経典制定
土を掘る音が聞こえる。
それで俺――シャマルはゆっくりと目を覚ました。
見上げた景色は黒焦げになった家屋の残骸。かろうじて屋根が燃え残っている雨風がしのげるだけの場所。
どうやら誰かが俺をここまで運んでくれたらしい。
「……………?」
それっていったい誰だってばよ? と、俺は思わず首をかしげた。
俺が気を失った村では罪人合わせて生存者はいなかったはずだと。
そこまで考えたとき俺は気づいた。俺が目を覚ました理由は果たしてなんだったのかと。
「――っ! 誰だっ!」
無様を晒した。醜態を見せた! あの虐殺者たちにもっと仲間がいる可能性だってあったのに!
らしくない醜態に舌打ちを漏らしつつ、俺は家屋の残骸から飛び出し、
『今は土葬の時代か……。衛生的には火葬がベストなんだが……』
『今の時代に、人を骨になるまで焼き尽くす火力なんて期待できませんよ。中途半端な生焼け死体なんか見るに堪えないから、さっさと埋めちゃった方が精神衛生上良いんです』
「あの、お二人とも身も蓋もないことを言うのやめていただけませんか?」
そこには、ずいぶん昔に作った鉄製のシャベルを使いえっちらおっちらと穴を掘りながら、たくさんの墓を作っている女がいた。
後姿を見ただけでわかる。随分いろいろと大きくなっているが、俺があいつの背中を見間違えるはずがない。
「リィラ……リィラなのか?」
それでも俺は信じられなかった。あいつが、あの子が……俺なんかのもとに来てくれるはずがないと思っていたから。
でも、俺の呼びかけに女は振り返った。
日焼けした褐色の肌に、昔と比べて少しは手入れされている茶色いポニーテール。昔俺が作ったボロボロの眼帯を今も付けており、光を宿した一つだけの紅い瞳は、俺の姿を見て一瞬昔のように輝いたが、
「シャマル! って……あ、そその……。き、来ちゃった?」
なんだか申し訳なさそうに、仕草と言動が一切合致しない俺の時代の萌え台詞を口にしてきた。
…†…†…………†…†…
「違いますよリィラさん! そこはもっとはにかむように! そして申し訳なさではなく恥じらいを感じるテイストで! そんなんじゃ男のハートは射とめられませんよ!」
「お前これ以上妙なこと吹き込むな!」
マイクを横からかっさらいリィラに演技指導をかましているシェネを押しのけ、ソートはそっとため息をつきながらリィラに悲しいお知らせを告げた。
「リィラ。俺達が助けてやれるのはここまでだ」
『えっ! ど、どうして!?』
「一から十まで俺達が吹きこんだセリフをあいつに告げて説き伏せるか? お前の本心が隠された、俺達の言葉を告げるだけの伝書鳩にでもなるつもりか? お前はそんなことをするために、ここに来たわけじゃないだろう」
――まぁ、本当は最後まで神託をつないでずっと見守っているぞと、安心感を与えてやるつもりはあったのだが。
と、ソートがそこまで考えた時、ピピーッというけたたましい音が鳴る。
「あ、マスター。今気づいたんですけど、GPが」
「わかってますけどぉ!」
神託――消費GP時間経過ごとに加算。
――長電話とはげに恐ろしきものである。と、もうそろそろ三ケタまで減りつつあるGPに戦慄を覚えつつ、ソートは最後に激励を送った。
「大丈夫だ。お前はきっとできる。そいつを想ってそんな剣を作り出せる程なんだ。俺達が吹きこんだ言葉じゃなくても、お前の言葉ならきっとシャマルを助けてやることができるさ」
『…………はい。ソート様。ありがとうございます』
お世話をおかけしました。と、リィラは最後にそう言って、眼前の男と向き合った。
もうあなたたちの手は借りないと、決意をひめた背中を見せて。
そんな彼女を満足げに見送った後、ソートは神託切断ボタンをタップ。それにより通話ウィンドウが速やかに閉じ、あとはリィラとシャマルを映した画面だけが残ることとなった。
そのウィンドウを視界の端で眺めつつ、ソートはようやくある男と接触することを決めた。
それは、
「さて、シェネ」
「はい、なんでしょう?」
「ちょっとエアロがいるところを映してくれないか?」
「……………」
「シェネ?」
「あ、あぁはい! エアロさんのところですね! わかりました! いますぐつなぎます!(まぁ、GP的に加速費用を残すだけで、神託はつなげないでしょうし……)」
「??」
何やらボソッと呟いたシェネを不審に思いつつ、ソートはこの世界の統治者である天空神へと通話をつないだ。
――何考えてんだお前と、一言文句を言うために。
…†…†…………†…†…
「ご、ごほん……。醜態を見せたわね」
「いや、いいけど……」
私――リィラは神託を切り上げられてしまった事実をほんの少し心細く思いながら、それでも心を奮い立たせ、目の前のボロボロの男に向き直った。
――これがあのシャマルなの? と、私が思ってしまうのも無理らしからぬこと。
それだけシャマルはボロボロだった。
体が痩せているとか、頬がこけおちているとかそういった不健康さは感じられない。むしろ、エアロ様の神鉄を胸に埋め込んでいるからか、体つきは昔と比べてかなり逞しくなっている。戦いのさなかズタボロにされたのか、服を失ったシャマルの上半身は丸見えだったのですぐにそれは分かった。
でも、その逞しい体には無数の傷跡が残っていた。
深いモノ、浅いモノ、抉れたようなもの、火傷のような跡……。それらがすべて、シャマルが歩んできた道の険しさを私に教える。
それを思わず凝視してしまい、泣きそうになる私に気付いたのか、シャマルは慌ててあたりをみまわし、燃え残っていたぼろを身にまとう。
「あ、あははは。見苦しいものを見せちまったな……。その、この体傷の治りは早いんだが、やっぱり死体なせいか再生が中途半端でな。傷跡が残りやすいんだよ。まったく、こんな汚い体、女に見せるもんじゃないって」
「――っ!」
――ちがう。そんなことはない。それはあなたが今まで頑張ってきた証だ! たった一人で戦い抜いた証だっ! それを醜いなんて、他の誰が何と言おうと私だけは絶対に思わない!
内心で燃え上がる言葉を口にしようとするけど、思い通りに口が動かない。
やっぱりまだ罪の意識が残っているのだろうか? 苦しんでいるのは私じゃないのに。苦しんでいるのはシャマルなのに。きっと救えと言われたのに!
――このポンコツが! 私の口なら私の思い通りに動いて見せなさいよっ!
「リィラはどうして……って、そういや風の噂で聞いていたぞ? ジグラッドに上がったんだろ? いいよな。巫女なんてこの世界じゃ出世街道まっしぐらだ。エアロ様に寵愛を受ける神域の鍛冶師なんて呼ばれていてさ……頑張っているみたいでよかった。って、そうなると俺なんかが話しかけちゃいけないのかな? 清廉な巫女さんに、こんな動く死体風情が話しかけるなんて、あっちゃならんことだろうし」
――そんなことはない! 私は、私はあなたに会うためにここに!
そう言いかけた私の耳に、
「悪かったな。手間掛けちまって。通りがかったところ昔馴染みの顔を見て、ほっとけなかったってところだろう? お前は優しいから……。もう俺は大丈夫だから。さっさと元の仕事に戻れよ。俺は化物だから、この程度のことは日常茶飯事で、もう慣れきっているから。だから……」
「……大丈夫?」
「リィラ?」
聞き捨てならない言葉が聞こえた。
「大丈夫って……何が? 何が大丈夫なのよ、シャマル!」
「リィラ? 何怒って……」
「怒りもするわよっ! どうして、どうしてそんな辛そうな顔しているくせに、八つ当たりの一つもしてくれないのっ! あの時の悲鳴は、あの時の怒声は……夢か幻だったとでもいうつもり!?」
私は確かに聞いた。誰か変わってくれと。どうしようもないんだと。もう疲れたんだというシャマルの悲鳴を確かに聞いた!
なのに今のシャマルはなんだ。まだ誤魔化せると言いたげに。まだ取り繕えると言いたげに。まだまだ自分は大丈夫だと……っ!!
「誰にでもバレる嘘ついてるんじゃないわよっ! 私じゃなくてもわかるわよっ! あなたがどれだけ無理しているかなんて、ソート様に教えてもらえなくても、会って一目見ただけですぐにわかっちゃったわよっ!」
「リィラ……ば、バカなこと言うなよ。む、無理なんて一つも。ほら、あのまだ埋まっていない死体のいくつかも俺がやった罪人だ。家畜を屠殺するのと変わらない。もうたくさん罪人をばらした俺には、その程度のことじゃ揺らぎは」
「今まで一人だって殺したことがないくせに、そんなことがよく言えたものねッ!」
「……どうしてそれを!」
「シャマル! 驚いてないでこっちを見なさい! シャマル、こっちを見ろと言っているの!」
怯えたように後ずさり、子供のように震えはじめた彼を、私はすぐさま追い詰め、両手で頬を抑え、視線を無理やり固定する。
「あなたは怒っていいの! あなたは嘆いていいのっ! この世でただ一人あなただけが人の罪を罵り、人の罪を嘆き、人の罪を罰する権利があるのだから! あなただけは、だれよりも怒って、だれよりも泣いて、だれよりも嗤う必要があるのっ! だから……だからっ」
いつのまにか、私は泣いていた。
私が手を離したばっかりに、ここまで追い詰めてしまった幼馴染の姿を見て、自分の情けなさに反吐が出そうだった。
「私のことも……もっと責めてよ」
「リィラ……」
「私を鍛冶師にしてくれたあなたを、正体を知っただけで怖がってしまった。あなたが罪人を裁いて回っていると知っていながら、修行で忙しいと誤魔化して会いに行こうとしなかった。あなたが苦しんでいると教えてもらってなお、自分可愛さにあなたを助けに行くことをためらってしまった!!」
「リィラ、それはリィラが悪いわけじゃ」
「いまさら罪人かばってんじゃない! あなたはいったい何なのっ!」
「――っ!」
私の一喝に、シャマルは思わずと言った様子で背筋を伸ばし、
「お、俺は……俺は《裁く者》だ」
「えぇ」
「リィラ、お前のそれは裏切りに相当する。お前を信じたものを、お前を慕ったものを、お前を愛したものを、深く傷つける心の罪だ」
「……えぇ」
「でも、でも……裏切られた、裏切りを強いてしまった俺は、人間じゃ」
それでもなお、彼の天命で縛ってなお、私を責めてくれない彼に、私はそっと今の気持ちを告げた。
「いいえ、あなたは人間よ、シャマル」
「っ!」
「人を殺したことに涙し、人を殺めてしまったことに慟哭し、人を害したことを後悔するあなたが……人間じゃないわけがないわ。体が違っても、たとえ死体だったとしても、その魂は確かに人間よ」
「あぁ……あぁっ」
「だからあなたは泣いていいの。責めていいの。あなたが自身を人でないというのであれば、私がそれを保証してあげるから……だから!」
そして私は震える彼の頭をそっと抱きしめ、
「私の罪を、裁いてください」
「あぁ、あああああああ! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!! ああぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
誰も生きていない焼け落ちた村の中で、一つの死体が泣きじゃくる。その泣き声一つ一つが私を苛む剣となって、私の心を傷つけた。
きっとそれが私に対する罰なのだろう。こんな優しい男を一人にしてしまった、愚かな女に対する罰……。
…†…†…………†…†…
黄金の宮殿。エアロジグラッド。
とある狩人に加護を与えるためニルタが席を外したそこには、現在エアロが不遜に肘をついて座るのみ。
そんな中、エアロは一人の男が救われる光景を見て、フンと鼻を鳴らしていた。
あの程度の距離ならば《千里眼の空鏡》を用いずとも、エアロジグラッドから見下ろすことが可能であった。
「我が巫女をたぶらかすとは、あの汚物も大したものだ。とはいえその功績は認めざるえない。あとは《法典の制定》という難行成就を持って、奴をこの宮殿に招けば此度の試練は完了なわけだが」
そこで言葉を着ると同時に、エアロは天に向けて視線を戻した。
「覗いているのであろう? 創世神殿」
『………………………』
答えはない。だがしかし、頭上から注がれる視線は確かにエアロを貫いていた。
「物申したいと言いたげな視線ではあるが、あれは必要悪であろうよ。いずれにせよ我にはもはや下界の人間を完全管理する力はない。理由に関しては聞かないでもらいたいが」
――正確にいうとあなたの隣にいる愚物に封じられたのだが……。と、内心で愚痴を漏らしつつ、それを言えないエアロは苦々しげに言葉を吐き出す。
「それゆえに、人はいずれ自らを自らで裁く必要があった。そのためには法典の制定は急務と言えよう。ならばこそ、未来知識を持つものを此度の試練に組み込むのは当然であろう」
『……………』
それにしたってやりすぎだとでも言いたいのだろうか。本来エアロの空間であるエアロジグラッドがある天界に、彼の威光を妨げる雲など湧くはずもないのだが、今天界は俄かに八雲立ち、エアロの威光の象徴である太陽を覆い隠し始めていた。
彼の原始の星を鎮めきった、雨雲の到来。
神話の再現が行われるかと口角を吊り上げながら、それでもエアロは不敵な笑みを崩さない。
本当にそのようなことが起これば、天界そのものが水没する危険すらあるというのに。
「では問うが創世神よ、此度あの男が討ち果たした罪人が地上にあふれかえってもよかったとでもいうのか?」
『………………』
「むやみやたらと人を殺し、むやみやたらと人を犯し、むやみやたらと物を壊す。そのような害悪がはびこる世界になってもよかったとでもいうのか?」
『………………』
「所詮はお前も愚物の一人か。下らぬ優しさごときにほだされよって。良いか、天から人を見ているだけの貴様とは違い、我は常に人と共に生き人と共に歩んできた。それゆえに言える」
純正の神ゆえに、ニルタのようにソートのように、人から神になったのではなく……神として生まれ落ちたエアロであるがゆえに、彼は傲然と言い放った。
「慈悲だけでは、慈しみだけでは……人はつけ上がるだけであろうよ。あれは愚かな生き物であるからな。抑えるものがいなければあの通りよ。すぐさま身勝手に生き、他者など顧みなくなる。ならば厳しさを示してやるのも、また神の役割よ」
『………………………!』
「道徳、慈愛は大いに結構。せいぜい示してやるがよかろう。だがしかし、真に世界を管理することを目的としているのであれば、多少の試練をくれてやるのも必要であろう」
厳しくされただけでは、人は潰れてしまうだけだ。だがしかし、優しさだけでも、人は真綿で絞め殺されてしまうとエアロは考える。自らの力で立ち上がる方法は、結局試練を持ってでしか体得することが難しいのだから。
善意と慈悲だけでは決して人間は育たないのだと。
「その点この《十二の試練》はよくできている。大方こんなはずではなかったとでも考えているのであろうが、愚物にしてはかなりの完成度だと我は思うぞ? 此度の試練の成就の後、司法をつかさどりそれを実行する群衆が現れる。それはやがて軍となり、次の試練への準備となるだろう」
そう言って笑いながらエアロが見るのは未来神から奪った予言の知識。人と人の集団が激突する戦の光景。
「まこと、人は愚かではあるが……学ばぬわけではない。ならばこそ、次の学びのための場を作ってやるのが、我等神の仕事ではないか?」
そう言ってエアロは気づいた。
いつのまにか自分に向けられていた視線が、雨雲と共に消えていることを。
「ふん。逃げたか……」
――所詮愚物は愚物よな。と、吐き捨てるようにつぶやきながら、彼は再び下界の睥睨に戻る。
この世界で唯一の真正の神としての役割を果たすために。
…†…†…………†…†…
それからしばらくして。日が暮れるまで泣きくれた後、ようやく泣き止んだシャマルは私――リィラから恥ずかしそうに顔をそむけながら、
「あ、ありがとう……リィラ」
「どういたしまして」
わずかに顔を赤らめながら礼を言ってきた。
――むしろ私としては責めてほしかったのだけれど、それはあの泣き声で済ませたということだろう。裁きの本職が言うのだから、仕方ない。
そんなことを考え苦笑をうかべながら、私はそっと持ってきた剣をシャマルに手渡した。
「? これは……」
「神剣ウトゥルア。あなたのためにわたしが打ち上げた剣よ」
「全身鉄製って……これ作るの苦労したんじゃ」
「別に? 太陽光にさらして鎚で打てば割と整形は簡単だったわ。あなたが言っていた切れ味を出すのがむしろ難しかったわね」
「ん?」
「え?」
私がそう言うとシャマルは何やら、信じられないものを見たと言いたげな顔で私を見たけど。
「うん……まぁ、神様がいる時代だしね」
「それがどうかしたの?」
炉は? 作るのにあれだけ苦労したのに? もしかして完全に無駄になったんじゃ……。と、ぶつぶつ私に聞こえない何かを暫く呟いた後、
「で、これを俺にどうしろと?」
「……人を殺してしまった以上、あなたはこれからもああいった人たちを殺すでしょう?」
「…………………」
否定しない。ではなく、否定できないといったところが正解なのだろう。
《裁く者》は平等だと風のうわさで聞いていた。遠くで起こった窃盗事件を解決した彼は、さらに離れた村で起こった似たような窃盗事件の犯人に、寸分たがわぬ沙汰を下したと聞く。
虐殺をする連中はこれからもきっと出るだろう。今回の件は始まりに過ぎない。
人々は気づき始めたのだから。どうも最近、エアロ様の威光が届いていないのではないかと。
これから罪人はもっと出てくる。罪人はさらにあふれかえる。きっと間に合わない事件も多く出る。虐殺者はこれからも生れ落ちる。
だからこそ、私はこの剣を渡すのだ。この剣を渡して、そして、
「あなたが死罪を罪だと思うのなら、その剣を使って行われた死罪の罪は、私も少しはかぶれるでしょう?」
「リィラ……お前」
「これからは一緒よ、シャマル。また一緒に、歩いていきましょう?」
「……ありがとう」
感極まったのか、今度はシャマルが私のことを抱きしめてくれた。
傷だらけのシャマルの体から感じられる暖かさは、エアロ様が言うにはどうも偽物らしいけど……今の私には関係ない。
久し振りに感じたこの心地よい暖かさに、酔いしれてしまった私には。
…†…†…………†…†…
数週間後、エアロジグラッドから突如として消え去り、《裁く者》と合流したとある鍛冶巫女が、世界各地で武器を配りまわり始めた。
物騒な世の中になりつつあることを敏感に感じ取った人々は、それを喜んで受け取り、悪心を持つ者に対する対抗手段とし始める。
そんな激動の時代のさなか、ジグラッドには《裁く者》からのある提案が届き、天空神エアロの名のもと、その提案は広大なバビロニオンの全土へと流布された。
曰く『目には目を。歯には歯を。殺意持つ者には、殺意を持って返すことを許可する』。
後の世において《ハンムラビ経典》と呼ばれる、対悪経典の制定を持って、悪心持つ者に対する対抗手段が確立された。
後世では野蛮にして原始的と言われるこの経典。だがしかし、この経典が記された石板の削れた個所に、このような言葉が記されていたことを知る者はいない。
『今の世の中では自主防衛の決まりを作るのが精一杯だ。だが、それでいいと思う。経典を――誰かを守る決まりごとを作ったことにこそ意味があると思う。この悪法がきっと、罪深い誰かを救う《法律》につながると信じているから。 《裁く者》シャマル』
次回予告!!
「はいは~い、裁判神シャマルで~す! 後世じゃえらいバーサークな神様になっていてびっくり。というか今気づいたんだけど普通に未来変わってんのね。俺の未来知識っていったい……。ま、まぁ、おかげでリィラと巡り合えましたから、それに関してはありがたく思っていますが。
え? なに? のろけはいい? さっさと進めろって、呼んでおいてひどくねェ!?
じゃぁ仕方ないから小話を一つって……なんでそんなに嫌そうなの? まぁいいや。あれから俺たちはリィラとともにバビロニオン全土を転戦。悪人たちと戦いながらいつの間にか《司法王》なんて呼ばれつつ、各集落からの勇士たちを率い、多くの事件を解決していきました。
何気に天命を無視して人が自ら望んだ仕事についた初めての例だったらしく、死後当然といわんばかりにエアロジグラッドに召し上げられた際には、エアロ様にじーっと何か言いたげな目で見られたものです。
それがまさかエルク・アロリアの親衛隊になるなんて……この時はさすがに考えていませんでしたともエェ。
え? リィラとはどうなったって? 一男二女を設けたとだけ。え? なに? 青○は違法? し、仕方ないじゃないか、ずっと旅していたから出来る場所が少なかったんだよっ!!
えぇい、変態変態いうんじゃない! 俺が無罪って言ったら無罪なのっ!
では次回!!
時は来た! 勝鬨轟き土煙が立ち込めるその光景。
彼らが立ち向かうは異形の影。率いる者のは果たして……。
次回《世界創生オンライン ~神様はじめてみませんか~》第三章軍の試練。
その咆哮の理由は勝利の雄たけびか? それとも……」