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茫洋とした意識の中、宗御寺ミカセは自分を包み込む暖かさに戸惑いを感じていた。
(ここはどこだ?)
手足を動かそうにもまるで金縛りにかかったようにピクリとも動かない。それどころか光も音も入ってこず、まるで窓のない密室のに閉じ込められているかのような閉塞感を覚えた。
(あのとき俺は……)
水崎を家まで送る途中、夕立に見舞われやむを得ず公園で雨宿りしていた。もうじき雨が止むかとおもったころ手に鎌を持った不審者に襲われた。
(そうだ)
不審者は“自分ではなく水崎を襲った”。ミカセは凶刃が水崎に届く直前間に割って入り、胸を切り裂かれた。それからどのぐらいの間だろうか? 水崎の声に気づいて目を覚ますまで数分か十数分の間意識を失っていた。だが最後に見た光景が目に焼き付いている、自分を切りつけた不審者と、それに向かい合う黒い外套の人物が対峙する姿だ。
(あの人は無事なのだろうか? 水崎が助けを呼びに行ってくれたはずだし、警察か近くの住民が駆けつけてくれたと思うが……)
ミカセは最後に見た黒外套の人物を思い浮かべた。あの場は薄暗く、意識が朦朧としていたのもあり細部まで見て取れたわけではないが、季節外れのトレンチコートと腰ぐらいまで伸びた長い黒髪だけはっきりと覚えている、断言はできないがその人物は女性であるように思えた。
(――ッ!)
おぼろげな記憶をたどっていると突然ひどい頭痛に襲われた。
(ここはどこだ? 俺は死んだのか?)
いくら考えてみても答えは出ない。わかっているのは、思考できる頭脳があり、今現在痛みを感じ続けているということだ。
どうすることもできず、ミカセはしばらくの間ぼーっとしていた。
そんなとき――。
「どう……し……て……」
突然何も聞こえなかった耳に甲高い耳鳴りが襲った。それと同時に人の声らしきものを捉えた。ミカセはハッと我に返り、体を動かそうとしたが自由がきかなかった。
(クソッ!)
断片的にしか聞き取れなかったが、自分のよく知っている声だった。
いまだ手足の感覚すらないが、自分が死んでいないのは確かだ。
(瞼が重い……)
どうやら完全に意識を取り戻すにはもう少しだけ時間がかかりそうだ。ミカセはそれでもあきらめずに手足に力を込め続けた。