《裁く者》
*《裁定神》シャマル
レア度:☆5(SSR)
神属性:剣神
コスト:16
属性:秩序・善
声優:水月ウシオ
イラスト:ZXS
ステータス
筋力A 耐久B+ 敏捷D++ 魔力D 幸運E 神判EX
保有権能
裁きA+:文字通り裁きを与える力。裁判神のすべてが保有するスキル。罪を犯した者、あるいはシャマルが罪人と認めたものとの戦闘を行う場合、筋力耐久をワンランク上昇させる。
剣術B:神剣をふるうものに与えられるスキル。たぐいまれなる剣術の腕を持つ証明。専門ではないためBランクどまりだが、それでも名だたる剣士と呼ばれるほどの腕を持つ。
罪追いA:罪人を逃がさないために彼が保有する固有スキル。如何なる逃走、如何なる疾走、如何なる逃避も彼には無意味。罪を犯した者の前に必ず彼は現れる。
神判解放:《神剣解放:神政司る断罪の剣》
詠唱「汝の罪を数えよう。裁きの刃はすべてを映す――罪状確定。極刑!!」
冶金神リィラが太陽の光を用いて鍛造したといわれる、対悪性神判権能。その刃に映された者はすべての罪をあらわにされ、無慈悲な極刑を受け入れざる得なくなる。
《守護神霊》として召喚された彼がもつこの神剣は、神霊だった時と比べるとかなりのダウングレードをしているらしいのだが、それでも悪属性を保有する神霊はこの剣を恐れるし、実際ふれただけでその神霊を消滅させるだけの力がある。
神判解放時は通常時の黄金の剣から太陽の光へと変貌し、あたり一帯の罪人を焼き尽くす神判の炎によって周囲を薙ぎ払う――対罪神判となる。
マテルアル
1:いわずと知れたバビロニオン神話の裁判神にして、太陽の剣を持つ者。その権能は強力にして凄烈であり、ほかの神霊であろうとも逆らうことはできなかった。そのため神の座であった《神霊神殿》では天空神エアロに並ぶ第二段を支配領域としていたのだが、下界の人間の罪を裁くという属性上その席に座っていたことはまれなようだった。
2:《守護神霊》として主人公の使い魔となった彼は、温厚かつ慈悲深く、たいていの無礼は笑って許してくれる寛容な性格をしている。だがそれはあくまで主人公が善良であった場合に限り、少しでも《罪》――殺人・窃盗・器物破損等――を侵そうものなら主人であろうが容赦なく首を刎ねてくる。
彼の目の前では言動に注意が必要だろう。
3:神話において彼は《目には目を歯には歯を》という文言で有名な、ハンムラビ経典を制定したことで知られており、かなり苛烈な神格であったと伝えられている。その属性が《守護神霊》となっても引き継がれており、罪に対しては過敏に反応し、悪属性の《守護神霊》などみかけようものなら、主人である主人公の命令など無視して首を取りに行く狂戦士的側面を持つ。
4:妻であった《冶金神》リィラとは《守護神霊》となった後でもつながっているらしく、よく虚空に話しかけている様子が見受けられる。その光景を見て危ない奴とか思ってはいけない。普通に怒られる。リア充爆発しろとも思ってはいけない。殺人未遂ということで神剣でぶん殴られる。
5:幕間物語『罪を憎んで人を憎まず……』クリア後解放
彼はもともと普通の農民であったと、彼は語る。すなわち、妻と同じく自分は生粋の神ではないのだと……。
十二の試練に挑むようエアロに告げられてから、死に物狂いでその天命を果たすために大地をかけた。
しかし、当時の罪人は言って罪をやめるようなものなどおらず、エアロの千里眼が失われたと知るや、裁かれたのちも彼の寝首をかくために、夜襲などを行ったという。
何度も何度も無意味な断罪と、それを受け入れなかった者たちを最終的に自らの手で殺さなくてはならないという経験をし、シャマルは摩耗した。摩耗したのち、すべての罪人は首を刎ねるべしという苛烈な神格を得てしまった。
もはやこの力は変えられない。きっと自分は死ぬまで罪人を許せぬだろう。だがしかし、現世に《守護神霊》として呼ばれた今だからこそふと思う。
かつての自分も、罪を許せる人間であったならば、もっと多くの人を救えたのではないのかと……。
…†…†…………†…†…
ソーシャルゲーム《《守護神霊》コレクション》wiki『シャマル』の記事より。
「宇藤って……日本人か?」
「より正確にいうと、この世界の日本に相当する国から転生させられた――と思い込んでいる魂ですね」
文章形式で表示される未来転生者の思考――シャマルと名付けられた赤ん坊の思考ログを読みながら、ソートは前世の名前に首をかしげていた。
「何でだろうな……こう、どこかで見たような小説を読んでいる気分だ」
「失敬な。こういったユニークキャラは知識とある程度の性格を設定しただけで、あとはあちらのアドリブで生涯をすごすのですよ。ゆえにテンプレになんてなるわけないでしょう! 純度百パーセントのオリジナルストーリですよ!」
「その割には肥料の知識とか、冶金技術の発生とかありきたりな知識を周囲に植え込んでいるようだが?」
無料の最低限加速によってわずかながらに加速している世界で早回しに動く人々。
それの動きが明確に変わったのは、シャマルが歩けるようになり意味のある言葉をしゃべりだしてからだった。
農村であった彼の村は、畑に肥料をまくようになり、連作障害を回避するための輪作の試験導入など、かなり発展した農業を行い始めた。
さらには近くの村に住んでいた樵の娘たちのうち、年が近い末の娘一人を一人送ってもらい、大量のまきを用いて銅や鉄の生成を始める始末。
なるほど。確かに未来転生者の知識は有用だ。先ほどあげただけでどれほどの試行錯誤の手間をスキップしたかわからない。
とはいえ……とはいえである!
「つまらん……どこぞの小説で死ぬほど読んだ景色だ」
「まぁ、そう言わずに。実際この人のおかげで文明の発展が加速し始めているんですから、文句を言う筋合いはありませんよ」
「その通りなんだけどなぁ?」
だとしても、もうちょっとこう……あるだろう? 山なり谷なりが。もうちょっとこうそういったものがなくっちゃ見ているこっちもつまらないんだよ。
ソートはそんなことを考えつつ、いいかげん飽きてきた農作業改善風景を移すウィンドウをシェネへととばし、あおむけになって海底に寝転んだ。
水を含んだ細かい粒子の砂は、やんわりとソートの体を受け止め、天然のベッドを提供する。
これならしばらく見ていなくても大丈夫だろうと、不真面目すぎるその態度から、ソートの声が聞こえてくるようだった。
だが、そんな平穏は長くは続かない。
「あ、ほらマスター。エアロさんからの成人イベントが入りましたよ。未来転生さんのお仕事が決まるそうです!」
「ふ~ん。で、天命はなんだった? 農家? 発明家?」
求めていた《王の試練》とはまるで関係ない職であったが、ソートとしてはもうそれ以外の選択肢がないくらい、シャマルはごくごくふつうの未来知識による内政チートを行っていた。
明らかにシャマルの適正は農家以外の何物でもない。今まで生まれてきた人間すべてに《天命》を与えてきた天空神なら、そのあたりの読み違えはないだろうと高をくくっていたのだ。
きっと王の試練はほかの誰かがやるのだろうと……ソートは本気で考えていた。
だが、彼の楽観はシェネの報告によって、
「えっと……《裁く者》? 裁判官ってことでしょうかね? なんかいつもの天命と比べてかなりあいまいなような?」
「……なにぃ!?」
驚きの声を上げるソートの目には、今まで土いじりしかしてこなかった手を呆然と見つめる、シャマルの姿が映った。
…†…†…………†…†…
それが現れたのは、俺――シャマルがもうそろそろ十五歳――成人かというときだった。
この時代には正確な暦というものはなく、寒い冬が終わり体感的にあったかくなったら春が来たということで一歳歳をとるという、割と雑な形式での誕生日だったが、十五歳は十五歳だ。
これで俺も晴れて大人の仲間入り。
幼馴染で無理いってうちの村に移住してもらった人類最古であろう鍛冶師のリィラも、昨日から親御さんのもとへ帰っており成人を祝う儀式を受けてくるのだという。
毎年どこでもやっているありきたりな儀式で、おいしい料理とあらん限りの祝福を村中から受けられる日。生涯に一度の自分が主人公になれる日に、俺は柄にもなく浮かれており、少々寝つきが悪くなっていた。
そして深夜になってからようやく目蓋が落ち、俺が眠りへ入った時だった。
黄金の輝きが、俺の目に飛び込んできたのは。
「え?」
寝た直後だというのに、まぶたを閉じているというのに、容赦なく目を焼いてくる黄金の光輝。それに俺は思わず飛び起き、あたりを見廻した。
周囲は見なれない草原。眼前には黄金によって作られた豪奢な階段と、その階段を四方に伸ばす前世のビルなど目ではない高さの巨大な神殿があった。
なんだこれは? とあんぐりと口を開けるおれの耳に、
「シャマル!」
「リィラかっ!?」
澄んだ鈴のような声とともに、茶色い髪をポニーテールにした少女が、話しかけてきた。
生まれつき見えない右目は、俺が昔古着を裂いて作った眼帯によって隠しており、光を宿した一つだけの紅の瞳が、安心したように涙でにじむ。
「シャ、シャマル。なんなのココ? 私、父さんと姉さんたちに明日祝ってあげるよって言われて、久しぶりに実家で寝ていたのに……と、突然こんなところに」
「あ、安心しろリィラ。大丈夫だ。俺がここにいるから、大丈夫だ!」
だが、やはり未だに不安が隠し切れていないリィラを励ましながら、俺は必死に辺りを見回した。
何か……ここがどこか知るための情報がないかと。
そんなときだった。
「目が覚めたか? 挑戦者よ」
「っ!」
頭上から降り注いでいた黄金の光輝が、さらにその輝きを増し、俺達に話しかけてきたのは。
俺は目を焼きかねないその光から逃れるために、思わずリィラと共に頭を下げつつ、悲鳴染みた詰問を声へとぶつける。
「だ、だれだっ!」
「クククク。《天命の書》が名を指し示したがゆえに期待していたが、存外普通の男よな……。確かに知恵は進んだものがあるようだがそれだけだ。天才でもなければ秀才でもない。自らが思いついたことではなく、当たり前に知っていることをただ垂れ流しているだけのようではないか? これでは星を進める偉人と名乗らせるのは少し問題があるか?」
「陛下……」
頭上から聞こえてくる声は二つ。一つはこちらを推し量るような、嘲笑をにじませた男の声。
もう一つはその声をいさめるように放たれた女の声だった。
「わかっているさ、ニルタ。我はこの子供たちをからかうためにここに呼んだわけではない」
「ならばお早く。いくらほかの子供たちとの並列処理が可能だとは言え、年の一度の大行事であることには違いないのですから。特にこの子たちは特別だ。少しでも長く説明に時間を割くべきでは?」
「……昔は従順であったのに、ずいぶんと生意気になったなニルタ」
「今あなたと直接言葉を交わせる存在は私しかいないのですから、お諫めするのは当然かと」
「ふん」
では、お前の言うとおりにしよう。と、わずかな不機嫌さをにじませながら、女と話をしていた声は再度俺達に話しかけた。
「面を上げよ」
「そ、そんなことをしたら目がつぶれるだろうがっ!」
「然り。されど面を上げよ、人間。それによってお前は真の天命を授けられるだろう」
「え?」
天命? まさか!? と、俺が驚いた瞬間、隣でリィラがバッと頭を上げる気配が感じられた。
どうやらリィラも気づいたらしい。俺も遅れて頭を上げると、俺に目に飛び込んできたのは!
「っ!?」
大昔、歴史の授業で習った楔形文字と、それによって記された俺の天命を!
「さ、《裁く者》?」
「シャマルもきいたことがない天命なの。私もよ……《神造形師》って」
「クククク。やはり生き延びたか?」
「っ!?」
それはどういう! と、物騒すぎる耀き――天空神エアロの言葉に俺達が顔から血の気を引かせたときだった。
「おめでとう、二人とも」
凛とした声が響き渡り、いつのまにかあらわれていた漆黒の狼に騎乗した女性が、俺達の前に姿を現したのは。
「私の名前はニルタ。いいかげん気づいていると思うが、《狩猟女神》と呼ばれる、神の末席を汚すものだ。お前たちは選ばれたのだ。《天命の書》によって授けられた新たな試練――《王の試練》の挑戦者にな」
それは即ち神話の再現。前世ではとあるゲームのキャラクターから各国の神話に飲めり込んでいた俺が知る、有名すぎる最古の試練の一つ。
「《神々の選抜》《十二の試練》――《裁定神》シャイラの《神政神話》」
「ほう、お前のいた未来ではそう呼びならわされているのか?」
俺のつぶやきを耳ざとく聞き取ったのか、エアロ様の愉快気な声が俺達へと降り注いだ。
注:なおシャマルが知る歴史は確定された未来ではありません。むしろシャマルという異物が紛れ込んだ時点で、歴史は大なり小なり確実に変動します。
というわけで、シャマルが呟いた未来と、実際の未来が違ったとしてもなんら問題はない! ないよね!? ないといってよバァニィ!?