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現代人にとって魔法とは

人は資源だ。高度に発展した経済では人は人的資源として使われる資源の一つでしかない。

これは1960年代の先進国における考え方であり今日の世界経済でも受け継がれている考えだ。しかし、資源とは限りあるものでありそれは天然資源だけではなく人的資源に当てはまった。2000年代の現代では科学技術の停滞、資源の減少による資源配分の複雑化・不正により経済成長は伸び悩んでいた。

そう“いた”だ。すべては過去の話であり現在のわが国では数年前では考えられないほどの発展をしている。分かり易く例えるならば俺たち一般市民が月に行くのは難しいことではなくなった。今では長期休暇でいく人気な旅行先1位なもんですっかりアポロ11号が降り立ったような感動はないんだよ。自動車も次々と開発されていき、すわ空を飛ぶ段階まであと少しだという。

さて、ここまでわが国が発展した理由というのは異世界人が大きく関係している。

いやいや嘘じゃない、君は我々が突然あらたな技術を手にいれたと思っているかもしれないがさっき説明したように数年前まで科学技術の発展は停滞していたんだ。

だけど異世界人が現れた。彼らの世界の技術や彼らという労働力を手に入れたわが国は大いに発展した。しかし、異世界人がすべて協力的なわけではなかったんだ。彼らは自分たちの【力】を僕の国のために使うのを嫌った。そして彼らは資源になった。

そう奴隷だ。言うことを聞かないものを力でもって屈服させたんだ。おっと逃がさないよ。

君に、そう異世界人の君にこの話をしたのは説明義務みたいなものさ。これから自分がどういう境遇になるかくらいは教えてあげようって親切心。暴れない暴れない、僕も女の子に手荒な真似はしたくないからね。それで続きだけど異世界人の存在は表には公表されてなくてね。それが非人道的な実験とかさ、そういうのをするのに都合がいいんだ。

おっと!危ないなぁ。これは【魔法】かな?君もやっぱり使えるのか。でもごめんね、ちょっと訳ありで効かないんだ。ああもう泣かないでくれ、うーん、騒がれるのはまずいし少し寝てて貰う。大丈夫、この薬は後遺症は残らないから。



「もしもし、僕です。はい、増田京介です。はい、ええ、そうです。異世界互恵関係者の保護に成功しました。車をよこしてください。ええ、わかっています。はい、お願いします。では失礼します。」


ふん。まったくお互い様の癖に上から目線の奴らだ、自分の手を汚さないくせにごちゃごちゃ言いやがってと思う反面、頭の中では冷静に今言われたことを確認する。

ひとつは異世界互恵関係者が混乱して暴れないように説明・案内すること。ようはこれから奴隷となるであろう彼女をおとなしくしとけってことだ。まあ、それはいい。だが何度聞いても異世界互恵関係者という言葉に笑ってしまう。【上】の人間は怖くて奴隷と言えないらしい。こんなことを命じておいてたったその二言をいうのが恐ろしいのなんてお笑い草だ。



そしてもう一つは一般人に目撃されないことだ。この国は異世界人の存在を世界に公表していない。国が公表していないというのは隠しているというのと同義だ。わが愛すべき国、日本は異世界の技術やもたらす利益を独占している。人道的問題よりもこちらを【上】は問題視してるようだ。情報の秘匿を現場レベルに求めんなよと思わなくもないが、【上】にそんなこと言えるわけもなく。


要するにいつものお小言だ。仕事のたびに絶対に言ってくるおまじないだ。

おばあさんに教えてもらったおまじないを確認し終えるのと同時にカボチャの馬車のお迎えが来たようだ。おばあさんからはガラスの靴を忘れるなとのお達しなので痕跡を残していないか確認し寝ている少女を抱えて車に乗り込んだ。


窓に映るこの街の景色は少女に自らの最低さを余すことなく伝えるために次々現れては消えていった。残念なことに本人は薬でぐっすりだが。


「先輩。今回の子はどうなりますかね」


運転している同僚が話しかけてきた。後輩の久保田…駄目だ、下の名前が出てこない。まあ苗字さえわかれば仕事じゃ困んないからいいか。


「うーん。この娘魔法が使えるみたいだから3等以上の扱いになるんじゃない?」

あんま強い魔法じゃなさそうだったけど。


「へー、よかったですね。この娘のなりじゃ5等とかだった耐えられないと思いますもん。」


「…よかったねぇ」

奴隷になることを考えたらなにもよくないんだが、どうやら久保田は感覚がマヒしてしまったみたいだ。この仕事をしていると皆なるのだが本人はまだ気づいていないようなのでいずれ世間とのズレに傷くだろう。誤字にあらず、一種の職業病なのだ。


だが見たところ彼女には魔法以上の価値はなさそうだ、そして魔法もおそらく強くない。たとえ3等になれたとしてもすぐに4等に落とされるだろう。

等は7等まであり1等なら研究協力や仕事に協力すればある程度の自由を与えられる。2等なら自由の範囲が党と比べ縮小される。3等は強制的に研究や仕事に協力させられる。4等以下は…地獄だ。

噂では脳の構造を調べるためにホールケーキのように切り分けられたのが7等にいるらしい。驚いたことにそいつは今も生きてるとのこと。


「あと十分くらいで着きますよ。先輩」

少女の今後に思いをはせていると久保田が声をかけたてきた。もうそろそろお別れの時間らしい、窓を覗くとさっきまであった高い建物ではなく木々が風で揺れていた。目的地近くだ。

「了解。」

そう答えると心なしか車のスピードを上げてくれた気がする。いい後輩だ、名前が出ないけど。


「着きましたよ。」


そう告げる久保田の声が聞こえるより先に僕の体はドアを開けていた。母に少しの我慢ができないと言われる所以ゆえんだ。久保田もあきれて顔で見てくる。後輩の癖に生意気なやつめ。


「さて、この娘を連れてかなきゃな。」


「先輩。連れてくではなく案内ですよ」


「おっと危ない。また怒られちゃうとこだった」

お互いに笑った。久保田の言うようにここから先は【上】の人間にあわせた言葉遣いをしなきゃいけない場所だ。まったくどうやったら寝てる人間に案内をできるんだか。


「よっと。じゃあ行こうか」

少女を抱え上げて目前の病院と刑務所をごったにしたような建物に向かった。

異世界人ふれあいセンター。命名は僕で正式名称は文化交流センターだが僕らみたいな現場組はそっちで呼んでる。表向きは日本の伝統を絶やさないように文化保存の目的をもって建てられた。だが一皮むけば国際法ガン無視の奴隷管理上なのだった。

当然のように正面入り口から入る。これはここの関係者にかかっている魔法で関係者以外には僕たちが認識できないようになっている。久保田はまだ慣れないみたいで一般客にビクビクしながら通っていた。


「俺いつもは一般職員として受付とかのほうにいるからこういうの慣れてないんですよ」


本人は恥ずかしそうに言うけど僕からすれば羨ましい話だ。僕も降格とかしたら受付だけになったりしないだろうか?いや、僕は無理か。

なんて意味のない計画を立てて崩壊させているとコピー機みたいなロボットがこちらへ向かってきた。

『増田君。その子がお客さんかい』

そのロボットはこちらへ立ち止まり話しかけてきた。

「はい、所長。僭越ながらここまでのご案内をさせていただきました」

そう、このロボットが所長だ、いや、正確に言うなら所長直通のホットラインか。所長は仕事の鬼で滅多なことでは自分に与えられた部屋から出ない。誰よりも早く出勤し誰よりも遅く退社する人だ。最近では彼本人の姿を見た人はいないらしい。そんな彼が部屋の外で仕事をするときに用いられるのがこのロボットだ。

『結構。この子とは下で部下との会談があるからそこまでの案内も頼むよ』

そういうと所長ロボットはスー、と奥の通路へ消えていった。


「所長って先輩見つけるといつも話しかけてきますよね」

「そうかな?」

「そうですよ。俺なんて所長から話しかけられたことないですもん」

「それ単に嫌われてるだけじゃないの…?」

「いや、先輩がお気に入りなんですよ。きっと」

久保田はそう言いうんうんとうなずいて見せる。不安になることを言う。

それと所長は眠っている子と話をするつもりらしい。


言われた通りに下の階の連中にお客様をお預けして無事本日の業務は終了した。

結局眠りから覚めないままに12時の鐘がなってしまい少女をお姫様にしていた魔法は解けてしまった。いや彼女が僕にあったときからもう解けてたんだと思う。悲しいなんて思わない。むしろ僕が悪者みたいでなんかムカつく。僕のこの感情は世間とズレているらしい。久保田のことを言えないなぁ僕も。

だからさっきから感じる目線にも煩わしく感じるだけでほかの感情は生まれない。

異世界人とすれ違うたびに彼らは多くを伝えてくる、それは怒り、恐怖と様々だが一番多いのは意外なことに懇願だ。なぜか彼らには僕が白馬に乗った王子様に見えるらしい。

その緑や赤といった宝石のような目で助けて助けてと乞うてくるのだ。彼らがそう思うのにも理由はあるのだがそれは今語ることでもない。要するに僕が言いたいことはこのまま異世界のお客様が増え続けると息苦しいということだ。僕は酸素を求めて外へ出た。




家に帰りたい。最近はずっとそう思って生きている気がする。いや、僕の家がマンションだとか暫く帰っていない実家は関係ない。同居人がいる、文字にするのは簡単だが実際自分の生活圏に他人がいるというのはわりとストレスだ。別に同居人が嫌いというわけではない。

ただツンツン頭の不幸少年は尊敬している。

ドアノブを回した。しかし、ドアは家主に抵抗した。よし、ちゃんと鍵をかけてるな。

一応の確認をして今度はちゃんと鍵を挿した。


「おかえりなさい。京介さん。」

玄関には長く美しい黒髪をもった女が立っていた。彼女の赤い目と白い肌だけが日本人ではないことを主張していた。この世界の人間でもないが。


「ただいま。メア」

彼女の名前はメア。性名はない。異世界人、そして僕の同居人だ。


「ちょうどご飯食べてたところなんです。京介さんはお食事まだですか?」


「うん、まだだよ。」


「でしたらご一緒に。」

そういって彼女はキッチンへ向かっていった。食事の用意をしてくれるのだろう。彼女は何かと僕に尽くしてくれる。対価は一緒にいること、それだけ。理由を問うほど僕は鈍感じゃない、彼女は僕を愛しているんだろう。


それが主に僕の重荷だ。


彼女は異世界人だがここにいる。僕が慈悲深くて彼女の存在を【上】に黙ってるとか、脅されてここにいるとかじゃない。メアは強い。それがすべてでそれが理由。

メアが全力を出せば日本という国家は消える。たぶん1日と持たないだろう。それほどまでに彼女の【魔法】は強いからほかの異世界人のように力尽くに言うことを聞かせることはできない。


だけれどメアは日本に協力的だ。理由は僕。メアは僕の【お願い】ならほとんど聞いてくれる。それがほかの異世界人を追い詰めるようなことでも。

僕のために、僕が喜んでくれるならそう言って笑顔で【魔法】を使う。施設で使われているものもすべてメアが使った魔法だ。【上】に頼まれて僕がメアに頼んだ。

つまり僕は【上】がメアを操作するリモコンだ。

メアもそれを分かって利用している。僕以外からの【お願い】を聞かないことで僕を縛り付けている。【上】もそれを望んでいる。僕がメアを縛り付けることを。だから


「京介さん?」


「ごめん。今行くよ」

思考を戻す。ずっと玄関に立っていたようだ、不思議そうに呼ぶメアに謝りながら上着を脱ぎ彼女の座っているテーブルの対面に座った。テーブルには切り分けられた牛肉と胡麻ドレッシングのかかったサラダが並べられていた。牛肉は昨日の残りだ。


「いただきます。準備ありがとう。」


「いえ、ここの食事の準備が楽なので大した手間ではありませんよ。」


「そうかい?僕は面倒だと思うけど」


「はい、ここの技術には驚かされます。料理の保存も簡単ですしそのお肉だって電子レンジですぐ温まりました。」


「それに私の『世界』が私によって保たれてる。そう考えると嬉しく思います。」


「世界って…」


「もちろんあなたのことですよ、京介さん」


「あなたは私の世界、中心なんです。だから私もそこに住ませてくださいね」


言い切るとそれ以降メアは食事が終わるまで話すことはなかった。


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