天空王
「○K! G○○GLE!!」
「黙れ。ソートアシスタントであって、実在する企業その他もろもろとは一切関係のない、俺オリジナルの神器だ」
「冗談ふかせや!?」
海底の神界において、ソートとU.Tが熾烈な言い争いを繰り広げる中、そんなバカ二人の闘争を極力見ないようにしていたシェネが、下界の動きに気付く。
「マスター。揉めるのもいいですけど、そろそろあっちが動きますよ」
「おう! それで、一体どうするつもりだ?」
「わからんのか?」
「見てわかるとおり、あれは現実世界のネットから、類似した歴史や伝説を抽出してそれを所持者に提示するだけの神器だからな……」
「それ……割とつかえなくないか?」
「ま、まぁアドバイス用の神器としては割と高性能だと思うぞ?」
使いこなせなかったら宝の持ち腐れじゃねェ? と、するどい指摘を放つU.Tに顔をひきつらせつつ、ソートはひとまず言い訳をしてみる。
なにより、ナーブが内心求めていたのは、あのはた迷惑な女神をぶち殺す力でもなければ、彼女から逃げきる力でもなく、彼女の難題をこなすための知恵だったのだ。
「ならその思い、叶えるために手助けするのが創世神ってもんじゃないか?」
「そんなもんかね……。俺なら問答無用でここから狙撃するが」
「お前のその神器……対物狙撃銃でできるのか?」
「お前の神器が気候操作と回復が権能なら、俺の神器は超遠距離からの攻撃が権能に出ているからな。天界から祟り起こす場合は無料だぜ? しかもピンポイント狙撃が可能な祟りだから割と重宝している」
「お前の管理する世界の住人にとってはたまったもんじゃないだろうけどな」
絶対狙撃手が見つけられない場所から、必ず当たる弾丸が放たれるのだ。恐怖政治にこれほどうってつけな神器もあるまい。と、ソートは内心震え上がった。
もっとも、U.Tの性格がこれなので、あんまりひどい理由で祟りを起こさないだろうが。
「もう、お二人とも! 見ないなら画面消しますよ!」
「「見るっ!」」
とはいえ、今はそれよりも重要なことがある。
いつまでたっても雑談を辞めない二人にシェネがしびれを切らし始めたのを見て、二人は慌ててシェネが拡大した画面へと視線を戻し、事の成り行きを見守った。
…†…†…………†…†…
というわけで下界にある大河のほとり。
その盆地でたき火を再びつくりながら、ナーブはさっさと火をつけなさいよと言いたげなイシュルに顔をひきつらせながら、とりあえず確認をしてみる。
「ではイシュル様! まず神殿を作るためには、あなたを神だと多くの人々に認めさせる必要があります」
「はぁ? そんなことしなくても私は女神ですけど?」
「……自称女神じゃ、だれも神殿つくってくれないのですよ?」
「自称って言うな!?」
誰も迎えに来てくれなかったこの状況に、彼女自身いろいろ思うところはあったのか、ナーブの鋭い指摘は割かし効いたらしかった。
瞬く間に半泣きになるイシュルにちょっとたじろぎ、ナーブは慌ててたき火に火をつけ、そのそばにイシュルを運んでなだめすかす。
「と、とにかくですねイシュル様! イシュル様の神殿を作るためには、イシュル様を神と崇める下僕を一人でも多く増やさないといけないわけです! そこで質問なのですが、イシュル様は、神様らしいことは何ができますか?」
「?? 神様らしいこと?」
「ようは、どんな権能を持っておられるかということです。それが人々の生活の助けになればなるほど、多くの人々がイシュル様を崇め奉ることでしょう!」
「つまり、お父様の天の支配者的な?」
「そうです! あの方は天命の付与や、太陽の化身、風の支配に、神々の王など、いろいろやっておられますからね。まぁ、一般的に信仰される理由は、天命の付与と農作物の出来にダイレクトに影響してくる太陽信仰の方なのですが……。イシュル様にもそういった役割があれば、きっと他の人々にも信仰されるはずです! というわけでイシュル様! 女神を名乗るからには何らかの権能をお持ちのはず! その権能とはいったいなんですか?」
「そんなの、決まっているじゃない!」
とにかく、ようやく女神と認めてもらえたことが嬉しかったのか、イシュルはしょげ返っていた表情を笑顔に変え、勢いよく立ち上がり胸を張った。
同時にそれによって豊かな胸部装甲が盛大に揺れ、ナーブは慌てて視線を逸らしたが、イシュルはそれに気付かぬまま声高らかに己が権能を謳い上げる!
「わたしは《天の女主人》よ!」
「ほう……」
「……………………」
「……………………………え? それだけ?」
「え? そ、そうだけど?」
一瞬、気まずい沈黙が下りた。
そして再起動を果たしたナーブは、頭を振り
――いや、もしかしたら《天の女主人》という称号が、複数の権能を保持する証明なのかもしれない。エアロ様だって《天空神》だし。
と思い直し一応聞いてみる。
「具体的にはどんな権能なのですかそれは?」
「……さぁ?」
「……………」
――あぁ、ダメだ、この女神さま。
とナーブは瞬間的に悟った。イシュルもそれには気づけたのか、瞬く間に冷ややかになるナーブの視線に慌て、言い訳を始める。
「だ、だって天の女主人よ!? なんか強そうだなって思ったから、それ以外のことは聞いてなかったのよ! だってお父様の支配する天空の女主人よ!」
「いや、《天》という概念は確かにエアロ様が君臨される空を指すのでしょうが、エアロ様と同じ天を支配しているかというとまた別の話では? 天にもいろいろありますからな……。高度で呼称が変わるとかなんとか」
「何それ紛らわしい!?」
憤慨するイシュルに頭を抱えながら、ナーブはコソッと、懐に隠した石板を見てみる。
『天という概念』
『検索結果を表示します。
天(Tiān、てん、あま)は、思想・概念のひとつで、人の上の存在、人智を超えた存在をさす。
単純に大気圏を指す場合もある』
――ある意味人智は越えているな。
と、思わず虚ろな笑みを浮かべながらそっと石板を仕舞い込み、暫く空を見上げる。
「あぁ、お空はあんなに青いのに……」
「何現実逃避してんのよ」
「誰のせいだと思ってんですか?」
主な原因たるイシュルに指摘され、思わずキレかけるナーブだがここは我慢だ、と必死に自制。嫌みの一つでとどめておき、今後の展望を組み立てた。
「とにかく、主張できる権能がないのでは話になりません。なんとしてでも、エアロ様にあなたの権能を聞き、無いようならば新しい権能を与えてもらうほかありません」
「な、なるほど! その手があったわね!」
「というわけでイシュル様。もう逃げないと約束するので、一度天に帰って、エアロ様にいろいろ聞いてみては――おっと、どうしてここで目をそらされるのですかな、イシュル様? 私そんなに変なこと言いましたかねェ!?」
だが、ここでも問題が発生した。
一度天に帰るという言葉を聞き、イシュルが即座に目をそらしたのだ。
今度はなんだと、もうそろそろ堪忍袋の緒が切れかける中、イシュルは照れた笑みを浮かべながら、人差し指同士をツンツンしつつ可愛らしく微笑む。
「じ、じつは私、天からこっちに降りるときお父様に落とされただけだから……その……天に戻る方法とか、じつは知らなかったり・し・て?」
「HAHAHAHAHA! こいつは傑作だ、イシュル!! それマジで言っているのかい?」
「ちょ、何その投げやりな笑い声は!?」
仏の顔は三度までというが、どうやらナーブの限界は二回までのようだった。
ムチャブリで一回。女神自称するくせに碌な権能を持っていないという事実でさらに一回である。
というわけで、
「はぁ……帰る」
「ちょ、待ちなさいよっ!? 私を助けなさいよっ!?」
「ふざけんな、テメェ!? この自称女神のパッパラパーが! 多少力が強いからって何してもいいと思ったら大間違いだぞっ!? 女神がマジだったとして、どうせろくな権能無いんだったら祟りだって起こせないだろうが!!」
「そうだけど! そうだけどっ! 見捨てないでお願いだから! もうあなたしかいないの! 捨てたりしないで! もう私にはあなたしかいないのぉっ!!」
「や、やめろぉ! 妙な誤解を招くようなことを言うなっ!?」
そんな言い争いを一通りしながら、結局イシュルの膂力の勝てるわけもなく、力づくでイシュルを引きはがせなかったナーブは、ゼーゼー荒い息を吐きながら再びの諦観を覚える。
「わかりました、百歩譲って見捨てないでおきましょう。その力だけは本当に人間離れしてますからね! 女神というのも一応信じておきます!」
「なんなら五十歩くらいでいいのよ?」
「一万歩に増やしますよ?」
認められれば再び調子に乗るイシュルに青筋を浮かべながら、ナーブは背負っていた石板のなかから一枚の石板を選び取り、そこに記載された神の名前に触れた。
「なにそれ?」
「ここには、最近エアロ様に取って代わろうとしている不届きな神の名前が記されています。私が今回向かっていたニプリスという都市で《天空の王》を名乗っているとか」
「なにそれ!? お父様に迫ろうとでもいうつもり!」
「だからそう言っているじゃないですか」
――だからこそ、私はそこに向かっていたのですが。
内心ため息をつきながら、エアロに迫ろうとする神のありようを見定めるはずだった今回の旅行の結末に、ナーブは思わずうなだれる。
だが、がっかりしてばかりもいられない。今のナーブには、この疫病神な女神を何とかする必要があるのだから。
というわけで、
「で、その不届き者が一体なんだというの?」
「実はこの神。どこぞの自称女神と違ってかなり実力はあるようなのです。風を操り、嵐を巻き起こし、怒り狂う神牛を力づくで従え、その大喝は稲妻を降らせるとか……」
「……おかしいわね? 何か私に毒が吐かれた気がしたのだけれど?」
「あれれ~? 自称女神としか言ってないんですけど? 別にイシュル様がその自称女神とか言ってないんですけど? それともなんですか? そう言われるに値する何かをしたという自覚があったりするんですか?」
「…………………ふんっ!」
「いだだだだだだだ! バックブリーカーだと!? く、屈しない! 私は暴力には屈しないぞっ!! くっ、いっそ殺せぇえええええええ!」
そんな戯れはさておいて……。
「で、その自称天空の王とやらが、いったいどうしたというの?」
「じ、じつはその天空王とやら、エアロ様をぎゃふんと言わせるために、エアロ様の元へ行ける、天へと上る空飛ぶ船を作ったというのです」
「…………ほう?」
イシュルの顔に人の悪そうな笑みが浮かんだ。
イシュルの技に背骨を傷めつけられた、ナーブにも同じような笑みが浮かんでいる。
「つまり、こういうことね? 私は天に戻る手段は分からない。でもどうしても天に戻る必要がある。そこに降ってわいたかのように表れた天へと至る船。これはもう私の船だということねッ!」
「どうやったらそこまで身勝手な判断ができるのか知りたいのですが……まぁ、そういうことです。今回はエアロ様の元へ行くその天空王とやらに同行し、天へと昇ってあなたの権能を聞いてくれば良いのです!」
「やだ、あんたってば実は天才だったんじゃない!」
これならいけるわ! と根拠のない自信に燃え上がるイシュルをしり目に、ササッと取り出した石板を元に戻したナーブは、頭の中で地図を広げる。
――確かニプリスは、この盆地を抜け、山脈を越えた先にあったはず。今はまだ早朝ではありますが、山脈越えがありますし……つくのは明日ですかね。
そして、脳内の地図に照らし合わせ、今後の予定を組みながらナーブは立ち上がった。
「では行きましょう、イシュル様! いざニプリスヘ!」
「そうね! ちなみにその不届き者がいるって街はどこなの?」
「あの山脈の先です!」
「そう。なら今回は特別に私の手を握ることを許します」
「え?」
そういって、イシュルは白魚のような細い手をさっとナーブにさしだした。
驚くナーブに対し、イシュルは少しだけ顔を赤らめそっぽを向く。そして、
「べ、別に他意はないから! ただ今回はいい知恵を出してくれたから、その褒美として女神に触れることを許すと言っているの!」
「……ははっ」
「なっ! 笑ったわねッ!? バカにしたわねッ!?」
「いえいえ、違いますって」
――意外とかわいいところあるじゃないか。と、ちょっと思ってしまっただけですよ。
と、ひとしきり笑った後ナーブはためらうことなくその手を取った。
数秒後、その判断を盛大に後悔することなど知らずに。
「ではもう一度。出立ですイシュル様。今日中に山脈を越えねばなりませんから、今すぐでないと着くのは明後日に」
「そうね。じゃぁ、さっさと飛び越えますか!」
「……………ん?」
――今なんといった?
と、ナーブが聞き返す前にそれは発動してしまった。
「よっと!」
「っ!?」
イシュルの体がフワリと浮いた。そしてどんどん上昇していく!
当然手を握られているナーブも彼女に引きずられる形で浮き上がり始め、とうとう地面から足が――って!
「う、浮いてる!? 浮いてますよ、イシュル様!? 本当に女神だったんですかっ!?」
「それどういう意味よっ!? フンッ!! 天の女主人なんだから、飛べるのは当然でしょう?」
「聞いてないです!? それは聞いてないですっ!? これだけで権能十分じゃないですか!?」
「はぁ? それってつまり、私が人間たちに飛ぶ術を教えろってこと? いやよ! せっかくの私の領地が人でいっぱいになったら住みにくくなるでしょう! あそこは家建てられないんだから、プライベートスペースなんてないんだから!」
「そういう問題ですか!? って、ちょ、イシュル様……や、やめ! これ以上高度上げるのは!?」
気が付いたときにはもう遅い。
イシュルに引きずられる形で、ナーブはシャレにならない高さまで浮き上がっていた。
具体的にいうと盆地を眼下にした状態で、超える予定だった山脈の頂上が目線の高さになるくらい!
「じゃ、行くわよナーブ! しっかり手を握っておきなさい!」
「待ってイシュル様! せめて手だけじゃなくて体にしがみつかせて! 落ちる! 絶対私途中で落ちるから!!」
「は、はぁ!? あなた、ひょっとしなくても女神に抱きつかせろって言っているの!? いやよ! そんなに安い女じゃないんだから!」
「いまさら貞淑ぶってんじゃねぇ!? 初対面でいきなり人の服ひん剥いたくせに!」
「あぁ、もうガタガタうるさい! 本来なら手を許しただけでも涙を流して喜ぶべきなんだからね! 生意気なこと言っているとホントに落とすわよ!」
「き、汚い! 生殺与奪権握ってからその脅しホントに汚い!!」
「とにかく飛ばすわよ! 手以外握ったらホントに落とすから、しっかり捕まってなさい!」
「ぎゃぁあああああああああああああああああああ!?」
こうして、悲鳴を上げる流星という世にも珍しいものが早朝の空を駆けた。
後にそれを見た人々は、その流星の尾には、光り輝く涙のしずくが飛び散っていたといったらしいが……きっと気のせいなのだろう。
流星が泣くわけ、ないのだから……。
「あ、ちょ。待ちなさい。あんた意外とおも……。石板おとすか、手を離すかどっちかしてくんない?」
「ふざけんなテメェ! この状況で天命放棄か命の放棄かどっちか選べって、悪魔以外の何物でもないだろうがぁあああ!!」
…†…†…………†…†…
早朝に流星がかけたころ。
ニプリスにつくられた巨大な神殿内部で、玉座に座った黄金の髪とひげを生やした巨漢が、にやりと笑った。
彼の眼前には、彼の信者たちによって作り上げられた、黄金の船が鎮座している。
無数に取り付けられ、斜めに広げられる三角形の帆と、流線形が合わさる天祖ティアマトの頭部を想わせる竜頭の黄金船の威容は、主である彼を納得させる出来だったらしい。
「グハハハ! 素晴らしい、これが天船マアヌルァ!」
大笑する巨漢にほっと溜息をつきながら、船を作った職人たちは巨漢に尋ねる。
「で、では天空王さま。此度の農繁期も嵐は起こさずにおいていただけるので」
「よかろう。むしろ褒美をとらせる。この船を用いジグラッド階梯を飛び越え、エアロの階級へと到達すれば――」
黄金の体毛を揺らめかせながら、巨漢は太い手を掲げ、歯をむき出しにして笑った。
それは決して友好的な笑みではなく、挑戦的――いや、寧ろ反抗的と言っていい威嚇の笑みであった。
「新たな天の主はこのワシなのだからな! グハハハハハハ!! 首を洗って待っているがいいエアロ。貴様の代わりに、この天空王――エンリゥの名が神話に刻まれる、その時をな!!」
不敵な笑い声はいつまでも止まず、巨大な神殿内部で幾重にも反響しながら、ニプリス中に響き渡った。
*《空神》エンリゥ
レア度:☆3
神属性:天空神
コスト:8
属性:混沌・善
声優:明石幽
イラスト:すーだらだった
ステータス
筋力B 耐久C 敏捷A 魔力A 幸運E 神判B+
保有権能
風神A:風を自在に操れる風神のスキル。嵐の化身たる彼は、このスキルを高ランクで保有する。
女難A+:某女神にひどい目にあわされた逸話が具現化したスキル。-スキルであり、女性神霊と戦う際ステータスが少し下がってしまう。
激昂C:嵐の化身たる彼は、非常に暴力的かつ気が短い性格である。一たび怒り狂えば、その吐息は暴風を呼び、憤怒の怒号は稲妻を降らせる。
だが、某女神にしてやられた際に寛容さも必要と悟り、少し丸くなったためランクがダウンしている。
神判解放:《憤怒に狂う我が暴威》
詠唱「返せ……返せ返せ返せ返せ!! それは、僕の――俺のものだぁあああ!!」
女神イシュルに天船マアヌルァを奪われた際の憤怒の発露。その肉体を巨大な嵐に変じ、稲妻をまといながら高速飛来する。
他の神々からは嵐と稲妻を召喚するものだと思われているが、その嵐と稲妻自体が彼の体であり血潮である。そのため飲み込まれれば逃げることはかなわず、死ぬまで防風と稲妻にもてあそばれることになる。
マテルアル
1:どういうわけか幼い姿で召喚されてしまった、バビロニオン神話天空の《天空の双王》の片割れ。見た目は五歳前後の姿でありながら、老成した声で含蓄のある言葉を放つ姿は荒まじくシュール。
本人いわく望んでこの姿になったらしいが……。
2:守護神霊である彼は嵐の化身という称号とは裏腹に、非常に落ち着いており、激昂することもめったにない。また女性は苦手としているらしく、いろいろと露出が多い女神たちを見ては顔を赤らめてうつむく姿が見られる。
その姿が逆に女神たちの嗜虐心をそそるらしく、お姉さま系の女神たちには大人気だったりする……。
3:ただしイシュルだけは本当に苦手なようで、もし顔を合わせようものなら、吐き気と頭痛と痙攣に襲われ、意識を失ってしまう。イシュルいわく「そこまでひどいことはしていない!」らしいが、ほかのバビロニオンの神々の反応を見る限りたぶん嘘だろう。
4:バビロニオン神話においては、イシュルとともに天空神エアロの後継と目される天空の支配者の一人であり、豊穣と発展を約束するイシュルとは対なす形で存在する神である。
彼が約束するのは、嵐による苦難と、文明の停滞。だが、不思議なことにバビロニオンが平和なときにこそ彼は深く信仰され、長き安寧を願われることが多かったらしい。
片割れがトラブルメーカー過ぎたから、必然騒動が起きないよう願うときは彼に願われたとか、そんな事実はない。ないったらないのだ。
5:幕間物語『女難・被害者の会』クリア後解放
本人いわく、情けない話ではあるらしいのだが、彼がこの幼い姿で顕現したのは、ひとえに女神に再びたぶらかされることがないようにという戒めを込めたものなのだという。
かつての己は傲慢だった。自らの手が天空に届きうるものだと過信していた。
その隙を突かれてしまい、それゆえに自分はすべてを失ったのだとエンリゥは語る。
だからこそ、この世界滅亡の危機に立ち上がるにあたって、本質を見抜き、女性の色香に惑わされぬ子供の姿を選んだのだと。
これでもう惑わない。たとえどのような美女が出てきたとしても、自分は決して屈したりしないと!!
それはそれとして、女性はもっと慎みを持つべきだと思う。おへそとか、谷間とか、肩とかあんまり出さないほうがエンリゥ的には好感触である。特に美の女神連中。体が自慢なのはわかったから本当に服もう一枚来てほしい……切実に、お願いだから。
ただしイシュルてめぇはダメだ。僕の――俺の半径二十メートル以内に近づくな!
あぁ、すいません! ちょーしこきました! 近づかないでくださいお願いします!
…†…†…………†…†…
ソーシャルゲーム《《守護神霊》コレクション》wiki『エンリゥ』の記事より。