10年前のとある日①
俺がまだ小学生だった頃の話だ。
今から約10年くらい前の話。
クラスメイトにいつも虐められていた女の子がいたんだ。
その子の両親は、彼女が生まれてすぐに離婚したらしい。
親権は父親側になったので、彼女には母親が生まれつき「いなかった」んだ。
その事をクラスの連中はバカにしていた。
「何で授業参観にお母さんが来ないの?」
「え?お母さんがいないの?そんなのおかしいよね。」
「お母さんがいないで、ご飯とかどうするんだろう??」
「アイツはきっと普通じゃないだよ。だから誰とも話そうとしないし。」
とか色々な事を彼女の目の前で話てたクセに、教師の前では全く話題に挙げようとしない辺り、かなり陰湿だった。
彼女も最初は反論していた。
けど、イジメてた奴らは彼女の事をひたすら無視した。
ひたすら彼女の事を無視してるクセに、自分たちは彼女に聞こえるように、悪口をずっと言っていた。
次第に、彼女も反論する事がなくなり、いつも俯いて、暗いような悲しいような顔をしていた。
だからこそ、彼女へのイジメが加速していたんだと思う。
日に日に彼女をイジめる奴は増えていった。
そんな異質な雰囲気のクラスの中で、俺はというと・・・バカだから、イジメが起きてる事には全く気付いてなかった。
ただ、彼女がいつも悲しそうな顔をしているのは知っていた。
(今日の給食に嫌いな物が入ってたのかな?)
(好きなテレビ番組が終わったのかな?)
とか、色々と的外れな事を思っていた気がする。
ただ、毎日悲しそうな顔をしているのだから、流石にバカの俺でも気づいた。
(何かわからないけど、彼女は困っているんだ!)
当時流行していた、日曜日の朝に放送しているヒーロー番組の主人公に憧れていた俺は
(困っている人を助けるのは、ヒーローの役目だ!)
という子供っぽい理由で、放課後に彼女に初めて声をかけた。
「ねぇ。えーっと・・・夏目さん?」
彼女・・・夏目さんに声をかけると、一瞬ビクっとして、こちらに顔を向けた。かなりオドオドした表情で。
「え・・・な、何?」
これが、彼女・・・夏目さんと友達になった最初の日だ。
10年も経ってしまった今では、何かきっかけでも無ければ思い出せないような朧げな記憶。
もし・・・もしも、この時の出来事を少しでも覚えていたのなら・・・
彼女の悲しい運命を変える事が出来たはずなのに・・・