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この世界は確かに愛で溢れていた。  作者: たま
第0章:プロローグ
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とある悪魔の憂鬱②

ゼパルという悪魔は「愛」を司っている。

・・・と言っても、それは純粋な「愛」では無く、歪んだ愛ではあるのだが。


男に使役されれば、意中の女性の心を惹きつけ、愛情を燃え上がらせる。

時には歪んだ愛情を植え付ける事もある。


女に使役されれば、意中の男性の好きな女性へ「子供を産めなくする」呪いをかける。


どちらに使役されたとしても、まともな恋が成就するとは思えないが、そもそも悪魔を呼び出している時点でまともな恋では無いか。


「だが、愛というものは、そんなに無数もの種類があるものなのだろうか?」


私は被っていた帽子を少し上げてゼパルの方を見ながら言うと、ゼパルはケラケラと笑った。


「あはは、君は面白い事を言うね。

ダンタリオン君、それじゃあ君が思う愛というものはどんなものなのかな?」


「愛を識る」悪魔相手に「愛を知っている」程度の私がどんな事を言うのか楽しみだ、という顔をゼパルはしている。


「ふむ。確か”愛”というものは、古代から4つに分類され…」

「ストップストップ!僕が聞きたいのはそういう事じゃないよ!」


さっきまで笑っていたゼパルだったが、私の言葉を聞いた途端、ギョッとして椅子から飛び降りて私の目の前まで来た。

少し怒っているようだったが、何故怒ってるのか理解できなかった。


「何だ?お前が愛を教えろ、というから述べている所だったのだが?」


「そうじゃないそうじゃない。

私が聞きたいのは、愛の語源とか、種類が聞きたいわけじゃないって!

ダンタリオン君が思う、理想の愛についてを教えてほしいんだよ。」


私が思う、理想の愛?

そんな事は一度も考えた事が無かった。

私は被っている黒色の帽子を目深に被りなおし、目を瞑って今の質問に対する回答を考えた。





私たち悪魔は、人間の世界に何度も呼ばれ、対価と引き換えに使役されてきた。

邪な気持ちで私を呼び出した者の方が多かったが、人助けのために私を呼び出した人間も少なくはない。


私は数十年前、日本という小さな島国に呼び出してきた「とある男」の事を思い出した。

その男は医者で、当時にしては医術の腕はそれなりに持っていた。

妻は子供が生まれてすぐに他界してしまい、それ以来新しい伴侶を作る事も無く、息子と二人暮らしをしていた。

医者という多忙な職にも関わらず、息子との時間も何よりも大切にしていた男だった。


とある日、その息子が事故に遭遇し、意識不明の重体となった。

その当時の医療では、意識を取り戻すかわからない程の重体。

父親は嘆き悲しみ、藁にも縋る思いで、悪魔を呼ぶことを試みた。


結果、悪魔を呼ぶことに成功し、その男に召喚された悪魔が、私…ダンタリオンである。

男は、まさか本当に悪魔が現れるとは思いもしなかったようで、かなり動揺していた。

数秒後には落ち着きを取り戻して、その男は被っていた帽子を手に持ち、深々とお辞儀をした。


「まずは召喚に応じてくれて感謝します、ダンタリオン様。」


落ち着いた様子で、私を呼び出した経緯を話してくれた。

話を聞いて、どうにも腑に落ちない部分があったので、それを問いかけてみた。


「なるほど。悪魔を呼び出した理由はわかった。

だが、何故私を呼び出したのか?

子供の治癒を目的としていたのならば、私よりも適任の悪魔はいるが。

私は知識を司る悪魔であり、人の心を意のままに操る悪魔のダンタリオン。

申し訳ないが、私には治癒能力は所持していない。

よって、その子供を助ける事は私には無理だ。」


私がそう言うと、その男はこう言った。


「ええ、その事はわかっています。」


ふむ、それでは何故私を呼び出したのだろうか?


「私は自分で息子を救いたいのです。

息子は私にとって…いいえ、私と亡き妻にとって一番の大切な者なんです。

一番大切な者を救うのに、どうして他者に救ってくれと懇願しなければいけないのでしょうか。

私は…自分自身で息子を救いたいのです。」


そこまで言うと、男は涙を流して俯いていた。

涙を拭かずに、再度話を続けて言った。


「私には医者としての腕は立つと自負しています。

ですが、私には知識が圧倒的に不足しています。

私には息子を救うための知識が無いのです…」


そこまで言うと、男は腕で涙を吹き、顔を上げて私の方をバッと見た。


「なので、ダンタリオン殿。

貴殿には、私が息子を救うために助力をお願いしたく召喚させて頂きました。

貴殿の医学に関する知識を私にご教授願います。

対価は、私が持っている全てを差しだしますので…何卒…!」


そう言って、男はもう一度深々とお辞儀をした。

礼儀を重んじた人間がいる事に私は驚いていた。

私たち悪魔は、魔術師に呼び出される事はあるが、そいつらは基本礼儀も何も無い奴らだ。

そういうものに呼び出された時は、魂を始めとしてありとあらゆる物を対価として奪っていた。


だが、今回はなんというか…ちょっと異例だ。

そもそもこのような、ただの人間が悪魔を使役出来た事が凄い事だ。

子を思う親の力は偉大なのだと私は思った。


「医学に関する知識の付与だな、了解した。

だが、一つ条件がある。」


男は一瞬、パッと明るくなったが、「条件」という言葉を聞いて、再度俯いてしまった。


「あぁ、すまない。

条件と言っても、別に大した話じゃない。

対価に関してだ。

貴公が持っている全てを私に差し出すとの事だが、別にそんなには要らない。」


そうだな…と少し思案して、


「貴公が持っている、その帽子を頂けないだろうか?」


そう言って、私は男が手に持っている帽子に指を差した。

黒を基調として、赤色が差し色として入っているおしゃれなハット。

男はキョトンとした顔で少しぼーっとしていた。

数秒後に慌てて私の顔を見た。


「え?こ、こんなもので良いんですが?

た、確かに少し高価な物ではありましたが、対価には全然見合っていないのでは…?」


「いや、いいんだ。それで。

今回の願い事は、単に知識の付与だけだから、私としては楽な仕事だ。

だから、対価として魂までも貰う事はしないさ。」


「こ、これが楽な部類に入るんですか??」


そう言って男は驚いていたが、かなり楽な部類だ。

もちろん呼び出されて、学術の知識を教える場合もあるが、大抵は秘密を暴いたり、人心掌握させられたり、まぁ人々の邪な気持ちで働く事が多い。


「それと、ただの人間が悪魔を呼び起こすという奇跡を、私は始めて見た。

その奇跡を見してくれた事に感謝して、無償で願いを聞き入れても良い位だ。

だが、それでは貴公が納得しないだろう。」


この世は等価交換だ。

これは人々も悪魔も同じである。

無償という言葉ほど、怖い言葉は無いだろう。

しかもそれを言ってるのが悪魔なのだから尚更怖いだろう。


「だから、私は貴公の持っている帽子を所望する。

貴公も言うように、その帽子は高価な物なんだろう?

それに、私は帽子という物を持っていないので欲しいと思った。

これが理由では納得できないか?」


男は少しの間思案してから「わかりました」と言って帽子を私に差し出した。

私はその帽子を受け取って被り「了承した」と言い、その男に私が持っている全ての医学に関する知識を付与した。

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