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勇者34歳  作者: 神剣 龍
■現実そんなに甘くない
5/5

◆井戸端ネットワークはバカにできない

宿屋に戻るとツキヨさんがドヤ顔で俺たちに話しかけてきた。


「ぽこぽんさん、鉱山に魔族が出て金属や貴金属が値上がりしてるわよ!」


どこで知ったんだろう…。


俺たちがポカーンと間抜けな顔を晒していても

ツキヨさんは気にせず続きを話す。


「鉱山で魔物でも退治してくれば飛行車借りれるんじゃない?」


それはごもっともだが

何故飛行車が借りれなかったのが筒抜けなのか?


ツキヨさんは俺の不審そうな顔を見た。


「だって八百屋の奥様に聞いたもの。」


あのメイン八百屋に嫁がいたとか

超展開す…ぎる…と言うほどのものでもないか。


しかし驚くべきは井戸端会議ならぬ井戸端ネットワークだな。


この手の情報収集は俺とリーヴェ、

人見知りが激しいイルルには無理な領域だ。


亀の甲より年の功を地で行くツキヨさんにこっそりと敬意を表した。




翌日。


わかりやすく魔物退治に行くことにした。


ツキヨさんは昨日よりおとなしかった。


回復魔法を使ったのか靴でも買い換えたのか不明だがなんとかついてこれている。




鉱山に近づくと


羽や尻尾がはえている魔族が地味な手作業で採掘をしている。


魔法でどーんとか、できないんだろうな…。


しかし、人数が多い。


こいつら全員しばいてたらこっちが死にかねない。


ふと仲間の様子を見ると

イルルが刀を上段に構え魔族その1の背後から斬りかかろうとしていた。


うわっ!誰かこのバカを止めろ!


と、考えるのも虚しく魔族その1が昏倒する。


イルルは手早く魔族を4人くらい倒した。


「イルル…、作戦会議も何もなくいきなりこれはないだろ…。」


「いいじゃねぇか。さ、服を剥ぐぞ!」


ちょ、おま、仮にも勇者御一行が追い剥ぎとか…!





「ぽこぽん、何故俺を睨むんだ?」


何故と言われましてもね。


「服をひん剥いて、さっさと着る。こいつら全部しばけるわけないだろ。」


一応考えがあっての行動だったらしい。


服に血がついていないのを見ると魔族は斬られたわけではなかったようだ。


「安心しろ、峰打ちだ。」


服を剥いた魔族は口を塞いで縄で縛って入り口の小屋に転がしておくことになった。


「殺すと血の匂いで気づかれちゃうんだよな。」


イルルが昔何をやっていたのか知らないが、物騒なことは得意なようだ…。




俺たちには、

尻尾も羽もないからイルルの作戦には無理があるんじゃないかと思ったが

意外に魔族からスルーされる現実。


「取り返すまではやらなくていいと思うんだが。」


主語を省略してリーヴェがささやく。


鉱山を取り返す必要はないと言いたいわけだな。


「でもほっといていいわけ?」


俺が反論する。


「よくないけど、無駄に怪我してもなぁ。」


イルルとリーヴェは素材を取ったらさっさと帰ろうと主張する。


どうしたもんかね。




「それはよくないかもね、町の自警団が出てきても鉱山の奪還に失敗してるからコノザマなわけで。」


井戸端ネットワークでそんな情報も掴んでいるらしい。


ツキヨさんはほっとく気はないようだが既にバテバテだ。


やっぱ61歳に徒歩の旅は無理そうだな…。


「お、これじゃね?」


少し黒っぽい鉱物を見つけた。イルルが掘り起こす。


イルルは鉱物を荷物袋に放り込み、俺たちはその場を離れようとした。




「こらーーー!」


突然怒鳴られて体が固まる。


「何勝手に持ち出しとるのじゃ!」


なんで鉱山にいるのか

わからないくらいの美形男子であるが

羽も尻尾も無いから人間に見える。


「魔族は強いのほど美形になるって聞いた。」


井戸端ネットワーク恐るべし…。




「ここはデットレイトが所有してる鉱山だろ?」


イルルちゃんが言っちゃだめなことを言った希ガス!!!!


「貴様らデットレイトの市民兵か?!」


「違うけど。」


「こら!イルルちゃん!」


ツキヨさんがイルルの口を塞ぎ、後方に下がる。


さすがイルルの母、イルルの使い方をよくわかっていらっしゃる。




「俺たちはただ素材が欲しかっただけで。」


美形の魔族は俺の姿をじろじろと眺める。


「ふん、少々年をとっているが勇者か。」


その言葉に周りの魔族が反応する。

戦いは避けられない…か?!


「お袋は下がってろ!」


イルルが飛び出し、美形魔族の腹を蹴る。


相手がうずくまった隙に、どこに隠し持っていたのかわからないけど短剣を魔族の喉にあてる。


「お前らがかかってきたらこいつの喉から血が出るぞ!」


イルルは、既にどちらが悪いのかわからない見事な悪役っぷり。


「卑怯者!」


「魔族に言われたくねぇや!」


イルルは魔族を人質に取ったままじりじりと、出口の方へ向かう。


イルルについて外に向かうのは俺、ツキヨさん、リーヴェの順だった。


こっちが人質をとるのは有利かもしれないけどツキヨさんを人質に取られると面倒だし。




俺、勇者のはずなんだけど見事にチンピラ御一行様になっちゃったな。


エクトプラズム入りのため息をつきながらも、

なんとか4人とも出口から脱出することができた。





「イルル、そろそろボスを離さないと!」


町まで連れていってしまうのはさすがにヤバイと思った。


「わかった。鉱山から離れろ。」


イルルが言うとおりに鉱山から離れる。


「3……2……1……」


ゼロを発音するのと同時にイルルは美形の魔族を蹴り飛ばした。


「ぐあっ」


蛙が潰れたような声で鉱山の入り口に転がる魔族。


「帰るぞっ!」


イルルはそう叫ぶとツキヨさんの手を掴み走り出した。


「走るんだよ?!」


イルルに叱咤され、俺とリーヴェも仕方なく走り出す。


鉱山は徐々に見えなくなっていったが、イルルがツキヨさんを

ほぼ引きずっている姿はシュールだった…。





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