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彼方の短編。

ラブコール。

作者: 彼方わた雨

 朝、君のことを呼ぶ。

 大慌てで支度を済ませて、僕に駆け寄ってくれることが、なんだか嬉しいんだ。


 僕の呼びかけに応じてくれた君はすごく嬉しそうに話してくれる。その言葉を、声を聞く度に僕は少し複雑な気持ちになる。


 僕に話しかけてくれているようで、実はそうじゃない。


 この言葉は、声は、全部僕のためじゃないんだ。


 短く話して、君は僕を暗い部屋に閉じこめてしまった。そこから出ることが出来るのは君が望むときだけだ。


 僕は、君の意志でしか動かせない、ただのモノなんだ。




  #ラブコール。#




 暗い部屋、カバンの中で揺られながら今日も僕は学校へ行く。


 電話の相手はあの男の子。

 今日も一緒に学校へ行くと話していたっけ。


 予定の時間を決めたり、遅れそうになったとき、連絡役になる僕に感謝してほしい。


 僕がいなければ、彼の声は彼女に届かないのだから。


 揺れていることから歩いていることが分かる。さらに言えば、男の子と楽しそうに話しながら登校していることが分かる。


 2人は付き合っている。それは知りたくもない事実。その事実を知ってところで何も出来ないのももどかしい。


 僕はこうして君が必要とするときにしか動くことが出来ない。それはいつも受動的。


 僕から行動することは出来ない。


 実を言うと僕の意志で動かなくしてしまったり、誤作動を起こさせることは頑張れば出来る。


 だけど、僕はそうやって彼女を困らせることはしたくはない。僕から動くことは彼女にとって嬉しくもない。


 それは、僕も嬉しくはない。

 だから、絶対にそんな事はしたくはない。


「じゃあ、また後でね。」

「またな。」


 外から会話が聞こえる。

 あー、今日も学校が始まるんだな。


 授業中、と言うよりは学校にいるほとんどの時間彼女は律儀に僕の意識を飛ばす。


 そんな事しなくても良いと思うが、そうやって授業に真面目に取り組もうとする彼女は嫌いじゃない。


 光が射してきたが、その光になれる前に僕は閉じられた。



──


 僕は再び放課後に目が覚めた。

 やっと今日も終わったみたいだ。


 だが、なんだか身体が重かった。

 最近やけに疲れているのは気のせいなのだろうか。


「あ、充電が半分きってる……。」

「あんた、まだガラケー使ってんの?」


 充電が半分きってるのか、それは疲れているわけだ。充電してもらいたい。


「もう、4年は使ってるかな……。だから、愛着があって」

「愛着ねぇ。……でも、そろそろ替え時じゃない?」


 そう、かれこれ4年も彼女と一緒にいる。周りは新型(スマホ)に買い替えているが、彼女はこの僕、旧型(ガラケー)を使い続けている。


 さすがに4年となればガタがくるのだ。

 それでも、彼女とは一緒にいたい。だから、そう簡単に使えなくなってたまるものか。


 だいたい、ぽっと出の奴らになんか渡してたまるかってんだ。


「ううん、私、この携帯が好きなの。」


 さすがに彼女にこう言われてしまっては、友人もなにも言えないだろう。


 ちなみに、熱を持ちそうでこっちはハラハラしているのだが。


 不意打ちにもほどがある。


 いや、分かっている。彼女は僕をただのモノとして言っているだけだ。でも、僕らモノにとって大事にされることは何事にも代え難い。


 その時、僕は彼女を呼ぶ。あいつからの着信だ。全く、良いところに……。


『もしもし?終わった?』

「あ、ごめん、今行くね。」


 それだけ言って彼女は通話を断ち、カバンを持つとすぐに昇降口に向かった。


 と、わざわざ彼女が走って来たというのに、奴はいなかった。


「……あれ?」


 そしてまたしても彼女を呼ぶ。またあいつからの着信だ。いったい何なんだよ。


『もしもし?』

「どこにいるの?昇降口来たんだけど……。」


 通話しながら彼女は辺りを見渡す。

 あいつはどこにいるんだ。


 そう思いながらも、僕は彼の声を真似て彼女に話しかける。


『うしろ。』

「え。」


 彼女が振り向くとさっきはいなかったはずのあいつが立っていた。恐らく隠れていたのだろう。


 面倒くさい男だな。せっかく彼女が走って来たというのに。お前のために。


 なおも僕を使って話す。


『1年目の記念。これからもよろしく。そして、これからも──。』



『好きです。』



 僕が話しているが、僕が話しているのではない。



 これは僕の言葉であってそうじゃない。



 僕は自分の声で言ってみたかった。



 でも、僕じゃ、無理なんだ。



 彼女は通話をきって、笑顔であいつに近寄った。あいつの手にはバラの花が一本握られていた。


 ああ、僕はそんな風に彼女を笑顔にはできない。

 それでも、僕には出来ることもある。


 僕には必要とされるとき、君の期待に応えることが精一杯の君へのアピールなんだ。


 だから、僕はまだまだ新型(スマホ)には負けない。

 この気持ちは誰にも負けはしないのだから。










 今日もまた、君へのラブコールが届く。






〈完〉

ここまで読んでいただきありがとうございます。


今回は初の試み、人×モノです。

電話でイチャイチャしている人を見かけて、

携帯電話はその時複雑な気持ちなんだろうな……。

と思ってしまったのが、この話を書くきっかけです。

恋愛要素をプラスして携帯電話がもし、使用者を好き

だったら、どういう気持ちなのかを表してみました。

気に入っていただけたのなら幸いです。


では、別の作品でお会いできることを願っております。

2014/9 秋桜(あきざくら) (くう)

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