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第4話 俺は俺で好きに生きさせてもう


 波の音が聞こえる……静かな――それでいて、心安らぐような波の音――ここは……どこだ?

 ああ、どこからか誰かの話し声が聞こえる気がする――


 へっくしゅ!


 自分のくしゃみで俺の目は覚めた。


「さむ……」


 俺は毛布を手繰り寄せ、自身の体へとより一層強く巻きつけた。まだ夢の中にいるのだろうか……体がふわふわとする感覚がある。


「永、ようやく、起きたか?」


「?」


 誰かの声が近くで聞こえた。この声は――ミカゲ?


(なんでミカゲが俺の部屋に?)


 俺は眠い頭を無理やり起こし、毛布から頭を出した。ふと、潮の香りがした気がした。


(…………潮の香り?)


 そこで、俺の目は完全に覚めた。ハッとして目を見開くとそこは俺の部屋ではなかった。ああ、もちろん、あの化け物屋敷に住み着いたばかりで見慣れていない部屋だったっていうオチではない。


「船……?」


「ああ、漁船だ」


 俺の言葉に、ミカゲが答えた。正直、頭が痛いことこの上ない。辺りはまだうっすらと暗いようだが……。


「――なんで俺は漁船の甲板で寝てるんだよ、ミカゲ」


 寝起きということもあって、不機嫌さをあらわにしながら、低い声でミカゲに問う。


「まあ、待て。もうすぐ日の出だ」


「は?」


 まったく意味がわからない。まあ、悪魔の思考回路を知るなんて無理な話だろうが、もう少し説明がほしい。文句を言おうと口を開けた瞬間、それは起きた――


「うわあ……」


 海の向こうからゆっくりと昇る朝日。白く染まっていく闇。徐々に澄んだ色へと変わっていく空。光を受け、キラキラと光る海――そのどれもが、俺のミカゲに対する文句を全て飲み込んでいった。


「よう、どうだい、綺麗だろう?」


 突然、後ろから聞こえた第三者の声に、勢いよく後ろを振り向くと、漁師のおじさんらしき人が立っていた。


「ああ、すまん、すまん。突然声をかけて――驚かせちまったな」


「いえ……」


「そこの兄ちゃんから、どうしても海の上での朝日を拝ませてやりたいって昨日の夜頼まれてな……なんでもサプライズらしいけど、気に入ったようで良かったよ」


 男の人は二カリと笑うとそのまま船内へと戻っていってしまった。


「サプライズ……?」


「ああ、最高の景色だっただろう」


「は?」


 ぽかんとした俺に対し、ミカゲは自慢げに言った。


「おまえ……俺を喜ばせようとしたのか?」


「もちろんだ。貴様を幸せにするといっただろう?」


「悪いがミカゲ、その言い方は大いに誤解を招く言い方だからやめてくれ。めちゃくちゃ鳥肌がたった」


「なんだ、本当のことではないか。貴様は俺の主だ。そして、俺は貴様の一生をかけて貴様を幸せにするという契約を――」


「そういうことじゃなく、言い方とシチュエーションだって! 男同士で気持ち悪いことこの上ないんだよ!」


「ふむ、貴様は事あるごとにそれを言うな。それはいわゆる差別というやつではないのか? 人の価値観はそれぞれだ。決め付けるのは良くないぞ」


「おまえに人の価値観云々は言われたくねーよ! それに、別に他人の趣味趣向に文句が言いたいわけじゃない! ただ単に、俺自身がその当事者になってるのが気持ち悪いんだよ!」


 最高の朝日を見た清々しい気持ちはどこへやら、俺はゼーハーとしながら鳥肌をさすっていた。


「永、まあ、そんなに苛立つな。まだ終わっていないのだから」


「?」


 ミカゲがパチンと指を鳴らすと、どこからかパシャンという音が鳴った。


(海の方からか――?)


 音の発信源へと目を向けると、無数の水音と共に、何かが跳ねた。


「え――?」


 キュッという鳴き声とともに、たくさんのイルカが跳ね、漁船の横を通り過ぎていく。

 あまりの光景に、何も言葉が出てこなくなった。


「どうだ、すごいだろう?」


「ああ、すごい……」


 ミカゲの言葉に、今度は素直な感想が口からこぼれた。


「俺にかかればこんなことだってできる。これは、金では買えないもの――なのだろう?」


(こいつ……まさか、俺の要望に答えようと――)


 ミカゲの言葉に、驚きが隠せない。

 そんな俺を見ながら、ミカゲはニタリと笑った。


「俺は偶然や奇跡を――必然に変えることができる」


 その言葉に、俺はなぜかゾッとした。


「貴様は俺のすごさ――俺の主になった重さの意味を知らないようだから教えてやる。貴様が望めば、貴様はこの世界を破壊することもできるし、逆に争いをなくすこともできる。異世界に行きたいのならば行き来も可能だ。新たな世界を構築し、その世界の神となることもできる」


 ミカゲの紅い瞳が怪しく光った。


「なあ、貴様の望みはなんだ?」


「……」


 まさに、悪魔の囁きだ。願えばすべてが叶う。本当に神にでもなったかのようだ。


「永、無理に普通を生きなくてもよかろう? むしろ、異常こそが普通だと思えるようにこの世界の常識を塗り替えてやることもできる」


「悪いが……」


 思ったよりもかすれた声が出た。


「俺はこの世界に君臨する魔王になるつもりも、世界平和を願う救世主や英雄になるつもりも、異世界旅行や新世界の神になるつもりもまったくない。この世界の常識を塗り替える? 俺はこの世界で充分だ。そして、俺はこの世界で普通に生きて、普通に幸せを手に入れたい」


「フッ――貴様、やはり人間の中でも相当な変わり者だと思うぞ」


「どうとでも言え。悪魔にそんなことを言われても痛くも痒くもないからな」


 朝日が完全に登りきり、イルカもどこかへと行ってしまった。俺はイルカが去っていった方向を見ながら、隣でニタリと笑っている悪魔を――少しだけ恐ろしいと感じていた。


(俺はこの悪魔に惑わされず、自分の意思を貫けるのか――?)


 そんな疑問が浮かび、ひやりと背筋が凍る。そもそも、そんな考えが出てくる時点でかなり危ない状況だ。


(俺は普通に生きたい。だから――絶対にミカゲに願いなんか言わない)


 心の中でそう呟き、俺はにっこりとミカゲに微笑んだ。そう、言っておかなければいけないことがあったのだ。


「ところでミカゲ、俺の今日の予定を勝手に決められても困るんだが?」


「?」


「俺は今日もやることがいっぱいだ。こんなところまで連れてこられて、どうしろって言うんだ?」


「なんだ、そんなことか、それならば、貴様以外の時間を止めればいい。そうすれば好きなだけ時間が作れるぞ? むろん、その間は年も取らん」


「そんなの全然普通じゃないのは分かってるよな? 俺がそんなこと望むと思うのか?」


「永、心なしか貴様からどす黒い感情が溢れ出ている気がするのだが――?」


「ああ、感じ取ってくれて良かったよ。それなら俺が言いたいことも分かるだろ?」


 俺はすうっと大きく息を吸い込むと、大きな声を張り上げた。


「さっさと――俺を屋敷に帰せぇ!!!」


 確かにミカゲはすごい悪魔なのかもしれない。でも、俺はそんなものには頼らない。

 俺は俺で、好きに生きさせてもらうよ――。








☆ ☆ ☆






ここまで読んでくださりありがとうございました。


なんだか打ち切り漫画風に終わってしまいましたが、第一幕はいかがだったでしょうか?

はい、実は今後、第二幕、第三幕――とやっていこうかと思っています。


あくまでも予定なのでどうなるかは分かりませんが、頭の中にあるストーリーを最後まで書いていきたいなあと漠然と思っています。


また、最後に……この小説、BでLな感じに見えますが、違います。永は全力で毛嫌いしています。どうも、永の中での普通じゃないメーターに引っかかるようなので。


それでは、最後に長々と失礼いたしました。

何か、感想・意見などがありましたら、いろいろと教えてくださると助かります。






☆ ☆ ☆






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