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《封緘神》

 天へと上った完全なる悪は、やがて暗雲へと変貌し見る見るうちに天を覆い尽くした。

 やがてその雲からは漆黒の雨が降り出す。

 いや、雨ではない。雨の姿をした無限の小魔。それが雨の正体だった!

 雲が下界に降り注がせる小魔たちは見るからに狂乱していた。

 ケタケタ、ケラケラ、ウヒャヒャヒャヒャ!

 と、けたたましい笑い声をあげながら、罪の街へとそれは降り注ぐ。

 その雨粒を受けた人間は、狂乱する小魔の影響を受け、自らの喉を、心臓を、頭を、手近な道具や己の手で、次々につぶし始めた!


「――っ! これが、こんなことが!」


――お前の望みだったのかっ!!


 声にならないマルアトの怒声が、満足げな顔をして死に絶えたセントにたたきつけられる。

 だが、憤ったところでどうしようもない。

 いくらマルアトとは言え、あの暗雲を妨げる術など持っていないのだから。

 頼みの綱はエンゲルだが。


「エンゲル。三つ目の願いを!」

「……申し訳ありません、マルアト様。あれは神として生まれついた存在。願望機ではありますが、ただの神器である私では、わずかな行動の阻害・封印はかなっても、倒すことは難しい。それに、願いは阻害か封印かのどちらかに絞らないといけません。残った願いのリソースのすべてをどちらかに傾けないと、あれを抑えることは不可能です。さらにいうと、封印は阻害によって一時的にあれの拡散を止めなければかなわない。つまり、現状たった一つの願いで、あれを封じることは不可能です!」

「くそっ!!」


 端的に言って力不足。

 いや、三つの願いを保有した状態だったなら、あれを完封することもかなったのだろうが、願いが一つしか残っていない今の彼女に、あれを抑えることは難しいとのことだった。


「こんなことなら、俺の傷なんて放っておけば……」

「マルアト様!」

「――っ!」


 死に体であった自らの体を、セントを運ぶために治したことをマルアトはいまさらながら後悔した。

 だが、そんなマルアトに強い言葉をぶつけたのは、


「そんなこと言わないでください! 先代は、あなたを守るために私へと続く結晶を残したのです! 死んだほうがよかったなどと……口が裂けても言わないでください!」

「…………」

「それに、あなたのその選択は自殺と変わらない。それはセントが証明した、人類最大の悪徳だ」

「……そう、だな」


――そうだ。自らの命を犠牲にして、何かを成し遂げるわけにはいかない。俺の命はもう、そう簡単に投げ出していいものではない。


 マルアトはそう思い直したが、だとしても。


「あれを一体……どうすれば!!」


 セントがそう思った瞬間だった。

 黒雲の頭上に、さらに巨大な雨雲の檻が生まれたのは。



…†…†…………†…†…



「これって加減ができないんだよな……」

「その通りです。《神霊の杯》で出力が抑えられている時ならまだしも、今回は文字通りの攻撃権能――荒ぶる神の降臨ですから。洪水で町一つ押し流すまで止まりませんよ」

「だが、あれをこのままにしておくよりかはましだ」


 海水が満たす世界で、ソートは思わず歯を食いしばる。

 そんなソートをしり目に、海底にあいた穴に神器である取り外したスコープで下界を覗きながら、U.Tは告げた。


「いつでも行けるぞ!」

「あぁ。行くぞ、相棒!!」


 覚悟は決めた。これが最善だと信じ、願う。

 だから、


「生き延びてくれよ、人間」


 トリガーを引く。ありとあらゆる創世神が保有する、人類に対する絶対攻撃機能。

 すなわち、


「シェネ、神判起動。種別《洪水》」

「了解。悪徳の都を、マスターの怒りによって押し流します」


 同時に、下界めがけて滝のような豪雨が降り始めた!



…†…†…………†…†…



 その水はあまりに清浄で純粋だった。

 純粋な憤怒の感情が込められた神の怒りであった。

 それにうたれた悪徳の神は、本体である黒雲を蠢かせ絶叫し、降り注いでいた小魔の雨は上から降ってきた純粋な水によって滅ぼされていく。


「これは!?」

「ソート様の権能である豪雨神判です。本来ならば間違った発達をした文明を押し流すための怒りの鉄槌なのですが、あれを捨ておくわけにはいかないと緊急展開されたのでしょう。この都ごと、あの悪徳の神を押し流すつもりみたいです。でも」


 だが、それでも黒雲は消滅しない。

 もだえ苦しみ、黒雲は縮んだが、それでもしぶとく生きている!


「神を殺せるのは神殺しの権能のみ。私の最後の願いでは再現は無理ですし、ソート様はもとより慈悲深い方。何かを殺す権能をそう多く持っておられませんし、神殺しなど経験しておられません。あの神を殺す手段はもっていないかと……」

「だが、これであいつの拡散は抑えられた」


 あの雨が地上に降り注いでいるかぎり、あの悪神の行動は阻害される。

 つまり、疑似的な封じ込めが完了しているということだ。

 なら、最後の一つの願いの内容は確定できる!


「ゴブレッタ。三つ目の願いを」

「……そう来ると分かっていました。ですが、言ったはずです。たとえ願いを使ってあれを封印したとしても、抑えられるのはわずかな間だけだと」

「あぁ、わかっているさ。だが、俺と一緒ならどうだ?」

「え?」


 マルアトのその言葉の意味が、一瞬ゴブレッタには分からなかった。

 だが、彼女は願いをかなえる願望機。それゆえに言葉に込められた真意を読み取る力がある。

 その力によって違うことなくマルアトの願いを読み取った彼女は、再び狼狽した。


「バカな、そんなこと!」

「できるかできないのか! それだけ答えてくれ!」

「そりゃ、できないわけではありません。むしろ、今の状況ではそれが最適解だ。でも、それではあなたは!」

「かまわない」


 ゴブレッタの悲しげな声をさえぎり、マルアトは、


「それで今いる人々が救われるなら、俺はどんな苦行にも耐えて見せよう」

「……バカですよ。そんなことをさせるために、エンゲルは私を作ったわけじゃないのに」

「あぁ。だが、俺がそんな人間だったから、エンゲルは俺を助けてくれようとしたんじゃないのか?」

「…………もう」


 笑ったのだ。屈託のない笑みで。後悔など、無念など、何一つ抱いていない。これが自分のするべきことだったと、ようやく悟ったような晴れやかな笑みで。

 そんな笑顔と共に願われた願いを、ゴブレッタは聞き届けないわけにはいかなかった。

 彼女は願望機。願いをかなえることこそが、彼女に与えられた使命なのだから。



…†…†…………†…†…



 崩れゆく漆黒の都。

 屋内だというのに崩れた屋根から水が流れ込み、各所にあった窓から滝のような水を吐き出すようになったその城の中で、マルアトは抱えたセントの死体をそっと玉座に座らせた。

 どのような死にざまだったとしても、こいつはここに座っておくべきだと、なんとなく思ったから。

 この椅子、この場所こそが、こいつの墓標にふさわしい。


「だが、セント。何一つお前の期待に応えてやれなかった俺だが、結局勝ったのは俺だった。だからその……なんだ。この終わりも、きちんと受け止めていけ」


――これから俺は、お前の人生を否定してくる。それが俺のしてやれるお前への弔いだ。


「最後にお前に見せてやるよ。お前が憧れた、正義の味方の背中ってやつをな」


 そういって、マルアトはその玉座から離れ、背を向ける。そして、部屋の中央で待つゴブレッタにむかって歩いていく。

 その背中を見て、もう動かないはずのセントの死体が、ゆっくりと笑みを浮かべた。



…†…†…………†…†…



「いいですか。あなたの最後の願いは、私と自らを同化させて、あれを封印する檻になるということ。それで相違ないですね?」

「あぁ!」


 そして向かい合ったゴブレッタとマルアトは最終確認を行う。


「あなたはシャマル様の神官でありながら、浄罪官という組織を作り出しこの世界の安寧に尽力した偉人です。人々からはそれ相応の感謝を受け、信仰を得ているはず。一押しすれば神は無理でも、神の使い――神使に変貌することは可能でしょう。私は自分自身と願いのリソースを使ってあなたにその一押しを行います。ですが、わかっていますか? その場合、私と同化した貴方の人格は、きちんと保有されるか怪しい……いえ、既に神使・神器として人間よりも格が高い器を持つ私の方が主人格になり、あなたの人格は消滅してしまう可能性の方が高い。それでも、この儀式を行いますか?」

「もちろんだ」

「それは……死と同義ではありませんか?」

「違うね」


 当然の疑問に、マルアトは当然と言わんばかりに答えを返す。


「俺はお前と一緒に生きていく。人格がなくなろうが、俺とお前は一緒になるんだ。死ぬことにはならないさ」

「…………」

「? どうした?」

「そ、そういう殺し文句はエンゲルに言ってあげればよかったのに!」

「そんなに長い間、一緒にいたわけじゃないから……」


 今言われても困る。と、情けなく眉をハの字にするマルアトに、わずかに顔を赤くしながら、ゴブレッタは頬を膨らませた。


「もういいですよ! せいぜい私の中で後悔してください!」

「あぁ、そうするよ」

「……もうっ!」


――そんな晴れやかな笑顔で言われたところで全然嬉しくないんですけど!


 生まれてしまった感情という、願望機には無用な物を持て余しながら、それも悪くないと少し暖かい気持ちに戸惑いつつ、ゴブレッタはそっとマルアトの頬に触れた。


「では、願いを」

「あぁ、ゴブレッタ。俺をお前と共に、あれを封じる檻に変えてくれ!」

「願いを承りました。英雄マルアト――あなたは、永劫朽ちぬ悪を封じる守手となるだろう」


 瞬間、ゴブレッタの体から光があふれかえり降り注ぐ神判の雨を押しのけながら、漆黒の悪神を包み込んだ!!



…†…†…………†…†…



 その光は天へと届いた。

 黄金の神殿にてそれを見ていた天空神は、鼻を鳴らして自らの手元にある石板を叩く。


「ようやっと、終わったか」


――此度の試練、ただの徒労にするつもりであったが。


「見事だ、セント。そしてシャマルの眷族に至りし者よ。完全なる悪の誕生と、お前達の犠牲を持って、此度の悪の試練の幕引きとしよう」


 だが、奴らが地上に残した爪痕は大きいと、かつて未来神から奪い取った権能を用い、はるか先の未来を眺めつつ天空神はため息をついた。


「次の試練は国の試練か。また雑な記載が試練の書には書いてあるが……」


 そして、その未来はあまり好ましいものではなかったがゆえに、


「では、せっかく得た権能だ。これより本格的な改定に着手するか」


 天空の神は、己が手で、石板に記された文字押しつぶした。

 これにて、試練は完全にソートの手から離れる。

 次に待ち受ける試練の内容を、ソートたちは知りえない。



…†…†…………†…†…



 はるか巨大な岩山の頂上にて。


「ほう……」


 無数の鎖を張り巡らされた山肌で、天へと上る白銀の光を見つけた男は、鎖に縛り上げられ泡を吹いて気を失っている罪人たちを放り出した。

 岩山の頭をぶつけ、激痛のあまり目覚めて騒ぎ出す罪人をしり目に、鎖の男は目を細め一言。


「とうとう神へと登ったか、教官。あんたならいつかやらかすと思ってはいたが……」


 これは、あそこに行ってお参りしなくちゃならんかな。と、自分にこの生き方を教えてくれた恩師の最後を悟り、彼の次の目的地が決まった。



…†…†…………†…†…



 拳を返り血まみれにした男が、天へと上る白い光に、両の拳を打ち鳴らす。



…†…†…………†…†…



 あふれかえる死体の山に、一つ一つの墓をつくっていた堀鉾(スコップ)を肩にかついだ女が、その鉾を取り落し涙を流した。



…†…†…………†…†…



 草原にて寝ていた獣の耳と尾を生やした少女は、天へと上る光に遠吠えを放ち、



…†…†…………†…†…



 鉄槌を片手に、絶妙な力加減で、杭のように罪人どもを地面へと打ち込んでいた巨漢はからからと笑う。

 大往生だったようだなと、恩師の最後を笑って見送る。



…†…†…………†…†…



 そんな人間が全部で十一人。皆一様に空を見上げ、自らの先達の最後を各々の心のままに見送った。

 それはやがて伝説となり、一人の男が神へと成り上がる。

 そう、あの男は眷族などで収まる男ではなかった。

 今はまだ誰にも知られていないだろうが、きっとアイツは目を覚ます。

 任された神殿第一段――無限に広がる荒涼地帯から、下界の空を飛び越えていき、最後には北の果てに輝く不動の星と重なった白い光を見上げ、彼の守護神であったシャマルは苦笑いを浮かべた。


「あぁ、そうだ。お前は飛んで行け。どこまでも遠く、俺たちの手の届かないところに。なぁ、マルアト――」


――俺は正直お前のことを罪深いと思っちゃいたが、


「同時にお前は、憧れだったんだ」


 罪にまみれながら、それでも正しく生きようとした、どうしようもなく泥臭い――一人の人間を見送りながら。



…†…†…………†…†…



 そんな事件から暫く経った頃だろうか?

 それはゆっくりと目を開き、自分の現状に首をかしげた。


「なんだこりゃ?」


 それは白亜の大城塞。かつて自らが滅ぼした、漆黒の城と似て非なる、まるで鏡に映したかのような反転したそれに、目覚めたそれは目を白黒させた。

 同時に。


「よぉ、お目覚めかよ」

「っ!?」


 背後から聞こえてきた声に慌ててそれは振り返る。


 そこにあったのは巨大な檻。そして、漆黒の毛皮を持つ、巨大な蛇。

 そう。蛇のくせに鱗ではなく毛皮を持った、珍妙な巨大生物がそこにいた。


「お前は?」

「封じておいてその言いぐさか? 封緘神マルアト。テメェのおかげでこちとら物心ついたときからこの殺風景な景色だけを慰めにしてきたっていうのに、ずいぶんな物言いじゃねェの」


 とぐろを巻いているとはいえ、五十メートル近い巨体を持つその蛇は、それ――マルアトの言葉に忌々しげに舌打ちをもらし、黒い舌をチロチロと出しながら不満の意を述べた。


「俺の名前は悪神セント。テメェが命がけで封じたこの世全ての悪とやらさ」

「お前が……って、いや、ちょっと待て!?」


 なら何故俺は生きている!? と、マルアトが首をかしげた瞬間だった。

 ガシャリと、彼の背後で音がした。

 マルアトが慌てて振り返ると、そこにはいつのまにか開いていた部屋の扉と、そこから見える弧を描いた蒼い大地と、その頭上を覆う黒と星の海。

 そして、そんな景色を背景にたたずむ、見慣れた天使の姿があった。

 髪は白く、瞳は赤い。


「どうしたの姉さん?」


 その背後からは、瞳と髪を黄金に染めた彼女そっくりな天使が現れ、


「あっ! 起きたんですねマルアトさん! お久しぶりです!」

「ゴブレッタ……それに、エンゲル殿? いったい何が!?」

「いや、あなたに向けられていた尊敬の念が思った以上に強かったみたいで、あれから暫くしてマルアトさんは下界で神様として奉られたんですよ。《悪神セント》を封じる《封緘神》マルアトとして。おかげで私に溶けてなくなるはずだったマルアトさんの人格も最近あっさり再形成されまして……。おまけに姉さんも、その信仰を受けてあなたの神器として復活しちゃうし……。このままじゃ人格が衝突を起こして神器が破裂するからって、私たちの本体となったこの牢獄城――《ポラリス=エンゲル・ゴブレッタ》の一部を素材にマルアトさんと姉さんの人格を入れた体をそれぞれ作って、ここに安置しておいたんです。姉さんがきちんと起きたから、あなたももう少ししたら起きるだろうと思っていたんですが、いや~流石は後継機たる私の演算は優秀でし」


 と、かなり難しい処置だったのだろう。

 一杯褒めてくれと言わんばかりの態度を全身で表しながら、自慢げに語りだすゴブレッタ。

 だが、そんな彼女の説明をさえぎり、


「マルアト様っ!!」


 白い少女が、立ち上がったマルアトめがけて飛び込んできた。

 マルアトは慌ててそれを受け止めるが、少女は止まらない。

 涙を流しながら、ぐりぐりと頭をマルアトにこすり付けながら、


「マルアト様! マルアト様っ! マルアト様っ!! よかった! 目覚めてくれて、本当によかった!」


 と、何度も何度も繰り返す。

 そんな彼女の姿に、マルアトはしばらく唖然とした後、ようやく自分が生きていると実感できたのか、


「あぁ……あぁ! よかった! またエンゲル殿にあえて、本当によかった!」


 同じように涙を流しながら、ぎゅっとその体を抱きしめるのだった。



*《封緘神》マルアト

レア度:☆3

神属性:善神

コスト:8

属性:善

声優:trip

イラスト:耽美御前


ステータス

筋力C 耐久EX 敏捷E 魔力B 幸運E 神判EX


保有権能

封緘EX:わりと珍しい封印専門の神としてのスキル。放たれればこの世すべての人間を殺しつくす悪神セント。それを封印するための権能であり、触れた相手の全ステータスとスキルを1ランクほどダウンさせることができる。


不朽の輝きA+:星へと至った逸話の具現。人々を導く北極星へと至った彼は、その輝きによって多くの人々の道しるべとなった。

 善属性の神霊にAランク相当の啓示を与える。


裁きC:シャマルの眷属としての側面を持つ彼は、裁判神しか持ちえないこのスキルを例外的に保有する。とっていも、裁きの際与えられる刑罰は禁錮のみに限られており、敵に対する直接攻撃能力はないに等しい。

 そのため、これを専門にもつ神判神たちのようなステータス上昇効果はなく、相手のステータスダウンにもちいられる。


神判解放:《天に輝く(ポラリス=)白亜の監獄(エンゲル・ゴブレッタ)

詠唱「さぁ、導きの星よ。天よりきたりて、悪を封じよ!」


 悪神セントが本来封じられるべき監獄。セントが仮出所したため現在は空であり、いつでも禁錮すべき相手を探している。

 永劫輝きを失わぬ北極星の具現たるこの監獄は、多くの人々が指標にした導きの星であり、同時に人々に正しき道を教える正義の象徴でもあった。

 また、悪神セントを封じていられたことからもわかるように、破格の防御性能と耐久度を誇っており、神霊――特に悪属性の存在に対して絶対破壊不可能と言わしめるほどの強度を保有する。

 この監獄に対抗できるものは、同ランクの脱獄権能持ちか、星そのものを撃ち落とした逸話の具現である《対星神判》以外はない。

 そのためのランクEX。史上もっとも有名な監獄にして、正義の象徴たるこの神判は、何人たりとも打ち崩せぬ、悪を封じる絶対正義の象徴なのだ。 


マテルアル

1:世にも稀なる監獄守にして、他者を封じることに特化した神霊。逆に言えばこれくらいしなくては悪神セントを封印できなかったともいえる。神話においてセントにただ一人で立ち向かったことから知られる通り、勇敢な人物であり戦士としての実力もかなり高いのだが……肝心のセント封印が緩んではいけないと、守護神霊として具現化する際のスケールダウンが行われた時、力のリソースのほとんどを封印能力に割り振ってしまった。

 そのため本人の攻撃力は非常に低い。


2:《守護神霊》として現界した彼は、常に自らの神判の化身である二人の幼い天使に手を引かれている。そのためほかの神話体系の神々からはロリコンとまことしやかにささやかれているが、本人としては特に気にしていない模様。むしろ本望だとか。

 ガチだったのですね封緘神様。


3:攻撃力が低い分、防御能力に秀でた神霊。スキルによるデバフをありったけかければ、戦神の攻撃すらノーダメージで受け流すことが可能であり、殿としてはこの上ない人物である。相手が悪属性を持っていればしめたもの。問答無用で脱獄不能の監獄に放り込み北極星送りにする。

 相手は考えるのをやめる。


4:下界に降りた悪神セントの監視のために降臨。そのためランクも意図的に抑えており、当たりやすい星三ランクでの現界だ。さすがは正義の封緘神! 人の心がよくわかっていらっしゃる!

 冗談はさておき、少しでも早く仮出所したセントよりも彼は下界に到達する必要があった。

 そうしなくてはセントが何をやらかすか、彼自身にも想像がつかなかったからである。

 まぁ、自分よりも格が高い神霊が多くいたので、意外とおとなしくしていたセントを見た際は拍子抜けしたようだが……。

 だが彼は油断しない。セントが狡猾かつ残忍な性を持っていると知っているから。

 彼の瞳はいつも厳しく、セントを監視しているのだ。

 そう。たとえ審判の幼女二人に遊ぶようせがまれても。二人と一緒に雪合戦していたとしても、彼の監視の目は緩んでいないのだっ!!


5:幕間物語『正義の定義』クリア後解放

 善とは何ぞや? 実はマルアトはこの答えを持っていない。

 彼の神生は、悪神セントを封じるための神生であり、それ以外のことをよく知らないのだ。

 だからこそ、実は彼は悪神セントに感謝していたりする。

 自身の存在証明をするためには、彼の存在は必要不可欠であると内心認めているから。

 だからこそ、彼はセントを監視する。彼を悪として扱う。

 それこそが、彼が最も求めているものだと内心悟っているから。


 なお、セントやほかの神が彼の神判であるエンゲルとゴブレッタに手をだそうものなら、ブチ切れて襲い掛かるとか。暴力は悪? 知らん! そんなことよりも北極星落しだ! 道しるべがなくなるが知ったことか! ここまでやれば神だろうが死ぬだろうっ!!


 善とか悪とか関係ない。そういうのを超越したところにあの二人はいるのだと、マルアトは熱く語るのだ。

 …†…†…………†…†…


 ソーシャルゲーム《《守護神霊》コレクション》wiki『マルアト』の記事より。

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