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異世界をセーブとロードで生きていく  作者: 冷水
異世界への降り立ち
2/3

初めてのロード

最初の章の時系列は、プロローグと所々前後していきます

 神城ユウタは呆然としつつも、現状の自分がすべき事を確認する。

 背後には、たった今、放逐された城の、大きな城門が聳え立っている。ここが、ユウタにとっての最初のセーブデータである。

「まずは、何をするべきか」

 城の前には人通りが多く、珍し気にユウタを見ている目もあった。城の前に、貴族でもなくかといって庶民でもなさそうな見た目の人物が突っ立っていれば、誰も不審に思うだろう。

 しかしながら、城の前には門番が立っていて、それらが排除しないのであれば、少なくとも罪を犯した罪人ではない。それだけは確かなこととして、城下町の人間は受け入れていた。

「移動……しないとな。持ち物を確認するか」

 左右を確認して、街の中でも人通りの無い場所を探す為に、ユウタは知らない街を歩き始める。

 独り言を呟くのは、心細さを紛らわす為でもあり、精神の防衛反応のひとつであったのかもしれない。


 ユウタは適当に歩を進めていくが、見るからに周囲は治安が悪そうな場所へ、知らず知らずの内に迷い込んで行く。しかしながら、そのときのユウタは周囲に関心を示すほど余裕が無く、背後に値踏みするような視線が複数、迫っていることに気づかなかった。

「ん……」

 周りを見渡せば、少なくとも誰の目もなさそうなことを確認して、ユウタは店と店の間の細い路地へと迷い足を運んでいく。異世界だというのに、まるで現代日本のような気持ちで進んでいくのは、ある意味平和ボケだと後のユウタは指摘したことだろう。


「中身は……」

 城を放逐される際、旅用の袋と思しきバックを手渡され、最低限のお金が入っていると城の兵士が言っていた事を思い出す。手渡された旅袋の中には、小銭要れが入っていて、重みのある銀色の硬貨が20枚と銅色の薄い硬貨が100枚入っていた。

 それ以外には、動物の皮と思しき袋の中に水が入っていて、フランスパンのような固さの小さめのパンが幾つか。

 武器になりそうなものは、警棒のようなサイズの木刀と、パンと一緒に入っていた切れ味の無いパン切り用のナイフ、そして火打ち石が二つ。

「予想よりは、まだマシな対応か……」

 最後に、メモには物価についてのメモが入っていて、銀貨1枚で銅貨100枚と等価、食事つきの安宿なら2拍で銀貨1枚と、要点を絞ったようなメモが入っていた。

 

「まるで、某ゲームのような内容だな……」

 身一つで投げ出されるよりはよほどましだが、ある意味、予想していたよりは幾分もマシな対応であったことに一息ついた。

 だが、そこで背後に近づく影が3つ、見るからに柄の悪い男たちが近づいていた。

「え?」

 振り返ると頭に衝撃が走った。そこで一瞬、ユウタの意識は飛びそうになってしまった

 


☆☆

 ユウタが衝撃に呻きながら、無様にも地面にのた打ち回ってしまう。霞む視界を背後に向けると、厳つい顔が3つあり、近づかれると現代日本人には些かきつい体臭が匂ってくる。

「な…んだ、あんたら……」

 キツイ視線で睨み付ければ、薄ら笑いを浮かべる男たちはユウタの荷物に手を出し始める。

「そんなの、決まってんだろ?」

 強盗、言い換えれば泥棒。そんなの行いを見れば一目瞭然である。

「命は取らないでおいてやる、感謝しろよ」

 いかにもな捨て台詞と共に、ユウタの持ち物はリーダと思しき男が手に取った。取り巻きの男たちは、ユウタに唾を吐きかけながら、動けないようにと鳩尾あたりに蹴りを入れる。

「がっ……」

 肺から空気が吐き出され、感じたことの無い痛みが下腹部に響き渡る。

「だれか、たすけ」

 無意識に、口から漏れる言葉は助けを求める声だった。しかしユウタが居るのは人通りの全く無い裏路地で、なんでこんな場所に入ってしまったのだろうと、数分前の自身を恨んでいた。


 男たちはユウタの姿を見て満足げに頷きあうと、背を向けてユウタから離れていく。



☆☆☆

「ちくしょう……、それは、俺のだ」

 ユウタは男たちに声を掛けるが、男たちは聞こえないかのように無視して遠ざかっていく。

 だが、ユウタだってここで引き下がったら、ただでさえ孤独な異世界で、生き残る可能性を下げてしまう。

 距離にして数メートル、ユウタは最後の力を振り絞って、男たちに体当たりをする。


 野太い叫び声をあげながら、ユウタは自分の荷物を持つ男に体当たりする。自分でも、驚くような叫び声と体当たりに、男は一瞬気が緩み、荷物を手放してしまう。


 しかし、ユウタは荷物を抱えるも、鳩尾の一撃からのダメージが抜け切れておらず、その場で蹲ってしまう。

「おい!小僧」

 取り巻きの男たちはそこで、転がったユウタに殴る蹴るの暴行を加えていく。

「あが……はっ…」

「抵抗しなきゃ、命ばかりは取らなかったものを」

 必死に抵抗するも、ユウタは頭を蹴られ、腹部を蹴られ、思いつく限りにおいて暴虐の限りを尽くしてリンチを受けた。

 顔は腫れ、目に直接蹴りを入れられたせいなのか見えず、片目は既に赤く滴る自らの液体により、景色が赤く染まって見えずらかった。

 かろうじて、ユウタは意識が保っているが、もう何事かを考えられるほど、苦痛で頭がいっぱいになっていた。

「生き……たい。死にたく、ない」

 意識が飛んだら、きっと死ぬのではないかとユウタは考えながらも、辛うじて見える片目で空を見る。

 男たちは去り、ぼろ雑巾のような自分は、仰向けに寝そべっていた。手足が折れているのか、力を入れても動くどころか、焼かれるような痛みが脳内を駆け巡る。


 そして、ユウタは初めての『ロード』を経験することになった。


:セーブデータ1『エアリーズ・エリーズ王国 城下町 城門前』

:セーブデータ2『データなし』


:セーブデータをロードしますか?

:『Yes』 or 『No』


 まどろみ、痛みが消え、景色すら見えない暗闇の中だった。不思議とクリアな頭で願ったのは『生きて居たい』だった。

 そして『Yes』と、頭の中で呟いた。



 初めてのロード。

:『エアリーズ・エリーズ王国 城下町 城門前』ロード完了




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