女神の娯楽
*《獅子軍神》ザバーナ
レア度:☆4(SR)
神属性:軍神
コスト:12
属性:秩序・善
声優:古月師子王
イラスト:百〇個月
ステータス
筋力A 耐久A 敏捷C 魔力A 幸運D 神判A
保有権能
獅子の大喝EX:《軍神の大喝》が変質したザバーナ固有スキル。《軍神の大喝》と同じく、味方を高揚させ敵を委縮させる力を持つ。さらにこのスキルには特別な力があり、獣属性を持つ敵を無条件で屈服させる可能性がある。
軍略C:軍勢を率い戦う際に有利に戦闘を進めることが可能な知略を持つ。エシュレイキガルの死霊軍と激突し、神々の都で籠城戦を行った彼はそれ相応の軍略を保有していた。とはいえ、あくまで数百人単位の軍隊を率いるための軍略なので、あまりランクは高くない。軍神としてはありえざる低さといわれる……。
草原の覇者A:ザバーナ固有スキル。草原の主たる獅子を討伐した際に得たスキルで、平野部における戦闘において高いステータス補正がかかり、万の軍勢に攻められようとも傷つかない肉体を彼に与える。平原において、彼は何人も傷つけられぬ覇者となるのだ。
神判解放:《月より来る燦然なる剣》
詠唱「月光束ねし御身よ、耀け! その光は破邪の虹。人類守護の星光なれば!!」
冶金神リィラによって与えられた、カーミタースの全力解放。刀身が砕け散るのと引き換えに、カーミタースの力の大本である月光から魔力を召喚し、極大の光線に変換して敵を焼き払う。人の脅威たる夜を引き裂く月光の一撃であり、人に害成すモノを殺傷し焼き払う対害神判。
マテルアル
1:バビロニオン神話の軍神にして、エアロジグラッド第六階の守護を任されたバビロニオン神格最大の英雄。ただ、彼の魂はエシュレイキガルとの闘争の際冥府へと落ち、彼女が地上に出ないよう年がら年中戦っているため、エアロジグラッドに上がったことはないという。
今回はエシュレイキガルの付き添いで、下界に出ることがかなった。そのため彼女から目を離すことはなく、パーティー編成も基本彼女とワンセットにするよう言ってくるため、ストーカーの疑いがかけられている可愛そうな人……。
2:《守護神霊》として主人公の使い魔となった彼は、やや暑苦しいところはあるが、誠実かつ気遣い溢れた好青年である。エシュレイキガルから目を離さないようにしているのも、別に彼女が下界で暴れると本気で疑っているわけではなく、力を減衰させ、普通の少女となったエシュレイキガルが好意を抱いた相手を誤って殺してしまわないように見張っているという側面が強い。長い戦いを続ける間に、情が移ってしまったエシュレイキガルには、出来れば平穏な日常を送ってほしいのだとか。
3:カーミタースと並んで有名な《獅子をかたなす三神器》も今回は持ってきており、双剣と杖の状態にして持ち歩いているのだが、その神判機能を解放することはできなくなっているのだとか。
本人いわく、「なんか『錆び臭くてかなわん』だって。ごめんね……。機械文明が苦手なんだコイツ」とのこと。
よくしゃべるらしいのだが、今のところザバーナ以外にこの神器が喋っているのを見た存在はいない。
4:《夜天に耀く月虹の聖剣》とは本来、月光を収束した斬撃を放つ対軍神判であり、今回のような使われ方をするのは宿敵のエシュレイキガルクラスの敵が現れた時に限られる。ただ、今回の召喚においては、すぐさま聖剣の修復ができるリィラも降臨しているため、わりと遠慮なく使うことが可能なのだ。
ただし、完全なノーリスクなわけではない……。自分の傑作の一本をポキポキおられて、リィラがいい顔をするわけがないのだ。
そんなわけで、この神判を使った際に、リィラの工房の近くは通らないことをお勧めしておく。そこには満面の笑顔で威圧感を放つリィラと、正座を強要され涙を流しながら虚ろな声で謝罪するザバーナが見られるだろうから。
5:幕間物語『ザバーナの冥界道中膝栗毛』クリア後解放
軍神と崇め奉られるザバーナだが、彼が軍神として仕事をした回数は実は少ない。なぜなら彼はその生涯をかけ――そして現在進行形で、冥界の女神であるエシュレイキガルに対する抑えとして、常に冥界に居を置いたからだ。
だからこそ、彼はいつも悔恨の念を口にしていた。
軍神を人々が必要としていた時に、彼は答えられなかったから。
英雄の中の英雄。最古の人王が友を救うために戦ったときも、彼は結局その願いに答えられなかった。
だからこそ、彼は此度の召喚に奮い立つ。
どうか力をと請われたこの願いは、命を賭してかなえてみせると、固く誓っているから。
…†…†…………†…†…
ソーシャルゲーム《《守護神霊》コレクション》wiki『ザバーナ』の記事より。
突如外壁から降ってきた二人に対して、ゾンビたちの対応は至極淡々としたものだった。
いつもと同じように群がり、いつもと同じように食いつく。
当然だ。彼らはものを考えるための脳みそが腐っているのだ。あくまで魂が渇望するままに、生者の暖かな魂に群がっているに過ぎない。
その暖かさを得ようと、その光がほしいと。
自らが集ることで、その暖かさも光も消えてしまうのだと判断できぬ頭で、襲い掛かるだけだ。
だが、彼らが今回群がったのは、かれらが食い殺してきたか細い蜘蛛の糸などではない。
むしろ、その光は、かれらを根こそぎ焼き払う、
「邪魔だぁあああああああああああ!」
「気合十分だな」
極光!
気合いとともに、群がってきた死骸の山を蹴散らしたその光は、聖剣を持つザバーナの姿になり、塵に帰るゾンビどもに見向きもせず、ただ愚直に目的地を目指す。
目指すは、エルク・アロリアに死骸どもを降り注がせる投石器。
その間に姿を現した、巨大なジャッカルの腐乱死体に騎乗する、狂笑を浮かべた少女!
「って、女の子かよ!? やりにくいな……」
「女だからと手加減はせんさ。奴はあまりに殺しすぎた! なにより、放置すればあの子に危険が及ぶ! それを私は許容できない!」
「おまえ、惚れた女以外にはとことんドライだよね……」
まぁ、そっちの方が今回みたいな余裕ないときにはありがたいか。と、獅子が如き咆哮と共に、神器をふるいながらゾンビどもを薙ぎ払うザバーナの背後に隠れながら、もう一人の落下者――ソートは、ダンっ! と足音を立てながら跳躍。ザバーナの頭上を、身をひねりながら飛び越え、上下逆さになった視界で、封じていたもう一丁の拳銃を抜く。
物理破壊を得意とする、ティアードロップの片割れ。
すなわち。
「ぶち抜け、ライフマッド!」
呼びかけを聞き、ライフマッドは轟音と硝煙によって返答を返した!
銃口から吐き出された礫の弾頭は、一直線にゾンビの心臓を貫通。心臓を射抜かれたゾンビを塵に帰しながら地面にめり込み、半径百メートルにわたる大地の支配権をソートに譲る。
着地と同時に、自らの力が大地にいきわたるのを、システムアナウンスで読み取ったソートは、自分に群がる死体にひきつった笑みを浮かべつつ、自らを追い越したザバーナの道を作るため命令を下した。
「そら、通行の邪魔だ。ちょっとどいてろ!」
ソートが脳内で描いたイメージを、ヘッドギアが素早く読み取りこちらの世界に反映する。
つまり、突如として隆起した大地が、するどい無数の槍となり、左右から迫るゾンビを串刺しにする。その後、ハヤニエのように死体を吊し上げた大地の槍は、そのまま槍衾の壁となって、ソートたちの進む道を作り上げたのだ。
「これは!」
その光景を見て、ザバーナは何かに思い至ったのか、驚いたような顔でソートを振り返る。
それに対し、ソートはただ彼の背中をたたき、
「おら、止まってる暇はねぇだろ? 背中は俺に任せとけ」
「……あぁ、そうだったな」
――俺が何であれ、今はお前の戦友だ。
ソートから送られた言葉にされないエールを背中に、ザバーナは疾走を再開した!
その姿はまさしく百獣の王が如し。
別段早いわけではなく、別段機敏なわけではない。
ただ――小細工の感じられない威風堂々とした疾走は、それだけで意志を持たぬはずの死体たちを怯えさせた。
『月光束ねし御身よ、耀け――』
左右のゾンビは壁によって封じられ、眼前のゾンビたちは眼光鋭い疾走に静止している。
その隙を逃さず、ザバーナは絢爛なる月光の剣を振り上げ、その全能を解放する詠唱を行う。
本来ならば満月の輝く夜のうちにしか全能を発揮できぬ剣に、無理やり力を解放させるその詠唱は禁断の物とされていた。
――それを使えば、たちまち剣は砕け散り、地の底へと落ちる。二度とあなたの手元には戻ってこないだろう。
リィラが告げた諸注意の文言が一瞬ザバーナの脳裏をよぎるが、かまうものか。
――ここでこの詠唱を使わずして、いったいいつ使うというのかっ!
『その光は破邪の虹。人類守護の星光なれば!!』
八雲立つなど生やさしく、暗雲立ち込めるなどお遊びに変わる。
暗闇と共にやってきたのは、太陽を妨げる程度の物ではない。
それ即ち、時の理を無視し、ソートの雨雲ごと太陽を退けた、《夜》の到来であった!
突如としてやってきた自分たちの時間に、怯えていた死体たちは僅かな歓喜の色を見せるが、それも一瞬。
彼らはまともな活動をしていない貧相な脳みそで思い出してしまったのだ。
自らの本能に刻まれた、恐怖を覚える昨夜の蹂躙を。
すなわち、
『今、力を示せ! 《月より来る燦然なる剣》』
瞬間、振り上げられた聖剣から光が放たれ、天空の月を直撃した!
だが、月はその光を反射させ――ゾンビたちが埋め尽くす平原一帯を飲み込むほどの極光に変換し、ザバーナの眼前から一直線に死骸の山を焼き払う!
抵抗などできるはずもなく、極光によって焼かれた死体たちを塵に帰る。
当然のごとく、その一撃はとてつもない巨体を持つジャッカルをも呑み込んだが――
「……まぁ、さすがにそう簡単にはいかないわな」
「ですな」
手の中で剣が砕け散り、再び太陽と雨が戻ってくるのを見ながら、ザバーナは疾走を止めず、ソートもためらうことなくそれに続く。
なぜなら彼らは知っていたからだ。あの程度の一撃で、眼前の少女が死ぬわけがないと、本能的に悟っていた。
そして、その二人の悟りは、
「あははははは!」
凶悪な乱杭歯を見せつけながら光を食らい、笑う少女と共に平然と姿を現したジャッカルによって事実に変わる。
「おもしろぉおおおおい! 今の、暗闇を切り裂く極光だよね? 人の絶望と死が満ちる夜を切り裂く月の光を、そのまま武器に作り替えて、《絶望を与えるものを殺す力》にするなんて――神様って本当にすごい!」
いっそ無邪気さすら感じる愛らしい笑い声で、少女はケタケタ笑いつづける。笑って笑って笑って笑って、
「でもねぇ、エシュレイを《殺す》のは多分無理だよ?」
花のようなあどけない笑みで、ゾッとするほどの怖気が走る言葉を放った。
同時に、極光から逃れ生き残っていたゾンビたちが、突如絶叫を上げソートたちの前へと寄り集まっていく。
二人の進路上に集まったそれらは、やがてグチャグチャと鳥肌が立つ音と共に一つとなり、巨大な肉塊となって二人の前に立ちふさがった!
「救って! ネルルガル!!」
喜悦のにじんだ指示と共に、死骸の巨人は広範囲に腐臭をまき散らしながら、ソートたちめがけて、その巨大すぎる掌を振り下ろした!
…†…†…………†…†…
掌を迎撃したのは、ソートの力によって隆起した大地だった!
ソートは頭上を埋め尽くす死体集合体を見るや否や、即座にライフマッドの弾丸で大地を掌握。
複数発の弾丸によって支配した広大な大地を素材に、掌を迎撃する土くれの巨腕を作り上げたのだ。
だが、幾らソートが作ったものとは言え所詮は土くれ。上から際限なく圧力をかけてくる、巨人の腕に長くあらがえるものではなかった。
ソートたちが掌の下から抜け出すと同時に、土くれの腕はひび割れて崩落。激震と共に、巨人の手が大地にたたきつけられ、あたり一帯に地割れが起きる!
「何とかならないのですか、トーソ様!」
「無茶言うな! この体はあんまり性能よろしくないんだぞっ!」
おそらく自分の正体に感づいたらしいザバーナの呼びかけに、「とりあえず不用意に名前呼んじゃいけないって教えはあるのか」とホッとしつつ、不利な現状にソートは頭を悩ませた。
現状ソートの攻撃手段は、ティアードロップの水分操作と、ライフマッドの大地操作の二つ。
特定条件を踏むことで、神器というのは機能を解放するらしいのだが、あいにくと《ティア・マトー》はその条件を満たしていないのか、ソートに新機能が与えられることはなかった。
一応これらによって、制御された物体は聖別されるらしく、ゾンビたちにとっては触れるだけで体が焼けただれる代物らしいのだが――あの無数の死体がより合わさった怪物は、それすらものともしていない!
「多分焼けただれた死体を切り離して、深くまでダメージが届かないようにしているんだろうな。あれだけ巨体になると、俺の銃でも貫通は難しいから、砂粒でもぶつけられた程度の痛みしかないだろうし」
「意外と使えませんな、トーソ殿っ!」
「うるせぇ! もとより巨獣戦は専門外だ! 人間大になってから出直して来い!」
BSOにてU.Tとともに機械のドラゴンを殺した経験を持っているソートだが、あいにく今の彼の背中には頼れる相棒は控えていない。今ある手札で何とかしなくてはならない。
とはいえ、
「ここら一帯を埋め尽くしていた死体共がより合わさってくれたのは上々だ!」
もとより対軍勢に対する攻撃手段が乏しいソートにとって、敵が一つにまとまってくれたのはいいことだった。
ソートが呼んだ雨によって、あの巨体も継続的ダメージを受け続けている。なら、
「まぁ、お前が戦うよりかは、勝率は高いか――」
「え?」
ソートは現状の整理を終えると同時に、巨人の股をザバーナと潜り抜け反転。
股を覗き込むようにこちらに腐った頭部を向ける巨人と向き合う!
「トーソ殿!? なにを!」
「先に行け! お前の頭と牙と爪――それがあればジャッカルの足止めはかなうだろう! なら俺は、こいつの足止めに専念するとするさ!」
「っ!!」
自分の所持する術具の真の姿を言い当てられ、ザバーナは一瞬固まるが、ソートの正体を思い出し、頭を振った。
――この人なら知っていてもおかしくはない。
だから、
「お任せします」
自分ごときが心配するなどおこがましい。と、ただ信頼の言葉だけを残し、ザバーナは再び走り去っていった。
そんな彼を背中で見送った後、ソートは状態を起こしこちらに向かって振り返ってくる、愚鈍な死骸の巨人を見上げる。
「さてと、ちょっと遊んでもらうぞ?」
天地創造の女神と同じ名を持つ相棒を、両手に携えながら。
…†…†…………†…†…
「へぇ、そのお兄さん、結構楽しい遊び相手なんだね?」
巨人の足が完全に止まった。愚鈍とは言え、一歩踏み出すだけで容易にザバーナに追いつく、巨人の足が……確かにその場にとどまった。
それは、巨人の足元で暴れまわる一人の男の仕業。
巨人の体内に取り込まれた無数の眼球からそれを読み取った少女――エシュレイキガルは、ケラケラ笑いながら、自らの子供の不出来を許した。
「いいよ、せっかく生まれたんだもん。たくさん遊んでもらいなさい?」
彼女にとって、今回の事件は救済のための慈善事業だった。
苦しみしかない生を謳歌する人々を、死の世界へ連れて行き永遠の安寧を与えるという救済だった。
その際に起こる抵抗はすべて、救済される人々が彼女のために上演してくれる演劇だった。
殺すことこそが生業と教えられた彼女にとって、他者との殺し合いはこの上ない娯楽として認識されたのだ。
だからこそ、彼女の脳裏には容赦という言葉がない。
憐憫も、罪悪感も、大多数の殺人者が抱く殺意でさえ、彼女は保有していない。
ただ殺す。楽しんで殺す。殺すことこそが報酬であり、救いだから――。
「だからお兄ちゃんも」
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「救うね?」
容赦はなかった。
躊躇いはなかった。
ただ自分を乗せる、もう一人の息子に一言。
「食べちゃえ――ヌアビス」
華のような笑顔で告げられたそれを、息子は実行した。
鬨の声を上げる百獣の主を、黒きジャッカルは一口に飲み込んだ。
そして、
『君臨しろっ!! 《獅子をかたなす三神器》!!』
「――え?」
自らの下僕の頭を炸裂させながら、頭部にザバーナを乗せた状態で突如として出現した黄金の巨大獅子に、度肝を抜かれた。
『ザバーナっ!! てめぇ、呼ぶのがおせぇぞぉおおおおおおおおおお!!』
当然のごとく、彼女の眷族たるジャッカルはその程度では死なない。砕け散った頭の腐肉が、時の巻き戻しでも起こったかのように再び集まり、先程と変わらぬ腐乱した顔を作り上げただけだ。
だがしかし、その顔は明らかに怯えていた。
死んだとしても、腐ったとしても、本能が覚えているからだ。
『で、こんなガキンチョに鼻の下を伸ばしているやつが今回の俺の敵か? 肉もまずそうだし、テメェにリベンジ挑んだ方が百倍増しそうだが』
「ぬかせ。また切り分けられて、全身余すことなく有効活用されたいのか?」
『死体を辱めるのは戦士の恥じゃねェのかよっ!?』
「獣は特別」
『いらん特別扱いしてんじゃねぇえええええ!!』
眼前の獅子こそが、獣の皇。
すべての獣の上に君臨した、百獣の王であると。
お待たせしました!
いや、就活試験とかが忙しくて(言い訳
というわけで、今回ようやくエシュレイキガル戦開幕です。
最終的にどうなってしまうのか……気になりますね。
え? マテリアル?
その通りになるかどうかは、皆さんもお分かりだと思いますが?