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創世世界にて――新たな神

 巨大な白亜の宮殿。

 その中で抱き合う二人に、ほっと一息つきながらソートは背後を振り返った。


「何とかなったか……」

「お前がウッカリ強制送還されたときはどうしたもんかと思ったがな」

「わ、悪かったよっ!」


 シレッと吐かれたU.Tからの鋭い指摘にソートは思わず狼狽する。

 そんな中、浮かない顔をするのはシェネだった。


「とはいえ、あまり悠長に構えていられる状態でもありませんよ? ランクダウンはいくらでも補てんが効きますが」

「あぁ、そういえばこのゲームのランクって条件上昇式だっけ?」

「その通りです。マスターはまだ英雄育成を終えていない最低ランクのイェソドなので、指定されているGPの補充が行われればすぐにランクアップしますが……」


 もとよりプレイヤーのステータスがカンスト状態にあるこのゲームにおいて、ランクというものは使用できる権限を増やすための資格に近い扱いだ。

 一定条件をクリアすることによってランクが解放され、制限されていた機能が徐々に使えるようになっていく。

 もっとも、ソートはエアロに権能としていくつかの権限を奪われているので、ランクアップしたところで解放される機能はあまりないが……。


「よくよく考えたら英雄作成でここまで時間がかかるやつも珍しいよな……。というか、今回でてきた浄罪官達って、普通に英雄にならないか?」

「あ!」


 言われてみればとソートが目を見開く中、シェネはその指摘に顔色を白くした。


「ま、まずい! それはまずいですよっ!!」

「ん? 何が不味いんだ? 念願の英雄だろう?」

「何を言っているんですかマスター! 半神でもなければ、ただの術式武装を持っているだけの連中に原初の英雄特典とられちゃったら、絶対魔力値百世界の化物たちに勝てませんよっ!?」

「って、おい。待て! なんだその原初の英雄特典って!!」


 聞いたことがないその言葉にソートが片眉を跳ね上げると、意外そうな声でU.Tが補足を入れてくれた。


「あれ? 何だ、知らないのか? 一番初めに生まれた英雄は、その世界の英雄の起源ってことで、それなりの加護を得られるんだよ。これから生まれる英雄は、そいつの難行を参照して作られるわけだしな。いわば作り上げた世界の英雄たちの一つの頂点として扱われるわけだ」

「その重要な初めの英雄が、ただの術具を持った人間なんて……英雄起源のバフがかけられたとしても強さは高が知れています! なんとしてでも阻止しないとっ!」

「そ、そんなに重要なことだったのか……」


 むしろお前はなんで知らないの? と、呆れるU.Tをしり目に、下界の状況を確認しようと画面を開いたシェネは、先ほどまでの慌てた様子を瞬時に失せさせた。


「……あぁ、そうですか。やっぱりそのあたりは理解していますよね……」

「どうした、シェネ?」

「いえ。私たちがアクションを起こすまでもなく、エアロの方から動きがありました」


 そう言ってシェネはソートにログが記載された画面を見せる。

 そこには、『浄罪官として務めを果たした者、マルアトの眷族として、ポラリス=エンゲル・ゴブレッタに召し上げるよう』と指示を出したと書かれていた。


「眷族。つまり神霊の御使いに変えたわけか」

「これなら英雄にはなりません。英雄はあくまで人の勇者。最終的に神の眷族へと召し上げられては、英雄として登録されません。マスターの世界ではヘラクレスとか例外がいるみたいですが」

「ニルタやシャマルなんかがそうだったからな」


 おそらくシステム的に、神霊は英雄の上位互換とでもしてあるのだろう。何とも融通の利かない話である。


「とにかく、これで原初の英雄特典をぽっと出の雑魚にとられる心配はなくなりました」

「雑魚ってお前……あのマルアトが鍛えたのなら、かなり強い連中だろう?」

「甘いですよマスター! せっかくの原初の英雄なんですから、少なくとも神の血を引いていて、世界を引き裂く力を持っていて、不老不死にいたっちゃうくらいのもりもりの設定しておかないとっ!!」

「それいきすぎて逆に神霊になっちゃうんじゃないの、シェネちゃん?」

「だからこそ、そのあたりのさじ加減が難しいんですよっ!!」


 何とも面倒な話だと、U.Tの指摘に憤るシェネをしり目に、ソートは惑星から飛び出し、北極点の直上から世界を見守る小さな星にそっと触れた。


「とにかく、今回はつらい試練だった……。人もたくさん死んじまったし、俺の洪水だって……。俺はこの罪を背負って、次の試練こそは……!」

「あ! 言い忘れていましたけど、マスターが降らせた豪雨はあの監獄が浮上する際に消し飛ばされたので、大した被害出しませんでしたよ? あの街にいた連中も、狂乱した小魔によって自殺した者以外は大体ぴんぴんしているみたいです。もっともあのサイズの神霊を捕まえる巨大監獄が浮上したので、街はどっちにしろ跡形もありませんでしたが……」

「何気に創世神の権能初敗北じゃね!? せっかく入ったシリアス成分返して!?」


 いいのかプレイヤー権限!? そんなにあっさり負けちゃって!? いや悪いことじゃないんだけどさっ!? と、ソートが悲鳴を上げる中、シェネは心の中だけで呟く。


――まぁ、だからこそ、次の試練に繋がっていくのですけどね。生き残った悪人や小魔たちが何をやらかすかなんて、決まりきったことでしょうし。


 ログを見る限り、エアロもそれを察しているのだろう。

 彼はとうとう自らの手で、それらを抑える神霊の創造に着手した。

 この世界始まった時から、実に三人目の神霊として生まれる神霊。エアロ・セントにつぐ、豊穣と明星を司る天の女主人の神核が、冶金神リィラの手によって鍛造されつつある。


――第五試練:国の試練、第六試練:森の試練。建国と開拓の試練。原初の英雄権限をとらない神霊にそれらの試練を任せ、本格的な原初英雄はそのあとに鍛造するつもりですか。流石は我が息子と言ったところか、よく考えているようですね。


 お前はいろいろ企んでいるように見えて抜けが多すぎる。と、下界からツッコミが飛んできた気がしたが、シェネは気にしない。

 とにかく、すべてのことは順調に、かつ的確に進んでいるのだから。


――すべてはこの世界の存続のために。マスターに何としてでも、シャルルトルムに勝ってもらうために!


「さぁさぁ、マスター! 時間も押していますから、さっさと次の試練へ行きましょう! 五割GP減という手痛い被害にあいましたが、貰ったGPにはまだ余裕がありますからね!」

「そういえば、期限付きだったな。いつまでだっけ?」

「一週間って言っていたからなのかだろう? えっと、獣の試練で一日、王の試練で一日、軍の試練で一日……」

「最終日は決戦なので今日入れてあと三日ですね。GPに余裕ができましたから、今日で悪と国と森を終わらせて、明日火・魔・天。最後に目標である英雄作成試練の竜・神・人の三つを入れるつもりです」

「なかなかのハードスケジュールだな……」

「お前どうする? 自分の世界に帰るか?」

「今日はお前にとことん付き合うつもりだからな。なにより自前で稼ぐより神器の経験値美味しいし」

「おい!」

「うちの世界出来立てだから、そんなにやることないんだよなぁ。お前みたいにせっぱつまっているわけでもないし」

「そりゃそうだろうけどっ!!」


 よくよく考えたら俺の方がおかしいの!? と、ソートがうなだれるなか、シェネは苦笑いとともにGPを消費し、世界の回転を開始した。

 目指すは国の試練。

 この世界始まって以来となる、神霊に課される試練である。



…†…†…………†…†…



 目が覚める。

 そこはどこまでも抜けていくような真っ青な空間だった。

 

 体は浮遊感に包まれ、ごうごうと風が耳元を通り過ぎている。

 後々に知るのだが、この時私は《落下》というものを経験していたようだ。

 はるかに広がる無限の蒼穹から、文字通り産み、落とされた。


「ここは……」


 いや、その前に。


「わたしは?」

『汝の名は豊穣神――イシュル』

「イシュル?」


 それが私の名前だった。

 不思議と、思い出したかのようにすとんと胸の中にその名前ははまり込む。


 そうだ――私はイシュル。豊穣をつかさどる、天の女主人。


 だが、わかったのはそれだけ。肝心なことを私は理解できていない。


「なぜ?」

『?』

「なぜ私は生まれたのですか?」

『……………………』


 その私の問いに、どこからともなく聞こえてきた声は一瞬だけ沈黙し、


『くくく』

「?」

『あるがままに生きよ。それがお前の生まれた意味になる』

「それは……」

『少なくともだ、我は貴様に生きる意味を与えて生んだ。貴様は本能的にそれを理解できる存在だ』

「?」

『小難しい理屈など無視し、やりたいことをやれ。我が貴様に求めるのはそれだけだ』


 その言葉を最後に、不思議な声は聞こえなくなった。

 ただ、不思議と不安はない。

 やるべきことは思い出せないが、好き勝手に生きていいという保証を得られたから。

 だから、


「えぇ。えぇ! わかったわ! わかったわっ!! 勝手にやらせてもらうわっ!」


 自らを阻むものは誰もいない。なぜなら私は、


「豊穣の女神イシュル! あぁ、なんて素敵な響きっ! きっと私の名前にかなうものなどこの世に誰一人としてないでしょう!」


 天下無敵の、


「あら? 下が見えてきたわね?」


 女神様だっ!


「ふふふ、見てなさい人間(かちく)ども! イシュル様のお通りよっ!!」


 さぁ、始めよう。手始めに自分にふさわしい豪華な住居を作らせようか!


 そんな企みを胸に抱き、生まれたばかりの女神は美しい顔に笑みを浮かべる。

 まるで満開の花のようなその笑顔は、どうしようもなく傲慢で――同時に、生まれ落ちた喜びにあふれていた。



…†…†…………†…†…



 こうして、はるかに広がる青と緑の大地めがけ、一つの流星が落ちて行った。

 これがのちにエルク統一大乱の引き金になることを人々は知らない。

 ただ蒼穹に流れてなお輝く流星の姿に、人びとは新たな騒動の到来をひしひしと感じ取っていた。


次回予告!


「お、親方ああああああああ! 空から女の子がぁああああ!

 はい。ネタふり終了。

 お初ね! ゴブレッタよっ!!

 え? マルアトさん? あぁ、ちょっと今エンゲル姉さんとイチャイチャするので忙しそうだったから、今回は私が出張してきたわ!

 ロリコン? 大丈夫よ! だってこの時代に児ポルはないもの! あぁ、シャマル様!? 突然法典になにを書き込む気ですか! や、やめろぉ! 私だってたまにはイチャイチャするんだぞっ!

 ごほん。ともかく、無事終わった悪の試練。無事? うん……うん。まぁ、うん。言いたいことはいろいろあるけど取りあえず無事よ!

 とはいえ、いろいろ残ってしまったものもある。

 時は悪の試練よりはるか先。絶対になってはいけない悪を知った人類は、正しき導きの星によって正義というものを知った。

 だけど、同時に悪というものを知った人々の幾人かは、その悪の道へと転がり落ちていく。

 浄罪官たちが粛清して回るけど、数が多くて追いつかない……。

 次の物語はそんな時代におりたった、天から来る流星の物語。

 では次回!


 さぁ、私を崇め奉りなさい! 降り立った流星は天を舞い、快活な笑みを浮かべた。

 傲岸不遜で厚顔無恥。自分こそが正しくあとはわりとどうでもいいという自己中の化身。 

 されどその行いが、正しき人々を大いに守ることになる……かもしれない?

 次回《世界創生オンライン ~神様はじめてみませんか~》 第五章国の試練

 さぁさぁ、観閲料は払ったかしら? 私の美貌を見るのだもの、そのくらいは当然よね!」

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