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異世界をセーブとロードで生きていく  作者: 冷水
異世界への降り立ち
1/3

プロローグ

 神城ユウタは天井を見てつぶやく。

「ああ……死んでしまうとは、情けない」

 ここは、ユウタがこの世界に降り立った時に、初めて泊まった宿屋の一室。そして、壁にかかっているカレンダーに目を向けると、3日前の日付が書かれている。

「うっ……」

 ユウタがそれを認識した瞬間、脳内を嫌な記憶が再生される。『それ』は強烈な痛みの記憶と、この世界に降り立って何度も経験した苦痛だった。

 口元を抑えると、ユウタは一目散に宿のトイレに向かって走り出す。


 ユウタの脳内に再生された記憶は次のようなものだった。

 まず、肉食獣に肩を噛み砕かれた。

 次いで、肉食獣は本能に従ってユウタを組み敷くと、逃げられないように体重をかけてくる。

 その流れで首元に噛み付き、骨が砕けるほどの咬合力(こうごうりょく)を持って、死ぬまで解けることの無い拷問具として痛みを伝えてくる。

 流れ出る血は、熱さとも取れる痛みを脳に伝えてくるが、反対に血塗れた衣服が命を奪う事を加速させる。脳が、死を連想させる『寒さ』を感じさせてくる。

 首に噛みつかれ、徐々に絞まっているはずなのに、苦しさよりは首に対する押しつぶされるような圧力によって、意識が飛びそうになるような苦痛しか感じない。


「……最悪だ」

 そう呟くユウタは、数日前に起きた出来事を思い出していた。そして、ゲームのような世界で、まるでどこかのゲームに在りそうな、そんな経験を思いこしていた。


☆☆

 ユウタは日本のどこにでも居る青年の一人だった。高校を卒業し、進学ではなく就職を選択した。その1年目の出来事だった。

 ユウタ自身は進学の夢が忘れられず、朝は新聞配達をしつつも、アルバイトを掛け持ちしていた。

 早朝の仕事が終わり、勤め先のシフトが午後であり、帰宅後に少しばかりの仮眠を取っていた、そのはずだった。


 目を覚ますと、どこか外国の宮殿のようなつくりで、赤いカーペットが敷かれた部屋で目覚めた。裕福そうな人たちが居て、雑誌でも滅多に見かけない程の美男美女が騒然と構えている。

 ユウタは目を丸くしながら、その場では何も反応ができず、ひたすら呆然としていた。


 曰く、次のようなことがわかった。


・神城ユウタは異世界につれて来られたこと

・エアリーズ・エリーズ王国という場所で、勇者として召喚されたこと

・魔王と呼ばれる災厄を倒さなければ帰れないこと

・異世界の法則にしたがって、レベルやスキルという概念が使えるようになったこと

・召喚の過程で、異世界の言葉を理解できるようになったということ


 そして最後に、ほんの少しのお金を渡され、異世界に一人放逐された。

 放り出された理由は、簡単だった。


 要約すれば「貴方はステータスが並以下なので、期待してないけど魔王討伐してください」であったのだ。

 こうして、期待されない勇者は、異世界の地に降り立った。

 

☆☆☆

「は?」

 最初は何が起きたのかわからなかった。

 しかしユウタは『あれだろうか?』とひとつの仮定を思い浮かべていた。

 よくある異世界転移物語で、期待はずれだった勇者が放り出され、新たな勇者を召喚したりするような不遇の物語。自分が、そんな主人公達と同じような境遇となったのではと。


 混乱した頭で、そんな非現実を考えていると、しばらくその場から動けなかった。


 城から出たとき、ユウタの脳内にひとつの言葉が浮かび上がった。

:世界を超えた功績により、ユニークスキル『セーブ機能』を獲得しました。

「セーブ機能……?」

 思い浮かべれば、『セーブ機能』について詳細が思い浮かんでくる。

:対象が死亡した場合、任意で『セーブした地点』まで戻ることができる能力である。

:セーブできる地点数は2。レベルに応じて増加する。

:任意で『セーブした地点』まで戻る機能のことを『ロード』と言う。セーブとロードは一対の能力である。

:ロードは任意で放棄が可能であり、放棄することで死亡が確定する。


「まるで、ゲームだな……」

 精神的に疲れたユウタは、この世界と、現状の自分の状況を漠然と受け入れていた。


:新しいセーブデータを作りますか?

:『Yes』 or 『No』


 ユウタはそれを見て、呆然と『Yes』に触れた。

 これから始まる受難を知らず、そしてただ『死にたくない』とだけ祈って。


:セーブデータ1『エアリーズ・エリーズ王国 城下町 城門前』

:セーブデータ2『データなし』



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