはわかる。ざわざわと枝を揺する音が聞こえる。
ざわざわ……ざわざわ……
耳障りだ。イライラする。ここはどこだ。なんでこんなところにいる。俺は家で寝てたはずだ。ここは夢の中なのか。こんなに空気がリアルに感じられるのは初めてだ。
そして、怖い。
なんでかわからないが怖いという感情が湧いてくる。この感覚は夢と同じだ―空から落ちるような、階段を踏み外すような、車のブレーキ―が利かないような―誰かに追われているような……。
あ、そうだ。俺は追われていたんだ。突然思い出した。逃げなきゃ。
そう思うのと同時に俺は駆け出した。信号が変わる時の小走りじゃない。線路に落ちて後ろから電車が走って来た時のような、一生に一度の全力疾走だった。
正面は林で獣道もない。それでも掻きわけて進んだ。両手で顔を覆いながら。後ろで何か音がした気がする。悲鳴にも似たような、助けを求めるような声が聴こえた気がした。
“向き合って”