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幕間:反抗会議

 ここは《境界領域(ボーダーワールド)》のとあるバー。

 あるプレイヤーが経営するこの店は、そのプレイヤーが作り出した《酒造世界》によって作られた秘蔵の名酒たちが並び、多くのプレイヤーたちをうならせていた。

 なお、未成年プレイヤーはログイン時に登録した個人設定からオートで選別され、味だけ再現するノンアルコール設定の酒がふるまわれる良心設計がなされている。

 閑話休題。それはともかくだ。

 現在のゲーム内時刻は正午。ゲーム内の時間は常時三倍の速さまで時間が加速しているWGOにおいては、このように現実の時間とゲーム内の時間があべこべになっている場合は多々ある。

 そのため、バーが開店するにはまだ早く、この店のオーナーもいまだ仕込みの最中をしている……はずであった。

 だが、クローズという看板が下げられた扉の向こうでは、どういうわけか多くのプレイヤーたちが集い、マスターを含めてなにやら真剣な様子で話し合っていた。


「で、どうなんだいあの新人殿は? 世界の運営はうまくいっているのかな?」


 口を開いたのは、グラスを綺麗なウェスで拭いていた老紳士プレイヤーにして、《酒造世界》創世神――ザ・マスターだ。彼の傍らでは、店の雰囲気など無視した割烹着を着た女性サポーターが料理を作っており、店の売り上げに貢献している。

 そんなちぐはぐな相棒を持つ彼の疑問に答える者は、ゆっくりとグラスを掲げながら、彼がふるまってくれる酒のお代わりを要求する。

 彼女に見える彼は《水没世界》のシャノン。ソートを厄介ごとに巻き込んだ張本人であり、この集いの主催者でもあった。


「話を聞く限りじゃ問題なさそうね。順調に神様量産中? それが落ち着けば英雄に移れるとは思うけど……」

「その英雄に移る時が問題だろう? 聞いた話じゃ魔力値は六十に設定しているようじゃないか? 多少の遅れはいなめんぞ」


 そう言ってカウンターで煙草をふかしているのは、テンガロハットをかぶったカウボーイチックな創世神――《西部世界》のミスター・キッド。そんな彼の背後には、彼のサポーターである眼鏡をかけた秘書風の女性が、迷惑そうに副流煙を見つめていた。


「キッド様。酒の味や香りがわからなくなるので、うちでの喫煙は御遠慮していただきたく」

「VRでくらい煙草を吸わせてくれ……。このご時世は喫煙者に厳しすぎる」


――来年また増税でたばこの値段が上がるっていうのに……。と、グチグチ文句を言いつつ、マスターの警告は真摯に受け止めたのか、キッドは加えていた煙草をポリゴン化。アイテムボックスへ自動格納する。


「六十くらいだったらまだ目はあるよ~? うちなんか~不用意に八十にしちゃったせいで~神様が下の天界に~あふれかえっているんだけど~? もうルミアこまったゆ~。キャルル~ン☆」

「マスター……相当酔っているみたいですから、そんな無理して魔法少女っぽいキャラ付しなくても」

「あ゛あ゛?」

「いえ、なんでもないです」


 気弱そうに顔を青くする、サングラスをかけた黒スーツのAIにガンを飛ばすのは、小柄な体をフリルだらけの服で包んだ、ネコ耳付けた魔法少女モドキ――《魔法少女世界》のルミアン・キャルルン。無類の魔法少女狂いで、自らの理想の魔法少女を作るためにこのゲームにやってきた変り種である。

 なお、サポーターが言った通り、彼女はこの店のアルコール制限設定に引っかからない。

 引っかからない(・・・・・・・)


「某としては、あの御仁の名前の方が気がかりでござるがな。ソート。もしやとは思うが、彼の悪名高きBSOの銃撃無双――VR業界で拳銃握らせれば右に出るものはいないと言われた、《死の雨外套トート・レーゲンマンテル》どのでは」

「何それ香ばしい」


 地味にソートの正体に気付いているのは、ボックス席にて刀を抱えるように自らに立てかけながら、編み笠を目深にかぶった侍――《刀剣世界》創世神――ソード万次郎。そして、彼の向かいに座る黒いドレスを着た10歳程度の少女が彼のサポーターであり、ソートの通り名に目を輝かせて、その伝説をもっと詳しく語るように万次郎にせがんでいた。


「なんというか、皆さんのサポーターって結構個性的ですよね。ソートさんも割と個性的な方連れていましたし」


 ソートとけたたましく言い合いをしていた白いスーツの少女を思い出しつつ、シャノンは思わず苦笑いを浮かべた。

 だがそんな彼の言葉をきき、この場にいた四人の創世神は一斉に黙りこんだあと、


「「「「お前が言うな」」」」

「えぇっ!?」

「はぁ……」


 宝塚にいそうなイケメンと見紛わんばかりの中性的女性をひきつれた、シャノンに鋭い突っ込みを入れた。

 彼らこそがソートに出資した反シャルルトルム同盟のまとめ役たち。もっとも多くの出資をソートに行った、ソートの《無名世界》を支援する大株主たちである。



…†…†…………†…†…



 バーで五人が邂逅してから数十分後。


「というわけで一度視察をしようと思うのよ!」

「……はぁ? 視察? なんだそりゃ?」


 再び境界領域を訪れたソートは、今度はあちらから話しかけてきたシャノンにつかまり、そんなことを言われていた。



…†…†…………†…†…



 王の試練。今までのゲーム歴の中で一二を争うヘビーイベントだったその試練を終わらせたソートは、とりあえず不足したGPを稼ぐために、何か稼ぎ口ないかと境界領域にやってきていた。

 そうでなければエアロとまともに会話すらできないという事実に、思わず涙が出てきたからだ。

 それに現在の境界領域では、割としっかりとした商店が立ち並びつつあり、その立ち上げのためにバイトを募集していたりする。自分の世界から収入が当てにできない神様連中は、こういった店でバイトをして不足したGPを補充しているらしい。

 もっとも、ここでは労働基準法などあって無きような物なので、仕事は選ばないとブラック企業顔負けの労働を強いられるのだが……。


 そんなソートに話しかけてきたのが、先ほどまでバーで酒を飲んでいたシャノンだった。


「お金ないならいってよ? 出資する出資する!」

「いや、さすがにそこまで世話になるわけには……というか酒くさっ!?」


 ここって酒も飲めるのか!? 未成年には制限かかっていますから飲めませんよ? と、ソートとシェネが話し合う中、いい感じにほろ酔いになっているシャノンはケラケラわらい、ひらひらと手を振った。


「いいっていいって! というか、前にもいったと思うけど、君に勝ってもらわないと私たちとしても困るのよ。ベータテスターたちのあのクソガキに対する恨みは、正直シャレにならないくらいに詰まっているしね!」

「どんだけやりたい放題だったんだあいつ……」

「とはいえ、あんたが喧嘩を売ってくれたおかげで、ほかの連中はまだ被害にあってないのも事実なの。あいつ、どうやら記念すべき初めてのさらし者はあんたに決めたみたいだし」

「そして、どこかで聞いたような心理状態みたいだな」

「これから連続殺人をしようとする犯人は、はじめてに選んだターゲットに固執するって言うあれですね?」


 普通に警察に捕まれあのクソガキ。と、ソートは内心ボソリとつぶやきつつ、こりゃ本格的に英雄の育成を急がないとと、決意を新たにする。とはいえ、それを行うためにはどうしてもGPがいるわけで……。


「う~ん。でもなぁ……さすがに二回も金を借りるわけには」

「だからぁ、出資だって言ってんじゃん! 私らはあんたに金をわたす。あんたはシャルルトルムに勝つ! それで清算終了! ほら簡単でしょう?」

「だが、俺が勝てなかったらどうするつもりだ?」

「そこよ……私の仲間もそのことを危惧していてねぇ」


 仲間? いたのか。と、割と失礼な感想を抱くソートの内心など知らぬまま、酔って上機嫌なのか、シャノンは懐から取り出した携帯ボトルから、がぶがぶ透明な液体を飲み始めた。


――水だよね……水だろうなおいっ!?


「それ以上酔ったらさすがに面倒見てやれんぞっ!」

「大丈夫大丈夫! ぜぇ~んぜん酔ってないし!?」

「酔っ払いの常とう句だろうがそれっ!?」


 さらに息が酒臭くなってんぞっ!? と、わずかにシャノンから離れるソートにシャノンは告げる。


「というわけで、巻き込んだ私としてはお金貸すのは問題ないと思っているけど、他の出資者メンツがちょっと懐疑的でね。というわけで、今回の出資にはちょっと条件があります!」

「条件?」

「あなた、今試練で英雄育てているんでしょう?」

「お、おう……」

「じゃぁ、その試練の様子を私たちにも見せなさいっ!」

「え?」


 信じられない提案にソートが固まる中、シャノンは携帯ボトルのふたを閉じて一言。


「いわゆる視察よ。あなたが本当にこのままシャルルトルムを倒せるのか? それを確認するために、私たち反シャルルトルム同盟が、あなたが作った試練を見て見極めるわ!」

「…………」


 厄介なことになってきたな。と、ソートは内心でため息をつき、それはともかくと、


「おまえ、すっかり女口調が板についたな」

「かわいいでしょう?」

「ハハハ、くたばれ!!」


 どこからどう見ても女にしか見えなくなった男の娘の完成度に、初被害者として怨嗟の声を漏らした。


 今まで影も形もなかったプレイヤーたちがようやく参戦。

 オンラインゲームとはと日々自問自答を繰り返す日々からようやく脱却できそうです。

 次回は軍の試練開幕。この前みたいに詐欺にならないよう頑張りたいと思います(白目

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