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序章 親のすね
後ろを振り向くと、女性が吐瀉物のトマトを踏み潰し、転んだ。
事態を理解していないのか呆然とする女性に、周囲の人間はすかさずスマートフォンを取り出し撮影を開始する。
その直後、不快と憤怒の入り交じった表情をする女性。
SNSが急速に発展した昨今、俺たちを取り巻く環境は大きく変化した。
国民の大半が高機能の携帯端末を所持し、いつでもどこでも世界中にアクセスする事が出来た。
カメラ機能を使えば決定的な瞬間を撮影し、全世界にアップロードする事も出来る。
そこに倫理や道徳なんてあろう筈がなく、女性の人権はこの瞬間完全に踏みにじられたのだ。
世界幸福度ランキング2018で堂々の54位に選ばれた日本に俺は住んでいる。
こんなランキング所詮は一部の人間による都合のいいもんであると俺は思う。
SNSをみるとみんな幸せそうな笑顔を撒き散らして不景気ってなんだっけ?と思わず忘れてしまう。
そんな時代に無職童貞引きこもりの三重苦を抱える三十路間近の内藤隆(つまり俺)は、両親に愛想を尽かされ風前の灯であった。