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究極の選択

「どーするんですか、マスター」

「………………」


 シャルルトルムに宣戦布告を行った三十分後の境界領域広場にて。

 水中なので枯れているのかどうかわからない、ボロボロの噴水の残骸に腰かけながら、ソートは盛大に頭を抱えていた。

 ついカーッとなってやってしまった宣戦布告だが、よくよく考えてみると自分がどれだけ無謀なことをしたのかという事実を思い知ってしまったのだろう。


「まったく、かわいい女の子をまもろうなんて下心込みで人助けなんてするから、こんな痛い目にあうんですよ。これに懲りたらほかの女性プレイヤーではなく、私に……わ・た・し・に! マスターの優しさを割り振るべきだと進言します!」

「お前は落ち込んでいるマスターにほかに言うことはないのか……」


――たとえば、現実的にあのバカを叩きのめす方法とかをだな……。と、ソートが一応聞いてみるが、


「まぁ、普通に考えて無理ですよね。相手はすでに知的生命体の発生から二千年を経過させたベテラン世界。信者の数は比べるべくもありませんが、それ以上に魔術カンスト世界というのが厄介すぎます。チュートリアルでも言ったように碌に物理法則が仕事しないですからね、魔術世界の住人達には。言っていませんでしたが、マスターたちのアバターは創世神としてありとあらゆる数値をカンストしたチートボディなのに、あの世界の英雄相手にはあのざまでしたし……。今この時でも次元の壁をぶち抜いた暗殺攻撃が来ても、不思議じゃありません」

「そこまでか……」


 チュートリアルで聞いた以上にでたらめらしい魔術数値百の世界。サポートAIをもってして人外魔境と言い切られるその世界に、ソートはさらに絶望を深くした。


「唯一の救いはあちらから提示された猶予期間があることです。あれでかろうじて首の皮一枚繋がりました」

「あちらから提示された条件に感謝するなんざ業腹だがな……」


 思わずといった様子で舌打ちを漏らしつつ、ソートはシャルルトルムが提示した条件を思い出していた。



…†…†…………†…†…



「は……はははははっ! ベータにも参加していなかったど素人が、僕に……この僕に、勝負を挑むだって!」


 ソートの宣戦布告に、シャルルトルムは呼吸が苦しくなるほど爆笑し、


「はははは……無謀もここまで来ると一種の芸だね。いいだろう、どちらにしろ、そろそろ見せしめがほしかったところだ。《征服神》――シャルルトルムはいまだに健在だとβテスターどもに示す見せしめがね」


 即座にメニュー画面を開き宣戦布告の権能をソートにたたきつけた。


「とはいえだ、僕だって鬼じゃない。お前みたいなど素人の低レベルプレイヤーを何人ぶっ殺したところで、大した見せしめにはならないからね。だから猶予を上げよう」

「いらねぇよ。テメェのへなちょこ世界の軍勢なんて」

「ちょ、マスター!」

「まぁ聞きなよ」


 敵の情けは受けない。そんな気持ちが先に立ち、感情的な言葉を放ちかけたソートの口をシェネがかろうじて塞いだ。そんな二人の姿をあざ笑いながら、シャルルトルムは話を続ける。


「一週間、準備期間をくれてやろう。それでせいぜい信者の一人でも増やしておいてくれ。そうしてもらわないと、せっかくの侵略なのに強奪できる魂魄が一つか二つなんて……ある意味凄惨な事態になりかねないからね。ハハハハハハハッ!」

「こんのっ!」

「マスター落ち着いてください。この話に乗っておかないと本気で世界ぶっ壊されますよっ!」


 嘲笑を残し去っていくシャルルトルムに、歯ぎしりをするソート。そんな彼を押さえつけながら、とにかく今すぐ攻めてこられることはないとシェネは安堵の息を漏らした。



…†…†…………†…†…



「我ながらあれはファインプレーでした。あれがなかったら本気でマスター終ってましたよ」

「わかっているよ。感謝している。とはいえ猶予期間があったとしても俺達にはGPが……」

「あぁ、そうでしたね。もとはと言えばそれを稼ぎにこの世界に来たというのに、あてにしていた水販売はもう稼げそうにありませんし」


 どうしたものか……。と、二人は同時に頭を抱えた。その時だった。


「二人とも、どうだい? 何かいい案でも思いついたかい?」

「シャノンさんか」

「私もいますよ」

「アルバさん。ありがとうございます」


 二人のシャノンとアルバが声をかけてきて、手に持っているホットドックらしき何かを渡してきた。


「なんだこれ……見た目完全にホットドックだけど、ケチャップの代わりに青いソースが」

「安心してくれていいよ。味もしっかりホットドックだ。トマトと似た味をした野菜ができた世界の神様が販売していてね。まぁもっとも、その野菜の配色が真っ青なせいでケチャップもこのざまらしいけど」

「主、トマトは野菜ではなく果物ですよ」

「ありがとうアルバ。そういやそうだったな」

「無駄な豆知識をどうも。今はそんなことよりもあのバカを殴り倒す方法が知りたいけどな……」


 憎まれ口をたたきつつも、一応差し入れをしてくれた二人に感謝しつつソートは青いホットドックモドキをほおばった。

 そんな中、あざとさにじみ出る可愛らしい仕草でホットドックをちまちま食べていた、シェネが二人に向かって問い掛ける。


「そういえば、シャノンさんもβテスターなんですよね」

「アルバもそうだよ? テスターはちょっとした特権で、テスト時につかっていたサポーターを引き継げるかどうか選択できてね。基本的に大体の人がβテスト時のサポーターを連れているのさ。もっとも、征服神様はどうやら初代も今代もお気に召さなかったようだけど」


 まったく、サポーターをサクリファイスにくべるなんて今でも信じられないよ。と、肩をすくめるシャノンに「そこまでひどいことなのか」と、ソートは顔をしかめた。

 シャノンはアルバと仲がいいが、かといって対等な関係なのかと言われるとそうではない。シャノンの言動の端々で便利なロボットを扱うような態度が、ソートの目には見てとれた。

 自分とシェネとは違う関係。他のプレイヤーたちもやはり似たり寄ったりらしく、自分のようにサポーターと言い争うまで仲良くなるのはまれらしい。

 だが、そんな彼女たちをしてもひどいと言わせるほどの光景が、きっと生贄では展開されるのだろう。その事実をかみしめ、ソートはやはりあいつ(シャルルトルム)はぶんなぐると弱気になっていた自分を鼓舞する。


「まぁ、やってしまったものは仕方ないですしね。ここは現実的に、相手と戦うための戦力を整える方策をとりましょうか」

「というと?」

「英雄を作る。それが一番、可能性のある対策ですね」


 シェネの提案を聞き、真っ先に微妙な表情を浮かべたのはβテスターであるシャノンだった。


「英雄育成か……。とはいえ魔術特化世界の連中と戦えるランクの英雄となると、育てるのは茨の道だけど」

「ですがやるしかありません。マスターと私にはそれしか道が残されていないんですから」


 それもそうか。となにやら納得する二人をしり目に、ソートはこっそりアルバへと話しかける。


「英雄作成ってなんだ? いや、字面からなんとなくは分かるんだが……」

「お察しの通り、創世神様たちが作り上げた世界にて、英雄を作り上げる行為のことを指します。神の試練を与えたり、加護を与えたり……自らの権能を使い下界の女性をはらませて、半神半人を作るなど、やり方は様々ですが、それによって下界のある人間を鍛え上げ、ありとあらゆる困難を薙ぎ払える強力な兵士――《英雄》にして異世界の侵攻に備えるのです」


 異世界侵攻の宣戦布告を受けた際の対応としては、割とベターなものです。と、アルバは付け加える。

 なるほど。確かに強力な英雄を育て上げることができれば、シャルルトルム相手にもいい戦いができるだろう。が、


「それってかなり難しいのか?」

「普通の英雄ならば適当に試練なり加護なり与えれば出来上がるのですが、魔術世界の化物を相手取れるほどとなるとかなり成功率は下がります。なにせベータで同じ方法でシャルルトルム様にあらがった創世神様の結果は、何万人も使い潰して、たった一人の英雄が出来上がり……それが魔術世界の一兵士とまともに打ち合えればまだましといった有様でしたので」


 どうやら英雄を望む強さまで鍛え上げるのは、かなりの難易度らしいということが、その言葉から察せられた。


「それに、シャルルトルムが連れていたあの刺青の男性。じかにその力を味わって分かったでしょう? 本来ならば傷どころか、倒すことすら難しい創世神をやすやすと吹き飛ばしたあの膂力……」

「まさか……」

「彼はおそらくシャルルトルムの世界の英雄です。最強だと言っていましたからあれ以上はいないでしょうが、逆説的にいうと、創世神を打倒しうるほどの英雄を倒す存在をあなたは作り上げないといけないというわけです」

「…………………………」


 ソートの顔がその言葉によって盛大にしかめられた。

 これでもソートは、VRゲーム初期から参戦しているハードゲーマーだ。そして前述したとおり、VRゲームは基本的にRPGアクションが主流。VRゲームに参加している以上、ソートもそれ相応の近接戦闘の経験を積んできている。あるゲームではトッププレイヤーの一人に数えられたこともあった。

 そして今ソートが使っている創世神のアバターは、初期段階からHPが存在しない《不死存在》であり、ありとあらゆるステータス数値がカンストしているチートボディ。

 そこまで完全な肉体を持ち、トッププレイヤーと言われた経験を積んでいるソートなら直接的な戦闘で負けることは皆無といっていいはず。だが結果はあのざま。ということは、少なくとも、同じことができる存在を自らの世界で作り出さねば話にならないということになる。


「できるのか……そんなことが」

「できるできないじゃなくて、やるしかないんですよ。マスター」


 ソートが漏らした気弱な言葉を、シェネは必死に蹴散らしながら、


「そのためにはまず」


 シャノンに向かって


「GP貸してくださいお願いしますぅうウウウウウウウ!」


 それはそれは見事なジャンピング土下座をかましたとか……。

シェネが最後に選択しました。プライド? 何それおいしいの?

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