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軍の試練:《軍神》ザバーナ

「ふぇ? 視察ですか?」

「そういうことだ」


 珍しくソートについて行かず創世の海の中で留守番していたシェネは、ソートが持ち帰ってきた金の種に付属する余計なイベントに、内心冷や汗を流していた。


――まずい。まずいですよ? 他の創世神の方々が見たら、私が無断で世界干渉しているのがばれるかもっ!? 今まではマスターがど素人でしたから誤魔化せてましたけど、シャルルトルムの反抗組織の代表に選ばれるような方々です。間違いなくβテスター。違和感には即効で気づかれる可能性が!?


 とはいえ、否やということもできない。実際ソートたちにはGPが不足しているのも確かなのだ。

 そんな状況で絶対ダメなどと突っぱねては、自分が何か隠していることが浮き彫りになるだけ。


――ここは、何としてでも創世神の方々の目をごまかし、この場を切り抜けないとっ!!


 と、シェネが固く決意する中、ソートはひとまず自分の神界を見て、


「ところでシェネ?」

「はい?」

「うちの神界……このままで大丈夫かな?」

「…………………」


 何の生物もいないさびしげな海でしかない神界を見まわし呟いた。

 シェネもさすがにその言葉には思うところがあったのか、


「インテリアでも置きます?」

「海底にか?」

「本棚なんてどうでしょう?」

「違和感バリバリすぎるから却下だな。大丈夫だってわかっていても、本水に浸すなんて危機感を覚える日常風景を作り出すつもりはない」

「それ言い出したら何も置けませんよ?」

「……せやな」


 創世の海。ソートの神界(マイルーム)。別名、初期状態(どりょくぶそく)

 ブッチャケこの時期でここまで殺風景なマイルームはそうそうないと、後日創世神たちにツッコミを入れられることが、この瞬間に確定した。



…†…†…………†…†…



 シャルルトルムから宣戦布告を受けて三日が経った。

 与えられた猶予は一週(なのか)間なので、もうそろそろ余裕がなくなってくる。

 とはいえ、今のGPでは碌に時間加速も行えないため、ソートには何としてでもGPが必要であった。

 というわけで、


「やってきました! 無名世界! いやほんとなんか名前考えてあげなよっ!?」

「あれって自力でつける物なのか!?」


 ソートは現在、シャノンが連れてきた四人の創世神と共に、再び自らの世界の大地を踏みしめることとなった。


「おぉ! なんというか……モデルはバビロニアですかな?」

「なんだそりゃ?」

「バビロニア神話ぐらい知っておくノラッ☆」

「メソポタミア文明くらい知っているでござろう? そこらで流行っていた神話でござるよ。もとは最古の神話たるシュメール神話から分派した神話らしいが」

「中々個性的な連中だな……シャノン」

「あなたにだけは言われたくないと思いますよ、ソートさん」


 背後で騒がしく自分の世界の評価を行っている四人を振り返り、ソートはそっとため息をついた。

 一人は、時代にそぐわないバーテンの服を着こんだ《ザ・マスター》という老紳士のプレイヤー。

 まさにマスターになるために生まれてきたといわんばかりの着こなしっぷりであり、逆に神代真っ只中のこの世界にすら溶け込みかねない自然さを誇っていることが、何よりも不気味だったりする。


 二人目は、どことなく親近感を覚える西部劇のガンマンそのものの服装をした男。

 目立つテンガロハットに、足には拍車。真っ赤なスカーフは果たして何を意識したのものか?

 こげ茶のコートに身を包む無精ひげを生やした西部のガンマン――《ミスター・キッド》と名乗った彼は、見ての通り無類の西部劇狂いらしく、自分の世界も西部劇風にしようと試行錯誤を繰り返す変態らしい。

 もっとも、先ほどまで銃談議をしていたためソートと一番仲良くなったプレイヤーも彼だったりするが。


 対する三人目は異彩も異彩。

 フリッフリの衣装に身を包み、目には星の輝きという意味不明な光が宿る。

 手に持つロッドは、ファンシーな五芒星が先端に輝く珍妙物体。おまけに口調は、


「あんまり設定細かくしないと各世界の神話がモチーフになって文明展開されるっていうのマジだったんだねッ! 私しらなかったノラッ☆! それにしても、バビロニア神話ってまたコアなところいったノラッ! ギルガメッシュまだー?」

「まぁ、ルミアさんは完全オリジナル世界になりつつありますしね。なんです? 清らかな乙女に星の力が宿る宝石ばらまいて魔法少女にするって?」

「ロマンチックでしょう?」

「年端もいかない女の子を兵士に仕立て上げる鬼畜システムだな?」

「あ゛あ゛!? 魔法少女に文句あんのかクォラァ、キッドォッ! チョット表でろや!?」

「ルミアさん、ルミアさん。素が出ていますよ?」

「いっけね~。ついうっかりしちゃったノラッ☆」

「……………」


 なんというか……コメントは差し控えよう。と、ソートは内心冷や汗を流しつつも最後の一人へ視線を向ける。

 そこには満面の笑みを浮かべて、刀の柄に手をかけ、カチャカチャと鍔を鳴らしている変人がいた。


「……………………」


 ソートは確かに読み取った。彼の瞳の輝きがソートにこう訴えかけていることを。


――やらないか?

――やりません。


 めんどくさそうなのでその視線を速攻で無視し、驚愕のあまり固まっている変人――ソード万次郎に背中を向け、ソートはシェネに預けられた手旗を振り注目するようアピールする。


「は~いみなさん。これより俺の世界……《名前はまだない(ネームレス)》の案内をしま~す。いちおう今回の試練かなり血生臭くなる予定なので、できるだけ俺から離れないようにしてくださ~い」


 ソートが意識して作った唯一の大規模イベント――軍の試練。

 その始まりは何とも間の抜けた、就学旅行のガイドのような掛け声とともに幕を開いたのだった。



…†…†…………†…†…



 その男は、まさしく歴戦の勇士と呼ぶにふさわしい見た目をしていた。

 筋骨隆々とした巨大な体には、数多の罪人や怪物と戦った証である、無数の傷が走っており、

 岩を削りだしたかのような無骨な顔には、右目抉り取ろうとするかのような三本爪の傷が深々と刻まれている。

 はるか西に広がる平原にて覇者を名乗っていた百獣の王――ザバーナの獅子。

 西側の集落とエルク・アロリアの交易を遮断したこの怪物を討ち果たした際に、彼はこの傷と……平原の覇者たる《ザバーナ》の名を受け継いだ。

 誰が呼んだか咆哮王。獅子をもすくませるその雄叫びは、はるか天上のエアロ・ジグラッドすら震わせ、統一王――天空神エアロをも震え上がらせたという。

 そんな彼は今自らの部下であるエルク・アロリアの近衛兵部隊を鍛えている真っ最中だった。


「そこ……腰が入っていないぞ」

「はいっ!」

「そこは……声が小さいな。気合いで負ければ死ぬだけだぞ?」

「はいっ!」


 とはいえ、この場ではさすがにそのような咆哮を放つつもりはないらしく、血色の髪の毛に隠された、無精ひげまみれの顔からはぼそぼそとした重低音ボイスが放たれているだけである。

 だが、今代近衛兵たちはすべて彼に憧れて、近衛兵採用の狭き門をくぐった勇者たちである。

 彼の言葉は一言一句聞き逃すまいと、激しい訓練をしながらも耳を澄ませるという高等テクを身に着けているので、かれらの返答が遅れることはなかった。

 そして日が中天に届いた頃、ようやく激しい訓練も終わりをつげ、


「よし、朝の部と交代し夕方の見回りに出ろ。俺は今から有給をとるので、朝の部の連中は昼食をとったのち、自己鍛錬に励むようにと伝えろ」

「「「「「はいっ! ありがとうございましたっ!」」」」」


 汗だくの男たちをしり目に、ザバーナは最後の指令を下すとさっさと踵を返し宿舎へと消えていく。

 そんな彼の後姿見えなくなるまで見送った後、近衛兵たちはため息とともに倒れ伏した。

 この時代には訓練用の鎧や服なんて上等なものはないので、ほとんど恥部を隠すだけの布きれ一枚を纏っただけの姿だったのだが、そんなことは気にしない。

 汗打地面の土を広い彼らの体を土まみれにするが、そんなことなど気にならないくらい今の彼らは消耗していた。


「や、やっぱりあの人は化けもんだな。なんで俺らの三倍きつい訓練しながら、あんな平然としていられるんだ?」

「流石はザバーナの覇者。怪物から平原を奪い取った勇者様は違うね!」

「俺も、いつかあんなでっかい男に……」


 羨望と、野望。そんな心があふれる声たちが訓練施設に響き渡る中、昼食もそこそこに宿舎を飛び出したザバーナは、体と人相を覆い隠す巨大な獅子の毛皮を身にまといながら、ある場所へと急いだ。



…†…†…………†…†…



 そこは、エルク・アロリア中心部……ジグラッドに設置されたひとつの講壇であった。

 この講壇では、毎週ジグラッドに仕える巫女が交代で立ち、エルク・アロリアの人びとに神々に対するお祈りをするように、教えを説いているのだが、本日の講壇担当の巫女はその巫女たちの中でも別格の人気を誇る美人巫女だった。

 涼やかな青い瞳に、まるで海のようなコバルトブルーのショートヘア。現在のエルク・アロリアにおいて、絶大な人気を誇る彼女――ネフィティスは、いつものようにしずしずと講壇の上に立ち、拡声の魔術を使いながら、にこりと集まった人々に笑いかけた。


「みなさん、息災ですか?」

「「「「「息災ですぅうううウウウウウウウ!」」」」」


 いつもとノリが違う講談の様子に、初めて彼女の講談に参加するメンツは面を食らったが、それもすぐに渦巻くような熱気に飲まれて気づかれないようになる。

 そんな周囲を苦笑いを浮かべながら見つめた後、


「本当はもう少し静かにしてほしいのですが、せっかく話を聞きに来て下さっているのですから、贅沢は言ってはいけませんね。ニルタ様は『今ある糧に感謝をして生きるべし。もっと多く、もっとよこせと欲を張っては、いずれ何らかの報いを受ける。人とは本人は気づかなかったとしても、何かを奪って生きているものなのだから』とおっしゃられました。私もそれは間違ってないと思っています。人とは何も得ずに生きるには……あまりに、あまりに弱すぎる生き物なのですから」


 鈴を転がすような声で、彼女の話が始まる中、不審な毛皮を纏った男が最後尾へと姿を現した。

 彼の巨体を見つけたネフィティスは、「……また有給を取られたのですか?」と、ちょっと呆れつつ、それでも少し嬉しそうな笑みを浮かべながら、


「だからこそ、私たちは神々への祈りを忘れてはいけません。神々はいつも私たちを見て、私たちに与え、私たちに手を差し伸べてくださっているのですから。人が最低限の奪取で生きていけているのは、すべてはエアロ様と神々のおかげ。だから感謝を告げましょう。私と共に、大きな声で」


 そこで彼女は大きく息を吸い、


「――――――――――――――――――――――♪」


 原始的な、歌詞などない……だがしかしなぜか心を打つ、いっそ爽やかさすら感じるメロディーを、この場に集った人々すべてに聞こえるほどの声量で奏で始めた。

 彼女の名前は唄巫女――天空神エアロが認めた、神々に唄を届ける原始の歌い手である。



…†…†…………†…†…



「うぉおおおおおおおおおお! 歌巫女ネフィティス愛してるぅううううう! L・O・V・E・ネ・フィ・ティ・ス!!」


 そんな彼女の歌に狂乱する毛皮の男が一人、珍妙な踊りを入れながら要所要所で合いの手を入れていく。

 それが後世では《オタ芸》と言われるダンスに分類されることなどつゆしらず、毛皮の男は狂乱した。

 自分はこのために生きていると。

 この歌を聴くために数多の苦難を乗り越えるのだと。

 神様に届ける歌らしいのだが知ったことではない。

 自分はこの歌を聴くだけでご飯三杯いけますよっ! と、若干頭のおかしいことすら考えている。

 そんな彼の肩を、


「あ、あの~」

「っ!?」


 一人の男が叩いた。

 青と白の外套を纏った、フードで顔を隠すひとりの不審な男が……。


「えっと、ちょっと信じたくないんだが、あんたがエルク・アロリアの近衛隊長、ザバーナさんであっているかい?」


 フードの下から覗く口元が明らかにひきつっている。

 そしてその口から放たれた、絶対ばれるはずがない自分の正体を言い当てる言葉を聞き、今代の英雄の表情は見事に固まった。

 後の軍神――バビロニオン神話の、戦う神ザバーナ。

 原始の戦神にして、のちの軍神たちに大いに影響を与えた彼が、重度のアイドルオタクであったことを知るものは、追っかけられている本人を除いて皆無と言えた。

 この時までは……。


 虫歯がひどかったので下の親不知を抜いたのですが、まー地味に痛い。


 何気に土日は鈍痛に耐えながらもだえ苦しんでいたので、小説書く気が起きなかったというね……。


 とはいえ今は落ち着いたので無事王の試練開幕。

 しょっぱなから精神攻撃をくらいクリティカル判定をもらった軍神様。はたしてこの後どうなるのか?


次回をこうご期待!!(白目

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