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ナーブの決意

お、お待たせしました……就活で忙しくて!


まだ決まってないから忙しくはあるんだけどねッ(号泣


とは言え悲観しても仕方ないので、息抜きがてらに投稿。

割と鬱い話になる予定なので、極力さっさと終わらせに行きますともっ!

 WGOにおいて、冥界とはかなり特殊な意味合いを持つステージだ。

 いうなれば、某ゲームにおけるハグレ●タル。

 ハメ技による経験値収集スポット。

 種火周回……。


 まぁようするに、豊富な経験値と、神器覚醒を促してくれる素晴らしいステージということだ。

 なにせ、死の世界であるがゆえにデスペナルティーが発生しないうえ、基本的に亡者は世界に対して反抗的であるがゆえに、敵性存在には困らない。おまけにそれを抑え込むことで、黄泉の祟りを封じる神としての信仰が得られる。


 例外があるとすれば、仏教の地獄のような秩序が取れた裁判システムがある場合はそういうわけにもいかないが、原始の冥界においてはその心配もない。まず下界の裁判自体が未成熟であるがゆえに、基本的に冥界にそのシステムが持ち込まれる可能性が低いからだ。


 現在の冥界とはあくまで死した人間が落ちる場所。それ以上でも以下でもない。

 神の管理すらあまり行き届いていない、不毛にして、無法なる大地――それがソートの世界における冥界のありようだった。



…†…†…………†…†…



「来たね……」


 漆黒の巨石によって作り上げられた巨大神殿。冥界の北部中央に存在するこの神殿は、亡者たちの女王であるエシュレイキガルの本拠地であった。

 その頂上に設置された、巨大な岩の寝台。そこに寝転んでいた少女は、傍らに転がっているジャッカルの人形を抱きしめながら、神殿の階段を上ってきた女神をねめつけた。


「こんばんは、お姉さん。私はエシュレイキガル。冥府の女神にして、死者たちの女王だよ?」

「こんのっ! ぬけぬけとっ!」


 輝くほどの黄金の髪に、怒りに燃えた紫の瞳。地上に満ちる生命そのものと言っていい女の姿に、エシュレイキガルは不機嫌そうに目を細めた。

 彼女はすべてを持っていると理解できたから。

 かつて自分が得られなかったものを、すべて保有していると、見ただけで思い知らされたから。


――あぁ、そうね。この感情はきっと。


「よくも私から色々と奪ってくれたわね! こんな薄暗いところにもう一秒だっていられるものですかっ! さっさと私の命数を回復させて、私を地上に送り返しなさい!」

「何を言っているの?」


――嫉妬というモノね。


 それを悟ったエシュレイキガルは、ギャーギャー喚く全裸の女性――イシュルに口元を吊り上げた。


「どうして私があなたの命令を聞かないといけないの?」

「え? どうしてって……わ、私は天の女主人よ! エアロの娘で、豊穣の女神で!」

「そうね。でも冥界ではその力は関係ないわ」

「――っ!」


 にべもなく言い放たれたイシュルを否定する言葉に、イシュルは顔を真っ赤にして怒りをあらわにし、考えるよりも早くエシュレイキガルに襲い掛かろうと全身に力を入れる。

 だが、


「不躾な女には、磔がお似合いかしら? ねぇ、ネルルガル」

「っ!」


 その襲撃は未遂に終わった。

 エシュレイキガルの呼びかけと同時に、何もないはずの空間から死体が寄り集まった巨大な腕が出現し、イシュルの体を床へと抑え込んだのだ!

 腐った死体の集合体だというのに、その腕は万力のような力で、イシュルの体を締め上げてくる!


「痛い! イタイイタイ痛い痛い痛い!」

「ふふふ。これでわかったかしら? ここ冥界において、あなたと私、どちらの方が上の女神であるか」


 やがて腕が現れた虚空から、ズルズルと腐敗した巨体が現れる。

 そしてその体は、指先から青白い肌に包まれ始め一人の巨人の姿を固定した。


「私の名前はエシュレイキガル。天を統べるあなたと対成す、地底を統べる《冥府の女主人》よ。この大地の底において、あなたに好き勝手させないだけの力はあるよ。おねえちゃん」


 不気味な笑みを浮かべるエシュレイキガルの元に、次々と現れるのは彼女の眷族たち。

 神殿に匹敵する巨体を持つ死骸のジャッカル――ヌアビスに、神殿にのしかかるような姿勢で完成した死の巨人――ネルルガル。

 そして、


「それで、女王陛下。いったいどうなされるおつもりですか?」


 幼いエシュレイキガルに変わって、罪人の収容管理を行うようザバーナに作られた、エルク世界でもっとも有名な白骨死体、


「陛下の侮辱に並び、暴行未遂となれば――骨檻への収容五万年が固いですが」


 白骨宰相――ナムルタの登場である。



…†…†…………†…†…



「……またなんとも、殺風景な場所だな」


 システムの光を飛び散らせながら、久しぶりに下界に降りたソートの第一声はそれだった。

 ソートが下りた冥界の風景は、まさしくその感想が正しいありさまだった。

 太陽のない真っ黒な天空に、真紅に輝く地平線。

 草木一つはえていない大地には、代わりと言わんばかりに無数の白骨によって作られた檻がいくつも生えており中には光り輝く蒼い人魂が納められている。


「これが噂の骨檻か。意外としっかりしたつくりをしているんだな……じゃなくて」


 というわけで、一しきり下界とは一風変わった冥界の景色を見廻したソートは、


「おいシェネ。どういうことだ? 俺はエシュレイキガルの神殿に直接下りるように設定しておいたはずだが?」

『あっれぇ? おかしいですね……バグかな? 運営に報告上げておきますね?』


 なにやら白々しさすら感じるシェネの言い訳に思わず半眼になった。

 さきほどの発言の通り、ソートは直接エシュレイキガルの神殿に乗り込み、イシュルを一時保護する予定だったのだ。

 だが、結局ソートが到着したのは、冥界の広大な大地のどこか。

 エシュレイキガルの神殿など影も形も見えなかった。


「どうするんだこれっ! 助けが間に合わない可能性が出てきたぞっ!」

『ま、まぁまぁ、落ち着いてくださいマスター。ひょっとしたら意外と意気投合して、あっさり地上に帰してくれるかもしれませんし』

「あのクソビッチが人の神経逆なでしないわけないだろうが!」

『なんですか、その嫌な信頼は!?』


 とはいえソートの意見はシェネも大いに同意だったのか、シェネから天界視点のウィンドウが届き、冥界全土の地図がそのウィンドウに表示された。


『マスターがいる場所はちょうど冥界の真ん中あたり。ザバーナの支配領域とエシュレイキガルの支配領域の境目当たりの場所です。エシュレイキガルの神殿は……冥界最北端のこの場所。どうも前は二つに分かれていた階層が、地盤崩落か何かで傾斜の形になり、一つに繋がっているみたいなので、マスターは傾斜になっている大地の上を目指していけばエシュレイキガルの神殿にたどり着けることになります』

「道理で傾いている気がしたわけだ」


 とはいえ、広大な冥界そのものが傾斜になっているためかその傾斜は緩やかなものだ。若干傾いている欠陥住宅程度の感覚である。登ること自体は支障はないが……。


「お前これ……その『広大な冥界』ってこと自体が大問題だろうが!」


 豆粒程度の自分のマークに対し、冥界の大地はあまりに広大過ぎた。地図の端に書かれた縮尺を見るに、沖縄から北海道程の距離があると計算できる。はっきり言って人間の足で踏破するのは難しく、ソートのハイスペックボディーに頼ったところで、たどり着くにはかなりの時間がかかる。


――これはほぼ詰んだか?


 そうソートが思い、膝をついたときだった。


『おや……なんとっ!』

「ん?」


 突如として天空から声が聞こえてきた。

 どこか聞き覚えのあるその声に、ソートは思わず天を振り仰ぐ。

 すると、突然ソートが膝をついた大地が青々と茂る芝生によって埋め尽くされ、


「いっ!」

「トーソ殿! いや、ソート様! 久し振りであるなっ!」


 天から巨大な獅子が出現し、ソートの眼前に降り立った!

 その獅子に騎乗するのは、同じく巨大化してその獅子に乗っても違和感がなくなった巨人の男。生前にはなかった力を手にしたエルクの戦闘神。


「ザバーナ……久しぶりだな。暫く見ない間にその……大きくなって」

「ふむ。成長期であるが故と言わせていただこう」


 生前では考えられないほど巨大になった自らの体に苦笑いを浮かべながら――《軍神》ザバーナは、ソートとの再会に素直な喜びの声を上げるのだった。



…†…†…………†…†…



「エアロ様! エアロ様はおられますかっ!」


 場所は変わって、天界――エアロ・ジグラッド。


 黄金の階段神殿にてイシュルが支配する第四階層に、怒号染みた問いかけが響き渡っていた。

 ナーブが久し振りに神格の権限を使いエアロ・ジグラッドに登ってきたのだ。


 所属する階層によって神々の階梯が決められるこのエアロジグラッドでは、下の階層の神は上級階層には上がれないという決まりがある。

 だが、エアロはこの世全てを見定める力を持つ神。どれほど高貴な位置に君臨しようとも、下界の出来事を見逃すことも聞き逃すこともしない。ゆえに、その怒号にも確かな返答が帰ってきた。


『何用だ、ナーブ』

「用事なら等の昔に知っておられるはず! 下界での変化を知らぬあなたではありますまい!」


 天空から響き渡るエアロの声は、ナーブからの問いかけに鼻を鳴らしながら、いつもと変わらぬ声音で答えを告げた。


『フン。確かに大事にはなっているな。豊穣の女神がエシュレイキガルに討たれたのだ。影響が出ることは仕方ないことだ』

「っ! あなたは……こうなることを予知できなかったのですかっ! いいえ、あなたなら予知できたはずだ!」


 そう言ってナーブが指し示した下界の風景は、イシュルが出かけたつい数日前とは一変したものになっていた。

 牧草地帯は枯れ果てた茶色に染まり、畑の作物たちはどす黒い発色と共にしおれ始めている。

 川にすむ魚たちは腹を上に向け水面へと浮かび上がり、何らかの病に侵されたと思われる獣の死体が各地で見つかっていた。


 豊穣の女神――イシュルの死。それが今、下界にて如実な影響を与え始めていた。


『まさか! 確かに我は万能なる天空神ではあるが、冥界の事情はザバーナづてにしか伝えられぬ。地の底である冥界には、天空の目たる我が権能は届かぬのだ。それほどまでに冥界の女神の冥府の加護は強力であり、手出しのしがたい相手であった。ともすれば、あのエボフの主以上の厄介さだ』

「そのようなところにイシュル様を送られたのですかっ!?」

『仕方がなかろう。今の天界において、冥界のバランスを崩せるほどの力を持つ神はイシュルのほかにいない。勝利の女神にして、豊穣の女神たるあ奴の信仰はもはや我へ向けられる信仰に匹敵しつつある。文句なしに、今はイシュルが最強の女神だ。それゆえに、イシュルならばと信じて、我はイシュルを冥界に送り出した。このような結果になるなど……想像すらしていなかった』

「――っ!」


 天空神エアロをもってしても、想定外だと言わしめるこの事態に、ナーブは思わず唇をかみしめる。

 だとするならば……最悪。


「イシュル様は……帰ってこられるのでしょうか?」

『………………………』


 何よりも雄弁な沈黙が、ナーブの質問に対する返答だった。


「助けなければ!」

『どうやって? 命数の回復は冥府の女主人にのみ許されたものだ。我らにはその権能はない』

「それならば、命を生み出せるソート様にすがれば!」

『連絡する方法がない。あれは気まぐれな神だ。こちらの事態を確認しているかどうかも怪しい』

「……なら……ならっ!」


 必死のナーブは頭を働かせながら、手元に石板の神器を出現させ、ヒントになりそうな各地の神話・物語のテンプレート捜索していく。

 その中で、彼の目に留まったのは、


「……《等価交換》。そうだ、これなら!」

『おすすめはしないぞ』

「ですがっ!」

『確かにエシュレイキガルは厳格な女神だ。正確に言えば、あいつの側近であるナムルタが厳格なのだが……。もとかく、その厳格な神に女神の命を回復させるに足りる対価を示すとなれば――それは同じ神の命か、それに匹敵するであろう数の人間の生贄でなくてはならない』

「それ……はっ!」


 当然のごとく、人を犠牲にするわけにはいかない。豊穣を求めるのは人間ためなのだ。豊穣のために人を犠牲にしていては、本末転倒のそしりを受ける。

 だが、犠牲にして構わない神などいないこともまた事実……。


「いや。そうだ……そうだ」


 いる。一人だけいる。犠牲にして構わない神が……一人だけ。


「エアロ様」

『なんだ?』

「知恵の神の代役はいますか?」

『もとよりその権能はソートが持っていたものだ』

「雨の神の権能は必要ですか」

『貴様に与えられたそれのおかげで、取り回しはよくなったが、まぁそれも本来はソートの管理下だな』

「では最後に……」


 そして、ナーブは確認をとる。


「私がいなくなったとして……何らかの被害が下界に出ることはありますか」

『………………いいや、すべて誤差の範囲で収まる』

「さようですか」


 この時、ナーブは己のやるべきことを理解した。


――あぁ、そうか。私はこの時のために、神の末席へと名を連ねたのだ。


 そんな確信と共に。


エアロ「嘘やで?」

シェネ「こいつ、悪びれもなく!?」

エアロ「母上には言われたくないのだが……」


どうしようこの嘘つきども……

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