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この世界は確かに愛で溢れていた。  作者: たま
第0章:プロローグ
3/12

10年前のとある日③

次の日からも、夏目さんに話かけていった。

下校時は一緒に帰るのが習慣になっていった。


その内、一緒に遊ぶ友達も1人増えた。


夏目さんと、その友達と3人で、公園でおしゃべりしたり、僕の家でゲームをしたり、宿題が多い日は僕の家で一緒に勉強をした。

あとは近くの神社の裏山に秘密基地を作ったりもしたっけ。


気づけば、夏目さんは学校で悲しそうな顔をする事は無くなっていた。

いつも笑顔で毎日楽しそうにしていた。

その事に気づいた時、僕は嬉しい気持ちでいっぱいだった。


(あぁ、あの時に話かけて良かった。)


このまま、夏目さんが笑顔で毎日が過ごせますように・・・。




夏目さんと友達になって1年後。


「あっくん、みーちゃん・・・私、来月転校するんだ・・・」


この頃には、夏目さんは僕のことを「あっくん」と呼んでいた。

僕も夏目さんの事は「なっちゃん」と呼ぶようになっていた。


「て、転校!?」


久々に夏目さんの悲しそうな表情を見た。


「転校って、何処に行くの?もう会えないの??」


そう聞いたのは、みーちゃんと呼ばれていた少女だ。

名前は、綾瀬美菜。

クラスの席替えの時に、隣になってよく話すようになり、気づいたら夏目さんと一緒に3人で遊ぶ事が多くなったんだ。


「うん・・・お父さんの仕事で、どうしても引っ越さないといけないんだって・・・。」

「ば、場所は何処に引っ越すの??私たちでも行けるなら、会いに行くよ!」

「大阪なんだって。新幹線とか使わないと行けないよ。」


僕も綾瀬さんも何も言えなかった。

僕たちが住んでる場所は東京だ。

10年経った今なら、行こうと思えば大阪くらい簡単に行けるけど、小学生の頃は大阪-東京間の500Kmというのはどう足掻いても簡単には行けない距離だった。




それから数週間が経った。

その間、3人の中では、夏目さんが引っ越す事はあえて口に出さずに、今まで通り過ごしてきた。

どうやっても、夏目さんがいなくなってしまう未来は変えられないのだから、その日が来るまでは、皆でいつも通り遊ぼう、という事にしていた。


いよいよ夏目さんが引っ越す時がやってきた。

夏目さんが引っ越す前日に、3人で集まってタイムカプセルを埋める事を決めていた。

ブリキ缶の中に、3人が3人への手紙を入れ、皆の宝物を入れて蓋を閉じた。

あと、夏目さんの案で、4桁の暗証番号が付いた鍵を取り付ける事にした。


「何で鍵までかけとくの?そんなに見られたくない物が入ってるの?」


綾瀬さんがニヤニヤした顔で夏目さんに問いかけると、夏目さんはブンブンと顔を横にふった。ちょっと可愛い仕草だった。


「そ、そういうわけじゃないよ!また3人が揃った時に開けたいから。

私がいない間にこっそり開けないでよ?」

「あ、開けないよ!なっちゃんが帰ってくる時まで待ってるから。」


開けない事を約束しつつ、タイムカプセルは地中に埋めていった。

埋めている途中で、僕は何気なく夏目さんに、


「ちなみに、開ける事はしないけど、暗証番号って何番なの?」


と、聞いてみた。


「それを聞いちゃったら、鍵かけてる意味が無いでしょ。バカなの?」


そうしたら、綾瀬さんにバカ扱いされた。バカ扱いされて、僕はちょっと不貞腐れた。

いや、この発言は確実にバカ発言だけども。今考えると恥ずかしい。


「い、いや、開ける気は一切無いけど。

もし、夏目さんが暗証番号を忘れた時のために、皆で覚えておいた方が良いかな?って思ったんだよ。」


これは本心。だから、暗証番号を聞こうと思ったんだ。


「あっくんらしいね。」


と、夏目さんは笑っていた。


「暗証番号は私が一番欲しかったものを語呂にしてるから、忘れる事は無いと思うけど、確かに忘れるかもしれないから、皆にも暗証番号を教えておくね。」

「あ、教えてくれるんだ。ちょっと待ってて、メモするから。」


と言って、綾瀬さんはランドセルからノートを取り出そうとした。


「あ、この番号はメモする事は禁止します!頭の中で覚えておいてほしいなって。

これが最後の遊び。次に会う時まで、この番号を覚えておく事!

もし次に3人で会う時に皆忘れていたら、それはそれで面白いしね。」


3人でこの秘密の番号を覚えておく事。

これが、僕たちの最後の遊び。

僕は「りょーかい」と言って、グーサインをしてニカっと笑った。

綾瀬さんもつられて、同じポーズをしていた。


「うん、それじゃあ番号を言うね・・・。

暗証番号は、1・・・8・・・。

い・・・は・・・って覚えておいてね。」


これが夏目さんが一番ほしかったもの・・・。

僕も綾瀬さんも、何とも言えない顔をしていたと思う。


「うん、私・・・絶対に忘れないよ!」

「僕も忘れないよ!またなっちゃんに会う時まで、必ず!」


それを聞いて夏目さんは瞳から涙が零れた。


「うん・・・二人とも、ありがとう・・・」


夏目さんの涙を見て、僕も綾瀬さんも涙が出てきた。

しばらく3人で泣いていた。


これが僕たち3人で遊んだ、最後の記憶だ。

またすぐに会えるよ!と約束を交わした。


(最後に夏目さんを泣かしちゃったな。)

(正義のヒーローなんて言ってたのに、僕は失格だな。)


秘密基地から解散して家に帰った後に、先ほどの事を思い出していた。


(次に会う時は、また夏目さんの笑顔が見たいな)


また次に会える日を僕は楽しみにした。

楽しみにしていたはずなんだ。

楽しみにしていたはずなのに・・・


次の日に、夏目さんは転校していった。

それ以降、綾瀬さんとも遊ぶ機会は減っていき、お互いに違う友達と遊ぶようになっていた。

小学校を卒業する頃には、お互いに話す事も無くなっていた。


高校生となった今では、彼女は何処の学校に通っていて、今は何をしているのかもわからない。

いや、綾瀬さんだけじゃないか・・・

夏目さんとも、この10年の間に1度も再会していない。


小学校を卒業して、中学校を卒業して・・・年月が経つ毎に、夏目さんや綾瀬さんと遊んだ記憶は薄まっていき、10年経った今では、タイムカプセルを埋めた事すら忘れてしまっていた。


だから、夏目さんに10年振りに再開した時に、すぐには夏目さんだとは気づけなかったんだ・・・

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