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この世界は確かに愛で溢れていた。  作者: たま
第0章:プロローグ
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とある悪魔の憂鬱①

悪魔は溜め息をついた。

以前に友人に言われた事を気にしていた。


その日は、久々に私の屋敷に友人が訪れた。

私自身、部下は多くても友人と呼べる存在は手で数える程度だったから、屋敷に友人が来る事が本当に珍しかった。

とは言っても、別に友人が来てくれても特にもてなす訳でもなく、私はお気に入りの椅子に座って本を読んでいた。


友人も別に気にする事も無く、私の対面にある椅子に座って、ぼーっと私の事を見つめていた。

数十年振りに再開した友人だが、特に話したい事も無いので、お互いに好き勝手にやるのが恒例だった。

友人も机に置いてある本を読んでみてはいたが、活字だらけで読む気が全然起きなかったようだ。

10秒もしない内にポイっと本を地面に置いていた。

またしばらくの間、友人は私の方をぼーっと眺めていた。

その後、友人はふいに私に向かって、こう呟いてきた。


「君は何でも知っているよね。」

「・・・いきなりどうした。」


それはそのはずだ。私はそう思った。

何故なら、私はありとあらゆる書物を見てきたからだ。


永久に続く時の中で、私はやることが無かったので、ひたすら書物を読み漁っていた。

初めは、生きていくうえでの暇潰しで、書物を読み漁っていたのだが、様々な知識を蓄えていくことは、とても楽しくあったので、気づいたら膨大な書庫が私の家となっていた。

だからこそ、知識の量では負ける事は無いと自負しているし、この様々な知識を求めて人々は私を顕現させるのだから。


「だけどさ、その知識はただ知っているだけであって、実際に君が行動して得た物ではないよね。」

「・・・然り。」


無論その通りだ。

私の知識は今まで読んだ膨大な数の書物のおかげであって、私が実際に経験して得たものではない。

書物に書いてある事は全てが本当の事とは限らない事は、今までに何度もあったし、その都度、間違っていた知識を修正していったのだ。

つまりこの友人は、君の知識は本物なのかな?と言いたいらしい。


誤解しないでもらいたいのだが、この友人・・・ゼパルとの仲は良好だ。

今は亡きソロモン王によってゼパルと共に使役された時から、幾ばくもの年月が経った。

昔は殺し合いになるほどの大喧嘩はよくやったものだが、今ではお互いにそんな気にはなることはなく、好き勝手言い合う間柄になっていた。


「ゼパルの言う通り、私の持っている知識は、ほぼ全てがあらゆる書物によって得た知識だ。だから何だと?

間違っている知識も時にはあったが、その都度修正はしていってる。」


「あぁ、そうじゃないよ、ダンタリオン君。

アタシが言いたい事はね、君の知識が合っているか、間違っているかについて話したい訳じゃないんだ。」


コイツは何を言っているんだ?

暇潰しに、また私をからかいに来たのか、と思ったのだが、そういうわけでは無さそうだ。

私・・・ダンタリオンは、本を読むのを中断して、ゼパルの方に振り返った。


「すまないが、それでは一体どのような理由が?」


私は疑問に思い、ゼパルに真意を聞いてみた。


「多分ダンタリオン君が書物で得てきた知識はほぼ全て合っていると思うよ。」


ゼパルはグラスに注がれていた飲み物をゴクゴクと飲みながら、続けてこう言った。


「でもそれは1+1が2というような、答えが決まっているものの場合の話。」

「ふむ、なるほど?」


「例えばさ、答えが幾つもある場合。この場合もダンタリオン君の持っている答えは、きっと正解だよ。

でもさ、答えは他にも沢山あるんだよ。

君の提示する答えは、良い物かもしれない。

けれど、それ以上に良い答えがあるかもしれないんだ。

それをさ、君は取りこぼしてしまってないかい?」


ゼパルがそう言われると、なるほど、痛い所をつく・・・と思った。

私の知識は、広くて浅い。(浅いとは言っても、人間がその道のプロになるために必要な知識量は余裕で超えているが)

だから、ゼパルの言う通り、知識の取りこぼしは絶対に起きるだろうと常々思っている。


「だが、答えが無数に存在するような事象があるのだろうか?

私にはすぐには思いつかないのだが。」


そういうと、ゼパルは「待ってました!」と言わんばかりの笑顔になってこう言った。


「あるじゃないか、僕と君の共通点!

俺たちは、同じものを司っている悪魔じゃないか。」


そう言われて理解した。


「あぁ、なるほど。”愛”についてか。」


「そうとも!

私たちは愛を司っている悪魔じゃないか。

とは言っても、ダンタリオン君は知識を欲するために呼び出されるから、愛についてのために人間に呼び出される事は少ないかな。

でも、アタシは、愛についてのためだけに人間に呼び出される悪魔!

愛についてだけは、ダンタリオン君には負けないと自負しているよ。」


そりゃそうだ。ゼパルに愛についての力は確実に負けるに決まっている。

・・・ただ、ゼパルの愛を司る力は、色々と「オワッテイル」のだが。

そもそも悪魔の力を作ってまで、恋慕を成就させようとしている時点で察する物があるか。


「私は広く浅く知識を有しているから、ゼパルのような一点集中型の知識量には負けてしまうのは必然だろう。

だが、愛というものは、そんなに沢山の種類があるものなのだろうか?」


確かに、私は人々の思考を読み取り、愛情を植え付ける事は出来る。

だが先ほどゼパルが言ったように、私は知識を欲する人間に呼ばれる事が大抵の場合なのだ。

なので愛情について司ってはいるが、ゼパルと比べると、か細い知識量になってしまう。

そもそも、そこまで愛情について考えていった事が、私には無いのだから。

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