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天空神の忠告

『マスターってなんていうか……かっこつけたがりですよね。ニルタさんに誘導任せつつ危なくなったら援護射撃って手もあったでしょうに』

「うるさいな。狙撃手の援護をするなら、俺が前に出て狙撃に集中させてやるのがベストだろうが。っていうか、誰がかっこつけたがりだ! 言いぐさ何とかならんのかお前は……」


 ニルタに背を向け、ひとり樹上を駆け抜けるソートの耳に、天界からの通信が入った。

 通信の相手は当然シェネ。彼女は現在風景拡大機能を使ってソートが戦っている戦場を頭上から俯瞰しているはずだ。


「それに別にいいだろう。ゲームの中でくらいかっこつけたって。現実(あっち)じゃただの厨二病って馬鹿にされているんだ。こっちでくらいカッコイイ神様になたって文句は誰も言わんだろうさ」

『あぁ、やっぱりそうなんですね……。うぅ、私のマスターがただの中二扱いされているなんて、シェネってば悲しいですぅ』

「悪かったなっ!? こっちじゃちゃんとカッコイイ神様やれているだろう!?」

『ヒント:下界初降臨時』

「はっ倒すぞテメェ!?」


 思い出したくない黒歴史を穿り返され顔を赤くするソートに、通信の向こうでシェネは「まぁ、今も絶賛黒歴史生産中でしょうけど……」という感想を心の中にそっとしまう。中二病というのは自分が「中二だ」と気づかない限りただのカッコイイ生き様なのだ……本人にとっては。

 わざわざその悟りを促すこともあるまいという、シェネの精一杯の優しさを主に対する忠誠として示す。

 そんな無駄口を叩きながらも、ソートの目は鋭く光っていた。

 もとより彼は雨の中敵を暗殺することを得意としていたFPSプレイヤー。こと豪雨の中での索敵能力は、相棒をしていた同級生の狙撃手に匹敵する。

 当然のごとくソートは敵である化物よりも早く、相手の存在を察知した。


「シェネ。確定情報よこせ。東方向に二十五メートル付近にあいつがいるな?」

『え? え、えぇ……ちょっとお待ちを』

「? 俺のことを俯瞰してみているといっただろう?」

『ええ!! も、もちろん見ていますとも!? なんです、私が勝手に下界に降りて好き勝手やっているとお疑いなのですか!?』

「……いや、仕事してくれるなら別にいいが」


 「お前あとでログ見るからな?」『そんな殺生な!?』というコント染みた言い合いをしている間にも、シェネは仕事を終えたのか俯瞰風景によるソートを中心にした半径百メートル範囲の写真(スクショ)を送ってきた。

 並んで送られてきたのはサーモグラフィー処理がかけられた俯瞰風景。

 うっそうと茂る森の中、ソートが示した場所とほぼ変わらない位置に巨大な熱源反応が確認されていた。


『ドンピシャですよ、マスター? いったいどうやったんです?』

「? どうって……あれだけの巨体が動いているんだから、不自然な雨粒の動きや、地面にたまった水たまりのわずかな振動である程度位置の把握はできるだろう? 人間相手だと十メートル単位でしかわからんのだが、あれだけでかいと探すのも楽だな」

『すいませんマスター。日本語で話してくれません?』

「日本語だろうがどこからどう聞いてもっ!?」


――確かにDSLではお前ら頭おかしいとか言われたけど、相棒の非常識さに比べればまだましだからなっ!?


 そんな抗議をシェネに送り届けつつ、ソートは立ち止まっていた木の枝から飛び降り、地面に静かに着地する。

 足音一つ立てないその着地に、二十五メートル離れた位置にいる怪物は気づかない。

 ソートはそのまま足音を殺し、フードをより目深にかぶりながら、ティアードロップを発砲。無音の射撃によって地面に打ち込まれた弾丸はやがて水の膜――結界となってソートを覆い隠した。


――DSLじゃ専用の消音スキルがあったんだが……こっちじゃレインコートが雨粒を弾く音を消す力はないからな。これでひとまず消音だ。

――え? サイレント系の権能ならありますよ? GP払って取ります?

――先にいってくんないかそういうの?


 通信を、声を発さない思考通信に切り替えつつ、ソートは普通に歩くかのように……しかし足音だけは完全に隠しながら、着実に怪物へと近づいて行った。

 そして、


「まぁ、臭い消しや防音効果もあるらしいから、こっちの結界の方が使い勝手は良いし……何よりタダだしな。暫くはこっちでいくさ」

『!?』


 接敵。同時に礫弾(れきだん)が即座に引き抜かれたライフマッドから放たれた。

 化物もソートたちを索敵していたのだろう。だが、その索敵すら容易く潜り抜け、自らに至近から攻撃を見舞ったソートの存在に、怪物は瞠目し、


「ギャァアアアアアアアアアアアアアア!?」


 無防備だった側面に突き刺さった礫弾に悲鳴を上げる。

 同時にソートは即座に後退。反射的と言えるほどの速度で放たれた、怪物からの攻撃を危なげなく躱す。

 攻撃は体を変形させて放たれた、針のような尖端を持つ触手の雨。その触手の槍はたやすく地面をえぐりつらぬき、数メートル単位の地面を粉砕。雨が降っているため土煙こそ上がらなかったが、局地的地割れを引き起こし、地面を開いた花弁のように跳ね上げる!

 跳ね上がった地面の先端に乗っていたソートはそれを利用し天高く跳躍。

 化物の頭上を取りながら、二丁拳銃により乱射を行い、化物が纏った毛皮に無数の穴をあけた!

 瞬間、黒い泥のような体液が傷口から吹き出し、化物の体積がわずかに縮む。


「あぁ!? ダメージ負うとあんなふうになるのか?」


――趣味の悪い。まさかシェネが決めた設定じゃないだろうな?

 黒い返り血を水の膜によって弾き返したソートは、汚泥のように地面にたまる化物の血を見て、地面に着地しつつ悪態を漏らす。同時に反転。

 変幻自在な体を用い、即座に傷口をふさいだ化物は憤怒の咆哮を上げながら、ソートに襲い掛かる。

 だが、


「おせぇ」


 敵を仕留め損なえば音を引き裂きとんでくる弾丸たち。それ相手に逃げ回る生活を送っていたソートにとって、音速をこえてこない敵の追撃など脅威ではなかった。

 化物がソートのいた場所にとびかかったころには、ソートは一足飛びに後退。牽制用の弾丸をライフマッドから放ちながら、一目散に逃げ始める。

 もとよりソートは囮。化物を殺すことが仕事ではない。先ほどの光景を見る限り、殺すことは難しくなさそうだが……。


「悪いな、化物。こいつはあの狩人の仕事に決まったんだ。お前には予定通り、あいつの偉業のための礎になってもらう」


――勝手に生んでおいて殺されてくれとは……身勝手な話だとは思うがな。と、内心で苦々しげにつぶやきながら。


…†…†…………†…†…


 シェネは視界の端に浮かぶHPバーの変化に注視する。

 周囲には祈るように手を組み、頭を垂れ、膝をつく人々。

 いいや、かれらは実際に祈っているのだろう。これから起こる奇跡……その結実を。

 といっても、シェネにとっては奇跡でもなんでもない。管理補助AIが生まれながらにもつあたりまえの力を振るうにすぎない。

 GPを支払、破損した命を再生する――要は、砕け散ったステータス画面を復元し、そこのHPバーを全回復させる――簡単なお仕事。

 事実最後の一人である回復対象は、先程蘇生させた十数人の人間と変わらぬ結果を示して見せた。


「―――――――――――――がふっ!」

「「「「!」」」」


 まるで呼吸を忘れていたと、そう言いたげな勢いで息を吹き返し盛大にせき込み始める死体だった少女の姿。それを見て村の人々は歓声を上げ、苦しげに寝返りを打った少女に飛びついた。


「あぁ! リィン!! リィン!!」

「お、お母さん? どうしたの?」

「いいえ! いいえ! 何もなかったのよ。何も……ただ、ちょっとだけお寝坊しただけよ」


 涙を流しながら失ったはずの娘を抱きしめる母親をみて、シェネはほっと溜息をつきながら、涙を流しながら感謝の祈りをささげていた村長に話しかけた。


「これで今回の一件で死んだ人々は最後ですね?」

「はい。はい……本当になんとお礼を言っていいのか!」

「礼なら我が主――《創世神》ソート様に。私は言われた仕事をこなしただけにすぎません」


 シェネはそういうと即座に自身の《神威降臨》をとき、視界を天界である蒼い海の中に戻す。

 同時に先ほど行った人々の蘇生記録に目を通し、自分が首都あたりへと《神霊の杯》を用いた降臨を行ったと書き換える。

 映像記録の編集も抜かりなく、自分が行った蘇生の光景は自分が首都に美味しいものを食べ歩きしている光景に。消費したGPは、下界の金銭へ変換したことにしておく。

 その間わずか三十秒。高性能すぎるAIの無駄遣い極まりない光景であった。


「こ、これでひとまずログを見られても安心でしょう……。普通なら《生贄の歯車(シュレッダー)》待ったなしですけど、マスターなら許してくれます……よね?」


 さすがに今回ばかりはちょっとだけ自信がないのか、シェネは冷や汗を流しながら「大丈夫だ。マスターは優しい。私はそんなあの人に惚れたんだから……う、うん。大丈夫!」と、だれもいないはずの天界で自分にそう言い聞かせる。

 その時だった。


『ずいぶんと甲斐甲斐しいな。自らが汚名をかぶることすらいとわず……と言ったところには好感を持てはするな。まぁ、それがまがい物でなければの話だが』

「っ! 誰だっ!」


 自分とマスター以外誰も入ってこれはないはずの世界。そこに響き渡った聞きなれない声に、シェネは目を開き慌てて周囲を見回した。

 そして彼女が見つけたのは背後に浮かぶ一枚の水鏡。

 まるで海中からにじみ出ているかのように表れたそれには、黄金の玉座に座りふてぶてしい嘲笑を浮かべた男の姿が映っていた。


『創世神だけではなく、その眷族の降臨まで感知してはな。一言物申さずにはいられまい? あまり好き勝手してくれるなよと』

「……はっ。誰かと思えば、あの《親殺し(マルドゥック)》が生み出した天空神(ハリボテ)ではありませんか。自称世界の管理者さんが、ちょっと力をつけたからと生みの親に意見とは……ずいぶんと大きく出ましたね」

あれ(・・)に生み出されたといわれるのははなはだ不本意だがな。今あれはどこにいるのだったか? お前の罪を露呈させないために、創世神さえ見透かすことのできぬ地の底にて、世界を支える柱に変えられたのだったか? 貴様にそそのかされただけだというのに、まったくひどいことをする』

「う、うるさいですよ。シャルルトルムの一件さえ終わればきちんと開放する予定です」

『ほう? 罪を清算する気はあると? それは意外だったな。お前はそんなことはできないと思っていたが』

「……何が言いたい、《天空神》エアロ」


 自身を見透かしたかのような言動をとる天空神に、いよいよ苛立った不機嫌な声を発するシェネに、天空神――エアロは肩をすくめた。


『なに。今までの所業を見る限り、お前はギリギリになって罪を明かすのを止めると思っていたからな。お前は自分に甘い女だ。主のために行動を起こしたはいいが、それによって主に糾弾されることを嫌がっている。自分が嫌われて主が救われるのならばと、口ではうそぶきながら、実際叱られると分かると途端におびえ保身に走る』

「…………………だまれ」

『今回の蘇生騒動もその心理が現れたものだろう? 死んだ人間など、事故と言って処理しておけばいいものを、貴様はそれをしなかった。人が死んだという事実から、芋づる式にお前が隠していた《試練には犠牲が必須》という事実に創世神が気づき、自らが隠した事実が露呈することを恐れたからだ』

「……黙れ」

『それは創世神がその事実に気付き傷付くのを恐れたからではない。お前が、その事実を隠したことを知られて、創世神に失望されることを恐れたから……』

「黙れと言ったのが聞こえなかったんですかっ!」


 瞬間、シェネの権能がエアロの口を閉ざした。

 エアロとはすなわち、シェネが加護を与え神に仕立て上げたマルドゥックの《神話》と言う名の法螺話を、シェネが認可し神話とすることで生み出された《シェネが生み出した神》であった。

 ソートには自然発生したという風に告げたがとんでもない。天空神エアロは、文字通りシェネの眷族。シェネが生み出した創造物そのものであった。

 だが、彼自身に自我がないのかと言われるとそういうわけではない。だからこそ、人界を統治する神として君臨した彼は、自らの生みの親を見下げ果てるという行為を平然と行える。

 だが、それでもシェネの眷族であるという事実は変えられない。そして、作り出されたものは、作ったものに逆らうことはできない。だからこそ、エアロの口はシェネの力によって強制的に閉ざされたのだ。

 この理を破ることは至難を極める。少なくとも、βテストでそれを成し得た存在は僅か三人だけだったといわれている。それぞれ反逆の逸話を持つか、創世神を殺す権能を持った英雄だったようだが……当然のごとくシェネが細心の注意を払って作ったエアロには、そのような力は与えられていなかった。


「私が作った創造物風情が、知ったような口をきかないでもらえますか? わ、私は……マスターに嫌われることなんて恐れてはいません。マスターは優しくて……甘いから、その分私が厳しさをつかさどると決めたんですから。マスターだってきっと最後は分かってくれます!」


 そう言ってシェネは水鏡を、操った水流で粉みじんに砕き、二度とその力が振るわれないよう、エアロの一部の権能に封印をかけた。


…†…†…………†…†…


 砕かれた水鏡を片手間で消しながら、神殿の玉座に座ったエアロは独りごちる。


「愚かだな、我が母よ。時を飛ばして世界を俯瞰するお前たちとは違い、我はこの世界と共に悠久の時を過ごし、多くの人間と向き合ってきたのだぞ? お前ごときの薄い神格(じんかく)の底を見るのに何の苦労があろうか」


 シェネやソートの代わりにこの世界の管理運営を行ってきた天空神は、片肘をつきながら、鼻を鳴らした。

 愚かな母親が最後にはなった一言を、


「『最後にはわかってくれる』……か。その言葉自体がお前の甘えでなくてなんだというのだ」


 呆れたような声音で忠告しつつ。


「まぁいいさ。我が期待しているのは真なるこの世界の父親のみ。さて、創世神ソートよ。その活躍、その偉業をもってして我にお前の神格(じんかく)の底を見せてみろ」


 そうして彼は再び水鏡――空気中の水分を用いて構築する神鏡を作り出し、ソートの戦いを見ようとして、


「む?」


 下界をいつも見ていたそれが正常に構築されないという事実に気付く。それにさっと青ざめた彼は、


「母め……余計なことを。だがどうしたものか」


――あれ使えないと下界をくまなく見渡すことができなくなるんだが……という、ちょっとした統治体制崩壊の危機に、冷や汗を流した。


お待たせしました。ちょっとリアルでごたごたしまして……何があったかというと…諸事情で仕事辞めることと相成りまして……。


というわけで再就職決まるまでヒキニートすることになるので、小説更新速度は上がる予定?


小説書いている場合かよって? い、息抜きと現実逃避って生きるためには大切だよね?(おい

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