三日の交わり
注:性的表現が含まれています。ぎりぎりセーフのラインだと思いますが、苦手な方はご注意ください。
それにしてもエンキドゥを原点にした話はやはりこうなるよね……。
「しぇ、シェネ様……一体何をしにこんなところまで」
「いいからついてきてください。それにしても意外ですね。獅子の保護なんか訴えていたから、動物なんかはみんな可愛い愛すべきものだと考えているのだと思っていましたが……」
「まさか。彼らは私達に人にとって恐るべき外敵です。ですが、世界はいくつもの生命体によって、緻密なバランスで組みあがっています。私たちの都合で、好き勝手に滅ぼしていい生物はいないのだと、知っているだけです」
深夜。フワウワの森にて。
白い外套を纏った女神に道案内をされたシェムシャーハは、森の奥から聞こえてくる獣たちの声にびくりと体を震わせる。
彼女は博愛主義者であり、世界最古の動物愛護精神の持ち主だ。だからと言って、動物が危険でないなどとは思ってはいなかったりする。
それはそうだろう。動物とはすなわち人が失った野生の住人であり、そこに人の倫理観と言った思考は存在しない。
腹が減ったから食う。弱そうだから襲う。そこに道理や理由はなく、ただそうだからという理由で彼らは人を害するのだ。ましてや魔獣フワウワの森はその動物たちの宝庫。怯えない理由がない。
彼女はあくまで今ある世界を壊さないために獅子の乱獲を止めただけであり、そこには情も希望もなく、ひとりの世界の住人として維持すべきバランスを保とうと考えただけにすぎない――と彼女は語った。
「まずいですね。これは人選を間違えたかも……」
「え?」
「いえ、なんでも」
そんな無味乾燥な言葉を紡ぐシェムシャーハに、シェネは僅かに冷や汗を流しながら後悔したが、ここまできてまた候補探しをしている余裕もないと、そのまま道案内を続行。吉と出ることを祈りながら、森をかき分け目的地を目指す。
「それにしても、フワウワの森のこんな奥深くまで来られるなんて。いったいどうして? 普通なら一歩でも森に足を踏み入れれば、その匂いを察知してフワウワが飛んでくるのに」
「あぁ、それは私がメニュー画面で……ゲフンゲフン! 魔法を使って結界を張って、においの拡散を封じているからです。私が歩いた後に正確に続いてさえいれば、あと三日ほどはフワウワのに感知されることなく森を行き来することができるはず」
「結界の通路ですか!」
さすがは創造神ソートの眷族と言ったところか。神々も恐れ、そろそろ自然神として奉るべきではないかと、神官たちの間でささやかれるフワウワすら騙し切る結界とは。そんなものが張れることから、格の違いを伺うことができる。
「ただし、他の人々には内密に。今は私が気配消失と、視覚攪乱の魔法によって獣たちはフワウワに視認できないようになっていますが、結界自体には臭い封鎖の機能しかありませんので、運が悪ければフワウワに鉢合わせなんてことも……」
あるかもしれませんよ。と、シェネが呟いたとき、それが現れた。
「ちぃ。妙な違和感があるが……なんだこれは。何も見えないぞ?」
「「……………」」
二人の女がどっと冷や汗を流しながら止まる。
その眼前には、岩の鱗に覆われた巨体と蔦の頭髪があった。
魔獣フワウワが、六本の腕を蠢かせる蛇のような頭を振りつつ、森の闇の中から姿を現したのだ。
もう涙をダラダラ流し必死にシェネに縋り付くシェムシャーハに、シェネは体の震えが悟られないように、極力体を硬直させる。
そんな彼女たちにフワウワはそっと頭を近づけ……。
「スンスン」
「………………………(マスター)!!」
思わず目をつぶりソートに祈るシェネの周りの空気をかいだ。そして、
「ちぃ……。やはり気のせいか?」
その言葉を最後に踵を返したフワウワが、再び森の闇の中へと消える。
シェネはそれにほっと安堵の息をつき、
「さぁ、行きますよシェムシャーハ。目的地はすぐ」
フワウワが去ると同時にその場にへたり込んだシェムシャーハの手を取った。
だが、
「ま、まってください……」
「なんです。今のであまり長くこの森にいるのは危険だと分かったでしょう。早くしないとまた戻って……」
そこまで言った時、シェネは気づいた。
へたり込んだシェムシャーハの足元から、独特のにおいのする液体が広がっていくのを。
「あ……あぁ。まぁ、仕方ないですよね。う、うん。あんなに怖い目にあったのなら恥ずかしがることはないですよ?」
それを見て、顔をひきつらせつつ慣れないフォローを入れてくるシェネに、シェムシャーハはただ一度。
「――ヒンッ!」
鼻をすすりあげながら、泣き声を漏らしかける口を封じた。
ここは魔獣フワウワの森。一つの油断、一つの安心が、次の瞬間自分の命を刈り取ると嫌というほど理解したから。
…†…†…………†…†…
そうこうして彼女たちがたどりついたのは、何か巨大な岩が崩れ去ったかのような瓦礫の山だった。
「……なんです、これ?」
「あれ? おかしいわね……ここから動くような知能はないはずなんだけど」
シェネはその場で何かを探すようにあたりをうろつくが、あるのはただの瓦礫の山だ。それ以外には何もない。
「いったいなんだったんですか」
無駄足の気配を感じとり、人としての尊厳を失ったあげくたどり着いたのがこんな場所だという事実に、シェムシャーハは若干ブルーになる。
学者として世界の生態系を解き明かし、不用意な干渉が環境の破壊につながると知った賢者シェムシャーハであっても、さすがにここまで不毛な労働に関しては、不満の一つも漏れるらしい。
人間らしく頬を膨らませながら、彼女はあたりをうろうろするシェネをしり目に瓦礫の一つへと腰かける。
――何もないのなら、早く帰してほしいんだけど。
と、内心の態度もやや非友好的だ。先ほどの経験がよほど腹に据えかねているらしい。
そんな中、
「ん?」
座っている瓦礫の上においていたシェムシャーハの手に、何かが触れたのを感じ取った。
なんだなんだと視線を向けると、そこには変わった質感を持つ蛇がいて……。
「って、なにこの蛇?」
明らかに普通の蛇ではないことを、動物学者であるシェムシャーハは一瞬で見抜く。
なにせ、灰色の鱗をしているだけならまだしも、その鱗があからさまに硬質な光沢をもっておらず、どちらかと言えば触れたらへこみそうな、柔らかさとねっとりさを兼ね備えた物質のような雰囲気で……というか。
「粘土じゃない? これ?」
世界はいまだに驚愕に満ちているわね。と、シェムシャーハはその粘土の鱗を持つ蛇を手に取った。
当然のごとく蛇は悶え、シェムシャーハの手から逃れようとするが、鱗がねっとりした粘土であることが災いし、がっちりシェムシャーハの手にホールドされ、抜け出すことができない。
そして、触った瞬間仮説に確信をもてたシェムシャーハは、暴れる蛇をしり目にまじまじとその姿を観察していて……。
「やっぱりこの鱗、粘土だわ。体は普通の蛇みたいだけど鱗だけは粘土……。いったいどうして? 鱗は本来やわらかい体を守るための防御機構なんだから、わざわざやわらかい粘土で形成する理由なんて……。今だってガッツリ捕まって逃げられないし」
動物学者としての本能がシェムシャーハを深い至高の海へと導く。これほど変わった動物、研究者として見逃すわけにはいかなかったのだろう。
だから彼女は、次に起こった出来事への反応が遅れた。
蛇は彼女から逃れられないという事実に気付き、諦めたのだ。
せっかく学んだ姿のままでいることを。
何より彼女から逃れるためには、彼女と同じ姿になるのが手っ取り早いと判断してしまった。
というわけで、蛇は敢行する。
「っ!? シェムシャーハ!? その蛇から離れなさい!」
「へ?」
さっきまでしていたように、自分の中に相手を取り込み、体の隅々まで調べつくして同じ姿になろうと。
結果として蛇は頭部を瞬時に崩し、巨大な粘土の塊になってシェムシャーハを覆い尽くした!
「なぁっ!?」
――動物じゃない!
その事実にシェムシャーハ気づくが、すでにあとの祭り。慌てた様子でシェネも駆け寄ってくるが、それよりも早く粘土の塊はシェムシャーハの体を飲み込んだ。
…†…†…………†…†…
「何やってんだアイツ!?」
その光景を海底の神界から見ていたソートは、慌てた様子で立ち上がり、下界へ降りるためのメニュー操作を始める。
結局、シェネをどうするか判断できなかったソートは、暫くシェネを泳がせると結論した。
自分から逃げ回るシェネが、果たして何を考え、何をするのか……。せめてそれを観察してから、判断しようと考えたのだ。
人はそれを逃げというが……ソートのその判断をU.Tは咎めなかった。良くも悪くもこれは所詮ゲーム。やりたいようにやればいいというのが彼の意見だったし、二、三度話したこともあるサポーターがサクリファイスされるというのも、寝覚めが悪かったからだ。
だが、結果として待っていたのはひとりの女の人が、粘土に食われるという異常事態。流石の二人もこれには焦った。
「どどど、どうすんだよこれ!? どうなんよこれっ!?」
「お、落ち着けソート。粘土だから消化器官はないはずだ! 実際食われたわけじゃない!」
「いや、だとしてもアウト臭いだろこれ!?」
言いあう二人の視線の先では、シェネが丸くなって動きを止めた粘土をポカポカと叩き、
『こらぁっ! 何してんのバカ息子っ! そんなの食べちゃダメっ! 早くペッしなさいペッ!』
と、割と失礼なことを言いつつも、こちらの不安をあおってくるような叫び声をあげている。
――やはり食われたのでは?
と、ソートが顔を青ざめさせるなか、U.Tは震える手で映像を操作し、
「お、おいなにをするつもりだやめろっ!?」
「ば、バカ野郎。中の確認をしないことにはもう手遅れかどうかすらわからんだろうが。こわいけど……R18機能が働いて、グロ画像は見える程度に処理されるはず。助けるかどうかは、中の確認をしてからでも遅くは!」
ソートたちの脳裏に浮かんでいるのは、半ばまで溶かされ激痛にさいなまれる一人の女の姿。
だがそれでも、まだ助けられるのか、もう無理なのか……それを知っておかないと今後の動きを決めることはできないと、U.Tは粘土内部の投映を断行する。
そして――!!
『ひゃっ!? ど、どこはいっているの!? いや、そこはらめっ! 今ちょっと漏らしたところだから! 今ちょっと汚いからひゃぁああああああああああ!?』
『やだっ!? どこさわってくっ!? ま、まって! まってってば、そんなに強く絞られたら――あっ!!』
『いや、やめて!? そんなに太いのはいらないから! 入らないって、ひいっん!? 耳、耳はやめて、そこよわいのぉお!』
『も、もう許して! もうやめて! 今逝ったばかりだから! 敏感になってるから、いぎぃいいい!? も、もうむり! もう無理、飛んじゃう! もうもどっれないところまで飛んで行っちゃうのぉ!?』
「「………………………」」
別の意味でR18指定になっていた映像に、二人はそっと画面を閉じる。ちなみにモザイクがかかっていたため明瞭な映像は見られなかった。R18フィルターは相変わらずいい仕事をしているようだ。
「よ、よかった。大丈夫そうだね!」
「いや、別の意味で大丈夫じゃなくなっていただろう……」
「い、命の危険という訳じゃなくてよかったなソート!」
「人としてはもう死んだも同然だと思うが……」
粘土にいろいろアレされてしまったシェムシャーハの心境はいかにと、ソートは内心で黙とうをささげた後、
「さてと、ちょっといったん世界止めるわ」
「お、おうそうだな……」
「お前どうする?」
「30分後くらいに合流しようぜ。俺ちょっと、秘蔵のお宝出しにくいところにあるから」
「だからデータ端末に落としておけと」
「ばっきゃろう! 紙媒体だからこそいいんだろうが!」
取りあえずシェムシャーハの声でいろいろ催していたので、現実世界で賢者になってから作業を続けることにした。
…†…†…………†…†…
粘土の調査は三日ほど続いた。
それほど人という存在は複雑かつ、興味深い存在だったのだろう。
汗のにおいに思考回路。脳に走る高度なニューロン細胞に、繊細な動きを実現する細やかな筋肉と、それらに指令を出す神経回路。
脳に活力を与えるための血液回路の精査だけでも、一日の時間を要してしまった。
それらすべてを模倣し、それらすべてを網羅していく中、粘土はふと気づく。
――あれ? そういえばこの人さっきから動かないな……。
と。
再び脳回路を調べてみると、どうやら彼女は体の隅々まで調べつくされた際に、快楽神経を刺激され、脳が焼切れるほどの快楽に侵されていたらしい。
それに脳が限界を迎え、一時的に思考を停止したようだった。
それにより彼女はかろうじて生命活動を維持しているが、このまま調査を続ければ廃人一歩手前になりかねないという事実が判明した。
――それは困る。
粘土は考える。まだまだ聞きたいことも調べたいこともいくらでもあるのだ。ここで彼女を失うのは、粘土にとっても大きな痛手だった。
というわけで、
…†…†…………†…†…
「ぺっ!」
「あぁ、ようやく出てきたわね……。喉が痛い。どれだけ叫ばせれば気が済むのよ」
三日目の夜。ようやく粘土がシェムシャーハを吐きだしたのを見て、シェネはため息とともにシェムシャーハへと歩み寄った。
「生きてる?」
「えへぇ……」
「うわぁ……」
ちょっと言葉にするには憚られる顔をしているシェムシャーハの姿に、シェネは思わずひいてしまった。自分で呼んでおいてこの態度。なかなかふてぇ神様と言えた。
「ちょちょっと、廃人になっていませんよね? 脳の回路とかは大丈夫そうですが、戻ってきてください!」
「おひゃなが……おひゃな畑が……」
「こっちの冥界は無味乾燥な荒野だと聞いていますが……」
いったいどこに到達しかけているんですか。と、シェネがシェムシャーハの今後に不安を感じる中、それは姿を形作った。
「え?」
目の前で粘土塊が姿を変えていく。
ふっくらとした胸部に、灰色の髪。
女性にしては高い身長と、それに合わせてすらりと伸びた手足が美しい、均整のとれた体つき。
その顔は端正に整えられ、力を感じる灰色の瞳が開かれた目蓋の下から現れた。
そう、それはまるでシェムシャーハの生き写し、髪の色と瞳の色だけが違う、美しい美女が粘土の塊の次の姿だった。
唖然とするシェネに対し、粘土が化けた女性は言う。
「おはよう、お母様」
吠えるだけしかできなかったはずの粘土の塊が、確かに言葉を発したのだ。
…†…†…………†…†…
そのころ、ギルガメス王は。
「三番中隊! 設置していた罠を展開! 追い立てろ追い立てろ! それが最後の群れだ!」
「「「「おぉおおおっ!!」」」」」
率いている軍勢と共に、エルク近郊へとやってきた獅子達の討伐を完遂しようとしていた。
幾頭もの犠牲をだし、さらには眼前には待ち構えていた敵が迫る状況で、これは勝てないと逃げ回っていた雄獅子もようやく覚悟が決まったらしい。
走っていた群れを咆哮と共に停止させ、反転。後ろから迫る部隊の先頭にいたギルガメスめがけ、群れ全体での吶喊を敢行する!
「我が王っ! おさがりを!」
「戯けっ! 命を賭して己が尊厳まもろうとする戦士相手に、王たる俺が背を向けられるかっ!」
それを見てギルガメスの身を案じた兵士が提言するが、ギルガメスはそれを一蹴。
群れとともに襲い掛かり、とびかかってきた雄獅子めがけ、固く握りしめた拳を振りぬいた!
「野生の王よ! その心意気やよしっ! ならばこの俺も、なけなしの野性を振り絞りお前に挑もう!」
そしてその拳は獅子の到達よりも前にその顔面を打ち抜き、拳を食いちぎろうとかみしめられた牙ごと獅子の頭蓋を殴り砕いた!
だてに半神半人ではないらしい。通常ならば殴り砕くことなどできぬ頭蓋を粉砕し、牙をへし折ってなお、拳はいまだ原形を保っていた。
そして、雄獅子の敗北を見て臆病風に吹かれた雌獅子たちが慌てて逃走を再開しようとするが、もう後の祭りだ。
反転突撃したせいで、彼女たちはすでに包囲の中へと取り込まれている。
自分たちを取り囲む武器を持った人間に、怯えた様子を見せる雌獅子たち。それを見て兵士の何人かは気まずそうに顔をそむけるが、
「この雄獅子に免じ、嬲ることは許さぬ。だが同時に容赦もするな。奴らはすでに人の味を覚えている。ここで見逃せば再び人を襲いだすだけだ。確実に殺せ」
「……はっ」
ギルガメス王の命令は速やかに……確実に実行された。
…†…†…………†…†…
そうしてギルガメス王の獅子討伐は終わった。このことは後の叙事詩において、素手で獅子を殺した偉大なる勇者の行いとして記されることになる。
だが神々はどうやら彼にさらなる試練を与えたいようだった。
討伐が終わり、天幕へと帰ってきたギルガメスを待っていたのは、遠征始まって以来の大珍事。それが新たな騒動の幕開けとなる。
「……なんだこれは?」
「も、申し訳ありません、ギルガメス王! すべては私の監督不行き届きが招いた」
「言い訳は良い。俺はなんだこれはと聞いているのだ?」
顔を引きつらせるギルガメスに対し、獅子の死体の処理などを行っていた部隊の隊長が、部下が抱えている一頭の子獅子へと視線を移した。
そう、子獅子だ。
一匹残らず殺せと命じた獅子が、どういう訳か生き延びている。
完全なる王を目指すギルガメスにとって、それは非常にまずいことだ。
「も申し訳ありません。死んだ獅子の腹の中にこの子がいて……このつぶらな瞳を見てしまってはどうしても殺すことができず、今まで育てていましたぁっ!」
「わ、我が王! お、お願いいたします。この子にはまだ何の罪もありません。人の味ももまだ覚えていません! ですからどうか、どうかお目こぼしをっ!」
「えぇい貴様らっ! ガッツリ情に流されているなっ! 例外はないといったはずだ! 早くその獅子を」
命令の撤回、および不履行は、下から舐められかねないことであると知っていたからだ。だから、ギルガメスは、頭痛を覚えながらもとにかく部下に命令を徹底させようと、怒号を上げかけ、
「……きゃう?」
「うっ!」
子獅子のそのつぶらな瞳を見てしまった。
自分の身が危ないと悟っているのか、あざとさ全開で目をウルウルさせて来るそいつに、ギルガメスは思わずたじろぐ。
そして、
「ま、まぁ確かに人の味は覚えていないようだしな。うむ。王たる者、寛容さを見せるのもまた勤めか」
「「我が王っ!」」
――おのれっ! これが敗北の味というモノかっ!
と、ギルガメス王に初めての敗北を味あわせるという、ある意味とんでもない偉業を成し遂げた子獅子を抱え、死体処理部隊の兵士が喝采を上げる。
が、
「だが、今はかまわんかもしれんが大きくなれば貴様等でそれの面倒をみられるのか」
「「うっ!」」
ギルガメスの冷静な部分が、するどくそれを指摘した。
そう。今がどれほど可愛くとも、獅子は獅子。大きくなれば自分たちの脅威となったあの獅子達と同じ体と性格になるのだ。ただの兵士では御しきることは難しいだろう。
「うぅ……我が王。何とかなりませんか」
「そうですよ! 偉大なるギルガメス王ならきっと何か妙案を持っておられるはず!」
「貴様らっ!」
――おべっか使っておだてさえすれば、なんでもホイホイいうこと聞いてもらえると思うなよ!
と、ギルガメスは額に青筋を浮かべたが、
「ん? まてよ」
そこでふといい案を思いついてしまった。
そういえば獅子の保護を訴えていた女がいたなと。
「ふむ。奴に調教させてみるか。一方的に申し出を却下してしまった形だしな。不満はさっさと解消しておくことに限る」
「「え?」」
こうして、シェムシャーハの元に厄介な奴ら二名――もとい一人と一頭が集まることになった。
この判断が後々の大騒動に発展することなど、この時のギルガメスはまだ知らなかったという……。




