第二章:王の試練前章 《未来転生》
《創世神野々ノンの施設雑談掲示板 WGO板》
スレッド名:英雄育成に挑んでいるんだけどお前ら大体どんな感じ?
1:銀幕世界の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
英雄育成にあたって起こった事象などを報告しデータを集め……あの屑征服神をぶち殺せる英雄を作るためがんばりましょう。
なお、本掲示板はあのクソガキにばれない様にパスワード形式を採用しています。あの○○○(自主規制)をぶっ殺したいという同士がいれば、ぜひとも積極的に教えましょう。パスワードは●●●●●です。
2:名無の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
スレ主……殺意たかすぎぃ!
3:名無の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
ベータでボッコボコにされた恨みがまだ残っているんだろうな……あいつ、反抗的だと相手の世界の住人なぶる悪癖があるし。
4:名無の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
アカバンはよ!
5:名無の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
運営も判断迷っているみたいだな……。やっていることはこのゲームの趣旨としては間違っちゃいないわけだし……。普通ならあんだけ傍若無人だと自分の世界から神殺しの英雄が生まれて反撃を食らうはずなんだが、その手段はことごとく潰しているみたいだしな。そのあたりの反逆封じの手腕だけは称賛に値する。
6:名無の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
どうせ誰よりもたくさん金落とすからかばわれているんだろう? 運営としてはほかのユーザーのことなんてどうでもいいんだろうよ?
7:名無の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
おいやめろ、炎上するだろう。運営ディスならちがう掲示板いけ。ここはあくまで英雄作成の情報交換の場だ。
8:水没世界の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
それで、だれかあのジークライドとかいうやつに勝てそうな英雄を作れた奴は?
9:名無の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
邪神殺しに竜殺し。それによって得た常時無敵になる何らかの権能もちってことだろう?
いやいや無理無理。火力だけなら聖剣に導いた勇者がうちにいるが、ジークライドに勝てるかっていうとちょっと怪しいわ。
10:名無の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
聖剣持ち育てられたのっ!? 俺まだ神様育てている途中なんですけどっ!?
11:名無の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
今何柱めよ?
12:名無の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
今22柱目!
13:名無の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
多すぎ
14:名無の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
運悪すぎ
15:名無の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
最高記録の八百万まで行くんじゃねェの?
16:名無の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
そんなぁっ!?
17:水没世界の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
初期の神格創造は運みたいなところがあるからねぇ……。世界初期設定である程度早くに切り上げられる状態にはできるらしいけど、それだってたまに百超える神ができるまで止まらない世界があるらしいし?
18:銀幕世界の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
具体的な条件はなんだったか……。魔力値の違いか?
19:名無の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
確かその筈
20:名無の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
なぜあの屑はその例に含まれないのか!!
21:名無の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
あの屑は課金アイテムで時間を自在に飛ばせるからだよ(白目
22:名無の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
マジでこのゲーム理不尽すぎる……
23:八百万世界(仮)の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
実際皆さんはどんな試練を作っているんですか?
24:名無の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
諦めたwww
25:名無の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
来世に期待
26:名無の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
わるいこと言わんから《終末》しとけ。文明を押し流す雨を起こすのじゃ
27:水没世界の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
私のところは陸地面積が少ないから、半漁人みたいな連中が増殖中? その中では海の水を自由自在に操れる魔術師が……
28:名無の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
ジークライドを溺死させようぜ!
29:名無の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
そのあたりの対抗手段くらいはもっているだろう……。
うちはオーソドックスな怪物殺しだな。ただし科学値が高めの世界だから、科学的に作られた化物で、物理的ダメージがちゃんと通るやつを殺しただけだから、神秘の盾持っている連中に攻撃が通るかというと微妙なんだよな……。
神代はさっさと終わってもうすでに鉄道走っているから、人口に関しては随一を誇っていると思っているが。
あ、あと化学兵器や銃火器を開発した技術者連中が多数?
30:異能世界の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
うちは生まれた時に俺が与えるギフトを育てる《異能育成系》の世界にしたから、神秘に関しては不足してないが……文明がまだ原始時代なんだよな。あ、それと……なんか最近《未来転生》とかわけ分からんスキル持った奴が台頭してきたんだが。
31:名無の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
レアキャラだぁああああ!
32:名無の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
システム的に予測された未来から魂が送られてきた転生者か!! ベータで二人人しか見つからなかった超レアキャラだぞっ!?
33:名無の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
え、え? つ、つまりどういうことだってばよ?
34:水没世界の創世神さん(**/**/**/………)○○○○○
いいから死ぬ気でその人を守りなさいっ! うまくいけば文明を二、三世代ほど飛ばせる可能性が出てきますっ!
…†…†…………†…†…
「ん? なんだこりゃ?」
「はい、なんでしょう?」
もうそろそろ第二の試練が始まるということで、加速が止まったソートの世界。
その世界を眺めながら、狩猟女神となったニルタの活躍をログから読み取っていたソートは、システムログに残されたとある文字に目を止めていた。
「《未来転生》の誕生?」
「っ! マスター! それこっちに寄越してください!」
「え? お、おう……」
いったいなんだってんだ? と、首をかしげながら、ソートは眼前に浮かぶウィンドウをシェネに向かって飛ばした。
それをうけとったシェネは、即座に未来転生のログをタップ。その詳細を確認していく。
「間違いありません! これは《システムが疑似的に予測した未来から転生した魂》という役割が与えられたレアNPCです!」
「……?」
「つ、つまりですね……」
「あぁ、いやいい」
どうやらその説明ではわからなかったらしいソートに、解説を続けようとするシェネ。だが、そんな彼女の善意にソートはすぐさま待ったをかけた。
「お前の説明は抜けが多いから別の奴に聞くわ」
「ひどいっ!?」
「実際今までお前が説明し忘れていたことがいくつありましたかねェ!」
ギャーギャー喚きながら不満の意を唱えるシェネに、ソートは青筋を浮かべながら、《境界領域》へのログインボタンをタップする。
「ほら、お前もついて来い。さっさと行くぞ」
「さっさと行くぞって……境界領域に何をしに?」
「お前の画伯モンスターに挿絵をつけてもらいながら、設定を煮詰める。今回みたいな失敗は二度と御免だしな」
「うっ……それに関しては申し訳なく……」
「それにだ、未来英雄に情報をうまくすれば聴けるかもしれんだろう? なにより……」
そう言ってソートは、昨日自分にGPの寄付をしてくれたプレイヤー一覧を開き、
「一言物申したい奴もちゃんとログインしているみたいだしな」
境界領域ログイン中を示す青色になっている、あの男の娘創世神の名をなぞりながら、凶悪な笑みを浮かべた。
…†…†…………†…†…
「いやぁああああああああ! やめてぇえええええ! たすけてぇええええええええ! 犯されるゥウウウウウウううううううう!」
「人聞きの悪いこと言ってんじゃねぇえええええええ!」
何やら今度は宝石らしい物体を販売していた《水没世界の創世神》――シャノンと無事接触できたソート。
だが相手の方が一枚上手だったようで……先ほどの台詞は、さて昨日の御礼参りだと意気込む彼を見た瞬間、シャノンが発した悲鳴であった。
周囲の創世神がざわめきながら事の次第を眺める状態になり、到底揉められる状況ではなくなった周囲にソートはちょっと泣きそうになりながら、大人しくシャノンの露店の前に座り込む。
「あ、スイマセン間違えました! お客さんだったんですね?」
「てめぇ、マジで覚えてろよ?」
「悔しかったら男の娘になっては?」
「あ、それはぜひとも見てみたいです、私も」
「死んで来い変態二人!」
両方向から放たれるシャノンとシェネの提案に頬をひきつらせながら、シャノンの背後から必死に頭を下げてくるアルバを見て、ソートは何とか怒声を飲み込む。そして、
「あれだけ迷惑かけられたんだ。ちょっとくらい協力しちゃくれないか?」
「喧嘩を買ったのはそっちだとは思うけど、まぁあの状況を狙っていたのは事実だし否定はしないよ。で、私に一体何をしてほしいのかな?」
「できるだけ安くで、クオリティ高めな挿絵を仕上げてくれる絵師の紹介と、《未来転生》持ちのキャラクターについての情報がほしい」
「…………………」
ソートのその質問に、シャノンは驚いたような顔をして固まった。
「? どうした?」
「いや、まさかこんなに早く二人目が来るなんてちょっと意外で? ひょっとしてシェネちゃんって幸運値補正がかかって……あぁ、いやでも、世界運営に直接かかわらない限り、AIの隠しステが反映されることはないはずだしな? 神様の一柱でも彼女に作らせたの?」
「?? いいや。そんなことはないはずだが?」
ギクリと、背後でシェネが震えた気配をソートは感じたが、あくまで背後からの気配なのできっと気のせいだろうと無視しておく。
「ふぅん。じゃぁソートさんのリアルラックが相当高いだろうね。あぁ、ごめんごめん。絵師の紹介に関しては問題ないよ。私たち反シャルルトルム同盟が抱えている絵師がいるからね。その人に頼んでおくから、明日取りに来てよ」
「え? 挿絵ってそんなに早くできるもんじゃないだろう? 挿絵が必要な討伐系のクエストは軍・森・天・魔・竜・神の六種類だが、そのボスを描くのだってかなり大変だろう?」
「この世界はVRMMOだよ? 思考加速による疑似的な時間加速が可能な工房くらいきちんとあるさ。もっとも、それは運営がボランティア登録した絵師に配る販売不可能なレアアイテムだから、手に入れるためには絵心が必要だけどね。それで未来転生についてだね。まぁ読んで字のごとく……《未来から転生してきた魂を持つ者》っていうのが未来転生持ちの正体さ」
「未来から? なんだそりゃ?」
いつからこのゲームは未来予知なんてオカルティックな力を持ち始めたんだ? とソートが首をかしげると、「違う違う!」と、シャノンから訂正が入った。
「未来から来たって言っても実際に未来から来たわけじゃないんだよ。魔力数値や、科学数値や現実世界の歴史を参照して、その魂がいたと仮定された年代で「この程度まで文明が進んでいるだろう」という予測の元、その知識を持ったAIを、転生者という属性を与えて作り上げるというのが、未来転生の正体なの」
「……えぇっと、つまりこういうことか? 未来転生っていうのはあくまでAIが予測した文明と技術を持つAIが先取りして生まれるものだと」
「そうそう」
たとえば、現在ソートたちの現実世界である世界と寸分たがわぬ世界を作ったとしよう。
時代はソートの世界と同じ神代であり、当然このゲームにおいては、その世界が全く現実世界と同じように発展するかどうか予測するのは不可能だ。
とはいえ、参照できる歴史を持つ現代社会は存在している。未来転生とはその歴史を参照し、神代に2000年代の知識――現代農業や製鉄技術、機械工学や物理学など――を持つと仮定された人物を、あたかも未来から来た人物のように発生させるレアNPCなのだ。
「実際参照できる世界は現実世界だけじゃなくて、ベータ版で幾つも作られた世界も含まれるからね。本サービスでの文明発展の予測確度はかなり高いと噂されているよ?」
「でもそれって要するに《未来の知識を持っているだけの人物》なんだろう? それが何でここまで騒がれる理由があるんだ?」
「その未来の知識を持っていることが重要なんじゃないですかっ!」
首を傾げるソートに対し、食って掛かるのはシェネだった。
「たとえばですよ、マスター。未来転生させられた人物の知識が現代農業の知識だったとします。神代は魔力がものをいう時代なので、現代と同じ効果があるかと言われると微妙ですが、それでも現代で科学的に実証された野菜を大きく育てるノウハウは確実に手に入れられます。そうなると食糧関係が改善され多くの人たちのお腹が満たされることになり、それはひいては」
「人々の余力になり、文明発展を加速させる一助となる。ソート君。未来転生とはすなわち一つのボーナスイベントなのさ。魔力値を上げ過ぎて遅れるはずであった文明を、一気に推し進める可能性を持った、いわば時代の変革児となりうる存在なんだよ」
「――っ!」
その時ソートは確かに感じたのだ。
自分の方に運気が向いてきた気配を。
第二章開幕。今回は戦闘はないので短めになる予定?