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真価

お待たせしました。

短めですが、竜の試練……開幕です。

それは、静かな進軍から始まった。

それにいち早く気づいた自然神は、周囲に獣たちを侍らせながら、ゆっくりと頭をあげる。


「愚かな……」


その言葉に秘められているのは、失意か、それとも、


「そこまで愚かだとは思わなかったぞ、人間の王よ!」


森を激震させる主の憤怒に、周囲を囲んでいた獣たちは震え上がる。

そんな彼らを尻目に、自然神は髪の代わりとなっている枝をざわめかせながら、寝床である洞窟を飛び出した!

そして、


「この我に、よほど食い殺されたいと見える!」

「さぁて、それは試してみなければ判らんぞ?」


青い槍を携えた人王と、激突を開始した!



…†…†…………†…†…



「心配?」

「……まさか、彼は僕に勝ったんだよ?」


それと同時刻。フワウワの森に向かってエルクの人々が、王の無事を祈って一心不乱に祈りを捧げるなか、研究室にて寝床に入っていたシェムシャーハは、そわそわとした様子が隠せていないネンキドゥに問いかける。

ネンキドゥは、疲れている彼女に心配かけまいとしたのか、一度は否定の言葉を告げたが、


「……………」

「少しだけ……ね」


すぐに、じっと見つめてくるシェムシャーハの目はごまかせないと悟ったのか、ため息と共に、自身がギルガメスを案じていることを認めた。


「彼がいくら強くて、あの槍を持っているとしても、さすがに相手が悪いからね。万が一の可能性も」

「万が一? 違うわ、ネンキドゥ。絶対に勝てないの。あの森で生まれたあなたは本能的にそれを理解している。だから、これほど王を案じているのでしょう?」

「っ!」


だからシェムシャーハも、隠すことはせずに事実だけを告げた。


「フワウワは王が言っていた通り、人には勝てないものとなっている。いくらギルガメス王が神の血を引く御仁とはいえ、体に半分流れる人の血がフワウワへの勝利を阻むわ。例え通じる武器を手に入れたとしても、そもそも挑むこと自体が無謀な挑戦だわ」

「だったら!」

「でも、今の王は希望を抱いているわ。勝てるかもしれない。理不尽に民を奪うあの化け物を、今こそ倒せるかもと。あの人にとってはそれだけで十分だった」


わかる、ネンキドゥ。そういいながら、シェムシャーハはそっもネンキドゥの頬に触れ、


「長い、諦めと絶望の闇の中にいたあの人を、あなたが救ったのよ。きっと勝てると、あの人に明るい光を見せたのはあなたなの」


「先生……」

「あなたは、私たちには出来なかったことをやってのけた。王を救って見せた。だから、あの人を無謀な戦いに駆り立てたからと言って、あなたが後悔することはない。少なくとも、私は助けてもらって感謝しているわ」

「でも、このままでは勝てないんでしょう?」

「……それは」


ネンキドゥの問いかけに、シェムシャーハは一瞬口を閉ざした。それが何より雄弁に、ギルガメスの末路を語る。

だから、


「先生、僕いくよ」

「ネンキドゥ!」


言うと思ったと、シェムシャーハは声を荒げる。お願いだから、もうこれ以上心配をさせないでくれと。だが、


「先生が言った通り、あいつに希望を抱かせたのは僕だ。なら、責任は取ってやらないと。それに僕は……なんだかんだ言って人じゃないからね」


そういって、粘土の怪物は――純正な人外は、背中に巨大な翼を出現させ、研究室の窓から飛び出した! そして、


「だから、行ってきます。先生。帰ったら戦勝祝いに何か好物を御願い!」


そんなのんきな言葉を残し、ネンキドゥは飛び立った。

みるみる小さくなる空を飛ぶ怪物に、シェムシャーハはそっとため息をつき、


「行っちゃいましたね」

「そうね。まったく、誰に似たのか」

「育ての親じゃないですかね?」

「なるほど、つまり先輩としてのあなたの教育が悪かったのね」

「いえいえ、教えの大多数は、町の人のために自らを犠牲にしようとしたどこぞのバカな人が与えたものですから、きっとその人の影響ですよ」

「……言うようになったじゃない?」


怒りに頬をひくつかせながら、口の減らない一番弟子にも、ため息をついた。



…†…†…………†…†…



こうして始まった、後に神話として語り継がれるフワウワ撃滅戦。その結末は、今は誰にもわからない。だが、その結果を待つ前に、


「はぁ……ハアッ……!!」


もう一つの戦いが、静かな幕を開いた。

狩り立てられるのは、すでにエルクの辺境まで追い詰められた女神……シェネ・レート。


「まだ、まだっ!」


全力で森の木々の中を走り抜ける彼女は、恐怖に顔をゆがめながら、頭上を降りあおぎ、


「捕まるわけには……っ!」


瞬間、頭上の枝葉の障害などものともせず、シェネの背後の地面に、弾丸がつきたった。


「……戻ることは許さないってことですか」


その位置は明らかにバビロニオンに戻る道を塞ぐもの。

彼等はこのまま自分をそとに叩き出すつもりだと、シェネは悟る。

だから、


「いいですよ、マスター。あのギルガメスが育ちきるまで、邪魔はさせません!」


――マスターと、この世界を守るために、この追走劇、逃げ切って見せる!


そんな決意を胸に秘め、シェネは封じていた力を振るうことを決める。


「いきますよ、マスター」


それがどうしようもない間違いだと気づきながら、彼女はもう止まれない……。

自分にはもう戻る場所はないのだと、地面を弾けさせた弾丸が語っている気がしたから……。



…†…†…………†…†…



「それじゃ、行ってくる」

「あぁ。精々派手に暴れてこい」


そして、シェネがバビロニオンの勢力圏から出たとき、それは動き出した。

いつものような雨外套を身に纏い、その下にはいつもは着ていない防御用のチョッキを着ている。

腰に巻き付いたポーチに仕込まれているのは、物騒な手榴弾や、スタングレネードといった、爆裂武装だ。


腰に下げる武器は、頑なに二丁拳銃のままだが、それでも武装は確実に充実していた。


「待っていろシェネ。お前の暴走は、ここで止める。そして……」


そういって、ソートは海底の神界から飛び降り、


「話をしよう……。ああ、俺たちに足りないのは、たぶんそれだ」


走るシェネの眼前へと、とてつもない早さで落下していった。

住みかも勤務地も近畿なので、がっつり電車の影響がががが……。

私としては電車に閉じ込められたことより、帰る手段がないのが辛かったですね……。幸いなことに京阪が夕方には動いたので、無事家に帰れましたが。


という訳で、ようやく電車が平常運転で動いたので、執筆時間の確保に成功しました。

お待たせして申し訳ありませんでした。次もできるだけ早くあげたいと……え? なに? 待ってない? そういわずに!

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